慣れぬ日々
ぐる
私はエリーゼと共に街を歩いていた。
なぜ嫌われてる私とエリーゼが一緒に居るかと言うと昨日に遡るのだが。
「すまないミリア・・」
ミリアとは私のことなのだが一応、記憶喪失ではあるものの装備には私の名前が魔法文字で刻まれており勝手にルドワールが読み取ったらしい。
「どうしたのだ?」
「君に街を案内する予定だったのに急な仕事が入ってしまったんだ」
「やらねばならぬことならば仕方ないだろう?」
「んーそうなんだけれど」
隣では甘い香茶に甘い菓子を満面の笑みで食べるエリーゼの姿がありルドワールは彼女に頼むことにしたのだが・・。
これが昨日の話であった。
「ふぅ、パパのお願いだから聞いてあげたけど仲良くなんてしてあげないんだからね!」
「あぁ分かっている」
未だに相容れる存在にはなれていなかったのだが、これはこれで仕方のないことなのだろうと思い歩を進める。
こちらに来て分かったことなのだが1000年前とは通貨も丸で違い、鎧にくくりつけてあった硬貨は今は材料としての価値しかないのである。
(やれやれ、この時代の硬貨も同じく材料としての価値ではあるが、それでも金は金だが純度が恐ろしく悪い時代で、ほぼ価値がないのか)
これもまた戦乱の世ということかミリアは思った。
「何処か行きたい場所はあるの?」
「図書館というところに行きたいのだが」
「本ばっかりで、つまんないよ?それに・・」
嫌っていても何か言いにくそうに私を見ている。
「はぁ、分かっている私には学なんてものがない自分の名すら書けないし字も読めないのは理解しているさ」
そのためにルドワールに頼んだのだが仕事ならば仕方がないだろう。
「すまないが頼む」
「しょうがないなぁ、パパからおこずかいももらっちゃったし!」
二人はマヌイにある貴族専用の図書館へと向かい歩きながらエリーゼはミリアに街の案内をするのです。
「ここがハンターギルドで」
「そのハンターだが」
ハンターとは街の依頼を受けて仕事をすることを生業にしている者達の総称らしい。
「ハンターの人ってね物凄く荒っぽい人達の集まりで強い人しかなれないんだよ?お姉ちゃんに出来るの?」
(確かに魔力が抜け落ちた私が、やっていけるほど甘くもないか)
ルドワールがエリーゼと戦っているのを見る限り魔力を全開に使うエリーゼと同じぐらいだろうと思う。
力は・・という意味だが。
(生死の狭間で生きてきた私の経験であれば、まだまだ未熟なものだがな)
ミリアが生きてきた時代ではエリーゼほどの者など魔物すら倒せぬほどの力でしかなく彼女からしたら遊びのようなものである。
(まぁ、この平和な時代だ女には剣など不要なのだろう、ましてや貴族にはな)
そんなことを話していると綺麗な青色をした屋根のギャラリーへと辿り着いた。
「ここが図書館だよ、お姉ちゃん」
二人は、ゆっくりと中へと進んで行くのである。
□ □ □
中に入ると全部読んだら何年かかるのか分からないぐらい天井までビッシリと本棚に並んでいる。
「どんな本が読みたいの?」
「そうだなマヌイの歴史を知りたいのだが」
私が、そう言うと目一杯の不満を顔に出したエリーゼが、こちらを見ていた。
「もしかしたら私の記憶が戻るかもしれないんだ頼むよ」
渋々と了承するエリーゼは、つまらなそうに読み始めた。
マヌイ三世が統治していた時代、魔物達が繁殖期に入り、その頃に産まれた魔族の王が率いる軍勢は人間を襲い始めた。
世界の人口が3分の1になり戦える者達も人類の滅亡を想像し怯えた。
魔物達に囲まれたマヌイは、もはや抵抗するも叶わず城壁で耐えていると空から金色に輝くドラゴンにまたがった美しい聖女が現れる。
そのドラゴンの息吹は魔物を焼き尽くす聖なる炎を吐き、その女性が振る剣の一振りは千の軍勢をなぎ倒したのだ。
その聖女に続くのはお伽噺で語り継がれたような存在であったドワーフやエルフ、妖精の軍を携え人間達を救い彼らと共に魔王を倒すと光に包まれ跡形もなく消えてしまった。
(なんというか、かなり美化された話になっているな)
確かに英雄と呼ばれ魔王を倒したのは事実だが多くの者は私のことを冷血の勇者などと呼んでいたし、やっていたのは敵を殺すこと、しかも戦っていた頃から前線で常に血にまみれていたのだ。
エルフやドワーフなんかは力を貸してくれたとはいえ、かなり毛嫌いされていたしドラゴンは私の所業に寝首をかくことすら考えていたやつらだ・・。
向かう先が同じだったために一緒に戦いはしたのだが・・
エリーゼは読み疲れたのか目で訴えてくると、どうやら管理されてはいるものの貸し出し出来る本もあるのか貸りてくると図書館をあとにする。
ぐる