「父さんな……実は女騎士だったんだ」
小さい頃に父と見に行った『女騎士ショー』は今でもハッキリと鮮明に憶えている。
煌めくステージに立つ女騎士達はとてもキラキラしており、父に買って貰った『ヒギィィナ』ちゃんのペンライトは今でも俺の机の中に大事にしまってある。
友達とデパートに買い物へ行った際に、偶然特設ステージにて『女騎士ショー』をやっていた。気になって見に行こうとした俺の背中に、友達の声が突き刺さる様に聞こえた。
「女騎士とかクソダセぇよな……」
「今時流行らねぇって……」
俺は足を止めた。
「ん? お前見に行くの?」
「まさか行かねぇよな?」
俺は振り返り、気丈な振る舞いで答えた。
「ああ……別に興味ねぇよ」
立ち去る友達に遅れ、俺も特設ステージから離れるように歩き出す。振り返り見渡した観客達の笑顔が、その時はとても吐き気のする思いに囚われ真面に見ることが出来なかった。
家に帰ると俺はベッドに突っ伏して思考を止めた。友達の蔑む目が頭から離れないのだ。俺はそのまま寝ることにした……。
早い時間に寝たからか、目が覚めたのは夜の10時。静かに階段を降りると両親の話し声が聞こえてきた。
「今日、仕事先のデパートにタカシが来てたぞ。友達も一緒だったな」
「……そう」
「昔タカシと一緒に『女騎士ショー』を見に行った時の事を思いだしたよ」
「…………」
「……そろそろタカシにも本当の事を言わないとな」
「……大丈夫よ。タカシならきっと分かってくれるわよ」
「父親が女騎士ショーをやっているなんて知ったら、友達から虐められないか心配だがな……」
「…………」
俺は扉の裏で全てを知った。今日見た『ンホォォル』か『ヒギィィナ』か『イグゥゥル』のどれかが父親だと……!?
(……………………)
俺は拳を握り締め、静かに階段を上った。
部屋に入ると机の中から女騎士ペンライトを取り出し振りかぶった―――!!
……
…………
………………クソッ!!
―――ボフッ!
俺は枕を思い切り殴りつけた。右手のペンライトは俺の体温で温かくなっている。
―――コンコン
「タカシ……父さんだ」
俺はその声に反応すること無くベッドに潜り込んだ。
「どうかそのまま聞いてくれ。実はな……さっきお前が下で聞いていた通り、父さんな……女騎士なんだ。それも『ヒギィィナ』なんだ」
気が付けば俺の抱えた枕は涙で濡れていた。
「お前にも色々とあるだろう。だけどな、どうか自分の気持ちには嘘は付かないで欲しい。自分に付いた嘘はいつか必ずお前を苦しめる……」
「……父さんはな、自分に素直になれたからこそ、今の自分があるんだ。母さんと結婚したのも女騎士ショーがきっかけなんだ……だから……その…………すまない…………」
言葉に詰まった父は静かに階段を降りていった。
俺はベッドの中で女騎士ペンライトのスイッチを入れた。残り少ない電池で懸命に七色に輝くペンライトは俺の心を写し出す鏡のように、儚げに煌めいていた。一際輝くボタンを押すと「ひぎぃぃぃぃ!!」と虚しく音が鳴った…………
月日は流れ、俺は一枚の紙切れを手に取り頭を悩ませていた。
「進路、決まったの?」
隣の女子が気さくに声を掛けてくる。
「……まだ」
「何を悩んでるの? 就職? 進学?」
「いや……『女騎士』になる事は決まってるんだが……誰にしようか決まらなくて……『ンホォォル』も良いし『イグゥゥル』も捨てがたい」
「ふふ、相変わらずタカシ君は女騎士が好きだよね♪」
「ああ! 女騎士は俺の全てだからな! いや、俺の全てがおんなきしなのか? つまり……俺は女騎士そのものって事さ!」
俺はサラサラっと進路希望調査の紙に殴り書くと、担任の先生へと手渡した。
第一希望:ンホォォル
第二希望:イグゥゥル
第三希望:アヘッティーナ
不思議な事に、俺の渡した進路希望調査の紙を見た先生はワナワナと手が震えていた。
「……本気なのか……!?」
「へへ、勿論!」
「後で親御さんも呼んで3人で話を……しような……!!」
今にもキレそうな先生。しかし俺は動じない。自分の気持ちに嘘は付かないと決めたから……。
―――プルルルル
「あ、父さん? 仕事終わったらそのまま学校に来れる? 先生が『ヒギィィナ』ちゃんに話があるって♪」
俺には夢がある―――いつの日か『ヒギィィナ』の隣で……いや、父さんの隣で一緒に女騎士ショーに出るんだ。その時は、お客さんにも素直な気持ちでショーを見て欲しいと思う。きっと楽しい世界が待っているはずさ!!
呼んで頂きましてありがとうございました!!