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戦国武将異世界転生冒険記  作者: 詩雪
第零章 転生編
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第16話 ジン・リカルド

 その日の夜は、お祭り騒ぎとなった。村人に加え、マイルズ騎士団も一緒になって広場に集まり、酒に食事にと盛り上がる。数刻前、マイルズ領主ドリード新子爵が、駐在する騎士団の食料を送るついでに、世話になったとしてスルト村に三ヶ月分の食料を送る事が通知されたのだ。


 また、アルバニアからも村への報酬としてアルバ大金貨一千枚の贈呈が決定し、単純計算で村人一人につき大金貨五枚という破格の報酬となった。それを聞いた村人が、今日は蔵を空けてパーッとやろうぜ、と言い出しそれに続くものが続出。村長のティムルも、こんな日にケチっていては神獣様に失礼だといい、その場で神獣が降り立った日から、聖地と認定された今日までの五日間を”聖誕祭”とする事を決めてしまった。今まで村には開拓記念祭が年に一度あったが、これを併合し、村一番の祭りにしようという事になった。


 結果この日は聖誕祭の最終日となってしまったが、五日分を楽しもうと村の明かりは煌々(こうこう)と眩しい。そんな中で村長ティムル、守り手三人とジェシカに加え、商店主ニット、ボルツ、コーデリアが共にテーブルを囲んでいた。


「いやー。陛下もドリード子爵も太っ腹だぜ! がっはっは!」


「俺、弓新調しよっかなぁ」


「大金貨五枚もお前らなら数日と持たず消えて無くなるわな」


「こういう金はパーっと使うのが礼儀ってもんだ! そういうお前はどうすんだよ」


「俺か? 決まってるだろ。俺も剣の新」


「この子のために蓄えます」


「ですよね!!」


 隣に座るジェシカに、一瞬で却下されたロンがシュンとなる。


「当り前じゃ、ロン」


「こればっかりは何も言えねぇわな! がっはっは!」


 ティムルとエドガーに追撃され、ロンは苦笑いしか出来ない。


「今までエドガーさんとオプトさんのお誘いはお断りしてばかりでしたからね。今日は少しお付き合いしますよ?」


「いいねジェシカ!」

「酒ぐらいは勝たせてもらおう!」


 ジェシカの言葉にエドガーとオプトが大喜びする。後で後悔することになるのだが。


「それにしても、いい村だなここは」


「私もそう思います」


 ボルツとコーデリアはふとそんな事をいう。


 『まぁ、魔物も出ないから平和だしな』とロンが相槌を打つと、


「そういう意味ではありません」


「そうだぞロン。人の繋がりというか、営みと言うか。言葉にし(づら)いが、暖かみが感じられる」


「そうですね。帝都に生まれ育ってマイルズで過ごしている私には、全てが新鮮で人の温もりを感じます」


「そういうもんか。でも意外だな、ボルツはともかくコーデリアまでそんなこと言うなんて」


「失礼よロン」


 ボグッ、とロンの腹にいいパンチが入る。テーブルを挟んだジェシカの前にいるエドガーとオプトは、早くもフラフラになっていた。


「お二人共、ご無理なさらないで下さいね」


 顔色一つ変えず、ジェシカはコクコクと久しぶりの酒を(たしな)んでいる。そう、ジェシカは酒に強い。


「ジェシカは昔っから、水でも飲んでんじゃねぇかってくらい、酒に強いんだよ。もう無謀な挑戦は止めるんだな」


 ロンが腹をさすりながらエドガーとオプトに忠告する。


「酒も敵わねぇとは…」

「さ、さすが女神…」


 と、二人は言いながら、今度はお互いで潰し合っている。相手にならない二人を放置して、ジェシカは続けた。


「私もここへ来て五年が経ちますが、この村に来れて本当に良かったと思っています」


「ああ、俺もそうだ」


「あ、あの…ジェシカさん」


 おずおずとコーデリアはジェシカに話しかける。コーデリアは最初に会った瞬間から、この村の女神に尊敬の念を抱いている。


「コーデリアさん。年も近いようですし、ジェシカでいいですよ? 私もコーデリアと呼ばせてください」


「も、もちろんです!」


 彼女らしくない興奮をもって、ジェシカの提案に即座に賛同した。


「それで、どうしたのコーデリア?」


「その…お腹触らせて頂きたいのです」


 ガタッとロンが動揺する。


「コーデリアお前…そんな趣味が ―――ぐふっ!」


 またもやジェシカの一撃がロンの腹に入る。それを見たエドガーとオプトは大笑いし、酔った勢いで俺も俺もとジェシカに言うが、今度は拳ではなく光の矢が二人に向けられた。


 酒が入りながらもそれを見たボルツは感心し、


「おお、ジェシカ殿は治癒術師(ヒーラー)と聞いていたが、まさか神聖術師(プリースト)の域に入っておられるのか! ぜひとも我が騎士団―――」


 三本目の光の矢が浮かび上がり、ボルツに向けられる。


「どうやら私、神獣様のお力で魔力が上がったようですね。楽に三本出せました、うれしいです。あ、四人ともお酒はほどほどにね」


 にっこり笑うジェシカに四人は恐怖し、静まる。ジェシカはこういう時でも本当に撃つ事を知っているから、エドガーとオプトは震えあがっている。『神獣の力にそんな効果もあったのか』とロンとボルツは両手を上げ、それを見たティムルとニットは大笑いして、『ジェシカさんには騎士団長すら敵わないみたいですね』と言いながら酒の肴にしている。


「ジェシカに余計な魔力を使わせないでくださいっ!」


「コーデリア、酔っ払いさん達は放っておいて、ぜひこの子に触れてあげて」


 ジェシカに向き直り、『ありがとう』と言いながらお腹に触れるコーデリア。魔力探知に優れた彼女は、お腹の子であっても魔力を感じ取る事ができる。


 だが、コーデリアはそれとは違う何かを感じ取った。


「魔力ではない何か、生命力のような優しい力を感じる…」 


「ふふっ、それがこの子の魂と呼ばれるものかもしれないわね」


「これが魂…何となく分かる気がする。私にもいつかこういう時が来るのでしょうか?」


 まさかのコーデリアの言葉に、普段の彼女を知るボルツが激しく動揺する。


 しかし、こういう時に男の出番は無い。


「もちろんよコーデリア。貴方は強く、優しく、誇り高い。必ず素晴らしい子に巡り合えるわ。私が保証します」


 ニコリと微笑むジェシカに、コーデリアの目が涙で(にじ)む。


「ああ…ジェシカに出会えて本当に良かった…。これからも貴方とこの子に会いに来てもいいですか?」


「ええ、いつでも来てちょうだい。待ってるわ」


 ジェシカとコーデリアは笑顔で抱き合い、それを見ている男達はこの侵し難い雰囲気に照れ臭くなり、酒をあおってごまかす。


 そこでロンが改めて口を開いた。


「そうだジェシカ。せっかくだし、皆に聞いてもらったらどうだ?」


「ロン…そうね。私も聞いてもらいたい」


「あの、皆さん」


 何事かと、皆一様にジェシカに注目する。


「この子の名前を決めたんです。…聞いて頂けますか?」


 ジェシカの言葉に、周りにいた村人たちも互いに手招きをしながら駆け寄ってくる。


 皆が酒を片手に今か今かと歓迎ムードだ。

 

 ジェシカは(いつく)しむようにお腹に手を当てて、この物語の主人公の名を口にした。


「この子の名前は、ジン―――」



 ―――ジン・リカルド



 今日、この村一番の歓声が沸き起こった。



次回挿話を挟んで第一章です。

少しずつファンタジー要素が増えていきます。

今後ともよろしくお願いいたします。

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