episode3
都内のとあるラーメン屋。
そこの一角に座る僕とリナさん。
日頃通っているゲーセンの、スグそばにあるラーメン屋で僕はよく利用していた。
そして、恐らく彼女も。なんせ、音ゲーマーの食事といえばラーメンと決まっているのだ。
「やっぱりここのラーメン美味しいよね〜! 毎日食べたいくらいだよ〜」
「ですよね、僕も好きですよ」
やはり彼女もここの虜になっていたらしい。薬物に手を染めている犯罪者の気持ちが、今なら多少わかるかもしれない。
「セナくんの頼んだ担々麺って美味しい?」
「美味しいです! これすごく好きなんですよー。逆にリナさんの塩バターラーメン食べたことないからどんな味するんだろう……」
「あ、よかったら食べてみる?ほらほらっ」
ちょっと気になる程度の呟きを聞き取ったリナさんは、自分の器を僕に差し出してきた。
「いいんですか? じゃあ僕のもよかったらどうぞ!」
代わりに僕も自分の器を差し出す。
「んー、これ美味しいっ!ちょっと辛いけど!」
「ですよねですよね!」
好きな物を理解して貰えるのは嬉しい。
相手が食したところで、僕も塩バターラーメンを口にした。
「ん……美味しい。なんか変わった味だけど、いいかも」
「だよねだよね!」
「はい……って、あ……」
今更になって気づいたが、これはもしや……いや、もしかしなくても間接キスになるだろう。
そう思うと、急に恥ずかしい気持ちが込み上げてくる。
「セナくんどうかしたの?」
「な、なんでもないですよ!」
流石に間接キスで恥ずかしくなっちゃった、なんて言えるはずもない。
バレないように適当に話題を振ろう。
「そういえば、リアさんって視力悪いんですか?いつもメガネかけてますけど」
前回の新太と映画を見に行った時に見かけたリアさん。彼女はメガネをしていなかった。それが何故だろうと、ふと疑問として思い浮かんできたのだ。
「そこまで悪くはないよ〜、裸眼でも全然問題ないし。ただゲーセンいって、音ゲーするとなると大学の同級生とかに見られたら嫌だから……ちょっとした変装?みたいな」
「なるほど……バレたら弄られますもんね」
「そうそう」
お互いにその心当たりがあるのか、苦笑いしてしまう。
とりあえず、リアさんは普段メガネをかけていないということが分かったので良しとしよう。これで映画の時のリアさんは見間違いではないと確証が持てた。彼女には彼氏がいるということもハッキリとした。
「さ、そろそろゲーセン行こっか」
「はいっ」
僕たちは、最後に水を一口飲み席を立ち上がった──。
***
「やったーー!!」
いつしかのように、ゲーセン内に大きな歓喜の声があがる。
「セナくんおめでと!上手いね!」
「ありがとうございます!やっと出来た!」
何事かと思うかもしれないが、いつもの音ゲーでバカをしているだけだ。
だがそのバカなこと一つでも、盛大に喜べて、仲のいい人に褒めてもらえて嬉しい気持ちになれる。趣味とは、そういうものだろう。
「っ……や、やめてくださいよ!」
プレイ中の緊張した顔はとうの昔に吹き飛び、ニヤニヤとリザルト画面を見つめていると、唐突にリナさんに頭を撫でられた。
「えへへ〜、可愛いなぁ〜」
「もうっ……」
プンプンと頬を膨らます。
怒ってるふりをしているのは、ただの照れ隠しだ。
彼女のような美人さんに頭を撫でられて、心嬉しくなるのは当たり前だろう。
「ふぅ……ふわあぁ……」
「あれセナくん、もう眠たいの? て、そっか、もうこんな時間なんだね」
リナさんは自分の腕時計を見て「あちゃー、もう10時前か」と呟いていた。
それもそうだろう。夜ご飯を食べてからゲームセンターに来て遊べば遅い時間になるのも致し方ない。
「セナくん10時以降入れないもんね、そろそろ行こうか」
「残念ですけど、そうしましょ」
「あー、早くセナくんが高校卒業したら色んなところに引っ張っていけるのになー」
「あははは……」
そればっかりはどうしようもない……。
だが、高校を卒業した後も一緒に居てくれるということに、密かに喜びを覚えた。
「セナくんあれあれ、見て!」
「七夕祭り……??」
地下鉄の地下通りをリアさんと歩いていると、広告のポスターが貼られていた。そこには大きく『七夕祭り』と書かれている。
もう八月なのに、どこが七夕なのだろうか。
「セナくんって誰かとお祭り行くの……?」
「そんな予定ないですよ、彼女もいませんし」
「そっか……じゃあ私と行かない? 丁度私も相手いなくてさ」
あはは、と苦笑するリアさん。
しかし、相手がいないとはどういうことなのだろうか?
確かにリアさんには彼氏さんが居たはずなんだけど……。
「いいですよ、一緒に行きましょ」
だがまあ、向こうから誘ってきたなら断る理由もない。
むしろ行きたい。美少女と二人で祭りに行くなんて、凡下な僕には願ってもないことだ。
それに……やっぱり……。
「やったー! じゃあ明日よろしくね!」
「こちらこそ」
嬉々たる顔を見せた、笑顔の可愛い彼女は手を振りながら僕の前を去っていった。




