目が覚めるとそこは
のんびりと書いていきます。
パッカパッカと沿道を歩く馬の足音が聞こえてくると茂みの中で目を覚ます少女。
「ん・・・・ここは・・・魔王は・・・?」
朝だろうか爽やかな風が茂みへと入り朝露でぬれている自分の装備を見る。
先ほどまで戦っていた戦場とは変わった風景に彼女は戸惑っていた。
(ここは死者が住まうところか・・・綺麗なものだな)
彼女の居た世界は幾たびもの激戦で荒廃しきっており森は焼け黒い魔力で溢れた空は薄暗く日の光すら遮っていたのです。
(ふっ・・・こんな美しい世界ならば死んだのも悪くは無いか)
彼女の口元は薄く笑いを浮かべていたが世界は救われたのだろうかと心配にもなる。
戦った際、負傷した足を引きずりながら道であろう方へと進み出ると、そこで限界が来たのか倒れこんでしまったのだ。
パッカパッカパッカと馬の足音が近づいてくるのを聞きながら彼女は意識を失った。
「おや、誰か倒れているな止まってくれるか?グリフ」
馬に話しかけた一人の壮年の男性が彼女の方へと歩いていくが、この男そこそこに上等の服を着ていたのである。
「困ったな、これから娘のところへ行かねばならぬのだが」
腰に携えた何かの紋章が入った剣を馬にくくりつけると彼女の身を軽々と持ち上げて馬へと乗せ歩きだした。
□ □ □
「パパァァァァ~~~」
「あははエリーゼ今日も元気だね、すまないが先生を呼んできてもらえないか?大至急だ」
かわいらしい笑顔を見せた彼女は父親の真剣な目を見て敬礼をすると慌てたように走り去って行くのを彼は見送った。
そして、ほどなく彼女の担任である若く成人した男性が彼の前へと走ってくるのだった。
「ルドワール隊長殿、何か、こちらに不備がありましたでしょうか!?」
「いや、それについては感謝しているほどだ、それよりも道中、怪我人をひろったのだが至急に手当てをしてくれないか」
「それは大変でしたね、すぐ救護班を呼んで来ますので」
彼の足元には軽く魔力が集まるように風が揺らめいているとルドワールと呼ばれた男の前から立ち去っていくのでした。
「やれやれ・・・急ぐときはあれだけ慌てるなと教えたはずなのだが」
困ったように見送ると彼女を馬から下ろし地面へと優しく着地させると、すぐに救護班が、こちらに向かって来るのが見え少しばかり安心したのだった。
「何かあれば私の屋敷に連絡を」
彼らに、そう告げるとエリーゼが倒れている少女を横目に向かってくるのが見え屋敷へと帰るように馬に二人乗ったのだった。
□ □ □
「ねぇ、パパ!あの綺麗な女の人って誰?」
何かをいぶかしむような様子で父親の方へと質問するエリーゼの目は正直、意味がわからなかった。
「森の中をお前を迎えに行こうとしたら倒れていたんだ」
ルドワールの妻はエリーゼが幼いときに、この世を去り、それから男手一つで彼女を育ててきたのだ。
もちろん乳母がいたおかげでもあったのだがエリーゼは彼女のことが大好きだった。
そしてルドワールは、いつも娘に再婚をするのかと問われるたびに、こう答えていた。
《私は強い女が好きだと・・・》
そんなことを言っていたのだからエリーゼは鎧を着た、その女性が自分の父親に勝負を挑んできた一人ではないのかと疑っていたのだった。
これまでも幾人もの女性が本気かどうかは分からないが彼に勝負を挑み敗れてきたのだ。
この世界では魔法があれば女性が男性に遅れを取ることもなく強い女性は多く、そして、この国の15ほどある騎士団の隊長の一人である彼は強かったのです。
「あぁ、そんなことを思っていたのかエリーゼ」
「だってパパ強い女の人好きでしょ!」
「まぁ、確かにな、だが彼女は本当に森でひろってきただけだ」
幾度となく再婚の話も持ち上がったり、その中でも強い女性も居たのだがルドワールは、そんな気になれなかった。
自分の妻を愛し子を愛していた彼は彼女が残してくれた娘と共に生きていこうと決めていたから。
「大丈夫だよエリーゼ、パパにそんなことはないから」
「でもパパ!いつも女の人の名前でプレゼントいっぱいもらってるじゃない!」
困ったような顔で娘の顔を見ながら笑顔を作る彼は騎士団の隊長という地位もあり憧れの一人として人気もあり好意をむけてくる女性の数も多かったのです。
(やれやれ、いくら学校に入れたと言っても女の子は成長が早いものだな)
そんなことを思いながら疲れたように屋敷へと馬を進めていく、いつもの風景でした。
「さ、屋敷についたぞ」
「パパお仕事おわったんでしょ!私と勝負だからね」
「エリーゼ・・・きみは学校で疲れていないのかい?」
「強くなってパパのお嫁さんになるって言ったでしょ!!」
娘の、そんな言葉に嬉しくも思うが先が思いやられるなと笑う父親の顔も見てないのか荷物を持って急いで屋敷の中へと戻っていくエリーゼを見ているのでした。
□ □ □
カンッカンッカンッ
木をたたきつけるような音が屋敷から響き渡る。
「どうしたエリーゼ強くなるんだろう?」
小さな少女は母親の才能を受け継いだのか、この歳にしては良い太刀筋をしていた。
多少、父親としての甘い採点でもあるのかもしれないが、それでも剣術では同学年の子供たちの中で2番目3番目ほどの成績をおさめており本人は納得しない様子だったが上出来だろうと思っている。
「でも一番になりたいの!パパみたいに強くっ」
「パパよりも強い人なんて、いっぱい居るぞ?」
「私のパパは一番強いのっ!」
「じゃーパパも頑張らないとな」
「私も頑張る!」
エリーゼの母親とルドワールは幼い頃から知り合いで幾度も戦ったことがあったがルドワールとの身分の差で恋仲でも何でもなかったのだが彼は彼女のことを小さな頃から愛していたのだと思う。
エリーゼの母親は、そんなことを思ってはいけない人だったのか自分のタイプではなかったのか、その気持ちをを知るまで全く、そんなことすら予想していなかった。
そしてお互いが独立する頃、二人は一度、離れ離れになり別々の道へと進んでいく。
ルドワールは騎士の道へと。
エリーゼの母親であり妻である女性は冒険者へと。
二人はお互い研鑽していき戦いの道を究めていくと段々と、その世界での地位もついてきた頃、一つの小さな小さな争いごとが起きたのでした。
□ □ □
騎士団や街の者達が集まるのは、もっぱら街の大衆酒場で喧嘩も、たびたび起こってはいたのだが、ここでは国の決まりごとがない無法地帯でもあったし冒険者というのは世界各地にはあっても統一されたもので不可侵の条約がなされていた。
そこでは騎士も街の人間、冒険者など身分の差もなかったが騎士団には騎士団のプライドがあり冒険者には冒険者であるというプライドもあったために、いざこざは多かった。
それを決めるのはお互いの拳のみで、それが終わったら後は何もなかったようにふるまうのが冒険者酒場でのルールであります。
冒険者は各地を回っている者も多く珍しい物などが集まり、それを求めて多くの人間などが集まるのだが一度だけ騎士が剣を抜いたことがあり、その収集は、どちらかが死ななければならないという事態に陥った。
「テメェ、騎士団だか何だか知らねぇが、ここで、そんなもん抜いたら後は分かってんだろうな?」
冒険者であろう男が相手にそう脅す。
「ふんっ半端者が、いきがるなよ俺がやられるとでも?この雑魚が」
周りの者が止めるのも聞かず店の外へと歩き出し剣と剣を交わらせる男二人を固唾を呑んで見守る者達の中に若きルドワールと彼女が居た。
お互いの道を進みだしてから何の因果か全くかかわりの無かった二人が5年の月日が流れて再会することとなる。
男二人が命のやりとりをするのは勝手だが冒険者との間に壁を作りたくもないと思っていた彼は止めさせようと様子を伺う。
彼女は騎士とやりあうのは勝手だし先に抜いたのは向こうだからと見てはいたが仲間がやられるのは見てられないと様子を伺っていた。
そして争う二人の剣が致命傷を負うというタイミングで観客の中から二つの突風が突如襲うと男達が持つ剣を同時に掴むと目が合う。
「テメェ、何者だ」
「貴方こそどなたですか?」
荒い口調の彼女と優しい口調の若き騎士が目を合わせると観客達も飽きたのか店で、いつの間にか酒を飲み始めていた。
「ぷはっまさか、お前と、こんなとこで再会するとはね」
「あぁジェシカ、私も驚いたよ」
「アンタの、その変な口調さ中々お似合いだよルドワール坊ちゃん」
「貴方は変わりましたね本当に」
「んだとテメェ文句があんならかかってこいよ」
お互い酒も入っていたのか先ほどまでの命をかけた戦いに揺り動かされてたのか、いつの間にか二人は拳を重ねあっていたのである若きエリート騎士と暴虐と呼ばれたルーキーの冒険者の拳と拳がぶつかり合ったのである。
□ □ □
「ねぇ、パパ?」
娘との稽古も終わり二人で汗を流し合っている風呂の中で娘に聞かれる。
「どうしたんだい?」
「そこから先って私、まだ聞いたことないんだけど」
「あぁ」
そのときの戦いはルドワールは負けたと正直に娘に話す。
「パパ負けたの?ママに?」
「強かったからな」
惚れてる女に負けたことが悔しかった彼は、それから死ぬほどの鍛錬を積み見事、彼女に勝ったのであった。
「それでそれで?」
興味津々の娘を見ながら笑い。
「そこから先は、お前が大人になってからな」
そう言って頭を撫でると不機嫌そうな顔になるエリーゼを見ながら着替えて屋敷へと入っていくのでした。
(さすがにな娘の前で、彼女に勝った褒美で体をもらったなんて言えないしな)
ジェシカはルドワールが遊びで自分を抱いたのだと思っていたが、それも、こんな世界では当たり前のことだったが騎士である彼が自分を求めるとは思っていなく驚いたのだとか、それも本気で自分を愛しているだなんて、そのときの彼女は思いもよらず騎士様の遊びの相手ぐらいにしか思っていなかったのだそうだ。
一度のことで子供が出来たジェシカは頭を抱え一人で育てるかと思っていた頃ルドワールは家族を説得して回ったが反対され、周りからの猛反対を押し切ると駆け落ち同然で家から出て行くことになるが騎士団が守ってくれて今があるなんてのは、さすがに言えなかった。
(あの頃の私は若かったな)
そんな思い出を思い出すと彼は笑ってしまうのでした。
ありがとうございました。