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やってられない①

 割りと何時もの事だけれど、少年に拒否権は無い。

 よりにもよって、学も無ければ力も無い少年を気に入り、貴族の少女は学園に連れて行くと駄々をこねている。

 数ヵ月の間、毎日毎日同じ内容をしつこく訴えられ、家主はとうとう折れてしまったらしい。


 少年としては、もっと頑張ってほしかった。


「私の娘に幾つもの条件を出し、娘はそれを飲んだ。条件の一つは既に達成されている」


 少年は嫌そうにしながらも、訝しげな目を家主へ向けた。


「君には済まない事をした。その一つというのが、我が騎士団の問題児に君がどう対応するか、というものだ。逃走か、迎撃か、説得か。それとも大人しくついて行くのか。君の選択を調べさせてもらった」


 どうやら家主の差し金だったようだ。

 そんな事の為にその日の成果を台無しにされたのか、と少年はうんざりする。


「報告書を読む限り、うちの問題児は随分な態度を取ったようだな。偏見まみれの報告書から、実際に行われた行動のみを読み取るのは難儀だった。知らぬ間に騎士団の質は落ちていたらしい」


 と、疲れたように吐き捨てる家主。

 娘の我が儘に振り回され、身内の膿を見付けるとはなんたる皮肉か。

 家主は小声で、「後で徹底的に調査しなければ」と呟いた。


「で、だ。君には質が悪いとはいえ、我が騎士団の一員を相手に勝利出来る程度の実力がある事が分かった。条件の一つがこれでね。君にどの分野での力があるのかを見たかったのだ」


 逃走の為の逃げ足。

 迎撃する為の戦闘力。

 説得しやり過ごす為の話術。


 その内、少年が見せたのは戦闘力だった。


「因みに、君が剥ぎ取り売り払った甲冑については自腹で買い取らせた。なに、気にするな。貧民街に住むただの子供に複数人で掛かり、不様に敗北した罰金だと言ったら、二つ返事で買いに行ったよ」


 返せと言われたらどうしようかと一瞬体を強張らせたが、杞憂だったようだ。

 家主はとても悪い笑みを浮かべている。


「ふふふふ。本当に、こんな細く小さなガキに負けよって。表沙汰になったら笑い者ではないか。ふふふふ」


 その笑みは穏やかながらも物凄く黒いものだった。


「さて、では問題の話をしよう。王都にある学園には国中の貴族達の子供が集まる。騎士を連れてだ。となるとだ、当然競わせたくなるのが人間でな。そこに元貧民街の騎士など放り込んでみろ。これ見よがしに決闘を申し込まれるだろう。そして、君が敗北すれば彼等彼女等はこう言うだろう。『この程度の騎士を学園に寄越さなければならないとは、アイツスルトももう終わりだな』とな」


 家主の次の言葉は、抑えきれなかった怒気が滲んだものとなった。


「赦せる訳がないっ! 我が家は優秀な魔導師を輩出してきた歴史と名誉があるっ! 私には、アイツスルト家の名を護る義務があるのだっ! それを! 泥を塗りたくり、恥を晒す様な付け入る隙を自ら作らなければならなくなった私の悔しさが分かるかっ!? 娘に対して理不尽な怒りを抱かなければならないこの想いが分かるかっ!?」


 感情が荒れている事を自覚したのか、家主は恥ずかしそうに顔を覆った。


「済まない、私情が出てしまった。話を戻そう。私が君に求める事は一つだ。……決して敗北するな。挑まれそうになれば逃げろ。挑まれたのなら勝て。娘が不要な決闘を受けないように説得しろ。どんな手を尽くしてでも、敗北は許されない。それが、君に求めるただ一つの条件だ」


 ただの貧民街の子供に、訓練を受けた騎士達に敗北するなと家主は言った。


 その、とんでもなく難しい条件に、少年はどう逃げようかと思考を巡らせるのだった。

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