episode1
「なあセナ、お前また女子に告られたんだって? 相変わらずモテモテだな」
学校帰りに下校路。
僕の隣を歩く男子に突拍子もないことを言い出す。
「そんなことないよ。こんなゲームオタクのこと好きになるなんて」
猛暑がふるう夏真っ盛り。
愛知県の都内の公立高校に僕は通っているが、暑さのあまり億劫になる授業も今日で終わり、明日から楽しい夏休みだ。
「でも事実だろ? 今年入ってからセナが告られた回数言ってみろよ」
僕のことをセナと呼ぶ彼は逢坂新太。中学からの付き合いで、高校二年生になった今でも仲良くしている良き友だ。
「まあそうだけどさ……それは秘密で」
そして僕は間宮聖奈。顔が可愛いとよく耳にする、いわゆる僕は童顔らしい。女子からそれが人気で付き纏われることもしばしばある。
その他に特徴をあげるなら……ゲーム大好きなオタクということだけだ。
「ふーん……ま、いいや。ところで今日はゲーセン行くのか? 付き合うぜ」
そしてまた彼もゲームオタクであった。
「ごめん、先約があるんだ。と言っても今日会うのが初めての人なんだけどね」
「ああ、前に言ってたツイッターの人か? 知らず知らずのうちに会ってたっていう」
「うん、その人」
先ほど会うのは初めてと口にしたが、実際にはそうではない。
先日ハイタッチをした時に一度会っているから、回数で言えば二回目だ。それ以前にゲームセンターで見かけたこともあるのだから、それを含めるなら数え切れないほどになる。
「しっかし、世間は狭いもんだよな。いつもツイッターで仲良くしていた音ゲーマーと、まさかゲーセンで会って手を叩き合うなんてな~」
「ほんとね……」
音ゲーマーとは、音楽ゲームをやり込んでいる者の愛称である。
大抵の音ゲーマーはツイッターというSNSツールで、自分の音ゲーアカウントを作っているのだ。
その音ゲーアカウントで親しい間柄にあった人と、ゲームセンターでばったり遭遇してハイタッチまでしてしまったのだから世の中はなかなかに不思議なものだ。
DMという、個人間での会話をするチャット機能でお互いに「知らない人とハイタッチしちゃった!」なんて言い合った時はひどく驚いた。
「じゃあそういうことだから、またね新太」
「おう! 連絡まってる!」
かくして、新太と別れた僕はゲームセンターへと足を運んだ——。
***
「セナくん!!」
大きな呼び声がゲームセンター内に響き渡る。
音楽ゲームが置かれている近くの椅子に座っていると、一人の女性が寄ってきた。
「あ……え、えっと、こんにちはリアさん」
立ち上がり挨拶をする。
……かわいい。
寄ってきた彼女を見て、出てきた心の声はそれだった。
前回見た時は急いで目を逸らしてしまったため、メガネをかけていたことくらいしか記憶になかったが、こうして改めて見ると顔が綺麗に整っているのがわかる。
それだけではなく、全体的に身体は細いのに出るところは出ていて……なんというか、エロい。
胸元が少し空いているTシャツに、短パンといういかにも夏らしい服装だが、一男子高校生としては刺激が強すぎる。有り難い喜悦だ。
「うん、こんにちは。あはは……なんだかセナくんに『リアさん』なんて呼ばれるの慣れないな」
「いつもはPN呼びでしたからね」
どのゲームも等しくPNというものは存在する。
例えばポケOンの主人公の名前だったり、引っ張って飛ばすゲームのプレイヤーの名前だったり。そういうものが音ゲーにも存在しているのだ。
僕はSenaと本名をローマ字に直しただけの簡単なものなので、呼び名は今も昔も変わらないが、リアさんは違う。
先日教えて貰った、保科莉愛という名前から三文字抜き取って作られた『Shiana』というPNだった。
常日頃シアナさんと呼んでいたので、ぎこちなく感じるのも無理はない。
「だね……じゃあ早速やろっか! あ、その前に一緒に自撮りしよ!」
「ええ!? い、いや恥ずかしいので僕はいいです……」
「ほらほら〜そんなこと言わずに!」
腕をぐいっと引っ張られ、ほんの数センチ近付けば頬が触れる距離でリアさんが自撮り用加工アプリで写真を撮る。
引き寄せられた際に胸が当たり、顔が赤くなってしまう。撮った自撮りが、加工されていたおかげで気付かれずに済んだのは幸いだった。
「じゃ、早速マイマイしよっか〜」
「そ、そうですね」
綺麗で、可愛くて、スタイルや愛想もいい。
そんな現役女子大学生の彼女に、僕は夜が暗くなるまでハチャメチャに付き合わされた──。




