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【完結】highest‘A’  作者: 輪形月
第十章

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これが終わりじゃないから

本日も拙作をお読み頂きましてありがとうございます。

「なっ!なんでそんな、いきなりどうして」


 細切れになった単語を連発するソウと、口をあんぐりあけたガクをおれは見ているだけだった。

 ようやく言葉が頭に入ってきたのは、アシさんの一言だった。

 

「と言われてもな。こっちも寝耳に水なんだが。……薄情だと責めとくかい?」


 口元だけで笑うアシさんは、奇妙な目をしていた。おれらを初めて見たときのような、かすかな警戒心が滲んだものだ。


 いや、おれらがアシさんを責める意味はない。

 最初からそういう話だったじゃないか。いつか必ずいなくなると。

 アシさんは学校の先生でもサロゲートでも、ましてやワーカーでもない。

 おれらの探究学習をいいように後押ししてくれる存在じゃない。

 それに、何度も念を押していたように、アシさんはノマドだ。

 おれらに最後まで付き合うつもりはない。裏切られたなんて言い出すなと。


 だから、ここで言うべきは失望じゃない。


「――いつまで、活湖にいられます?」


 我ながら淡々と言えたと思う。


「おいこらサク!」

「おれらが駄々こねたって、アシさんの予定は変わんねーよ。それに、アシさんが決めたことじゃない」


 アシさんは決められた方だ。スケジュールにはめこまれた方だ。

 ノマドという生き方が自由そのもののように見えても、それはいろんなつながりや仕事で雁字搦めになってのこと、なんだろう。深く突っ込んで訊いていいことかわからないから、詳しいことは訊かないけれども。

 

「サクくんは理解が早くて助かる。――遅くても今週末には発たなきゃならん。早ければ今日明日にでも、だな」


 たいていのものはレンタルとリースですむから、荷物らしい荷物はないんだなこれがと、アシさんはうそぶいてみせた。

 基点をぐるぐる回らされるおれらより、ものを所有することすらできない暮らし。

 いったいアシさんは、どれだけ続けてきたのだろう。

 どれだけ、これからも続けていくのだろう。

 

「じゃあ、……今度は、いつ、活湖にこれます?」

戻ってこれるか、とは言えない。

 活湖はアシさんにとって、ただの通過地点だ。

 おれらもただの通りすがりになるんだろうか。いつかは。

 

「そうだな、先のことはわからんが、たぶん数ヶ月はむこうの話になるだろ」


 だったら。

 その、『いつか』をずっと先へ押しやろうと足掻くぐらいはさせてもらおうじゃないか。


「連絡手段、もらえませんか?」

 


 フキダシマリスのIDは交換している。だけどあれは緊急時には近くにいる、同じグループ内の相手に、音声起動だけでつながるという特徴がある。

 別の土地へ移動するアシさんには使いづらいだろう。


「使い捨てでもいいんで。もちろんおれのも渡します」


 そういうとアシさんはかすかに眉を上げた。


「俺はかまんわんが。…君らはいいのか?」


 ちらりと案じてくれる気配に、おれは笑ってみせた。

 表情筋の動きがこわばったり歪んだりしてないことを願いながら。


「さすがにこれでお別れってのは寂しいんで、な?」

「そりゃそうっすわー」


 ソウがのった。ガクも頷いている。

 

「オレら、この復元も完成させますから。ぜってー、完成させますから。なんで、予約入れさせてもらっていいっすか?」

「同窓会っぽいよね」


 卒業生を同窓生というのは知ってるが、そんなもんは学校という縁が切れたが最後、窓ガラスが粉々に砕かれて撒き散らされるように、原型を留めなくなる。

 だから、たまたま同じ学校に通っていたという以上の縁が欲しい。

 

「完成させたら、連絡入れますんで」

「……おう。楽しみにさせてもらう」

「了解っす」


 ぴしっとソウが敬礼したのに、ちょっと笑って手を上げると、アシさん――浅野さんは去っていった。


 ――季節は思ったより足早に過ぎていく。

 桜が春空に明るい花を思い切りよく吹雪にして撒き散らす。

 散った花びらの色が褪せるより早く、先端だけが直立していた新芽がみるみる緑を濃くしてゆき、木陰はずんずんと伸び広がる。

 夏が終わりわずかに熱の奪われた太陽の下、うっすらと葉にさす黄色は、もうあの萌黄の澄明さには届かない。

 目を刺すような鮮烈な紅も、風が冷たくなるほどに黒ずみ、落ち葉と散り果て、ワーカーが廃棄用の袋に詰めて、秋が尽きる。


 そして、すべてがまたしろじろと、鉛板の空の下、雪の吹きつける季節がやってくる。

 雪が風を呼び、風がまた雪を運んでくる。

再会はそんな、ある意味一番活湖らしい日のことだった。

まだ終わりじゃないんじゃよ……。

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