終わらない言い合い
アランの無神経さに驚きより怒りを覚える。
おばさんの私でさえ『女を買いに行った』とか聞かされるのは嫌だから少女は何倍も嫌だろう。
無神経なアランは気付きもしないでベルを睨んでいた。
「あの…どうぞ」
少女が小さい声でソファーを薦めてくれた。
アランはベルを見てて何も言わないから薦められるまま少女の隣に座らせて貰う。
「お前、初級ポーションを売りに行ったんだってな」
ベルを睨み付けていたアランが目を細めてベルに言った。
「え?」
ベルの顔が一瞬だけ焦りで歪んだ。
本当に売ったんだ。
ベルの表情を見て確信してしまった。
おじさんに口止めしたからバレないと思っていた顔だった。
「頼まれたんだよ。その子にね」
素早く動揺から立ち直ったベルは私を指差してきた。
私?
驚いたのが顔に出てたと思う。
「何時代金を渡す約束だったんだ?お前この子が何処に居るのか知ってたのか?」
「此処に取りに来る約束だったんだよ。だから住所を書いたメモ渡しただろ」
「本当だろうな」
「本当だよ。あたしを信じられないのかい」
強気に言い返すベルにアランは迷う視線を向けていた。
「アランは騙されたんだよ。子供に見えるけどその子意外とずる賢いからね」
あまりの言い方に言い返したいのに口がパクパク動くだけで声にならない。
アランは半信半疑の顔で私とベルを交互に見て、最後にアランをすがる目で見ている少女を見た。
迷っているのがその様子から見て取れたけど濡れ衣を着せられたら堪らない、言い返そうと身構えたらアランが先にベルに言った。
「なら代金を払ってやれ。最後の1つは服屋の息子だと分かったから後で回収に行く。俺に信用させたいなら初級ポーション9個分の代金を払ってやるんだな」
「なんだ1つは服屋の息子だったのか。あたしが行ってくるよ。まとめて貰った方がこの子も助かるだろ。な?そうだよな」
ベルの威圧感に押されて頷きそうになった。
ベルが不利な状況を誤魔化そうとしてるのが分かってるのに嫌だと言えなくて、ベルを睨んでたらアランが怒った声を出した。
「今持ってこいっ!送りがてら最後の1個の代金も俺が回収して渡す」
アランがベルを睨みながら言うとベルの目が泳いでそっぽを向いた。
ベルを睨み付けるアランの顔がみるみる怒りで変形する。
「使い込んだのか」
部屋の空気が重くて息苦しい。
「違うよ。ちょっと貸しただけだよっ!」
ベルが叫ぶように言った。
「お前が貸すだと。金使いの荒いお前が?誰に貸したか言えるなら言ってみろ」
アランの声がもっと低くなって、本気で怒っているのが分かった。
口ごもるベルにアランが怒りに任せて追い討ちを掛ける。
「マリアがダンジョンで怪我したのもお前がわざとマリアの前を離れたからだっ!ボスが俺の盾になってる時を狙ったよな。もしマリアが死んでたら俺はお前を許さなかった」
アランの迫力の声は部屋の空気を震わせるほど大きくて、本気なんだと伝わって来た。
アランの言葉が火に油を注いだのか握った拳を上下に振り回しながらベルが叫ぶ。
「どうしてマリアを庇うのよっ!ずっと3人でやってきたんだよ、ボスだって私とアランが結婚するの祝福してるのに裏切るのっ!」
ベルの憎しみに満ちた目が私の横の少女に突き刺さった。
きっとこの少女がマリアだ。
話が段々初級ポーションから離れて行くのに口を挟める空気じゃななくなった。
「お前、ボスがお前を好きなのを逆手に取ったんだろ。ボスが女遊びを始めたのはその後からだからな」
度々名前が出てくるボスも横のマリアもアランたちのパーティーの一員なんだ。
ベルへの嫌悪感を隠さないアランにベルが言い返した。
最後の方はマリアに向けた言葉だった。
「酷いっ、私はあんたを好きなのにっ!好きだから他からの誘いをみんな断ってきたのにっ!マリアが来てからあんた変わったよ。回復しか出来ない役立たずなんてパーティーにいらないんだよっ!」
「いらないのはお前の方だ。無駄にあちこちでトラブル起こしやがって、尻拭いする俺やボスの身にもなれ。ボスが庇うから今まで黙っていたがもう限界だ!今すぐ家から出ていけっ!」
話がベビーで付いていけない。
怒鳴り合う2人の声で鼓膜がおかしくなりそうだった。
横を見るとマリアは顔を両手で隠して前屈みになっている。
肩が震えてるから泣いてるのかも。
背中を擦ってあげたいけど初対面でそんな親しい事はしにくくて、見ているしか出来なかった。
それに…ベルの叫んだ『役立たず』が耳に残ってて1分でも早くここから立ち去りたかった。
立ち上がろうとして、玄関のドアが開く音がした。
アランもベルもピタッと黙って玄関の方へと顔を向けている。
私も緊張して同じ方向を見た。
ドカドカと入ってきたのは大男だった。
部屋へ入る時も屈んで上を見ながらなのがとても可愛く思えて、無意識に笑っていた。
「何だ?不穏な空気だな」
大男は呑気な顔でアランとベルを見ると言った。
この人が2人から名前が出てたボス?
アランが怒りを隠さずギルドからを話すとベルは違う、違うと涙目で訴える。
「その子がポーションの子か?」
大男はベルに頷いた後私を見てアランに聞いていた。
「ボス。あんたなら分かってくれるよね」
ベルは大男の元へ走って行ってがっしりして大木みたいな胴へしがみついた。
「あんたは私の味方だよね」
話に出てた『ボス』は彼で正解らしい。
私はボーっとボスを見ていた。
こんな大きな人がダンジョンへ?
ダンジョンって暗くて狭い洞窟のイメージだったけど違うの?
本でもそんな書き方の気がした。
天井の高い洞窟?
彼が入れるダンジョンを想像してたらピラミッドの中の迷路が思い浮かんできた。
「あんたは私の味方だよね」
ボスを揺さぶるベルの表情には焦りが見えた。
ベルはボスを見上げながら必死に同じ言葉を繰り返していてボスが頷くまで言い続けそうな勢いだった。
「ああ」
ボスはなだめるようにベルの背中を擦って頷いた。
ベルはそれを聞いて決め付けるようにアランに言った。
「ほら見なさいよっ!私がこのパーティー抜けたらボスも抜けるよ。そうしたくないならマリアを追い出してっ!」
ベルの顔は勝ちを確信していてアランは苦い顔をしていた。
私には良く分からないけど、ボスはパーティーに無くてはならない存在らしかった。
勝負はあった気がする。
凄く後味が悪いけどこれがこの世界の現実なんだ。
「俺はベルの味方だがこのパーティーを抜ける気はないぞ」
「ボスっ!」
ベルが叫んでボスの胴をぐらぐら揺らした。
「私のお願い聞いてくれないのっ」
「聞けない事も有るだろ。俺とアランは親友だ。ベルもそれは分かってるはずだろ」
「分かってるけど私はアランを困らせたいのっ!」
ベルはボスを揺すって我儘な願いを口にした。
「私に逆らえばパーティーが困るってアランに思い知らせたいの。マリアが入る前はあんなに仲良かったのに、マリアがぶち壊したのよ!」
ベルが怒りに任せて叫んだ。
身勝手な言い分にげんなりする。
大金貨1枚損してももううんざりだった。
立ち上がってドアに向かう。
アランもベルも止めないのにボスが止めた。
「おい、金貰ってないんだろ?」
笑顔のボスを見上げてはっきり言った。
「もうたくさん。アランさんもベルさんも身勝手な言い合い繰り返して、聞いているマリアさんの気持ちを考えようとは思わないの」
「被害者は私の方よ。マリアにパーティーをめちゃめちゃにされたのよっ!」
ベルが叫んでボスにすがり付いた。
「パーティーって仲間でしょ?それなのにけなしあって。私には理解できない」
「自分に仲間居ないからってひがまないでよ」
「なっ…」
何て言い種だろう、と思いながらそれが本当の事なんだ、って痛感してしまった。
この世界に心を許せる人はまだ居ない。
自分が馴染めなくて疎外感を感じてるのも本当だ。
事実をベルに指摘されると他の人に言われるより苛立たしいのは何故なんだろう。
「本当の事言われたからって睨まないでよ。あんたの家族にあんたはいらない子なんだよ。だから家から追い出されたんだろ。そんなあんたがあたしに意見すんな」
ベルは意地悪く笑って私を見てた。
言い返したくてもベルの悪意に傷付いてる自分が此処にいて、もうこの世界に居たくないと本気で思ってしまった。
言い返す気力も失せて、早くこの町を離れたかった。
明日この町を離れよう。
そう心に決めて出口に向かった。
「待てよ」
部屋の入口を塞いでいるボスの横をすり抜けようとしたら袖が破れてる方の二の腕をボスが掴んできた。
「いっ、つ」
ベルに抱き付かれてるから向き的にこっちしか掴めないのは分かるけど痛くて熱を持ってる所を掴まれて思わず声を上げてしまった。
急いで離すボスを睨んで出口へ向かう。
頭の中でポーションを飲めば治るかな、と思っていた。
「冒険者ギルドでベルが掴み掛かったんだ。多分その時痛めたんだろう」
アランが無駄な説明をしてる間にベルを胴に貼り付けたボスが私の前に立った。




