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【完結】highest‘A’  作者: 輪形月
第三章
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新しさが古くなっても日常は続く

本日も拙作をお読み頂きましてありがとうございます。

通学は毎日じゃないが、授業は毎日ある。登校日以外教室という同じ空間にいるわけじゃないが、それでもおれらは同じ授業を受けている。


「ちーす」

「いーす」

「おー」


 オンライン用画面はゴーグルディスプレイに投影すると、ちょっと歪む。手動調整をしながら教科書のデータと入力用の端末を用意する。

 映像資料的価値のない、ワンポイント的な写真やイラストにはすべての人種、すべての年齢層の人間が必ず使われているというのはどこで聞いたことだったけか。


「あ、そういえば赤ん坊の泣き声の話だけどさー」


 同じ赤ん坊のイラストにシナプスのどっかが発火したんだろう。ガクが妙にのんびりと口を開いた。


「ソウが聞いたやつ、あれ人間じゃないよ?」

「へ?」

「人間じゃ、ない?」


 一瞬おれは固まった。


「え、まさか、今どき脱走猫とか?」


 ……あ、ああ、そっちか。

 うっかりオカルト方面に暴走しかけた頭をもふもふで再起動かけている間も、ガクからぺいぺいとデータが飛んでくる。


「あんときソウから音声データもらったろ?解析かけてみたんだけど」


 波線のグラフが拡大される。うん、なるほどさっぱりわからん。


「途中で途切れ途切れになってるだろ?」

「あー、まあ」


 それはなんとなく。だけど、なんでそんなふうになっているんだろうか。

 

「あれだ、息継ぎ「ちげーよ」


 ソウを半目でぶった切ると、グラフにタイムが表示される。


「聞けば、そうとう切れ間が長いのがわかるだろが。息継ぎだったら、おれらでも深呼吸必要かよ。どんだけ肺活量ある赤ん坊ですかと」

「じゃあ、なんだよ」

「風だよ、風」

「……は?」

「……へ?」


 おれとソウの間抜け声がユニゾンした。


「見に行ったときに、ハツリが解体にかかってたよな。そこ一枚撮っといたのを拡大してみたら、鳥よけネットの残骸みたいなやつがくっついてて」

 

 写真データが拡大される。確かに、瓦礫の山に色あせた樹脂ロープの網がひっかかっている。

 

「あとは要因の確認。あの日はサクが吠えるくらいには、風が強くて寒かった」


 そういや、通学チャリが橋の上でよたったぐらいには風が強かった。ガクがワーカー歩きになるほど着膨れるくらいには寒かった。


「で、こういうネットの網目って、強い風が吹くと、笛の原理で鳴るらしい。子猫の悲鳴が束になったやつとかいろいろ表現されてたけど、まあ、赤ん坊の泣き声にも聞こえなくはないらしい」


 ちなみに新生児の泣き声って、性別とかに無関係に同じ周波数になるらしいよ?などと無駄知識を披露しつつ、ガクのしゃべりは止まらない。

 

「で、そのへんの怪奇音現象っての調べてたら、彫像公園がひっかかった」

「え」


 ほい、と飛ばされてきた動画は、街灯らしい灯りが数十秒ごとに点滅する夜景しか映っていなかったが。

 風がマイクに吹きつける音と共に聞こえてきたのは。

 

「ぼ、ぼ、っぼぼぼぼぼーっ、ぼー」

「……声変わりした九尺様?」


 明らかに不気味すぎるだろうこれ。

 

「これ、間違いなく幽霊だと「んなこたーない」」


 投げやりにガクがソウにツッコミを入れる。おれは脱力していた。 

 彫像公園なんて行動範囲外にいきなりガクが足を運んだこと自体、どうにも変だと思ったわけだ。


「『highest‘A’』がどうこうとか言い出したのはニワカかよ……」

「ザッツおま、そういうところ無駄に行動力あるよなー」

「そんなに褒めるなよ」

「褒めてねえよ」

 

 今度はソウが雑に突っ込んだ。

 まったくガクは人間恐怖症なくせして妙にアクティブだから、おれもソウも困るのだ。

 まあ、ガクが無駄な好奇心を発揮したおかげで、アシさんみたいなお人好しな自由人――ノマド呼びを続けるのも失礼だろうっていうんで、こう呼ぶことにした――と知り合うなんて珍しい体験をしたわけだが。 


「解析班が風だろうって結論づけてたけど、その裏取りぐらいはしておきたかったんだよ」

「だったら倒れるなよまったく。せめてワーカー連れて歩け。もしくはおれらに一言送ってこい」

「えええー」


 ガクは盛大に顔をしかめた。


「行動理由なんて一から十まで説明するわけないじゃん」

「理由はいいから行動予定ぐらいよこせっつうの、この無理無茶無鉄砲玉」

「無鉄砲と鉄砲玉を合体させるなよー。そんなにオレのこと心配?」

「ああ、心配だ」

「心配だ心配だ」


 茶化す気なのはわかっている。おれとソウは変なシナを作ってるガクに、真っ正面どストレートに言い返した。

 

「お、おう。……ありがとな」

 

 赤面して固まるのはいい。少しは溜飲も下がる。

 だけど、好奇心の赴くままにつっぱしりまくるガクが、いつまで自重するかはまるっきりさだかではない。

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