第40話 Fランク
ギルドマスターの執務室。
マスターのレイモンドさんが、アーバインさん達から今回の依頼についての報告を受けている。
俺の目の前で。
こういう報告は俺のいない所でやるものなのではないだろうかと思い、席を立つ旨伝えたが『ジンにも聞いて欲しい』という事だったので、仕方なく同席していた。
「―――という訳で、Fランクへの昇格は勿論、Dランクに上がるまでに要するポイントを与えるべきだと思います」
「それ程の働きだったか」
「ええ。それに暗潜士の条件である探知魔法の取得と、奇襲可能な戦闘力だけでなく、探査士の条件である遠視魔法と通信魔法までの使用を確認しました。これで上位職の斥候士の条件を満たしております。さらに―――」
「ちょ、ちょっと待て! まだあるのか!」
「まだまだありますよ」
次々に明るみになる俺の能力。別に隠す事でもないが、何となくこっぱずかしいなこれ…
「はぁ…ジンよ。たまたまエドワードの件でAランクのアーバイン達に付けたが、その件がなかったらそこいらの中級パーティーに入ってたんだぞ。お前の力を見抜くことが出来るってのも、アーバイン達だからこそできた事だ。中級の奴らだったら、お前は力の殆どを出さずに依頼を終えて終わりだった。お前はそれに関してどう思うんだ?」
「はい。確かにそうかもしれませんが、私はアーバインさんのパーティーに運良く入れて頂けました。仮に力を十分に発揮できなかったとしても、力は必要な時に必要なだけ出します。無用な力を相手に誇示することは恥ずべきことだと、両親や師匠達も仰っていましたし、私もそう思っています。ですので…その時はその時です」
「兎を狩るのに全力を出す馬鹿な捕食者とは違う、ね。そういう考えか…多少はお前の事が分かったよ。すまないアーバイン続けてくれ」
その後もアーバインさんが今回の旅で感じた俺に関することを話していく。聞いているこっちは恥ずかしくなる程の高評価だ。もうご勘弁願いたい。
「…よし、わかった。お前は今日からFランクだ。そして依頼を一つこなすごとに一ランクずつ上がれ。つまり、二つこなせばDランク。中級ランクに上がるといい。そこでだ。アーバイン達はマイルズ唯一のAランク。あの事について知らせておきたい。基本的には知られてはならないんだが、この四人は信用できる。話しておいていいか?」
「はい。レイモンドさんのご判断で結構かと。私は皆さんに隠すことは何もありません」
「怖いですね…一体何の事ですか?」
「ああ。ジンはな、マイルズ騎士団長のエドワードからアジェンテの推薦を受けていてな。今回はそれのテストも兼ねていた。」
―――!?
ガンツを除いてアーバイン達に衝撃が走る。
「アジェンテ…なんか聞いたことあるっすね。何でしたっけ?」
「アジェンテは騎士と同様の権限、簡単に言えば、犯罪者の取り締まりと処断が出来る権限を持つ冒険者の事。その権限は衛士や警備隊を大きく上回る。本来は誰がアジェンテなのか、冒険者には知られてはならない決まり」
シズルさんが端的にアジェンテについてガンツさんに伝える。
「そうだったのねぇ。ジンなら団長さんが推薦するのもわかるわぁ」
「騎士団長殿とも知り合いだったのだな。でもレイモンドさん、それを俺らに伝えてよかったのですか? ジンはさっきいいと言ってくれましたが」
「ああ構わない。お前らなら他に漏らすことも無いだろうしな」
『当然です』
「アジェンテである事を知っておけば、力を貸せる時が来るかもしれないからな。ところで気になってたんだが、どうやってエドワードと知り合ったんだ? 実は貴族子弟だったりするのか?」
「まさか。私はただの平民ですよ。剣の師匠が前団長のボルツさんと、前一番隊長のコーデリアさんだったので、その繋がりです。マイルズに着いて一週間ほど騎士団にお世話になっていまして、その時にエドワードさんに色々お世話になったのです」
『なにっ!?』
「剣の師匠が父君とあと二人いると聞いてはいたが、まさかその二人だったとはな」
「やはり皆さんお二人をご存じなのですね」
「そりゃあ知ってるっす。騎士団と冒険者はそんなに繋がり無いっすけど、マイルズじゃその二人は滅茶苦茶有名っす」
「ああ。ボルツ団長は団長だから当然として、コーデリア・レイムヘイトは先のリーゼリア王国との戦争で、相手に休戦宣言させた立役者だからな。彼女のお陰で五年間戦争は無くなった。当時Dランクだった俺達は憧れたもんだ」
「もぅジンの強さに驚かないわぁ、これで理由がはっきりしたしぃ」
「でも、その二人は剣士。魔法はどこで教わったの?」
シズルさんが腑に落ちないと言った風に首を傾げて言う。
「魔法は母上と狩猟の師匠と弓の師匠に教わりました。でも魔力の発現と無属性魔法以外は、すべて自己流です」
「だから固有魔法ばかりなのね…」
コーデリアさんはそんなすごい人だったのかと今更思い知った俺だったが、皆、色々納得してくれたようだ。騎士団の人は身近な存在だった分、周りの見え方と違っていたのかもしれない。
しばらく雑談は続き、アーバインさんは俺にパーティーに入らないかと言ってくれたが、丁重にお断りした。『まぁ、聞くまでも無かったな』とあっさり引いてくれるのもありがたい。俺が冒険者になった理由はダンジョンの夜に話していた。それを覚えていてくれたらしく、お前ほどのヤツを誘わないのは失礼に当たると、気持ちを示してくれたようだ。
俺は本当にこの人たちのパーティーに入れてよかったと、つくづく思う。
そうしている内に、ギルド職員が俺のギルドカードが出来たと、執務室まで持ってきてくれた。小指程の大きさの黄のカードで、端に『F』と刻印されている。首から下げられるよう鎖が付いていた。それに加えて、ギルドカードと同じ大きさのガラスのカードも付いている。
「本来は職員の仕事だがついでだ。俺がカードについて説明してやる」
レイモンドさんがギルドカードについて、そしてガラスのカード、つまりアジェンテの証について説明をしてくれた。
ギルドカードは見ての通りランクを示してくれ、他の町に入る時もこれが身分証明になるからと、大切に身に着けておくようにと口酸っぱく言われた。
カードでギルドから受けた依頼を全て把握する事になり、さらにギルドバンクの利用はこのカードの提示が無ければ出来ないのは先に述べた通り。カード自体に俺の識別魔法陣が組み込まれているから、他人が利用すればすぐにギルドで分かるという優れモノである。
だが、このカード自体に色々保存されるわけでは無いから、たとえ失っても再発行の手続きをすれば問題はないが、もう一つのガラスのカード、つまりアジェンテである事の証であるこのカードを無くす事は許されない。
普通の冒険者は持たないアジェンテのカードは、失った時のペナルティに関してのギルド規定は無い。だが、悪用される可能性もあるし、失うこと自体が信用問題になるのでそれだけは覚えておくようにとのお達しだった。
「他の街の騎士団で自分がアジェンテである事の証明は、こちらのカードを提示すればよいという事ですか?」
「そうだ。行く先のギルドでギルドカードと一緒に受付に渡せば、ギルドから騎士団へ報告され、騎士団を通じてその街の領主にもアジェンテが街に居る事が報告される。誰とは報告されないから、嗅ぎまわられる心配をしなくても大丈夫だ。ついでに次の街でギルドにカードを出せば、アジェンテの移動も報告されるようになってるから、お前さんが何かをする必要は無い」
「なるほど。それは有り難いシステムです」
ゆく先々で居場所を気取られるのも気持ち悪いからな。
「ああ、言い忘れていた。とりあえずお前は暗潜士で登録している。今アーバインから聞いた職適正も全て選べるようにしておくから、お前の好きなように明日以降受付で変更するといい。他に何か質問はあるか?」
「承知いたしました。特にありません」
「よし。では皆ご苦労だった。依頼達成だ。ジン、お前もFランク昇格おめでとう。今後の活躍を期待している」
レイモンドさんの説明が一通り終わり、晴れてFランクになったのでアーバインさん達ともここでお別れだ。これからは単独での活動が始まる。
「アーバインさん、ガンツさん、デイトさん、シズルさん。改めて本当にお世話になりました。このご恩は一生忘れません」
俺は精一杯の感謝を伝えた。
ここまで、神の導きでもあったかのような気分だ。
「ああ、こちらこそ。ジンに会えてよかったよ」
「また一緒に戦うっす!」
「次会った時はどんな魔法覚えたか教えてねぇ♪」
「元気で」
アーバインさん達はレイモンドさんに別件で用があると言うので、俺は先に執務室を出た。
ギルドカードを手にした俺は、とうとう冒険者の仲間入りを果たしたのだと嬉しくなり、上機嫌にギルドを後にする。
首に掛かる二つのプレートがチャリチャリと煩いので、服の中にしまった。




