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【番外編完結】他力本願英雄  作者: 寒天
高すぎる壁
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第85話 最終試験開始……!

「……準備は万全か?」

「ええ……気力体力あらゆる意味で充実していますよ」


 上級騎士試験最終日。俺は人類最強の騎士、ガーライル・シュバルツと対峙している。

 これから俺は、遥か雲の上の超人であった親父殿と戦う。たっぷり眠って気力も充実。もはやできる事は全てやった。後は全力でぶつかるのみ――といいたいところなんだけど……その前にツッコミ入れてもいいんだろうか?


「あの、この闘技場……凄い違和感あるんですけど」

「フム……確かに……少々気が散るな」


 後顧の憂い無く全てを忘れて戦いに集中したいところなんだけど、この闘技場……何か光るマーブル模様に覆われてるんだけど……。


『えー、ご来場の皆様にご説明申し上げます。本日闘技場を覆っている光の壁は、皆様の安全を確保する為の結界でございます』


 そんなことを言っていたら、丁度司会の人が会場の観客達に俺の疑問を説明し始めた。

 これ、結界なのか? でもこの前戦ったときはちょっと青みがかっただけでこんな目に悪そうな障壁じゃなかったんだけどな……?


『ご来場の方々の中にはご存知の方も多いでしょうが、通常使用されている結界障壁と本日使用しているものは別物でございます。通常四人の魔術師が協力して発動する結界障壁ですが、本日はその10倍の40人の魔術師が協力して10層障壁を展開しています。複数人の魔術師が協力している関係上結界の透明度が落ちておりますが、安全の為ですのでご了承ください』

(ああ、大人数で魔法使っているせいでこんな複雑な色になってるのか。……これなら、遠慮する必要はなさそうだな)


 この目に悪いというか見通しが悪い結界を見て、俺は少しだけ有利になったと頷く。

 もちろん親父殿相手に力の出し惜しみなんてするつもりは全く無いが、それでも吸血鬼を初めとするちょっとアレな力を観衆に見せるのは抵抗があった。でも、この結界の中でなら誤魔化せるだろう。ばれたらばれたでいいんだけど、眼が赤くなったくらいなら問題ないだろうな。


『えー、ごほん……。それでは! それではぁぁぁぁ! ガーライル・シュバルツVSレオンハート・シュバルツ! 試合、開始ぃぃぃぃ!』


 説明が終わったところで、司会が試合開始を告げた。

 俺と親父殿は互いに開始位置の距離を保ったまま剣を構える。親父殿の手に握られているのは当然、炎の魔剣【紅蓮】。俺の手に握られているのはリリスさんが作り上げた風と水の魔刀【嵐龍】。

 最初から魔剣の力を全開で飛ばすって策もあるが……ん?


「どれ、まずはどこまで腕を上げたのか見てやろう」

「……剣術戦、ですか」


 親父殿は剣を構え、あえて魔力の気配を見せずに俺を誘ってきた。

 まずは単純な剣の技量を見ようということか。無理に乗る必要はないが……逃げるわけにもいかないか!


「――行きます!」

「来い」


 強く踏み込み、真っ直ぐ親父殿に向かって突撃する。純粋な剣術戦闘――今の俺はどこまで通じる?


「ハッ!」

「ムッ!」


 初手は突撃の勢いを乗せた突き技『唯一』。首を狙った一撃必殺もありうる一刀だが、親父殿は軽く首を捻って回避した。


(流石――ならっ!)


 俺は突撃の勢いを殺さないまま体当たりに移行し、親父殿の体勢を崩すことを試みた。

 剣術と言っても、実戦で剣だけに拘るほどお行儀のいいやり方はお互い考えてもいないでしょう――ッ!?


「狙いはいいが、直線的だな」

「チッ! 読みどおりですか!」


 親父殿は俺の体当たりに逆らわず、そのまま身体で受けた。

 だが吹き飛ばされたわけではなく、自分の身体を支柱に俺を投げたのだ。一瞬の判断で手を使わない投げ技……体術も流石ってところか!


「でも、ただじゃやられない!」

「ムッ! おっと」


 頭から落とされるところを左手一本前に出して身体を支え、そのまま片手逆立ちの状態で蹴りを放つ。流石の親父殿もこれには一歩引いての回避となったが、ここからが本番だ。

 ここまでの僅かな攻防で確信したのだが、信じられないことに俺と親父殿なら……俺のが僅かに速い!

 だからここは攻める。格闘術に精通したメイと長時間戦い続けて強制的に刻まれた経験……早速活かさせてもらう!


「デリャリャリャリャッ!」

「フム、いい連打だ」


 逆立ち状態から素早く立ち上がり、左足を軸にして蹴りの連打を放つ。

 単純に剣を振っても親父殿には当たらない。だから始めに蹴りでも入れて体勢を崩したいところなんだけど……流石に捌きも一流か。俺より遅くとも正確で無駄のない動きでしっかりとついてきているな。


「生憎だが、格闘技への対処にはなれていてな。……その程度の蹴りでは当たらんよ」

「クッ! おっと!?」


 蹴りの弾幕を完全に見切られ、左手で側面から右足を殴られる形で止められてしまった。

 殴られたことによるダメージはないに等しいが、問題はそんなことじゃない。片足立ちの状態で崩されたせいで、結構致命的な隙が――!


「ではそろそろ、剣の腕を見せてもらうとしようか――!」

(クソ、刀で止めるしかない!)


 回避不可能な状態で、親父殿は紅蓮を振るった。

 それに対し、俺は嵐龍を盾にする。形状の関係でこんな使い方はしたくないんだけど――なっ!


「折れないか……いい剣を手に入れたな」

(お、重い!)


 へし折れることこそ無かったが、親父殿の一太刀は中途半端な体勢で受けていいものではなかった。

 少しでも力が足りなければそのまま吹っ飛ばされていたと確信できる重みを刀越しに感じつつ、俺は必死に耐える。

 速度、技量、破壊力。やはり、親父殿は全てが一流――うおっ!?


「止まると死ぬぞ?」

「――ッ!」


 親父殿は剣を引き、そして素早く追撃を放ってきた。そしてその剣を素早く戻し、また攻撃する。

 丁度さっき俺がやった蹴りの弾幕を、今度は親父殿が剣でやってきたのだ。しかもその一太刀一太刀は正確に俺を追い詰め、傷つけていく。致命傷を避ける為には細かい傷を許容しなきゃいけない絶妙な連打だ……!


(落ち着け。こういったとき、焦ると死ぬ。冷静に対処して、隙を見出せ)


 どんな超人達人でも、常に攻守共に完璧なんてあるわけがない。攻撃に傾けば防御が、防御に傾けば攻撃がどこかおろそかになるものだ。

 今の親父殿は典型的な攻撃の構え。だったら、必ずある。俺が親父殿よりも僅かに速い以上、この刃の雨の中に必ず突ける隙が――!


「――そこだ!」

「ムッ!?」


 親父殿の連撃の中に見えた、一瞬の隙。その一瞬ならばこっちの攻撃に移れると確信できるタイミングを狙って、俺は素早く嵐龍を振るった。

 青い刃は親父殿の剣をすり抜け、そのまま火竜の鱗でできた鎧に吸い込まれていく。鎧がある分完璧とはいえないが、初めてのクリーンヒットだ――え?


「なるほど、腕を上げたな」

「――ガハッ!?」


 鎧越しとは言え直撃を確信した瞬間、俺の身体は凄まじい衝撃を受けると共に吹き飛ばされた。

 そして、闘技場を囲む結界に叩きつけられる。あまりの威力に俺が激突した部分の結界が歪み、罅が入るほどだ。

 今、何をされた……ッ!?


「いっただろう? 止まると死ぬぞ?」

「容赦、なしか!」


 吹き飛ばされて無防備を晒す俺に、親父殿は躊躇無く追撃を仕掛けてきた。相変わらずの高速で、今度は親父殿が突進してきたのだ。

 これをまともに受けるわけには行かないと、俺も結界を足場にして地面と平行に跳ぶ。突撃してくる親父殿と、空中で衝突だ――ッ!


「フ……!」

(ッ! 早くなった!?)


 親父殿よりも俺のほうが一瞬速く攻撃を命中させられる。そう思って真っ向からの迎撃を選んだのに――親父殿の動きが急に加速した。直線的な突撃から急に弧を描くような動きに変わり、真っ直ぐ跳ぶ俺を横から攻撃してきたのだ。

 この速度変化は加速法……? いや、これは――!


「――【加速法・二倍速】!」

「ほう」


 俺は親父殿に空中で斬られる直前に加速法を発動させ、ギリギリ地に足をつけて方向転換。何とか親父殿の赤い刃を回避した。

 そのまま加速を維持して大きく後退。俺は親父殿と距離を取るのだった。


「……加速法の発動速度も早くなったものだな」

「どうも。……しかし、父上もいい性格してますね」

「ん? そうか?」

「そうでしょう? まさか……本気の打ち合いに見せかけて少し手を抜いてるなんてね」


 親父殿よりも俺のほうが僅かに速い? なるほど確かに俺のほうが速いだろう。

 意図的に、俺よりも僅かに遅いって速度まで親父殿のほうが落としていたんだからな!


「駆け引きというのは重要だぞ? 自分の方が優れていると思わせ、戦術を誘導したりな」

「ええ。思いっきり引っかかりましたよ」


 俺のほうが速いと思わせ、速度勝負に誘導する。そして、決め技を放つ一瞬だけ本気を出すことで完璧なカウンターを決めていたのだ。

 流石に、戦術でも剣術でも親父殿に一日の長があるってことか。普通そんな作戦思いついたとしても、相手に全く違和感を覚えさせないくらい完璧に自分の速度を制限するとかできるのかよ?


(やっぱ、まともに勝負したら消耗するだけだな。ならば――)


 純粋な体術や技術ではやはり親父殿には適わない。そう確信した俺は、早々と切り札を一つきることにした。

 まずは、身体能力で追いつかせてもらうぜ――!


「……【モード・吸血鬼(ヴァンパイア)】」


 心臓から闇の力を解放し、全身を変化させる。人間を超えた肉体へと一時的な変貌を遂げ、能力を大幅に向上させる。

 これで、もうさっきまでみたいにはいかないぞ……?



「あ、師匠が能力使った」


 僕、カーラさん、師匠のお母さんの三人は、闘技場の関係者席、所謂VIP席で師匠と師匠のお父さん――ガーライル様の試合を見ていた。

 ごちゃごちゃした色合いの結界のせいで見づらいけど、とりあえず二人の戦いが恐ろしく高度なのはわかる。師匠とメイ上級騎士との戦いを見学し続けた結果、妙に『見る力』が磨かれたおかげで僅かに見えるんだ。ほとんど影が動いたくらいにしか思えない戦いも、何となく第六感まで駆使することで捉えることができたんだ。

 そんな僕の観察眼を信じれば、今師匠は吸血鬼の力を使って身体能力を強化したはずだ。結界に阻まれているのもあって一見すると分かりづらいけど、多分間違ってないだろう。


「そうね。アタシから見てもレオンの様子が変わったと思うわよ?」


 そんな僕の呟きに、会場限定グッズとかお菓子とかをコンプリートしたカーラさんが答えてくれた。

 ポリポリお菓子を食べながらだけど、一応試合を見ていたらしい。何であの速度の戦いを当然のように見られるんだってちょっと気になるけど……僕が才能無いだけで普通は見えるのかなぁ?


「うーん……おばさんにはさっぱりわからないわね」

「魔力の質が変わったってだけのことよ」


 師匠のお母さんはそんな会話に首を捻り、カーラさんが答えているけど、そんな単純な話なんだろうか?

 ……まあ、いいか。重要なのは、これからようやく本気の打ち合いが始まるってことなんだし――あ。


(速い! さっきまでの比じゃない!)


 師匠が再びガーライル様に突撃した。違うのは、元々人間超えているような速度がよりいっそう強化されているって点だ。

 こうして遠くから見ているから辛うじて動きを追えるけど、戦っているのが僕だったら一瞬で斬り捨てられてるよ。


(師匠が先制で――いやガーライル様の剣――師匠のパンチいやガーライル様――)


 ど、どんどん加速してる! 今起きた攻防を認識している間に三手先の戦いが既に始まっている!

 まともに見ることすら困難な高速戦闘――漫然と目で見ているだけじゃ追いつかない。考えている間に戦いが遥か先に進んでしまう!

 こう言うときは、今を見るんじゃなくて未来を見るんだ。目で追いきれないほど速い相手は肩や腰の動きから次の行動を先読みすればいい。その師匠の教えを、気影を読む技術でならこの戦闘を認識でいるはず――ッ!?


(な、何だコレ!?)


 動きを目で追うのではなく、戦いの流れを読むようにして試合を見てみたら――何か戦争してた。

 一対一の白兵戦のはずなのに、気影を見てみれば10や20じゃ利かない大量の影が試合会場で暴れまわっている。

 その影は一瞬で互いを打ち消しあい、現実を形作る。しかしその一瞬後にはまた無数の気影が現れ、一瞬の読み合いの激戦を繰り広げている。

 全て読みきっている自信なんて当然無いし、この数の気影ですら一部でしかないんだろう。個人戦なのに集団戦のように錯覚してしまう戦い――これが、人類最強クラスか……!


「あっ!」

「どうしたの?」

「レオンの蹴りが当たったわね。腕の上からだけど」


 吸血鬼の力を発動させた師匠の力はガーライル様を僅かではあるが超えている。少なくとも、僕にはそう見える。

 互いに正面から接近戦を行っていたから、その僅かな差がそのまま現れた。師匠が剣戟の隙を縫って放った蹴りがガードの上からとは言えガーライル様を捕らえ、後方に吹き飛ばしたんだ。


「まずはレオンが一撃……でもほとんど効いていないわね」

「防御の上からだったし、ガーライル様は自分から跳んで威力を殺したようにも見えた。回避し切れなかったのは間違いないけど、この展開も予想通りだったのかも……」

「……アレス君もカーラちゃんも凄いわね。うちの人の戦いをまともに見られる人なんてそうそういないわよ? 現におばさんにはさっぱりわからないしね」

「え? まあ、完全に見えるわけじゃないですけど……」


 師匠のお母さんに褒められてつい照れてしまった。カーラさんも胸を張ってドヤ顔している。

 ……にしても、カーラさんにも本当に見えているんだよね。師匠のお母さんには見えないってレベルなのに、カーラさんも実は修行しているんだろうか?

 ……ん? よく見ると……カーラさんの気配が変わってる? 数日命がけで師匠の戦いを見学していた間にカーラさんにも何かあったのかな? こう、根本的な性質が変化しているような気が……?


「あ……!」

「え? どうしたんですかカーラさ――ッ!?」


 余裕綽々って感じにお菓子を食べながら見物していたカーラさんが、突然身をすくませて師匠のお母さんの後ろに隠れてしまった。

 一体何事かと視線を闘技場に戻してみると――僕もまた、身体の芯から震えが走った。


(怖い怖い怖い怖いっ!)


 吹き飛ばされたガーライル様から放たれる気配。生物として格が違う強者が放つオーラ。それが僕たちの震えの原因。

 ここまでの戦いはただの準備運動だった。今までの、僕では闘技場に立って1秒以内に斬り伏せられること間違いなしのあの激闘が、ただの前座。

 ここからが、ようやく本気。それがはっきりわかってしまう力の波動を、僕もカーラさんも感じ取ってしまった。


 精神論や根性論ではどうにもならない根源的な恐怖。自分よりも圧倒的に強い生物が力を解放しようとしている事実。目を背けたくなる、見てはいけないと心が訴えてくる。僅かでも戦いが見えてしまうからこそ感じ取ってしまうこの恐怖に、身体の震えが止まらない。

 でも――目は、逸らさない。カーラさんが師匠のお母さんの後ろに隠れているような態度をとるのが本来取るべき行動なんだとは思う。でも絶対に、心では逃げない。

 弱い僕には震えている時間も逃げている時間も無い。見ているだけで逃げているようじゃ――師匠の弟子には、相応しくない!


「どうしたの? 体調悪いの?」

「わ、わからないの……? アレス、アンタにはわかるで――?」


 身体はガチガチ震えるけど、僕はしっかりと闘技場を見る。いっそ睨んでいるってくらいに強く見る。

 そんな僕にカーラさんは不思議そうな顔をした後、なにやらむっとしているけど……正直気にしている余裕はない。


「……なんでもないわ。アレスが大丈夫なんだから、アタシも大丈夫よ」

「そう? 具合悪くなったら言うのよ?」


 気がつけば、カーラさんも元の席に戻っていた。元々白い顔から余計に血の気が引いているように見えるけど、それでも試合を見ることにしたらしい。

 そんなことをちょっと思ったところで――ガーライル様の身体を炎が包んだ。まるで炎の魔人、いや竜人とでも言った具合に、真紅の鎧や剣から、そしてガーライル様自身から炎が噴出したのだ。

 そして――次の瞬間、師匠は紅蓮の炎に飲み込まれた。



(――ッ!? 熱っ!)


 親父殿は『強くなったな』と言った。接近戦にギリギリで勝利して蹴り飛ばしたところで、親父殿は小さな声で嬉しそうにそう言った。

 そして、その次に『これならば、簡単には死なないな?』なんて物騒なことを言った瞬間、親父殿の全身を包み込んでいた魔力が炎へと変質した。通常魔力よりも強力な属性魔力に切り替えたのだ。


(攻撃速度がさっきまでの比じゃない! 一瞬で間合いを詰められた!)


 火竜装備からも魔力が放たれ、ここからが本気かと気合を入れた瞬間、紅蓮の切っ先が俺の顔面ギリギリまで迫っていたのだ。

 吸血鬼モードだったからこそ寸前で回避したが、今マジで殺す気だっただろ――イィッ!?


「――【火竜降臨】」

「グッ!? 爆炎の範囲攻撃――ッ!」


 剣を避けたと思ったら、剣と鎧から炎が噴出してきた。

 即席の回避など無意味。側にいるだけで黒こげになる。つまりそう言う事だなクソッタレッ!


「早速使う破目になるかっ! 開放――【炎の指輪・対炎障壁(ファイアウォール)】!」

「ム、マジックアイテムか」


 俺は指につけていた、赤い指輪の形をしたマジックアイテムを起動する。


 これは大分昔にリリスさんに作ってもらった物の一つで、対応した属性に関する効果を発動できる属性指輪シリーズだ。

 今回持ってきたのは親父殿対策の炎の指輪。持ちうる能力は常時発動の炎属性を軽減する薄い防御膜と、低位の炎魔法の発動、それに対炎の魔法障壁の展開だ。火竜の装備に身を包んでいる親父殿に炎の攻撃なんて意味無いだろうから、事実上炎に対する防御アイテムだな。


 常時発動の防御では意味が無いとあっさり対策アイテムの使用を決意し、俺の周囲を赤い球形の障壁が包み込む。防御対象を限定することで強度を上げている魔法障壁の中でも属性特化であるために、炎以外は全く防御できないって代物である。

 その分強度は高いはずなんだけど――まさしく竜の炎を髣髴させる親父殿の爆炎は、炎のバリアをあっさり貫通して俺を焼くのだった。


「――熱っ! ……でも、何とか防げているな」


 俺は炎に焼かれた自分の身体を見てそう呟いた。

 本来なら一瞬で身体が炭になっていてもおかしくないんだろうけど、障壁のおかげで大火傷程度で済んでいる。

 炭になった部分を再生するのは炭化した部分が邪魔になってしまうため困難だが、火傷程度なら何とでもなる。親父殿相手にここまで防げているんなら、この指輪は十分仕事しているといえるだろう。

 だが――


「一撃の威力が弱められるのならば、何度でも叩き込むだけだぞ?」

「ですよ、ねっ!」


 親父殿は炎を巧みに操ることで周囲を塞ぎ、再度攻撃を仕掛けてきた。

 よく見ると身体から炎を吹き出すことでブースターの役割を持たせ、ただでさえ速い親父殿が余計速くなっているようだ。この炎の加速を使っているおかげで動きが多少読みやすくはなっているが――それ以上に反応できないのが厄介すぎる!


「【加速法・三倍速】っ!」


 この包囲網を突破すべく、俺はいよいよ逃げる為ではなく戦うために加速法を発動する。

 周囲の動きが緩やかになり、肉体が活性化する。この状態ならばどんな包囲でも突破してやるといいたいところなんだけど――


「【加速法・三倍速】、だ」

(やっぱそう来るか)


 加速法は諸刃の刃。一時的に限界を軽く踏破した速度を与えてくれる代わりに、肉体へ多大な負荷をかけた挙句大きな隙を晒すリスクもある。

 しかし、それも相手に合わせて発動すれば対等だ。むしろ後出しで出した方が高速カウンターの意味合いまで出て遥かに有利だろう。加速法は速過ぎるせいで、発動と同時に次の動きをほとんど決めてしまっているからな。


 加速法最大のリスクは、限界を超えた速度故の制御の難しさ。俺の刃輪舞のように反復練習を重ねることで複雑な動きを可能にすること自体は可能だが、それもある程度予め決めた動きに従って動いているくらいだ。

 要するに、加速状態ってのは動きをとても読まれやすい。限界を超えた速度で戦うために加速法発動時点で動きを一つに絞ってしまっているせいで、気影を読めるレベルの相手には次の手が丸見えになってしまうのだ。

 まあ、動きを先読みされても絶対に対処できない速度をたたき出すことこそが加速法最大の強みなわけだけど。


(だからこそ、加速法対決は後だし超有利。同じ加速法を使ってしまえば速度の差はなくなり、後は相手の動きを把握した上で加速した側が絶対に勝つ勝負になる)


 だから、ここまで俺も親父殿も攻撃のために加速法を使っては来なかった。精々が距離を取る為と言った逃げの一手のためで、反撃される恐れのある状態で加速するようなリスクは避けてきたのだ。

 だが親父殿によって、俺は加速しなければ対処不可能な布陣に追い込まれてしまった。この展開まで親父殿の手のひらの上ってことだが……ここからは俺の台本で行かせてもらう!


「【追加速・四倍】っ!」

「ムッ!?」


 八王剣の応用で、俺は瞬時に加速を強める。絶対に勝つ勝負である以上、親父殿が俺と同じ強化倍率に抑えるって予想できた。だから、そこを狙う。

 カウンターなんてさせる暇も無く、俺の剣を先に届かせてやる――ッ!


「瞬剣――え?」

「炎瞬剣・火竜尾っ!」


 追加速と言うフェイントで、俺は親父殿の先手を取ったはずだった。

 なのに、親父殿の炎を纏った紅蓮の刃は俺よりも遥かに速かった。このままいけば一秒もかけずに俺は直撃を受ける。どう見てもこの速度は三倍どころじゃない。五倍――いや六倍加速法は使っているはずだ。

 恐らくコレは、虚偽詠唱。発動宣言をしながらそれとは別のスキルを無言で発動させる高等技術を使った騙し技。それに見事に引っかかってしまった。それが、剣を振る前に分かってしまった――!


「ッ! アアァァァァァァッ!」

「――ハァッ!」


 竜の尾によるなぎ払い。それを連想させる炎の魔剣の横なぎによって、俺のいた場所は紅蓮の炎によって焼き払われた。


 その威力は、マジックアイテムの防御力なんて鼻で笑って蹂躙するものがある。恐らく死にはしない、本当にその程度の加減しかされていない一撃であり、試合を決めるものだった。

 後0.01秒反応が遅れていたら……俺の完全敗北だった、な。


「……確実に仕留めたと思ったが……まだ隠し玉があったか」


 親父殿は瞬時に炎をかき分けて大きく距離を取った俺を見て、さほど悔しくなさそうにそう言った。

 まあ、当然だろう。今の炎の力を解放したラッシュは特に切り札を切ったわけではない、ただ本気を出しただけだったんだ。それで俺の隠していたカードを見られたのだから十分だろう。

 この、本来なら勝利を得る最後の一撃まで隠し通さねばならなかったはずの隠し玉――吸血鬼モード2を引きずり出されたんだから、な。

人類に未来はない? いや、このガーライル・シュバルツがいる!

そんなことをマジで体現してきた親父殿の自重していないように見えてこれでもまだ全ては見せていない戦い。


割とマジでこの世界で人間って種族が今まで生存している理由の20%くらいはこの人である。


ちなみに単純なステータスだけで言えば

ミハイ(槍装備)>イーエム>ミハイ(素手)=レオンハート(吸血鬼モード2)>ガーライル(現時点で見せた能力)=レオンハート(吸血鬼モード1)>レオンハート(通常)>>>一般上級騎士

ですが、技量で言うと

ガーライル>>>>レオンハート>>一般上級騎士>ミハイ=イーエム

となります。

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