episode4
翌日の、午後6時半。
都内から少し離れた、愛知県の中でもかなり栄えている市内へとやってきた。
駅前にて、待ち合わせているリアさんを探すとすぐに見つかった。
「リアさん〜! 待たせちゃってすいません」
「あ、もうっ! やっときた! 女の子より遅れてくるなんて絶対ダメだからね!?」
「つ、次からは気をつけます……」
着いて早々にお説教タイムに入ったが、こればかりは自業自得なので致し方ない。
いや、お説教なんて耳に入ってこないけど……
……リアさんが可愛すぎて。
「そ、それよりその浴衣……すごく似合ってますね。可愛いです」
「そ、そう……? いきなりそんなこと言われると照れるな……ありがと」
「い、いえ……」
紺色がベースの生地に、ひらりと咲き舞う桜が印象的に感じる。シンプルな柄だからこそ、綺麗な彼女によく似合う。
そしてゲーセンに行く予定がないからか、今日はメガネを外している。メガネ姿のリアさんも可愛いけど、なんというか……すごい色気がでていて魅力的だ。
ほんとに惚れそう……てか、惚れちゃってるよね……好きだもん……。
まだ数回程度会った仲だ。
彼女のことも、実際そこまで深く知らない。
何が好きで、何が嫌いなのか。どんなことをされると喜ぶのか、嫌なのか。
好みの食べ物は?将来の夢は?好きな異性のタイプは?
本当に僕は何も知らない。
でも、好きだ。それは絶対に違わない。
告白しよう。
「さ、行こっか。早めに中の方に入っとかないと後で大変になりそう」
「そうですね」
二人、横並びで歩いていく。
傍から見たら、僕たちは恋仲に見られるのかな。それとも、僕の顔が幼いからただの姉弟に見られるのかな。
ふと、どうでもいいことを考えていると、人混みに押されて転びそうになる。
「わっ……」
「セナくん大丈夫? 危なっかしいから、こうしてあげる……っ」
「り、リアさん!?」
リアさんが急に距離を近づけたかと思うと、いきなり腕を組んできた。
胸が当たったり、リアさんの髪からシャンプーの香りがしたり……色々と恥ずかしい。
「ち、ちょっと恥ずかしいので……手を繋ぐのじゃダメですか……?」
「もうっ、せっかく私が腕組んであげたのに! ばーかっ!」
なぜか叱られる、パッと腕を離された。
手を頭上まで上げだしたが、何をするのかわからずにいた僕は見事にデコピンを食らってしまった。
「うぅ……痛い……」
ジンジンとした痛覚が地味に襲い掛かってくる。
「男の子なんだからそんな痛がらないの。ほらっ……ん……」
リアさんが無言で手を差し出してくる。
まだ太陽が沈みきっていないせいか、リアさんが顔を赤くしているのがよくわかる。気恥ずかしさを感じているのは僕もだが。
静かに彼女の差し出す手に自分の手を添えた。
「えへへ……結構恥ずかしいね……」
「……ですね」
緊張が伝わり合う。
リアさんが歩き出すのを見て、僕も足を進める。彼女は下駄を履いているので、いつもより足並みが遅い。ゆっくりと歩調を遅くする。
「あ、私たこ焼き食べたい!」
「買いましょうか、僕も食べたいですし」
その後は、ただただひたすら祭りを楽しんだ。
たこ焼き、綿菓子、チョコバナナ、たこせんべい、かき氷。色んな食べ物を二人で分け合って食べたりした。間接キスはこの前もしたとはいえ恥ずかしかったけど……。
二人で小学生みたく、輪投げをしたり、だるま落としなんかをしたりもした。
たくさんの出店があって、それを行きかう人で賑わってて、その雰囲気に呑まれた僕たちはひたすら楽しんだ。
何より、リナさんと一緒に居られることが、この上なく嬉しくてたまらないのだ。
そして、この夏祭りの終わりを向かえるように花火が次々へと打ち上げられていく。
ついにこの時が来た──
「──リナさん」
「うん」
「好きです。僕と付き合ってください!」
「いいよ」
……え? 今いいよって……?
「ほ、ホントですか?」
「もうっ、何で嘘つかなきゃいけないの!」
「でも、リアさんって彼氏さんいるんじゃ……この前も映画男の人と観に行ってたし……」
「あ、セナくんも観にきてたんだね。でもあれはただ誘われたから行っただけだから……あの後告白されて断ったし」
「そ、そうだったんですね……」
「だから、今から私がセナくんの彼女だよ」
「ぼ、僕がリアさんの彼氏……」
「嬉しい?」
「当たり前じゃないですか……」
彼女の顔を直視できない。
恥ずかしさと、照れ臭さと、嬉しさと。色んな感情が混ざり合って、筆舌に尽くし難い。
「あ〜、目逸らした〜。私のこと嫌いなのかな?」
「そんなわけないです!」
「じゃあこっち向いて? それで目を瞑ってほしいな」
「め、目をですか」
いわれた通りに僕は目を瞑った。
何で? なんて野暮なことは聞かない。いくら鈍感な人だとしても、これからされることくらい察せれるだろう。
だから僕は素直に従った……のだが。
「いたッ……!? な、何で!?」
何でデコピン!?
ここはどう考えてもキスをする場面のはず。なのに何で……。
「期待しちゃったかな〜?」
とても満足そうな顔でニヤニヤとするリアさん。
どうやらハメられたようだ。
「……リアさんのばか」
「あ〜、そんなこと言っちゃうんだ〜、男の子なんだからやり返してやらないと。私、セナくんがすることなら全部受け入れるからね」
「うっ……頑張ります」
「これは気長に待たないとダメそうだな〜」
あはは、と苦笑いするリアさん。
流石に付き合い始めた日に自分から唇を奪いに行く勇気はない。チキンなものは仕方ない!
「でも、そのうち、絶対仕返しするので待っててくださいね?」
「うんっ!」
こうして僕らは恋仲になり、祭りが終わるまで花火の上がる夜空を見上げていた──。




