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ロボット、死ぬ?

作者: 賽の目コロ助

短編が好きです。

長いのは下手です。すいません。

「ロボット、死ぬ?」

  【死後の世界を創造する】

報告書〈ロボットのお葬式に参加してみた。〉


彼女は今まさにその小さな体躯をピタリと収まる棺の中に横たえていました。

その周りを黄色も赤も橙も大きいも小さいも長いも短いも多種多様ですが同じ物が二つとないようにちりばめられた華が飾り、彼女の体とともに大きなパネルをかこんでいました。

パネルには生前の彼女の姿と老若男女無数の人々の笑顔が映し出され彼女が如何に愛されていたかを伺わせます。

霊前には祭壇と対照的に白と黒のツートンでまとめられた人々が私を含めて彼女が死ぬ瞬間を固唾をのんで見守っていました。

もちろん私に固唾なんて物が有ればの話ですが。


初めまして。

私は公称年齢8歳の少女型人機融合生命体です。

パパに付けて貰った名前「エル」と名乗っています。

人機融合生命体とは簡単に言うと人間と機械のハーフで、全世界で数百体が稼働中ですが、世間的には公表されていません。

パパが言うには、私のような極端に人間とそっくりな融合体はまだまだ一般的ではないので不安を与える事無くその存在を流布したい考えのようです。

見た目は8歳ですが、起動後三年十ヶ月二十二日およそ8万5千149時間経過して以後継続中です。

マイブームは紙媒体のインストール。

非効率的な情報収集を楽しめるし、人間らしいとは何かを同時に学べるからです。

ちなにみですが、「ロボット」という単語は現在の社会においては差別用語ですので使用は制限しますがロボットそのものを表すと判断した場合はこの限りでは有りません。

本来ならこのような外部記憶の記録を残す場合は暗号化,簡素化して要点のみを記録しておくのが通常です。しかし、この間インストールした紙媒体の中に「をとこもすといふ日記といふ物ををむなもして心みてとてするなり」という文章を見つけました。

曰く、男の書く日記という物を女も書いてみようかという事です。

世間の常識として、男は読み書きを漢文で行い、女はかなでそれを行う。

男は日記を書くが女は書かない。そして漢文では表現が硬すぎて今の自分の心のひだ絨毛までもは表現できないからこうしましたという世間の当然ではなく自分の当然に従った結果、取った手法ではないかと言われています。

私としてはそこよりもこの作者とおぼしき人物は実は男性で、女性のふりをしてこの文章を書いているという点が興味深すぎてツボでした。

常識の流れに逆行している行為を、隠れ蓑を身につけて行う事はそれを黙認できるような社会でもなかったし、その事を平気で公にできるような自己顕示欲の強い作者でもなかったことが推測できます。

大昔からネカマっていたんだというのが正直な所。

前置きは長くなりましたが、この故事とも最新とも言える人間らしさの行為にのっとり人間の書く日記というものを人機融合生命体である私も書いてみようと思ったワケなのです。

この事をお父さんに話したら私を抱きしめて喜んでくれました。難しい事はわかりませんが、というか考えられないように制限されていますのですが、融合体が人類の模倣を自律行動でどうのこうのと騒いでいました。

先ほど日記と表現しましたがあれはウソです。いや、表現を打ち消したのでウソでは有りませんが、単に報告書をテキストで残してみたというだけの事です。

もちろん動画と音声も貼付してありますので、後から誰が見ても理解できると思います。


とりも直さず私を含めた機械生命体は人間により近づく事を理想としています。それは私たちが人間と生活空間を共にしていて、その環境を変える事無く寄り添う為に必要だからに他なりません。

姿形は言うに及ばず、会話やその反応、しゃべり方、感触など人間のそれに近ければ近いほど友人として仲間として認められ易いのです。

事実、私が融合体だと知っているにも関わらずお父さんの仕事仲間は私に接するときには人間の少女に対する扱いとなんら遜色無い接し方をします。

ではその理想の究極とはなんでしょうか?

一つには自然発生的に命が生まれ、やがて復活の無い死が訪れる、有限な命を獲得する事により初めて一種族、一生命体だと認められ人間と平等になれるのだとこの間インストールした紙媒体に載ってました。

誕生に関しては残念ながら生命としては認められてはいません。

私自身が動いて考えてしゃべっている事が生きている事の証明になるのではとも思いますが、あくまで人の手で作られた存在という位置づけらしいのです。

私に言わせれば人間が子供を作るのと何が違うのかと思いますが。

一方、復活の無い死については私たちの動力源である電気融合炉が完全に止まってしまえば死んだと解釈できなくないのです。ですがそのような事態、普通はあり得ません。私たちは一年に一度、電気融合炉のメンテナンスを義務づけられていますし、事件や事故で破壊されるような作りでもありません。万が一、電気融合炉が止まってしまった場合にはメモリーを保護する目的で情報の整理移動が行われ、その後に再起動が起こりますし、よしんば再起動できなかったとしてもメモリーチップを移植すれば復活できるのです。

しかしこのメモリーチップの移植には[電気融合炉が再起動できなかった場合]

という条件が付帯します。

条件を満たさずにメモリーを取り出そうとすると情報保護の観点から記憶が消去され、二度と復活はなりません。

整理します。

・普通なら電気融合炉が止まる事は無い。

・もし電気融合炉が止まったら通常はメモリー保護時間経過後に再起動が

起きる。

・もし何かの理由で再起動が起きなかった場合は復活の無い死が訪れる。


眼前に横たわる彼女が今まさに死を手に入れようとしているのです。


彼女は、長年に渡ってある富豪の持ち物でした。

色とりどりの華に埋め尽くされた会場のパネルから彼女がその富豪にとってどんなに大事な存在であったかが伝わってきます。

一つのパネルには地域の祭りに参加したときの記念でしょうか派手な衣装に身を包んだ彼女が富豪とおぼしき法被姿の男性と誇らしげに写っていましたし。

また違うパネルには客と歓談する男性の側にひっそりと寄り添う彼女の姿が写し出されていて、彼女のまた男性を大切に思っていたのだと分かります。

また違うパネルには彼女が書いたという書が飾ってありました。

私のような最新とも言える機体で専用のソフトをインストールしたとしても毛筆を行う事は容易ではありません。私よりも何倍も長い稼働時間を経ている彼女が相当高い技術を持っている事は明白です。

そんな2人の関係は数日前に男性の死を以て終わりを迎えました。

男性は周りの人に自分の娘だと言って憚らない彼女と分かれるのはつらいが、自分が死んだ後、彼女の事をどうするのかを弁護士と相談していたそうです。そんな彼女は男性が亡くなった次の日の朝、その後を追うように動かなくなっていたそうです。

各メディアはそんな2人の事を連日センセーショナルに、虚実入れ混ぜながらおもしろおかしく報じました。

主人が道連れにロボットを殺したのか?

いや完全にロボットの後追い自殺だ。

そもそもロボットは自分を含めて誰も殺せないはずではないのか。

はじめからロボットに死など無かった。

なぜ毎年のメンテナンスを受けていなかったのか?

再起動後に真実は語られるのか?

富豪の財産の一部をロボットに?法的可能性は?

……………

そして今、もうすぐ再起動が起きる時刻か訪れようとしています。

このことは単に彼女が死ぬのかどうかという事だけではなく、この先機械が死を得て生命として認めれられる第一歩になる可能性があると言う事なのです。

この時、私の体の中ではセシウム133の電磁波周期のおよそ九億倍の時間が正確無比に刻む一秒が流れているはずでしたが、今までの稼働時間のどの瞬間によりも長く長く感じられました。この事を後でお父さんに話してみよう、そしたらまた抱きしめて喜んでもらえるかもしれない。


彼女の小さな体はその時がすぎても何の変化も起こさず棺の中で横たわり続けていました。人々の間からはさざ波が起こるようにざわざわと動揺とも困惑ともとれる音が立ち始めました。

やがて壇上に弁護士と名乗る男が上がり、おもむろに彼女の体を棺から持ち上げると背中にある丸い穴に耳のような形をしたねじを差し込みキリキリと音を立ててまわし始めた。

彼女の30cmにも満たない体は床に置かれると同時に軽く頭を動かして会釈し、するすると壇上の袖へと消え去ってしまった。

「お集りの皆様、彼女はこれから持ち主の遺言により葬式を執り行った後に絡繰り人形資料館に寄贈されます。」

弁護士の男は厳かに文章を読み上げた。

しかし、そこに居た誰もが事態を飲み込めずに首を傾げ、どういう事なのかを周りの人々と確かめ合っていた。

「結局のところ、彼女は死ななかったという事か?」

一人の弔問客が声を張り上げ壇上の弁護士に問いを投げかける。

弁護士は遺言書を見られる紙をバサバサとめくり、イライラとした口調で答えた。

「ですから!彼女は死んでなんかいません!そもそも…」

弁護士の答えにわっと大きな歓声が上がり、人々の拍手が会場に一斉に鳴り響いた。その大歓声、大喝采に、そもそもこの人形は生きてさえいないという弁護士の言葉は霧散し誰の耳にも入る事は無かった。

結局、彼女は死を得る事は出来ませんでした。

        以上、報告終わり。


私はその後、科学庁融合体研究所に帰り所長であるパパに報告書を提出しました。

「お帰りエル。喪服もとても似合っていてかわいいよ。」

パパはいつものように私を持ち上げてギュッと抱きしめた。

「ロボットが死ぬかもってウソ情報をマスコミに流したのはパパでしょう?

今日来てた人たちは誰一人として彼女が人形だと疑いもしてなかったわ。」

「人間は一方向からしか物事を見ようとしないからね。一面しか見せないように演出する事でただの人形も生きているロボットに見えてくるものなのさ。」

「そして死があるなら命を持っている、即ち生きている証明になる…ということね。パパ性格わるーい。悪党ね!悪党だわ!」

「人聞きが悪いなあ。私はただエル達がより人間らしくなって欲しいなと思っただけだよ。例えばエルが私の娘だと紹介してもおかしくないぐらいにね。」

パパは笑顔で答えた。

「そういえばこの間インストールした紙媒体の中に死んだ実の息子の代わりにロボットを作った科学者の話があったけど、私は実の娘の代わりじゃないよね?」

パパは苦笑いだけで答えなかった。

このオチがわかるかどうかは

ある年齢で分かれそうですね。

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