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異世界放浪記  作者: まほろば
町にて
7/43

商業ギルドに登録



初めての町は村を3倍にした感じ。

着いたのは遅いし、今日はおじいさんの定宿に私も一晩泊まる事にした。

宿代は素泊まり銀貨2枚。

朝晩の食事付きなら銀貨3枚。

物価が分からないから安いのか高いのかはまだ不明。

お風呂があれば入りたかったけど、無いって言われてがっかりしてしまった。

何処なら有るのか聞こうとしたけど忙しいと教えて貰えなかった。

湯船に浸かりたい。

日本人にこの世界はきついなぁ…。

もっときつかったのは部屋が個室じゃなくて4人部屋だった事。

部屋に入ると窓側のベッド2つに先客が居た。

戻って受付で聞いたら個室は1泊金貨1枚だと言われて泣く泣く諦めた。

もし女性だけで1部屋じゃなかったら無理をしても個室を頼んでたと思う。

これからの旅が急に不安になってしまった。

気を取り直して遅い夕食の後、宿のおじさんにただで貰える町の地図は無いか聞いてみた。

「地図なら冒険者ギルドか商業ギルドに行くと良い」

やっぱりギルドがあるんだ。

明日早速行ってみよう。

「後は大きい町か王都の図書館だな」

「図書館…」

この世界にも図書館があるなんて驚きだった。

「王都まではここから町2つだ」

「町2つ…」

忘れないように口の中で繰り返した。

「次の町まで歩いたら何日掛かりますか?」

おじさんはポカンとした顔で私を見てきて次に大きな声で笑いだした。

「何だ、村から出てきたばかりか」

おじさんは独りで納得して話始めた。

「次の町へは乗り合い馬車が走ってるからそれに乗れば良い」

おじさんは厨房へ戻り掛けて、何かを思い付いたような顔でこっちへ戻って来ると何処に行けば大半の物が揃うか教えてくれた。

「旅をする前に色々買っておけば困らないぞ」

おじさんの『村から出てきたばかり』の言葉が気になったけどそれよりもっと知りたい事があった。

「初級ポーションはどこで売ってますか?」

「隣の薬屋か教会だな。教会は王都にしかないから薬屋にしておけ」

「ありがとうございます」

早速隣の薬屋から初級ポーションを買って、いそいそと部屋に戻った。

旅先と違って、初級ポーションは金貨1枚だった。

部屋へ戻って…あっ、と固まってしまった。

4人部屋だって分かった時に何でこうなるって思い浮かばなかったんだろう…。

自分の馬鹿さ加減に大きなため息が出た。



見られたら危険だって分かっているのに見てみたい誘惑に勝てなくて、2人に背中を向けてベッドに座っから両手で初級ポーションを包むように隠してこっそり見てみた。

予測通り材料が見えた。

本みたいに薬草とは書いてなくて、空気の中の魔力、魔素から造るって読めた。

手の中の初級ポーションのイメージを強く持って、造る所をイメージしてみた。

簡単に出来るはず無い、ってお気楽に思っていたから形にならない何かが突然空間から手の中に飛び出して来たときは叫びそうになった。

心臓が痛いくらいどくどくしてて、気が付けば倉庫にポーションと変な何かを投げ入れて、窓側を振り向いてしまっていた。

窓側の2人にビックリした顔で見返されて、気が付けば部屋から逃げ出して宿の外にいた。

恥ずかしさに顔から火が出そうだった。

入りにくくて暫く前に居たけど部屋に戻らない訳にもいかなくてこそこそと部屋へ戻るしかなかった。

2人には危ない人を見る目で見られたけど言い訳する言葉もなくて早々にベッドへ潜り込んだ。

灯りを落とした真っ暗な部屋の中で眠れないままポーションの造り方を考え続けた。

窓側の2人も今は静かに寝息を立てていた。

絶対じゃないけど造れる気がする。

起き上がったら2人を起こしてしまいそうで、ベッドへ寝たまま手に出てきた何かを倉庫から取り出して確かめてみた。

暗闇に慣れた目に硝子の小瓶が捻れてしまって造り損ねた感じの物が見えた。

歪んだ小瓶は初級ポーションと同じ色をしていた。

これ…ポーションの不作品だ。

ポン、とそんな言葉が頭の中に浮かんできて、何回か試したら造れる気がしてくるから不思議だった。

造るには…誰にも見られない場所が必要だって思った。

高いけど、明日は個室を借りて確かめてみよう。



目が覚めたら部屋は明るかった。

寝すぎた?

窓際のベッドを見たら空になっていた。

ベッドの中で背伸びしてる時に昨夜の記憶が蘇がえる。

手に握っていた不作品を急いで倉庫に投げ込んで絶対今夜初級ポーションを造る!と決めた。

その前にまず地図を何とかしなきゃ。

朝御飯を食べてから宿を引き払った。

町の100件くらいの家のうち、10件は宿屋で10件は色んなお店屋さん。

残りは普通に民家に見えた。

掛かってる看板を見ても読めなくて、何とか書かれてる絵で何屋さんか区別する感じだった。

宿のおじさんに教えられた通り歩くと、町のメイン通りに2つのギルドが道を挟んで建ってた。

冒険者ギルドに商業ギルド。

どっちに入ろう。

野営地の冒険者の印象が悪かったから、気持ち冒険者ギルドに傾いてた気持ちがリセットされている。

だから両方の建物を見て、直感で決めようとか安直に考えてたのに、どっちを見てもピンとこなかった。

「…困ったな」

どっちに入るかでこの先が変わるはず。

この世界に来るまでやってた事務系なら商業ギルド。

冒険者になるなら冒険者ギルドだと思う。

両方は無理だと思うから、ここで決めないと。

迷いに迷ってて、閃いたのは初級ポーションを売るなら商業ギルドのはず、って事で、商業ギルドにした。



気を引き閉めて商業ギルドの大きな扉を押した。

入って直ぐにメモとペンを持った人が立っていた。

聞こえてくる会話からすると、来た人の用事を聞いているらしい。

聞き終えたら何処に行けって指差していた。

並んでる人は頭の良さそうな人ばかりの感じ。

これって…、場違いかも。

着たばかりなのに逃げ出したくなった。

「はい、次の方」

迷ってるうちに私の後ろにも人が並んでしまって、結果前へ前へと押されてしまう。

「ご用件は」

子供にも見下さず聞いてくれる態度から、相手に職業意識の高さを感じた。

「地図を、後仕事の斡旋を」

「君が仕事?」

事務的な人の顔が少し変わった。

見た感じ30才くらい?

「はい」

「何が出来る?計算は?」

「出来ます」

ペンを振りながら足し算、引き算、かけ算、わり算と簡単な問題を出してくる。

小学生と間違われてる気がして凄くムカついた。

だけど、根っからの小心者だから、言い返せない。

ムカつきながらも、答えてしまう自分が情けなかった。

「家が商いをしてたのか?」

「今までは他で」

話が噛み合わない。

窮地で手のひらが嫌な汗をかいてる。

入社試験の時と同じで、心臓がバクバクしてきて、逃げ出したい。

思っても実行できないのは自分が1番知ってた。

「ん?この町では見たこと無い顔だな」

今頃言うか。

おじさん、いや、おじさんは可哀想だから今は青年にしておこう。

「見た感じだと15になったから家を出されたか?」

「はい」

何故15なのかは聞けなかったけど、助け船だから素直に頷いて見せた。

「そうか。成人したら家を出るのは当然だ」

青年はそう言って並ぶ場所を教えてくれた。



指示された場所に並んで、青年の話を思い出した。

成人が15?

不思議と驚きは少なかった。

昔、生活水準と知識は正比例するって言ってる先生がいて、その時は意味が分からなかったけど社会に出て分かった気がしてる。

順番が来て、働きたいと言ったらつっけんどんに商業ギルドへの登録用紙を渡してきた。

さっきの青年と同じくらいなのに、対応が違いすぎ。

「あの、地図は?」

「登録の時で十分」

感じ悪。

横にずれて用紙の欄を埋めていく。

【名前】ユキ

雪もゆきも書けなくて、書けたのがカタカナ。

【年齢】………

いくつか分からない。

困っていたら急かされた。

「嘘書いたら分かるからね」

頭にきすぎて言い返す言葉も口から出なかった。

「あー、焦れったいな。貸して」

窓口の青年は私が書いてる途中の用紙を取り上げて、黒くて薄くて四角い板を突き出してきた。

あ、これもしかして。

「これに手を広げて付けて。後がつかえてるんださっさとやれ」

横暴な言い方に泣きそうになった。

「あーだから子供はやなんだよ。少し言えば泣くし」

こんな事言われるなら冒険者ギルドに登録しよう、と出口へ向きを変えた。

そうしたら入口の青年が走ってきて引き留めてきた。

「どうした」

半分泣いてたから言えなくてただ窓口の人を見た。

「おい、この子に何を言った」

「何も言わないさ」

窓口の青年がムッとして言い返す。

「なら何で泣いてるんだ」

「俺が知るかよ」

「この子は計算が出来る。伯爵家の依頼に無くてはならない人材なんだぞ」

「え?あ」

きつく言う青年と窓口の青年が少しの間睨み合った。

「速く来い」

不利を悟った窓口の青年が私を呼ぶから、ブンブン顔を振って出口へ急ごうとした。

この時には、こんな職員がいる商業ギルドに登録する気持ちも消えていた。

「…しない。怒られてまで仕事なんかしない!」

「ちょっと待ってくれ」

青年の手から逃げて出口へ向かった。





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