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ショパンの調が響くこの孤島で  作者: 高井繭来
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人の名前つけるセンスは皆無です。

 松島久遠はピアノの音で目が覚めた。

 ショパンの幻想即興曲だ。

 ただ分かった事といえば、自分は家で寝巻代わりのスウェットに着替えて寝たいたはずなのに何故か学校指定の制服を着ていて何処かの夜の森の中に居るということだった。

 うう、と誰かが呻く声が聞こえた。

 それによって漸く久遠は冷静に周りを見回す余裕ができた。

 自分と同じように同じ学校の制服を着たものが四人。

 内二人は女生徒で残り二人は男子生徒だ。

 四人とも見たことのある顔だった。

 見たことがある、と言うのは語弊があるだろう。

 赤みがかった茶毛のボブカットの女生徒は久遠の幼馴染のでもう一人の長い黒髪の女生徒は一学年上の白百合姫と称される、そばかすがある小柄な方の男子生徒は中学時代からの友人の、そして残る男子生徒は知り合いでも無いものの久遠が一方的に苦々しい感情を抱えている一学年年上でスラリとした長身のだった。

 さらに周りを見回すと何時も疲れた顔をして陰険そうな表情を浮かべている担任の向日葵。

 相当鍛えられているのだろう筋肉質で長身のガタイの良い中年の警察官。

 警察官とは違う意味でガタイの良い贅肉でぱんぱんの坊主頭の壮年の男。

 自分よりは少し年上だろう眼鏡をかけた黒髪のセンター分けの青年。

 三十代前後であろう細身の無精ひげの男。

 ショートカットの女―それ程自分と年は離れていないだろうと久遠は思った。

 どうやら今この森の中に居るのは自分を入れて十一人らしい。

 音楽はまだ鳴っている。


「う、ここ、は?」


 眼鏡の男が目を覚ました。

 周りを見渡し久遠を見つけるとどういう状況かと視線だけで訴えかける。


「目、覚めました?俺もさっき気が付いたところで今この状況が何なのか意味が分からないんです。どうしましょうか?」


「取り合えず、全員を起こそう。誰か一人くらいこの状況がどういうことなのか知っている奴がいるかもしれない」


「そうですね、手分けして起こしましょう。俺は知り合いを中心に起こしていきます」


 久遠は同じ学校組を、年上らしき眼鏡の青年は無精ひげの男が親戚だということで残りの四人を起こすのを任せることにした。


 :::


 全員の目が覚めても誰も今の状況を説明できるものは居なかった。

 全員が今の状況に戸惑うばかりだ。

 取り合えず名前も知らないと会話もままならないと言うことで自己紹介が始まった。

 自己紹介を言い出したのは杉浦だ。。

 まずは同校組が多かったことから久遠の学校のものから自己紹介を行うことになった。  


「俺は漆原高校三年の杉浦陽です」


「私は杉浦先輩のクラブでの後輩の油女椿姫です。よろしくお願いします」


 椿姫がぺこりと頭を下げた。

 いつもは自信満々な気の強い椿姫が何処か怯えるようなそぶりで弱弱しい声を出す。

 片思いの相手である杉浦が居るからだろう。

 ずっとつるんできた自分や遥ではなく杉浦の斜め後ろに隠れるようにしている。

 その椿姫の様子を見て、杉浦が椿姫に安心させるようにニコリと笑った。

 その笑顔に椿姫は頬を赤く染める。


「漆原高校三年、杉浦君と同じクラスで生徒会長をしている白井百合です」


 長い黒髪を揺らして白井がお辞儀をした。

 久遠が好きではないタイプだ。

 久遠の好みはどちらかと言えば可憐な守ってあげたくなるような女の子が好きだ。

 だから生徒会長でしっかり者の白井はどちらかというと苦手だった。


「俺は油女さんと同じクラスの若竹遥です」


 遥は三白眼の目をきょろきょろさせて周りを伺っていた。

 その気持ちは良く分かる。

 今にも得体のしれない何かが出てきそうな夜の森に相変わらずなり続けるピアノの音。

 不気味に感じないほうがおかしいだろう。


 「俺も若竹と椿姫と「同じクラスの松島久遠です。油女椿姫とは幼馴染になります」


 軽く会釈した。

 

「………二年の担任の向日葵です」


 ボソリと近くにいないと聞き取れないくらいの小さな声で向日が名乗った。

 おそらく向日の中ではこの状況が何であれ生徒が居るのだ。

 何か起これば自分の監督不行として自分に厳罰が下るのを心配しているのだろう。瞳に精気は感じられなかった。


「俺は。楠大学の三年だ。こっちにいるのは俺の叔父の。叔父は銀のスプーンというカフェを経営している。雑誌にも取り上げられた事があるんだが知らないかな?ついでに俺はそのカフェでバイトをしている身だ。」


 眼鏡をかけた黒髪の青年―伊藤は自分の紹介と、隣にいた三十前後の無精ひげの男の紹介をした。

 眼鏡のブリッジを指で押し上げ自己紹介する姿はどこかインテリ染みている。

 レンズ越しの涼やかな目元がそう思わせるのだろうか。

 反対に叔父の伊藤叔父のほうは甥の後ろに隠れて小物染みて見えた。


「知ってます銀のスプーン!1年くらい前雑誌に載ったフラワー通りのパンケーキが絶品のカフェですよね!私も何回か友達と行きました!パンケーキ凄く美味しかったです!!」


 椿姫が銀のスプーンの名前に食いついた。そういえば自分が何度か付き合わされたのもそんな名前のカフェだったと久遠は思い出す。


「銀のスプーンか………」


 杉浦の小さな呟きが耳に届いた。

 苦々しく発せられたその言葉にこいつも何か銀のスプーンに苦々しい思い出もあるのかと思った。


「俺は植木町の南派出所で勤務しているだ。そこの伊藤勝とは学生時代からの付き合いだ」


 池沼が伊藤叔父の肩を組む。

 そうしていると年の近い親子ほどの年齢の差があるように見えた。

 これは池沼が老けて見えるのか伊藤叔父が若く見えるのか悩むところだがソレを聞いてしまってはどちらにしてもいい気分はしないであろうから久遠はその疑問を自分の中で留めておくことにした。


「俺は……この前まで娘が漆原高校に通っていた」


 ブヨブヨの中年は草刈という名前らしい。

 その名に思うことが久遠にはあったが今は関係ないことであろうと思い込もうとした。


「ウチは。大学通うために大阪から出てきたんです。三年前から東京住んどります」


 年齢不詳の女は久遠たちより三、四歳年上のようだ。

 目が閉じられていた時から端整な顔をしていると思ったが瞼が開かれると切れ長のアーモンド形の瞳が出てきて美しさが一段と増した。

 そして立っていると寝ている時より豊満な胸が余計に主張された。

 主張された胸を池沼警官が舐めまわすような視線で見ているのが久遠の視界に入った。

 正直この警官は生理的に受け付けないと感じた。

 確かに興味は惹かれるがこの状況で色ごとに気をひかれるほど久遠は能天気ではなかった。

書き溜めてあるので出来るだけ更新は早いと思います。

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