雨と放課後
なんとなくいつかのあの日を思い出してください。
また、雨が降っている。
昨日よりも、少しばかり強いかもしれない。
分厚い、灰色の雲から、さあさあと、小粒の雨が絶え間なく降り続ける。
半透明のビニール越しの視界。
いつか駅前の、コンビニエンスストアで買った、このビニール傘をずっと使っている。
それに雨粒が、無数に乗っかるもんだから、前なんてよく見えない。
足下は、すでに濡れている。サンダルで登校してはいけないなんて校則は無いのだから、次はサンダルで登校してやろう。
ズボンのポケットから、スマートフォンを取り出す。
午後四時二〇分。
あと四分でバスが来る。
少し先のコンビニの駐車場に、白い軽自動車が入り、車から人が降りた。そうして、駆け足で入り口に向かう。
なんとなく、それを目で追う。すると、視界の隅にバスが見えた。
やっと来た。
学校指定のカバンから、定期券を取り出す。
バスが止まる。ドアが開いて、乗客を向かい入れようとする。
僕は、傘をたたんで、バスに乗る。
ふと、さっきのコンビニエンスストアの入り口を見た。
時が止まる。
雨の音も街の喧騒もイヤホンから流れるお気に入りの音楽も、耳に入らない。
さっきよりも強くなっていたはずの雨も、僕の目には映らない。
映るのは、彼女だけ。
雨に濡れた、淋しげな紫陽花。
こんな風に感じるのは、今が梅雨だからか。
でも、他には例えられない。
なぜか、こっちを見て、微笑んでいたような気がする。
急に、視界が遮られる。
バスのドアが閉まったのか。
バスが発車する。僕の心はそこに置き去りのまま。
雨に濡れたガラス窓越しに、コンビニエンスストアの黄色い電飾が、滲むようにぼやけてゆく。
それはまるで、幼い時分に見た季節はずれの花火のように、明るく、だけどどこか切なく輝いて見えた。
拙い文章をお読みいただきありがとうございました。この話はきっと、私の理想だったのかもしれません。ノスタルジーの好きな私の、心の片隅にある。