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【完結】highest‘A’  作者: 輪形月
第四章

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16/48

規則は時として破るためにある

本日も拙作をお読み頂きましてありがとうございます。

「……ってなことがありまして。学校と正面から喧嘩することも考えたんですが、ぶっちゃけいろいろめんどくさいってことで三人の意見が一致しました。かといっておとなしく特生指(とくせいし)くらうのもばかばかしいんで、取りあえず時間稼ぎをしようかと」

「おいおい」


 アシさんは呆れたように額に手を当てた。おれは構わず話を続ける。

 

「まずは接触頻度を見た目だけ減らそうかと」

「見た目?」

「毎週日曜におれたちがここにくるのは変わりません。だけど、これまで三人一緒に来てたのを、一人ずつにしようかと。と言っても、まあ、人間恐怖症のあいつは無理なんで、おれかもう一人、でっかい相方が来ることになると思います」

「彼か」

「……まああいつはかなりのアホなんで。一人で来させるのもどうかと思いますけど」

「いやいや、そこは任せてやれよ。というか君らが珍しくつるんでいないなと思ったらそういう理由か!」


 はあ、とアシさんは溜息をついた。

 だが、おれもじんわり学校には怒りを感じてる。どうこう言われるままに、大人しくアシさんと縁を切るかと言ったら答えはNoだ。

 

「おれたちは、羽立澧(はだちれい)の資料をあれこれ探しているときに、『たまたま』『同じ羽立澧の資料を探していた人』がいたんで、顔見知りになりました。顔見知りになったから、その人と『資料についての意見交換をした』り、ちょっとした雑談をする程度の仲になりました。それのどこが悪いんですかね?」

「……まあたぶん俺がノマドだから、問題になったんだろうな。そうでなけりゃあ、接触対象が未成年者かそうでないかを確認して、ついでに犯罪発生可能性を測定して、重度でなければそれで終わりってとこだろう」

「そこがおかしいと思うのは、アシさんは間違いだと思いますか?」

「いや」


 ちょっと笑うとアシさんはコーヒー缶をゴミ箱に放り込んだ。

 

「大人が目をつぶってまたいでる、現実と建前のクレバスだよなあ。だけど、君らがわざわざ事を荒立てんでもいいだろうに」

「アシさんにご迷惑だっていうんでしたら引き下がりますけど」

「迷惑じゃないと言ったら?」

「事なかれ主義に染まるのは二十歳すぎてからでも遅くはないかと」

「違いない」

「あ、それとおれたち羽立澧を探究学習の題材に選びましたんで。基本題材に制限はかけられてませんし、数年前の卒業生にも羽立澧のことをちょっと調べてた人がいるらしいんで、本格的に止めろって言われたらその辺を反論材料にしようかと思ってます。レポートは卒業するまでに仕上げればいいんで、時間は一年以上ありますし」

「なるほど。きっちり理詰めで来たわけか。だが一つ忘れてるぞ」

「なんですか」

「前にも俺が言ったことさ。俺はノマドだ、いついなくなるかわからん。勝手に期待するな、裏切られたのなんのと騒ぐな、ってことさ」

「……それはわかってます。アシさんはアシさん、おれたちの探究学習は探究学習、けじめはつけます」

「ならいい」


 自販機に囲まれた休憩スペースからディスカッションルームに向かう廊下を歩きながら、おれはアシさんに訊いた。


「ところで、アシさんは何やってたんですか?」

「まあ、あれこれ?推定羽立澧の本体らしい人間の出身地まで行ったりな」

「まじっすか?」

「おう。高校生には真似のできない現地取材ってやつだ」


 ニヤニヤしながらディスカッションルームでアシさんが見せてくれた動画は、山の麓にある寒村のなれの果てだった。

 別の仕事も受注してのこととかで、数日寝泊まりしていたという基点が強化プラスチック製のユニットハウスなのはまだわかる。

 だけど、その外壁にざっくり刻まれてる爪痕は。

「……熊ですか?」

「ああ。杉林の枝打ちにベアパーソンもやってたからな」


 さらっと言うがどちらもかなり危険な仕事だ。

 特にベアパーソンは、ヘタすれば熊と直接向かい合う可能性が高い。

 

 かつて野生動物が人間のテリトリーを侵犯するのを防ぐために、熊や猿などを吠えて山に追い返すベアドッグ、モンキードッグという使役犬がいたという。だが、犬は生きた毛皮も同然、かなりの高級品だ。おまけに使役犬の存在は動物愛護精神に反するとかいう論議がたまたま間欠泉のように噴出していたのがパンデミック直前だったのと、その後の基点を転々とするライフスタイルが広まるにつれ、動物を飼育することのできる状況というのも限られてしまい、犬も訓練士のスキルを持つ人間も絶滅危惧種状態だという。

 そこで、使役犬の役割を人間が負うことになった。それがベアパーソン、モンキーパーソンだ。

 もちろん、様々なタイプのワーカーを使って野生動物を追い返すのが基本的な仕事内容だというが、野生動物のテリトリー近くで一定期間過ごさねばならない以上、遭遇の危険はゼロじゃない。

 特に昔は冬眠に入ったという熊も、今では一年中動き回るようになっているものが増えているらしい。


 ちなみに人を犬の代わりに行動させるというのは、人権蹂躙ではないかという声も上がったらしいが、人の近くで住むのがいやという人間は一定数いるのだから有効活用して何が悪い、効率重視だという声に押されて消えたとか。今も昔も効率という言葉に人間、特に自治体や官公庁は弱い。


「言われるほど危険でもなかったな。たしかに昔、一時期人間を恐れなくなった熊に襲われるってケースは多かったみたいだが、今じゃ人間の方が熊より個体数が少ないエリアもあるくらいだ。『知らない動物がいる!』ってだけでかなり警戒してくれるみたいで、俺がいる間は姿すら見なかったくらいだ」


 まあ、運が悪いとカラカサで空飛んで逃げ回る羽目になってたかもな、などとさらっというからこの大人は実に始末に負えない。

 

「十分危険じゃないですか!」

「だけど、行ったからこそこんな面白いものも見つけられた」

 

 ぺいっと飛んできた動画データは、山の一部から突き出た岩だった。

 形はちょっと独特だが、ただの岩じゃないか。

 そんな気分が一瞬で吹っ飛んだ。


「ってこれ……」

「どうも穴がいくつか開いてるみたいでな。そこに風が通ると、こんなおもしろい音が出る」


 意味ありげにアシさんは口元を吊り上げてみせた。


「なんか、形が似ていないかい?羽立澧の作品と」

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