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乙女ゲーム迷宮~隠れゲーマーの優等生は、ゲーム脳を駆使して転移を繰り返す先輩を攻略する!~  作者: 森の木


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第10話 女子高生、先輩と再会する

 気がつくと、また不思議な空間にいた。最初にこの世界にとばされてきたのと同じ。空間の歪みのようなものが、宙にいくつか見られた。空間の渦といってもいいかもしれない。まるで宇宙空間のような、深い闇を感じられる色だった。

 ヒカリは自分の着ている服を見た。学校の制服を着ていた。そしてお姫様だったときにあった、タヌキのネックレスは首元にはない。タヌキはどこへ行ったのだろうか。辺りを見回すも、タヌキらしき存在はいなかった。


 ヒカリは歩き出した。正面に扉があったからだ。他に繋がる道はなかったし、このまま同じ場所にいても時間が過ぎるだけだろう。そして扉を開けた。

 すると、中央の台に男の人が横たわっていた。見たことがある姿だった。


 「先輩! 」


 タヌキの言うことはやはり本当だったのかもしれない。慌てて台へ近づいていき、先輩に何かなかったか確認したかった。先輩は意識を失っていた。息はとりあえずしている。


 「マジマ先輩……、マジマ先輩」


 肩に手をあて軽く揺すってみた。すると先輩の瞼が震えた。そしてぼんやりと目を開いた。

最初は視点があわなかったが、まっすぐにヒカリを見据えると意識が覚醒したようだ。慌てたように体を起こした。


 「アラキ!だよな? 」


 「はい、アラキヒカリです」


 先輩がヒカリの名前をしっかり覚えてくれたのは嬉しかった。だが今は喜んでいる場合ではない。


 「先輩、どこか怪我とかしていないですか?気分が悪いとか…………」


 「特に。まだ頭がぼんやりしているけれど。ずっと長い夢を見ていたみたいで……。お城?みたいな、ドレスを着た女の人がいた夢を見ていた」


「ドレス……、もしかしたら、わたしも同じ夢をみていたかもしれません」


「不思議だな、でもここは……?まだ夢の中なのかな」


「まだ状況がわからないことが多くて」


「アラキも?俺は、部活が始まる前にいつものように道具を整理していた。そうしたら、何か大きな光に飲み込まれて、気がついたらここにいた」


「光り?」


「ああ、なんだか女の人の声がしたかもしれない。呼ばれた気がしたんだ」


「女の人…………」


 ヒカリは先輩を呼んだ女の人の声が、ヒカリをこの世界に巻き込んだ人物の可能性を考えた。タヌキはこの世界にヒカリを呼んだのは、女神と言っていたし、時折魔女とも言っていた。なぜ先輩を巻き込んだのだろう。怒りがわいてきた。関係ない人を巻き込んで、危険な目に遭わせるなんて。


「アラキ、ここから出る方法は? 」


「はい、いくつか条件があるみたいです」


「条件? 」


 ヒカリは言葉を状況を説明すること難しいと思った。乙女ゲームをクリアしないと、先輩を助けられないなんて言えない。先輩が乙女ゲームを知っているかはわからないが、あまりコアなゲームについては知らない可能性が高い。それに、乙女ゲームをプレイしていることがばれそうで怖い。


 何を非常事態なのにとは思うが、それこそヒカリのわずかばかりに残っている乙女心である。興味がない男性にだったら、乙女ゲームだろうかなんだろうが、好きなゲームをしているのだから、バレたっていい。でも好きな人、気になる人にいきなりカミングアウトするのは、恥ずかしい。まして、それほど話をしたことがない人に。

 

「何かできることはあるか? 」


「いえ!先輩が元気なだけで、それだけでいいというか」


 ヒカリははっと口に出してしまって、自分が恥ずかしいことを言っているのではないかと思った。先輩を見ると、案の定赤面している。恥ずかしくて死にそうだ。


 「ははは、アラキって面白いんだな。意外だ」


 「そうですか?」


 「もっと話しかけにくいというか。話したらだめなんだと思った」


 「そんなことはないです!先輩だったら、むしろ話かけてくれてOKというか、ありがたいというか」


 「そうなのか?よかった。嫌われてないみたいで」


 「嫌うなんて!先輩こそ、いつも忙しそうだし。年下から話しかけるなんて失礼かなと思って」


 「そんなことはないよ、後輩なんてよく俺いじってくるし。部活では上下関係はある程度あるけれど、それ以外は仲良くやっているし」


 ヒカリは内心とても感激していた。まさか先輩とこんなに長く話せる日がくるなんて、思わなかった。思わぬトラブルに巻き込まれてしまったが、これはこれで幸運なことであった。

 ヒカリは憧れの人が目の前にいる現実に、少し舞い上がった。だが、それも長くは続かない。


 「先輩! 」


 気がつくと先輩はまたうとうと眠りはじめた。そして倒れ込む。慌ててヒカリは支えようとするが、先輩の体はふわっと浮いてヒカリから離れていった。そして遠くにあった扉に吸い寄せられるようにきえていく。

 ヒカリは扉に向かって走り出した。

 せっかく先輩に会えたのに、また離ればなれになってしまう。次、また無事に会えるかわからない。ヒカリは先輩が消えてしまうまで、全力で走ったが、先輩は扉の前で姿を消した。


「やっぱり、これは夢じゃない」

 

 先輩と話してみて実感した。先輩は夢なんかじゃない。

 やはりタヌキの言うとおり、先輩をこの世界から救わないといけない。


「タヌキ!いるでしょ!? 」


 ヒカリはイライラしたように叫んだ。

 すると姿を消していてタヌキが、現れた。きっと全部見ていたのだと思う。空気を読んだのか、姿を先輩に見せなくないのか分らない。


 「本当に、全部ゲームをクリアすれば先輩と外へ出られるの? 」


 「ヤン!それにヤンはタヌキじゃなくて、ヤンヤン、ヤン!」


 「ヤンヤンヤン?」


 「じゃなくて、ヤンヤン!」


 「同じようなものだわ!本当に迷惑きわまりない、わたしは平凡にゲームをしていれば満足なだけなの。こんな命がけでゲームをすることなんて望んでない」


 「しょうがないヤン、魔女が先輩を見つけてしまったから。先輩を好きな人が君だったからヤン! 」


 「どういうこと?魔女が先輩を? 」


 「細かいことはいいヤン、アイテムをみるヤン!一つ目のゲームをクリアしたことで、内容が更新されているヤン!」


 タヌキは何か隠している。早くここから出たい。でも、今は相手の言うとおりにゲームクリアをするしかないようだ。ポケットからスマホを取り出した。そしてホーム画面を表示すると、クローバーの国というアイコンがクリア済となっていた。クローバーの国のアイコンをタップすると、姫と弟王子が幸せに暮らしたというエンディングになっていた。そしてクリア特典に、好感度表示システム解禁とあった。


「好感度表示システム? 」


「新しい機能が解除されたヤン!これからは、攻略キャラの好感度が数字で表示されるヤン!だから攻略も少しは楽になるヤン!」


「それは嬉しいけど。あやしいなあ」


 いい話があれば、きっと悪い話もある。クローバーの国編は攻略人数が2人だったから、それほど選択肢は多くなく、ゲームの難易度としてはそれほど難しくはなかった。だが、これから難易度が上がっていく可能性は十分に考えられる。嬉しい特典ではあるが、今後の展開を思うとため息しか出てこない。


 「不満そうヤン! 」


 「もっと手軽に、一発でクリアできる裏技がないかなと思っただけよ」


 「強欲はよくないヤン! 」


 「あなたには言われたくないわ! 」


 タヌキの無茶な振る舞いに付き合っているこっちの身にもなってみろと言いたい。もしそんな言葉を投げかけても、このタヌキは、自分悪くないというそぶりをするだろうことは予想できる。こちらがイライラするだけであるのは想像に難くない。


 今は相手の言うとおりに動くしかない。

 先輩という人質をとられているようなものだ。この世界のルールに従っていれば、世界から逃げられるチャンスが巡ってくるかもしれない。相手の言いなりはシャクに触るが、先輩を助けるためだと思えば仕方ないと思える。


 「さあ、さっさと次のゲームに行くわよ!話していても有益な情報はくれないだろうし」


 「今、ヤンヤンの悪口言ったヤン?」

 

 「そう?役に立たないなとか口に出して言っていた? 」


 「今言ったヤン! 」


 少しくらいはからかったも罰が当たらないだろう。ヒカリは気分を切り替えて、先輩が消えていった扉を見つめた。

 扉はスペードのマークが刻まされていた。扉を開けたらまた意識が飛ばされるだろうか。ヒカリは心の準備をするため、大きく息を吸い込んだ。そして息をゆっくり吐くと扉を開けた。中に吸い込まれる。そして意識は遠くに飛ばされていった。




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