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乙女ゲーム迷宮~隠れゲーマーの優等生は、ゲーム脳を駆使して転移を繰り返す先輩を攻略する!~  作者: 森の木


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第28話 ハート編 女子高生、告白される

 先輩が立ち止まった。公園の出口はすぐそこである。出口を抜ければ、駅が見えてくる。そして別れてしまう。また明日から、何気ない毎日が始まる。


「アラキ、変なこというかもしれない。でも伝えたいことがあるんだ」


「はい」


 先輩はずっと悩んでいた。少し会話をして気が楽になったようだが、改めて話を切り出す表情は険しい。ヒカリは背筋をぴっと伸ばした。少し緊張する。


「今日のアラキは、ずっと前のアラキのような気がして。最近、知り合いになったアラキは、違う人みたいで。俺の気のせいかなと思った。でも今日会ったアラキは、昔のアラキのような気がして」


「違う人…………」


「前に、アラキから好きな人はいないか?と聞かれたことがあって。その時はいるって答えた。でも誰か正直わからなくなっていた」


 ヒカリは思った。それを尋ねたのは、魔女であったヒカリ。先輩には好きな人がいるらしいと言っていたから、聞いたのだろう。


「でも、今のアラキと話していたら。思い出した気がして。自分の好きだった人を」


 そして先輩は、ヒカリを見つめた。まっすぐ、綺麗な瞳で。ヒカリはその真剣な眼差しに、息ができなくなりそうだった。こんなこと初めてだ。相手を見つめると、何も考えられない。


「俺、アラキが好きなんだと思う。ごめん、急に変なこと言い出して」


「先輩…………」


「アラキなのに、アラキじゃない。でも今は俺の好きなアラキ…………、自分でもわけわからない」


「先輩は、変じゃない。わたしも好きです、先輩のこと」


「アラキ…………」


 お互い顔が真っ赤になって、固まってしまう。そして意識がぼんやりかすんできた。


 そうハート編がクリアされたのだ。お互い気持ちを通じあい、ハッピーエンドになった。だからハート編の物語は終わるのだ。

 ヒカリはゲームだと分っているからこそ、簡単に答えが言えた。もしこれが現実だったら、すぐに好きだなんて返せたかは分らない。頭が真っ白になって、立ちすくむだけだったかもしれない。これで、魔女であったヒカリが幸せになれた。最後はヒカリがヒカリ自身で、ハッピーエンドになった。だけれど、魔女が選んだ選択肢であっても、幸せになれたのだ。

 魔女も少しは救われただろうか。そう思いながら、消えゆく意識のなか自然と笑顔が浮かんだ。



*****



「アラキ、アラキ…………」


 遠くから声がする。この優しい声は、先輩だろうか。意識が覚醒すると、そこには先ほどまで一緒にいた先輩の姿があった。もちろん目の前にいる先輩は、ハートの世界の先輩ではない。ヒカリは起き上がった。それを支えてくれる、先輩。


「大丈夫か?起きたら、アラキも倒れていて」


「わたしは大丈夫です」


 すると、近くから髪の毛が金髪の美しい女性が現れた。瞳も両目が金色。波打った髪の毛は風になびき、きらめき、艶めいている。彼女は微笑みをたたえ、真っ白なドレスを着ている。女神のような美しさだ。


「ヒカリ、ありがとう。わたくしは、闇から救われました」


「まさか、魔女? 」


「ええ、わたしはエレノア。あなたの器に入ることにより、幸せな選択肢を選ぶことができました。闇に打ち勝つことばかり考えていたわたくしは、どんどん疲弊していき。闇にのまれていきました。でもヒカリに、闇に寄り添い、自然に生きることを教えてもらいました。正しい道は、遠くにあるのではなく、傍にあるのだと」


「わたしは何もしていないよ、エレノア」


「ヒカリ、わたくしを支えてくれた人。どうぞ、エリーと呼んでちょうだい」


 笑顔が美しいエレノア。エレノアは両手を広げてくれた。そしてヒカリはエレノアの胸に飛び込んだ。彼女からかおる優しいかおり。彼女は魔女とはもう言えなかった。エレノアは自分で打ち勝ったのだ。長い時間、闇に染まりつらい運命が彼女をむしばんでいった。好きな人を憎み、ののしり、世界をゆがめていった。だが、この部屋は明るく、もうゆがんだ空間ももうない。彼女の心が晴れわたったように、青い空が部屋に広がっている。


「エリー、よかった。苦しそうだったから、心配していたよ。楽になれたんだね」


「ええ、まだ闇に心が引き戻されることはあるでしょう。でもわたくしは1人ではないと知ることができました」


「そうだよ、魔女が助けを求めれば。いろんな人が助けてくれるよ」


「知恵の天使、勇気の天使、希望の天使。そして光の天使…………本当にありがとう」


 しかしその感動の再会は遮られることになる。ヒカリはポケットにあるスマホのバイブレーションが震えたのが分った。すっかり存在を忘れていたヤンヤンのことである。スマホを取りだそうとすると、エレノアがそのスマートフォンを取り去った。そして憎々しげにそれを地面に投げつけた。


「エリー? 」


「ヒカリ、ごめんなさい」


 エレノアの顔はひどく冷ややかは無表情だった。



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