迷惑な少女⑤
柄の悪い悪質な騎士達をフルボッコにしてから数日後。少年の元にまたもや騎士が集っていた。
その姿を確認した少年は、玄関扉を閉めて、裏口からの脱出を図るも、既に回り込まれていて退路は無かった。
成る程、先日の騎士達よりも本気度が高い。
「まずは先の者達が無礼を働いた事を謝罪しよう」
と、何やら偉そうに上から目線で言ってきたのはマントを着けた騎士だった。その顔は実に不服そうで、何故自分が頭を下げなければならないのか、心底不満を持っているようだった。
「お前には我々と同行してもらう。ついて来い」
連行の間違いではないだろうか。
少なくとも、逃げ道を塞いで、栄養不足により発育の悪い少年を囲って言う大人の台詞では無いように思える。
騎士達は少年に見向きもせず、ぞろぞろと歩き出した。
なので、少年は扉を閉めて、内職に戻った。
しばらくして、玄関扉がノックされた。
開けると、先程のマント騎士が居た。
彼は怒気を滲ませた声で言う。
「ついて来いと言った筈だ」
何故ついて来ると思ったのだろうか。
やはり同行ではなく連行のようだ。
結局、少年は荷物の様にマント騎士の部下らしき人に脇に抱えられ、運ばれる事となった。やっぱり連行だと思った。
強制連行される少年の行き先は、都市内のようだった。
門を潜り、往来の見世物にされる少年。
行き交う人々から、犯罪者を見るような目を向けられた。
石を拾い、少年は目掛けて投げようとして、親に止められる子供を見掛けた。万が一騎士に当たったら事だと思ったのだろう。
それでも、全員の子供が止められた訳ではなかった。
腕の良いのが居たらしく、鋭利な石が少年の額を抉った。
だくだくと流血し、右目の視界が塞がれる。
自分を抱える騎士が笑っている気配を感じた。
自分を見る中の人達が笑っている気配を感じた。
どうにも、この国の人達は貧困層の人間を同類だと認めていないらしい。
犯罪者か、犯罪者予備軍か、畜生とでも思っているのだろう。
実際、時折奴隷として拉致されるスラム住民が居た。
何故、生活に余裕のある人達の方が、こうも醜くなれるのか。
少年には分からなかった。カースト的な何かなのだろうか。
連行された先は、一つの立派な豪邸だった。
「本来ならお前の様な貧民街の住民は入れない場所だ。ありがたく思うんだな」
マント騎士が恩着せがましく宣うが、少年は掃除面倒そう以上の寸感が出て来なかった。
それよりも、恐らく持ち主でないだろうマント騎士が何故そうも誇らしげなのか理解できなかった。
その日を生きれれば良い少年には、騎士の気持ちが分からない。
更に運ばれた先は応接室だった。
やたらとお金の掛かっていそうな調度品が置かれ、部屋全体の雰囲気を落ち着いたものとしている。
マント騎士にここで待っているように命令され、暇を持て余した少年は調度品を見て回った。
名のある絵師に依頼して描かせたであろう人物画を眺めるも、芸術が分からない少年は上手としか思わなかった。
「それは我が家、歴代の当主達だ」
部屋の入り口を見れば、やはり高価そうな衣服を身に纏う中年の男が居た。
線は太く、若い頃は剣を振り回していたのかもしれない。
恐らく、この屋敷の家主だろう。
家主は少年の額を見て、忌々しそうに顔をしかめた。
額の流血は止まり、血は黒く酸化し固まっている。
服で拭うのを嫌い、放置した結果だった。
家主は小さく、「後で騒がれるな」とぼやいた。
「さて。早速本題に入りたいところだが、貴様も何故自分がここに連れて来られたのか疑問だろう。まずはそれに答えよう」
どうでもいいのでお家に帰してください。
そんな気持ちを強く抱いた。
家主は応接室のソファーに深く腰掛けた。少年もそれに倣い、家主の向かいに座る。
事情を聞いた少年はげんなりしながら頭を抱えた。
少女救出の際、一番槍を努めたばかりに気に入られてしまったらしい。そして学園に騎士として連れて行きたいと強く訴え続けたられた結果、自分はここに居るのだと知らされた。
なんて迷惑な少女なんだと思った。
主人公くんの戦闘力について。
奇策と不意打ちが主で、相手を翻弄している内に終わらせないと不利になる短期戦型。
高精度な予測が出来、あまり外さない。なお、魔法に関しては知識不足の為予測不可な模様。
後手に回ると地力の差が諸に出るので、常に先を取らないと一方的にやられてしまう。