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【完結】highest‘A’  作者: 輪形月
第一章
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夕陽の基点

本日も拙作をお読み頂きましてありがとうございます。

 おれはソウたちと別れてたらたらと自転車を漕いだ。

 今日からの基点は、今朝出てきた基点より高校からちょっと遠い。サーヴィーは最短距離で移動済みだろうが、どんなに遠回りでも指定されたルートを通るしかないのがつらいところだ。

 だけど、おれたち未成年が公務員でもあるという意味は、ここにある。

 生活をしながら衣食住に伴う情報提供、ならびに生活環境の維持という任務を行うことで、おれたちは報酬としていくばくかの電子マネーと生活維持に必要な物資の無料提供を受けることができるのだ。

 たとえば道路の破損状態。街灯の不具合。それらを知るには何かしらセンサが必要だ。もっとも信頼できるセンサは、人間の『不便を感じる』という不満度数ということになる。

 ただし、24時間定点観測が必要不可欠なことでもないので、定期的に人間が通過するようにすればいいというわけだ。効率的だ。


 基点の最寄りだというフーディで、おれは今晩と明日の朝のぶんの食材を受け取った。個人情報にあわせてアレルギー対応の生鮮食品が中心、それに、菓子を一つだけ選んでつけ足した。別に甘党というわけじゃないが、夜中に無性になんか食いたくなる時があるので、そのためだ。

 カウンター前にバッグを置き、両手を前に広げて一秒待つ。虹彩や手の静脈が読み取られるにはそれだけでいい。

 同じ事が下着などの消耗品でもなされる。それが気に入らなければ自分で金を稼いで買うしかない。

 新しい基点は、高校より川上の少し高台にあった。集合住宅形態じゃない基点は久しぶりだ。

 太陽光電池の形からするとスマートハウスらしい。だから一軒家にもかかわらず今まで残っていたのだろう。

 空っぽの街ではどんな瑕疵もひどくあからさまに見える。何かしら支障のある建造物はどんどん取り壊され、ひたすら明るく、強い風の吹く更地へと変わっていく。

 

 サーヴィーがやっと入る大きさの玄関に靴を置くと、おれはまず自動清掃機のスイッチを入れ、窓を開けて回った。これがマンションタイプの基点とは大きく違うところだろう。

 たいてい、マンションタイプの基点は単独で使用することはない。部屋の数だけ利用を繰り返す必要があるからだ。

 建造物のメンテナンスの機会は、利用者間の社会関係の学習ということにもなる。実に効率的だ。

 

 ソウが同じ基点を利用していた子どもたちを取りまとめていたのは、利用者の中でソウが最年長だったからだろう。

 未成年者のサーヴィーは接触者の個人情報を強制取得する。行動履歴と接触者の情報は有機的に結びつけられる。

 もっとも、感染症や犯罪が発生した時に国に使用されることにはなるが、所有者が接触者の個人情報をそのまま利用することはできない。何度も接触していれば、それなりに親しい相手とデータ化されるだろうが。


 川風だろうか、少し強い風が家の空気を洗ってくれたのを見計らって、窓を閉めて回る。

 確かに寒いが、家の匂いが籠もった空気を吸うよりましだ。

 前に利用した人間のサーヴィーがすみずみまで消毒をしているはずなのだが、締め切られていた家の中というのは、どうにも他人の脇の下に顔を押しつけられて体臭を嗅がせられている気分になる。

 所有者の気分のメンテナンスまでサーヴィーはしてくれやしない。自分でなんとかするしかないのだったら、いつでも上機嫌とはいかなくても、常時不機嫌ではない程度にするべきだろう。

 

 ちゃくっと夕飯を仕上げると、おれは見晴らしの良い部屋に運んだ。

 部屋の照明を点けないで、夕陽色の川の流れを見ながら食べようと思った。前の基点じゃできないことだ。


 数百m向こうの対岸には公園があった。

 光を跳ね返す尖塔はジャングルジムの一部のように見えるが飾りじゃない。水害発生時の避難塔でもある。

 背の高い――二階建ての民家よりも高い――塔の上部は、強化プラスチック製だ。

 いざという時には救難ボートにもなるという。

 その中には、周辺住民が一週間は生存を可能にする生活物資が蓄えられているというが、正直なところどうなんだろう。

 この文教地区には、おれのような未成年の学生しか存在しない。

 それも残存建築物の定期メンテナンス要員として移動生活している以上、周辺住民の数など固定化されるわけがないのだ。正確な人数などどう把握できるのだろう。いや、できるのかもしれないが、物資量にリアルタイムで反映するものか。

 そもそも、遮蔽物のない塔の上部など、直射日光を浴びるに決まっている。

 高温になるようなところを食材や薬品の備蓄場所にするのはどうなんだろうか。

 そもそも物資とか見たことはないのだけれども。

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