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illusion  作者: 海東翼
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第6話『告白の答えはゲームの後で』



 つ、ついに決行するのよね……私。そうよね……決めたものね……。

 でも……フラれたらって考えると……すごく怖い……。

 ファ、ファイトよ……なつこ!


「あ、あの……! と、とりあえずパッキーゲームしない!?」

「なんでまたパッキーゲーム……?」


 うっ……全く乗り気じゃない様子ね……。


「じゃあ……ツイスターとか、どう?」

「一人ずつやるの?」

「えっ……?」

「あれってルーレットを回す役が必要だから、一人ずつしかできないよ?」


 しまった……! 物はあるけど私、いまいちルール知らなかったわ!


「じゃあえっと……ど、どうしましょう……?」

「……どうしたの? この間に引き続き、また様子おかしいけど」


 うう……何やってるのよ私……。もっと自然な流れで告白すればいいじゃない……。

 いつも通りいつも通り……平常運転よ……。







 なつこちゃんはまた何かサプライズの用意でもしているのだろうか。明らかに様子がおかしい。

 親子揃って正直者だから、隠し事していたらすぐにわかるんだよね……。


「あの……さ、最近、壁ドンとか言うものが流行ってるらしいじゃない?」

「最近でもないけどね……」


 ブームが起きたのは数年前だ。


「やって見せてよ」

「えっ……」


 まさかの、僕の方から行うパターンか……。まあ、こういうのは男の方からやるものだから仕方ないけど。


「僕、やったことないからね。変に期待しないでよ?」

「え……ええ。問題ないわ」


 何が問題ないのかはわからないけど、とりあえずなつこちゃんを壁の前に立たせる。


「……行くよ?」


 僕が訊くと、なつこちゃんはこくりと頷いた。

 ――ドンッ

 ……う……初めてやったから、ちょっと気合入れすぎて手首痛い。


「君……僕の女になりなよ」


 以前ドラマの主人公が『お前、俺の女になれよ』って言っているのを見たことがあるので、それと同じようなことを言ってみた。


「わ、わたしがですかっ……!?」


 なんかめちゃくちゃ狼狽えている。

 ちょっとイタズラ心が湧いてきた。……よし。

 ――クイッ

 なつこちゃんの顎を手でクイッと引く。


「にゃ……にゃぁぁ……」


 なつこちゃんは今まで見た中で一番顔を真っ赤にしている。

 しかも恥ずかしがりすぎて猫の鳴き声みたいなものを発してる。


「なんちゃってね……ははは……」


 僕も恥ずかしくなってきたので、すぐさまなつこちゃんから離れる。


「……ご、五郎……」


 なつこちゃんは、絞り出したような小さな声で僕の名前を呼んだ。


「何……?」

「好き……」


 言われた瞬間、まるで時が止まったような感覚に包まれる。


「え……」

「わ、私……アンタのことが……す、好きなのよ……」


 どういうことだ? 僕は今、どういう状況に置かれているんだ? っていうか僕らは今、何をしていたんだっけ……?

 ――ダメだ……頭の中が真っ白だ。


「どうして……」


 やっとのことで出したのはそんな言葉だった。


「本当はもっとアッサリ言おうと思ってたのだけど……思っていたよりも恥ずかしいのね、告白って……」

「なつこちゃん、本気で言っているの……?」

「……ええ、本気よ。で……その……私と、つ、付き合ってくれる……?」


 なつこちゃんが本当に真面目に言っているのだとしたら、僕も真面目に答えなくてはいけない。

 ――それがどんな答えだろうと。


「あ……でも、すぐに答えなくても……」

「――ごめん」


 僕はなつこちゃんの言葉を遮って、返答した。


「な、なんで謝るのよ……」

「僕も……君のこと、好きだよ」

「!! そ、それなら、なんで……!」

「……僕には君のこと、背負いきれないんだ」


 僕は、気づいていたのかもしれない。……いつかこうなるって。

 なつこちゃんが僕のことを好いてくれていたのは、前からなんとなく感じていた。だからとっくに、僕の中では答えが出ていたんだ。


「そうよね、私……普通の女の子じゃないものね……」


 なつこちゃんは、静かに涙をこぼし始めた。


「ごめんね……。どうしても、僕一人では背負いきれないから……本当に……ごめん」


 愛さえあれば、障害なんて乗り越えられると聞いたことがある。

 ――けど現実には、どうしても越えられない壁というものがある。

 本当に彼女の幸せを願うなら、そばに居るのは自分であるべきじゃないんだ。……もっといい人がいるはずだから。


「……待って……。アンタ……今なんて言った……?」


 いつの間にか、なつこちゃんの涙が止まっている。


「え……。僕一人じゃ背負いきれないから……ごめんって……」

「……そっか……そうなんだぁ?」


 なつこちゃんは、なぜかちょっとニヤけている。


「なんで嬉しそうなの……?」

「……答えが見つかったからよ!」


 ビシッと僕の方を指差してくる。

 ど、どういうことだ……?


「アンタが一人で全部背負い込むこと無いのよ! つまり……アタシが他に友達を作れば良いの!」

「と、友達……」


 それで僕の負担が減るのかどうか、微妙なところだけど。


「アタシ達の愛の間にある壁は、ただ一つ」

「君って、かなり恥ずかしいことを平気で言うんだね……」


 言った瞬間、なつこちゃんは真っ赤になって固まった。


「い、今のはその……少なくとも、わ、私はアンタのこと……本気で好きだから……愛なのかなって思って……それで……」


 だんだんと声が小さくなってよく聞こえなかったが、なんというか……勿体無いお言葉をもらったって感じがする。

 なんでこの子は僕のことなんて好きになっちゃったのだろうか。


「それで……なつこちゃん。さっき言っていた壁って、もしかして……」

「えっ……!? あ……それは、そ、そうよ! 壊すべき壁はただ一つなのよ!」


 僕となつこちゃんで付き合うとしたら、大きな壁が立ち塞がってくる。

 それは、前々から感じていたことだ。

 その壁がある限り、なつこちゃんが時折見せる、あの辛そうな表情を消すことはできない。


「その壁っていうのは……私のパパよ」

「……うん」


 解決すべき問題はハッキリしたけど……その問題が大きすぎる。

 強大な敵に立ち塞がれて、僕達は既に意気消沈って感じだ。


「……ね、僕一人じゃ背負いきれないでしょ」

「そうね……。パパからしたら、アンタと私がくっつくことにメリットなんて無いものね……」


 そう。それが一般市民と上流階級の人との違いだ。

 ……だから僕は、告白を断ったんだ。


「なつこちゃん。君ならきっと、良い人と巡り会えるよ」

「何言ってるのよ。もう巡り会ってるじゃない。もう好きになっちゃったんだから他の人はありえないのよ」

「いや……諦めようよ……そこは」


 嬉しいけど、無理なものは無理だ。


「そもそも、パパがアタシのことを全く信用していないのが問題なのよ。ただの引きこもりのゲームオタクだと思われているみたい」


 思われているというか、それが事実なのだが。


「だから……私にも、素敵な友達ができるんだって証明してやるのよ!」

「そんなことで説得できるの?」

「パパがアタシに興味を持たなくなったのは、私が自分で高校を選んでからなのよ。当時パパに、そんな所通っても無駄だって言われたわ」


 なつこちゃんのお父さんもきっと、なつこちゃんのことを嫌っているわけじゃないんだろうな。

 自分の娘が突然自由に生きたいって主張してきたら、心配になるものなのかもしれない。……そしてもし自由な選択を与えた結果、ロクなことにならなかったら『やっぱり自由にやらせたのは間違いだった』と思うはずだ。

 今、なつこちゃんは現在進行形で、残念な成長をしていると言えなくもない。

 僕が親だったら『どうしてこうなったんだろうな……』って思うだろう。


「私が今自分の意思でやっていることは間違ってないんだって認めてもらえれば、私の望みは叶うようになるはずよ」

「それでさっき突然、友達を作るって言い出したんだね」

「ええ! 素敵な友達を作れれば……きっとパパは私のことを見直してくれるはずよ!」


 なつこちゃんは強いな……。目の前の問題としっかり向き合って、ポジティブに進んでいけるんだから本当にすごいよ。


「でも、どうやって友達作るの?」

「……それなのよねー……」


 どうやらノープランらしい。


「インターネットゲームの中でなら友達いるんだけどねー……」


 さすがネトゲお嬢様だ。


「その友達と、どうにかして実際に会えないものかな?」

「オフ会とやらに行ってみればいいのかしらね?」


 オフ会か……。

 ネットゲーム上で知り合った仲間同士で集まって、ゲームの話で盛り上がる会……だね。

 実際どういうものなのか、行ったこと無いからわからないけど……なつこちゃんの場合、行かなくてもわかる。


「ダメだよ。君が行ったら大騒ぎになる」

「むー……そうよね。パパの使用人達にバレたらまた外出の制限が厳しくなっちゃうし……やるとしても近場でひっそりとやる必要があるわね」


 近場……そうか、インターネットで繋がっていると、相手がどこに住んでいようが関係ない。

 すなわち、なつこちゃんの友達が近場に住んでいるとは限らないのだ。


「……とりあえず、仲の良い友達と連絡取れない?」

「フレンド同士のメッセージ交換ってことね。やってみるわ!」


 なつこちゃんはパソコンからネットゲームを起動し、フレンドの一覧を表示させた。

 うーん……みんな変わった名前だ……。そりゃそうか、本名で登録する人のほうが少ないっていうからね。


「突然ですみません。今度お時間がある時に、直接会ってみませんか……っと。送信!」


 相変わらず、サラッと行うな……。この行動力は僕も見習わないと。


「あ……! 返ってきたわ!」

「早っ! そんなすぐに返ってくるんだ……」

「お互いログインしているからね。そんなもんよ。……ええっと……あー、ダメみたい」


 一人目『Tsumiki』は失敗。この人はどうやら、ゲームのことをリアルに持ち込みたくないらしい。


「次は?」

「ええ、送ってみるわ」


 二人目の名前は『shiro☆』……名前についている星がちょっと気になるけど……まあいいか。


「あっ、大丈夫みたいよ!」

「住んでいる場所は……?」

「あ……そうだったわね。聞いてみるわ」


 今回はとにかく目立たずに会う必要がある。できれば土地勘がある人がいいけど……最悪、騒ぎ立てられなければ何でもいいのかもしれない。


「……うーん……遠いみたいだけどどうする?」

「県内……欲を言えば、この町に来てもらいたいけど……どうかな?」

「それは難しいかもしれないわね……一応聞いてみるわ」


 難しい……か。僕も画面を見てみる。

 ……うっ。た、確かにこの人はちょっとキツイかも……。


「関西の人なんだね……」


 メッセージが関西弁なことに気づいた。


「集合場所は駅が良いって言っているわ」


 そもそも、娘がいきなり連れてきた友達が関西の人だったら……なつこちゃんのお父さんはどう思うのだろうか。

 ……ここが関西ならそっちの方が自然だったのかもしれないけど、いかんせんここは関東だ。


「……やんわりと断っておこう」


 関西に恨みはない。だがこの子の家の事情に合ってなさすぎるんだ。

 となると二人目も失敗……か。


「あと何人居る?」

「そうね……いつも一緒にやっているのは、あと一人ね」

「他の人は?」

「たまにしか会わない人達よ。多分ゲームをする時間帯が違うのよね」

「ってことは直接会って友達になるっていうのも難しそうだね……」

「じゃあとりあえず、残った一人にメッセージ送るわね」


 なんかだんだん無理っぽい雰囲気がしてきたけど……どうなるんだろうか、友達作り大作戦。

 三人目の名前は『CHERRY』だ。


「この、キャラクターの名前って英語しか使えないの?」

「いえ、ひらがなとカタカナも使えるわよ? 漢字は無理だけど」

「でもなつこちゃんもまた、アルファベットで『Summer』なんだね」

「あー、これね、最初はアルファベット入力がデフォルトになってるのよ。だから日本語の名前で登録する人は少ないらしいわ」

「へー、なるほど……」


 だからなつこちゃんも『Summer』にしたわけか。

 …………なつこだから『Summer』……か。ならば冬美さんは『Winter』だね。


「……あっ! ウソ……!」


 突然、なつこちゃんが手を叩いて喜びだした。


「どうしたの?」

「近場に住んでるのよ……しかも近場も近場……この町に!」

「ホントに!?」


 なつこちゃんのネトゲ友達の『CHERRY』はこの町にいるらしい。

 僕らは嬉しさのあまり、思わず……イェイ!っとハイタッチを交わした。


「この町に住んでいるのなら、場所も細かく指定できるね」


 そこに住んでいる人なら知っていても、他の地方では全く馴染みのない店とかはたくさんあるのだ。その店を集合場所に指定できるのは大きい。

 なつこちゃん家とは縁の無さそうなほそぼそと営業している自営店とかが良いけど……そこまでいくと、この『CHERRY』も知らない可能性がある。だが、確かめてみる価値はあるだろう。


「なつこちゃん……集合場所は喫茶ミトウってお店でいいか訊いてみて」

「……? 聞いたこと無いのだけど……」

「なつこちゃんの知っている店なら、使用人にバレる可能性も高いでしょ」

「あ……そうだったわね」


 喫茶ミトウ。父さんの知り合いがマスターをやっていて、僕が小さい時からお世話になっているお店だ。

 ちなみに、ミトウという名前の由来は、僕の父さんがコーヒーを飲むときに入れる角砂糖の量が3つなので3糖……カタカナに変換してミトウとなったらしい。

 マスターと父さんはそれほど仲が良かったということだろう。

 ……実は僕は、父さんよりもマスターの方が好きだ。……というか、僕が小さい時に父さんは事故で亡くなってしまったので、父さんのことはあまり覚えていないんだ。


「……? どうしたの五郎……?」

「え……、あ、いやなんでもないよ」


 なつこちゃんには父さんのことは伏せておこう。変に気を遣わせてしまうだけだし。


「あっ、CHERRYも知ってるって、その……えっと……サトウ……?」

「喫茶ミトウだよ。3つの砂糖でミトウって覚えれば間違いないよ。……って、知ってるって本当に!?」


 すごい……『CHERRY』どれだけ僕らと波長が合うんだ……。


「平日の昼間以外ならいつでもいいらしいけど、やっぱり……週末かしらね」

「明日は無理なの?」

「えっ? その、さすがの私も、今日こうなってからすぐ明日っていうのは……」

「そっか……君の僕に対する愛情はそんなものなんだね……」

「そ、そんなことないわよ! いいわ! 今すぐでもいいわよ! 受けて立とうじゃない!」

「じょ、冗談で言ったんだけど……」


 そんな反応をされると、こっちが恥ずかしくなってくるよ。

 ……しかし妙だな。『CHERRY』が喫茶ミトウのことを知っているとしても、平日の昼間以外いつでも大丈夫っていうのがちょっと引っかかる。

 そんなに近所に住んでいるのか……?


「よしっ。明日のお昼12時に集合にしておいたわ!」

「うん。頑張ってね」

「え……、アンタも行くんでしょ……?」

「いや、行かないよ。君が自力で友達を作ることに意味があるんだし」

「で、でもでも……場所は黒影に調べてもらうとしても、立ち振る舞いとかわからないし……」


 喫茶店で立ち振る舞いを気にする人など居るのだろうか。


「大丈夫だよ。君ならきっとできる」

「む、むむむ無理よ!」


 ものすごく動揺してるな……。目がぐるぐる回ってるよ。


「だ、だいたい、彼氏なら、彼女のエスコートくらいするものでしょ!」


 口を尖らせて頬を赤く染めて言ってくる姿は可愛いけど……言っていることはおかしい。


「僕らは恋人じゃないんだってば……」


 さっきフったはずなんだけど、僕も好きだと伝えてしまったからかもしれない。恐らく彼女の中では、相思相愛=恋人となっているのだろう。


「お願いだから……せめてお店の外までは一緒に……」


 涙目で懇願してくるなつこちゃん。


「……はぁ。わかったよ。僕もまあ、あの店には用事もあるし、行くよ」

「ありがと! って……用事って何?」

「まあ行きつけのお店だから、色々あるんだよ」


 マスターとは久しぶりに会うことになる。約一ヶ月ぶりだ。……昔は毎日のように通ってたんだけど、中学生の頃からあまり行かなくなってたんだよね。


「……? まあいいわ。それじゃあ明日はいつも通り、アンタん家に迎えに行くわ」

「いや、歩いていこうよ。すぐそこだからさ」

「そうなの? わかったわ、彼氏の言うことなら何でも従うわ」

「いや……違うって」


 色々認識がおかしいが、気にしても仕方ないだろう。

 とりあえず明日は――あの子が居ないことを願おう。なつこちゃんのこと、気にしていたみたいだし。








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