アラキまでの話・その3
オウム返しに聞いた。
「まず3年だな。長いところは5年先払いだがアラキじゃな」
冒険者が舌打ちした。
「3年?5年?…無理です」
「何が無理だ、お前も殴られてぇかっ」
冒険者が殴る真似をするから思わず顔を庇ってヨハン伯爵の名前を出した。
「アクアビットのヨハン伯爵だとっ!嘘付くんじゃねぇぞっ」
「本当です。私が戻らなかったら商業ギルドへ連絡が来ます」
「嘘付くなっ」
冒険者は怒鳴りながらも目が泳いでいた。
「伯爵に雇われてるなら何でこんな何処に居るんだ」
「母が具合悪くて、休暇を貰って家へ帰る途中でした」
「そんな簡単に伯爵の所で休みが取れるわけねぇ」
冒険者が顔をひきつらせているのが分かって、言うのは今だと必死になった。
「収穫の帳簿付けが終わったので半年なら給金は出さないが戻って良いと旦那様に言われて、信じてないなら商業ギルドで確かめて下さい」
商業ギルドの名前で冒険者がぎょっとなった。
「伯爵様の使用人を売ったらどうなるだろうね」
前の女性がニヤニヤして冒険者に言った。
その口調がベルに似ていて凄く嫌だった。
「うちら売ったら有ること無いこと言いふらしてやるからね」
女性は『困るだろ』と意地の悪い笑い顔を冒険者へ向けた。
「さっきの金の半分寄越しなよ。そうしたら黙っててやるよ」
「それじゃ俺たちの方が少なくなるだろ。3等分にしようぜ」
男女2人は好き勝手に言った。
冒険者が剣に手を掛けてるのを見て、私は急いで後ろに離れた。
「…言ってくれるじゃねぇか」
冒険者の声が低くて、私はそれ以上動けなかった。
冒険者が本気で怒ってるのが背中から伝わってきて嫌な予感に手のひらが汗ばむ。
「ばらされても良いんだ」
空気を読めない女性は見下してる顔を冒険者に向けた。
「喋れる口があればな」
冒険者が剣を抜いたのと女性が悲鳴を上げて逃げたのがモノクロ映画みたいに見えた。
「きゃあー、助けてっ」
女性は走って男性の後ろに逃げる。
女性の手が男性の背中を押してるのが見えて思わず息を飲んだ。
「しまえよ。冗談だから、ホントに冗談だから」
女性に背中を突かれた男性はつんのめるように1歩前へ出て慌てた顔で1歩後ろへ飛びすさった。
その滑稽な動作に笑いそうになる。
こんな時、きっと私も同じ動作をすると思う。
分かってるのに実際見るとやはり可笑しかった。
冒険者が剣を振り回しながら2人に近付くと2人は冒険者とその手の剣を交互に見ながらビクビクと体を後ろに引いていた。
「逃げてみろよ。抵抗しない奴を切り殺すのは面白味が無いからな。楽しませてくれ」
冒険者は剣を肩に担いで目を細める。
…楽しんでる。
冒険者は殺人を楽しんでるんだ…、と思ったら私の胸に理由の説明できない『怒り』が生まれた。
「あ…あたしたち殺してもお金にならないよ」
女性が男性を盾にしながら冒険者に言った。
「金はたんまりここにある」
冒険者は腰に付けてるおじさんの袋を上から叩いてからニヤリと女性を見返した。
じりじりと冒険者が2人との距離を詰めていく。
私は…その場に力尽きたようにへたり込んだ。
好戦的な冒険者はチラッとしゃがみ込んでる私を見て、直ぐに2人へと視線を戻した。
女性はすがるように男性を見たのに、男性はあからさまに顔を背けた。
それを見て、女性は決心したように冒険者の方を向いた。
「なら、ならあんたの女になるよ。それなら殺さないよね」
「お前何言ってるんだよっ!」
男性は背中の女性を振り向くと、怒りに任せて冒険者の前へと押し出した。
「何するのよっ!あんたが庇ってくれないからじゃん」
「話を大きくしてるのはお前の余計な口だろっ」
「女1人も庇えないのかよっ、ひっ…」
身勝手な女性の顔の近くで剣が空気を切った。
「いい加減にしろっ!そんなに男の相手がしたいならお前は娼館に売ってやる」
「売ったら喋るからっ」
「じゃあここで死ぬんだな」
何回ループすれば気が済むんだろう。
デジャブな会話をぼんやり聞いていたら、遠くから馬車の音が聞こえてきた。
最初錯覚?って思った。
遠くに数台の馬車が見えて来て、やっと『助かる』って希望が沸いた。
来た方向からアラキからの馬車に思えた。
「おい、馬車が来るぞっ」
3人の中で最初に馬車に気付いたのは男性だった。
「えっ!どこ!何処に馬車っ!」
女性は甲高い声で男性を見てから周りに目を向けた。
「おーい、おーい、此処だぁー」
男性は大きく手を振りながら馬車に向かって走り出した。
「ふん、あんたを泥棒で訴えてやるんだから。汚ならしい冒険者とあたしらのどっちを馬車の乗客が信じるか、分かるよね。うちらの金を独り占めした罰だよ」
女性は憎らしそうに冒険者に言うと男性を追い掛けて走り出した。
そのあとは悪夢のようだった。
「お前だけは絶対許さねぇぞっ」
冒険者は1回大きく剣を振り回した後驚く速さで女性の後を追って走り出した。
女性に追い付いたと思ったら、冒険者はグンと剣を振り上げる。
背中から切られた反動で女性の体が前に飛んだ。
信じられない、って書かれた女性の顔が後ろを向いて、そこに冒険者を見た時の顔は…。
とても見られなくて顔を背けた。
それでも断末魔の絶叫は聞こえてきて、両耳を手で塞いでその場に蹲った。
「人殺しー」
男性の叫ぶ声が微かに聞こえて…直ぐに聞こえなくなった。
冒険者は?
こっちへ戻って来たら殺されるっ!
咄嗟に顔を上げて冒険者を探した。
…冒険者は男性を追ってかなり向こうに行っていた。
遠目でも男性の服が赤いのが分かって、その手前に動かなくなった女性がいた。
見開いてる女性の目と視線が会って…もう駄目だった。
朝から何も食べてないのに込み上げてきて…泣きながら吐いた。
吐きたくても胃液しか出なくて、泣きながら吐いてた。
「大丈夫か?」
泣き疲れてボーッとしてて、前から30くらいの男性が近付いて来るのをテレビのワンシーンにこんなのあったな…とか思って見ていた。
男性は私の前に膝を付くと緩く肩を掴んで揺すってきた。
「怪我は…無いようだな。すまないが話の顛末を知ってるなら教えてくれ」
「…てん…まつ」
ベールを外すみたいに記憶がはっきりしてきて、吐き気が甦った。
「あの3人は…」
どうなったのか聞こうとして…ハッとして女性のいた方を見てしまった。
私の視線が何を探しているのか察したらしく、男性は体をずらして布を掛けられた膨らみを見せてくれた。
「見付けた時はもう死んでいたよ」
「ぼ、冒険者は」
先が言えなくて、怖くて後ろへずり下がろうとしてよろけてしまった。
「冒険者は襲ってきたから反撃させて貰った」
「もう…もう、もういない?」
ガチガチ震えながら聞いたら、おまけみたいに男性も助からなかった、と教えられた。
いない、居ない、居ない。
気持ちが理解するまで何回も何回も自分に言い聞かせ、魔物の襲撃からを震えながら話した。
話を聞き終えた後、男性はアラキからの馬車を警護する冒険者パーティーのリーダーだと名乗った。
折角記憶から追い出せていたのに、また今夜から悪夢にうなされる恐怖に脅えるしかない。
「…やっと忘れ掛けていたのに…」
王都アラックへ向かう予定だった馬車は予定を変えて魔物に襲われた場所を確認してからアラキへ戻る事になった。
助けてくれた冒険者の話だと、半日近く歩いたのに明け方襲われた場所と助けられた場所はそんなに離れてないそうだ。
もしアラキに向かって歩いてなかったら冒険者から助けられる幸運も無かった、と思うとゾッとした。
馬車は襲われる危険を考えてかなり戻った場所をその日の夜営地に決めた。
「死んだ冒険者の持ち金だが俺たちが8割、君が2割で良いか」
「…え?私にも?…」
「君は証言者だからね」
私はアラキの冒険者ギルドで証言者として訊問されるらしい。
「あった事をそのまま話せば良いからね」
襲われた現場を見てきているので冒険者たちも証言するけどメインは私だとリーダーに言われた。
起きた事が衝撃的すぎて自分の言動が子供になってる事にその時は気付いてなかった。
「その場に居合わせて生き残っているのは君だけだから、魔物が襲ってきた時の事をなるべく細かく冒険者ギルドで話して欲しい」
「…はい」
頷きながら遺体はどうするのか気になった。
「あの…亡くなった方たちの遺体は…」
襲われた場所に置き去りだったから緊張しながらも聞いてみた。
「死んだのが貴族や金持ちなら遺体を取りに行って葬儀をするが平民なら自然に任せる」
「町に運ばないんですか?」
前回の後ろ3台に遺体や怪我人を乗せた記憶が残っているからリーダーの言葉に言葉が続かなかった。
簡単な夕食の後リーダーはパーティーメンバーと4人の御者と私を集めて死んだ冒険者が持っていた硬貨を分配した。
私は2割の大金貨51枚と数枚の金貨と銀貨を手渡された。
残りをパーティーで分ける前にリーダーが御者に大金貨4枚を渡したので私も大金貨4枚を渡そうとしたら細かい金貨と銀貨で十分と言って手早く渡してくれた。
違う話を書き始めると思います
婚約破棄物になるのかな?
私の中では違うんですが
お読みくださる方の感想は
長編の破棄話に落ち着く気がしてます
(^∀^;)
また少し
更新途絶えるかもです
バルサムまででもまだ10話ほどあるので
少しずつ載せていきたいと思っています
ぬるい目でお読みくだされば幸いです
m(_ _)m




