第7話 第0次試験
説明回です。
「ここが会場でいいのかな?」
俺は見習い騎士試験会場へとやって来ていた。少々幼少期のトラウマもあり、町に出るのは久しぶりなので些か手間取ったが……無事に着いたのだからよしとしよう。
そう言う事にし、俺は手に持った『レオンハート 12歳』の受験票を受付に出したのだった。
「はい、受験ですね……えっと、きみが?」
「……まあ、一応受験するのは俺ですが」
受付のおねえさんは機械的に受験票を確認した後、実に人間らしく動揺を見せてくれた。丁度俺の年齢欄を見たあたりで。
しかしまあ、その反応は想定のうちだ。いろいろ事情があって可能な限り最速で騎士になりたい俺と違って、極普通の感性の持ち主は若い身空で命張ったりはしまい。
誰しもがそう思っているのだから、実際に12歳のガキが試験受けに来たら驚きもするだろう。親父殿みたいな厳格で筋を通す頑固者でもなけりゃ親がまず反対するだろうし。
……この試験、15歳以下が受験するには保護者の同意がいるんだよね。
「それでは……受理しました。中に入って突き当たりの大部屋で待機してください」
「わかりました」
流石はプロと言うべきか、受付のおねえさんは一瞬の内に、少なくとも見る限りでは完全に冷静さを取り戻していた。
俺はその指示に従い、建物の中に入っていく。これから待ち受けているらしい命がけとやらに内心ガクブルになりながら。
だからだろうか。受付のおねえさんがボソッと呟いた一言を聞き逃してしまったのは。
「今年は凄いわね……C会場に来たって言う女の子に続いて、12歳の最年少受験者が二人目か……」
◆
俺は建物に入った後、案内に従って受験者達が集う大部屋へと向かった。これから数日の間命を預ける事になる、腰に下げた剣を握りながら。
「うわー……殺気だってるなー……」
着いた大部屋には既に多数の受験者が集まっていた。それはいいんだけど、そのほとんどが全身から闘気と言うか殺気と言うか、とにかく殺伐としたオーラを放ってるんだよなこれが。
(まあ、これからしばらく命がけの試験を受けると思えば当然なのかな?)
俺はそう思うことにしたが、しかし俺自身が思っていた以上に冷静なのがなんか引っかかるな。元日本人的な意味で、今一命がけって奴を理解してないからだろうか?
……毎日走馬灯を見るような修行の日々のせいで、その辺の感覚がぶっ壊れてるとかだったらやだなぁ。
「何でガキがこんなとこにいんだ? 誰かの見送りか?」
「ん? えっと……俺?」
何か話し掛けられた。いかにも強そうなガタイのいいスキンヘッドの兄ちゃんに。
町であったら即リバースの外見だけど、場所が場所だ。体を鍛え上げているのは当然だし、頭だって修行僧的な意味で剃ってるだけかもしれない。
そう言う事にし、俺は外見の偏見を捨てて応答する事にした。
「受験者ですよ、これ受験証ね」
「なっ!? ……おいおいマジかよ、何考えてんだ坊主? 遊びじゃねーんだぞ?」
うーむ……今一対処に困るな。これがどう見ても子供の俺を舐めてちょっかい出してくるような小悪党なら強く対応すればいいんだけど、マジで驚いているようにしか見えない。ぶっちゃけ、この兄ちゃん心の底から俺を心配してくれている素直な良い人なんじゃないかと思う。
しかし子ども扱いされて黙っているわけにも行かない。まあ子供なんだからこの兄ちゃんの対応は間違っちゃいないんだけど、しかしここにいる以上対等な受験者だ。
一次試験がどんな課題を出されるのかはわからないにしても、やはりペアでの試験が確定している以上は他の受験生からの評価を落とさない方がいいだろう。
「遊びじゃなくて、本気で……合格するつもりで来ています。そう、本気でね」
子供がすごんでも迫力は無いかもしれないが、精一杯気を張ってみた。強がる必要はないが、舐められちゃいけない。自分で言うのもなんだけど、めっちゃ注目されてるし。
やっぱ、子供ってだけで目立っちゃうな。この兄ちゃんの真意はまだわかってないけど、下に見られるつもりはないとだけははっきりさせとかないとな。
……内心、ガクブルだけどさ。だって、ここの人たち皆強そうなんだもん。
(自分の力量ってやつが今一わかってないんだよなぁ。魔物に惨敗の時点で大したことないってのだけはわかってるけど)
俺は、はっきり言って自分の力に自信がない。訓練相手が国内有数の使い手である親父殿な以上、産まれてこのかた勝利経験なんてジジイの使い捨て量産ゴーレムくらいだしなぁ……。
そんな俺としては、こんな強そうな兄ちゃんに対等な関係なんて求めるのは結構恐怖なのだ。
でも、この兄ちゃんは思いのほかあっさりと俺の言葉に頷いてくれたのだった。
「そうか、そいつぁすまなかったな。本気ってんなら、俺も手加減はしねぇぞ?」
意外にもこの兄ちゃん気さくだった。あっさり俺を対等と認め、ライバル宣言してくれたのだ。
「俺の名はソウザ。試験で会うかも知れねぇが、そんときゃよろしくな」
自分の言いたいことだけ言って、兄ちゃん――ソウザさんは去っていった。思いがけずいい人だったけど、それはそれでこの先の試験を思うとやりづらいな。
「静まりたまえ。一次試験担当の試験官、ハングだ。これより一次試験の説明を行う」
――っと。ソウザさんと話してた内にもうそんな時間か。
壇上に現れたのは、騎士団服を纏った30ほどの男性。全身から『俺は強者です』ってオーラ放ってる厳ついおっさんだ。
「これより行う試験は、近隣の試験場で行われるサバイバルだ。詳しく説明するまでもなく君らはそれを知っているとは思うが、一応説明させてもらうぞ」
やたら偉そうだが、まあこの人も騎士団の正式メンバーだ。偉そうなのではなく、偉いと言うことだろう。
元日本人としてはそれでもどうかと思う態度だが、国も世界も違うここではこれが普通……なんだと思う。
「見習い騎士試験は二つの試練によって成り立っている。我輩が担当するのは第一次であり、これを突破できない者は第二次に進む資格すらない。故に、ここで話すのは我輩担当の第一次のみだ」
……知ってたことだけど、やっぱ厳しそうだな。周りの強面兄ちゃん達の殺伐とした雰囲気が更に強烈になったし。
これでも顔色一つ変えない辺り、流石は正規の騎士ってところかな、ハング試験官は。
「一次試験は二人一組のチーム戦だ。ペアで試験に挑み、合否を判定させてもらう。このペアに関しては後ほど説明するが、今は一次試験の内容を話すとしよう」
一番気になってた所がスルーされたな。意地の悪い試験官だ。
二人一組で挑む以上、相方の実力は非常に重要な要素となる。それ次第で合否すら左右されるであろうことを考えれば、気になって仕方ない話といえる。
それを一回話題に上げてから別の重要事項を話すとか、こっちの集中を乱そうとしてるとしか思えんな……。
「君達にやってもらうのは、『護送任務』および『奪還任務』だ」
「ご、護送……?」
「奪還……?」
「どう言うことだ?」
会場がざわめき出す。必要最低限の言葉で伝えられた難易度高そうな言葉に、会場の受験者達が周囲と話し始めたのだ。
そんな受験者達の動揺を満足そうな顔で眺めた後、ハング試験官は軽く手を上げて会場を静めてからより詳しい話を始めた。
「先ほどペアになってもらうと言ったが、この試験では更にチーム単位で二種類に分かれてもらう。便宜上、黒の国と白の国の二つにな」
「黒と白……?」
「受験者同士で別の国に属している設定って事か?」
「その通り。察しのいい者は既に理解したかもしれんが、属する国によって指令内容が変わるということだ」
そう言って、ハングさんは懐から白い箱を取り出した。片手で持てる程度の小さな箱で、多分木製だ。
「この箱の中には、白の国にとって重要なある物が入っている。白の国の騎士は、この箱を規定時間まで無事に守りきるのが任務だ」
「規定時間?」
「それは後で説明しよう。そして黒の国だが、黒の国もやはり同様にこの白い箱の中身を欲しがっている。黒の国の騎士は、白の国の騎士から箱を奪い取るのが任務と言うわけだ」
つまり、白の国になったものからすれば奪われないように箱を守り通すのが試験内容。黒の国からすれば他の受験者と戦闘してでも箱を奪い取るのが試験内容と言うことか。
だが、これだけだといろいろ例外も考えられるよな。それはどうするんだろ――
「ちょっと待ってくれよ! 試験会場って森の中なんだろ!? だったら白側はどこか適当な場所に箱を隠しちまえば黒側に勝ち目は無いじゃないか!」
「それに、白側は最初から目的達成のブツを持ってるんだろ? ただじっとしてればいいだけの白とターゲットを探さなきゃいけない黒と難易度違いすぎるだろ!」
他の受験者がハング試験官に向かって抗議の声を上げた。
俺としても、その抗議は正当なものだと思う。その規定時間ってのがどのくらいの長さなのかは知らないけど、この試験は白が有利すぎると思うんだ。
そんな受験者達の叫びを前にハングさんは押し殺すような笑い声を上げた後、その疑問に答えたのだった。
「君達の言い分はもっともだ。だが、同時に無知の先走りとも言えるな。……まず、この試験の規定時間は三日だ。白の国の騎士となったものは、三日もの間そこら中にいる敵国の騎士から逃げ続けねばならないわけだな」
三日か。流石に不眠不休ってわけにもいかないし、食事を探す必要もあるだろう。となると、どうしてもじっと隠れているわけにはいかないか……。
「そして、護送任務である以上一度奪われたらそれまでだ。仮に取り返したとしても、白の国の騎士は任務失敗と見なされる。もちろん奪われたその場で取り戻せば問題ないが、一度敵を見失ってから再度取り戻した所で中身が無事と言う保障は無いからな」
それはまた、白の国は気を緩める暇がない話だな。一度奪われて逃げられればその時点で失格。そのプレッシャーの中じゃ、精神と体力を極限まですり減らして過ごす破目になりそうだ。
「もちろん、先ほど誰かが言ったように隠すというのも無しだ。国が信じて託したものを体から離すなどありえんよ。白の国の騎士となったものは、常に敵の諜報が目を光らせていると心得よ」
まあ、そりゃそうか。一度逃げられたら失格なんて条件である以上、一度手放してしまえば失格となるのは当然と言えば当然だ。
実際には誰も見つける事ができないかもしれないけど、この分じゃ監視役の試験官が自ら隠したブツを回収するくらいの事はしそうだ。
「三日たてば白の国から増援がやってくることになっている。つまり、白としては三日すれば箱を部隊に任せる事ができると言う設定だな。逆に黒は、三日以内になんとしてでも箱を奪う必要があるわけだ」
「黒の騎士は、箱を奪った瞬間に合格なのですか?」
「いや、先ほども言った通り黒の国も箱を必要としてる。つまり、制限時間以内に増援が来ても手が届かない場所まで箱を無事に持っていく必要があるわけだ。今回はこれを森の外と設定した」
つまり、白の騎士は三日間の間箱を持ち続ければクリア。黒の騎士は箱を奪い、森の外に出ればクリアと言うことか。
そのルールだと、黒には黒の利点があるな。白の騎士はどう頑張っても三日フルタイムで試験を続ける必要があるけど、黒の騎士は運がよければ開始数分でクリアできる。二次試験の為に極力自分の能力を隠しておきたい受験者側からすれば少しでも自分の情報が漏れるのは避けたいわけだし、試験時間が少なくて済むんだったらそれにこしたことはない。
っと、考察もいいけど話も聞かなきゃな。まだ説明終わってないみたいだし。
「話を続けるが……当然、箱を破損させれば失格だ。守る立場である白はもちろん、目的物を壊すなど黒としても手痛い失点と言えよう。まあ黒としては他のターゲットから再度奪えば良い話なのだが、持ち帰るべき物を自らの手で破壊すれば非常に印象が悪くなるだろうね」
つまり、足きりか。もし任務達成者が試験官から見て多すぎた場合、二次試験に不都合が出ない人数まで失格判定を受けることになる。ハング試験官が言っているのはそう言うことだろう。
「さて、ここまでで質問はあるかな? ないなら次の話に移るが」
……ないよな。あえて言えば黒側は箱を奪って外に出るのを五分で済ませられるかもしれないけど、白側は絶対に三日間のサバイバルを要求されるってことくらいだ。
実際には全力で隠れる白側をそんなに早く見つけられるわけもないし、結局極限バトルになりそうだけど。
「これってどうなんだ? 黒と白、どっちが有利なんだ?」
「黒ならば敵から攻撃される心配をすることなく行動できるが、絶対に白との戦いに勝利しないといけない。逆に白ならばうまくいけば戦闘無しでクリアできるかもしれないが、三日もの間神経すり減らさねばならないわけか……」
他の受験者達も、それぞれ周りの者と意見交換を始めている。この質問タイムとでもいうべき空白時間を使って少しでも有利な情報を掴もうとしているんだろう。
「……ないようだな。では、次の説明に移ろう。君たちが目を血走らせて追う事になる箱についての詳しい説明だ。先ほど我輩は白の騎士から箱を奪えばいいと言ったが、当然その箱が本物である保障は無いわけだ。もしかしたら白の国が用意したダミー……囮だと言うこともありえるのはわかるな?」
「まあ、確かに敵に狙われてるのがわかってたら偽者の一つも用意するよな」
「そこでだ、今試験では確実に本物であると確信できる物を持ち帰って初めて黒の騎士は合格判定を受ける事となっている」
また会場がざわめきだした。一体何を持って本物であるかを判定するのだって疑問だろう。
「静まりたまえ。そう難しい事は言わないからな。……ズバリ、黒の騎士の諸君は白の騎士から箱を奪ったら開ければいい。その中にはこのようなカードが入っているからな」
そう言って、ハング試験官は小さなカードを取り出した。ちょっと遠めでわかりづらいけど、多分数字で『1』って書いてあると思う。
「カードには1~3のいずれかの数字が記入されている。そして、黒の騎士になった者には予め数字を割り振る事になる。……ここまで言えばわかるかな?」
「つまり、自分の数字と一致するカードを入手しない限り合格にはならないってことですか?」
「その通りだ。ああ、ちなみに極少量だがハズレも入っている。もしそれに当たったらある意味ラッキーだぞ?」
……ハズレもあるんかい! 命かけて白の騎士から箱強奪して成果が『ハズレ』じゃ気力も精神力もやる気もなくなるっての!
そんな事を恐らく会場中の受験者が思っていただろう。そんな空気の中、一人の受験者が手を上げて質問した。
「あの、それなら白の騎士は予め箱を開けて『自分達はハズレだから襲っても無駄』とか言うのもありなんですか?」
「あ、そうか。そうすれば襲われることはなくなる」
「ハズレなんて相手にするだけ時間と体力の無駄だもんな」
なるほど。ハズレと聞くと何か力抜けるけど、白側からすればそう言う考え方もあるのか。ハズレじゃなくてもターゲットではないと言い切ることもできるし、事実上敵を三分の一にできる作戦だ。
……まあ、ハング試験官のSオーラ全開の笑みを見る限り、どうやらその手は通用しないみたいだけど。
「なかなか考えたと言いたい所だが、却下だ。先ほども言った通り、白の騎士からすればこの箱は国から託された預かり物。許可なく開封するなどもってのほかだよ。白の騎士には三日間の試験期間終了時に箱を提出してもらう。未開封のな」
白の騎士の合格条件は、箱を手元に持っていてかつ未開封であることってわけか。
何でわざわざカードを箱に入れるなんて面倒くさい真似するのかと思ったけど、カードの数字を相手に見せる作戦を潰す為だったんだろうなきっと。
「さて、箱に関しての説明はこのくらいだろう。次はペアの決め方と白と黒の国への配属法だ」
おっと、今度は質問コーナーも無しで次の説明に移ることとなった。それも、もしかするとこの試験の合否を一番左右するかもしれないペア決めだ。
これはある意味試験内容そのものよりも重要な話だし、会場がシーンと静まり返ってるな。唯一喋ってるのはハング試験官だけだ。
「まず配属についてだが……白と黒、どちらになるかは速いもの勝ちだ。自分達でどちらがいいのか決めるのだ」
「は、速いもの勝ち……?」
徒競走でもしろと言うのだろうか? 会場の人間に真意をつかませないまま、ハング試験官は淡々と説明を続けた。
「本受験を希望した者は全部で153名。つまり、最大で76のペアが作れるわけだ。それを均等に振り分けるとして、両国とも最大で38ペアまで振り分けられることになるわけだな。これが黒と白の上限だ。片方上限に達していた場合、自動的に残りのペアはもう片方と言う事になる」
153人? そんなにここにはいないぞ? ……まあ、他にも会場があるってことかな。
そんな些細な疑問よりも、今大切なのはペアについてだ。
「さて、ここからが君達のもっとも知りたがっていたペア決め方法を説明だ。……今より三十分の時間を設ける。その間に君らで自分のパートナーを見つけるのだ」
「な、なにぃ!?」
「俺らが決めていいのか!?」
「いや、でも誰を!? つか割り切れなくね!?」
……また、これは大混乱だな。三十分以内に自分のペアを決めろ? 一次試験突破の重要要素であるパートナーをこの中から? 知り合いなんて一人もいないこの大人数の中から?
「もちろん、君達の事はこちらで事前に調べてある。知り合いが同じ試験会場に集められることはないから、知り合いがいないと焦る必要は無い。全員条件は同じだ」
「じゃ、じゃあどうやって自分のパートナー決めるんだよ! くじ引きでもしろってのか!?」
「つか、数えたらこの会場51人しかいねーぞ! これじゃどうしてもあぶれが出ちまうだろ!」
会場は更に混乱していく。だが、その混乱を前に更に笑みを深めたハング試験官は、黙って巨大な砂時計を取り出したのだった。
「この砂時計はきっちり三十分測ることができる。君達の問いに答えるのならば……この砂時計が落ちきるまでに自分のペアを決められなかったものは、その場で失格だ」
その言葉を前に、会場はいっきに静まり返った。皆、その言葉の意味を理解したのだろう。
すなわち、これから始まるのはいわばゼロ次試験。一次試験に参加する資格を得る為の最初の試練なのだと。この段階で、最低一人は確実に失格になることを。
「では、開始としよう。ペアを決めたらそこの扉から別室へ移動するのだ。……頑張りたまえ」
ハング試験官の手により、砂時計は回転した。その大量の砂がゆっくりと落ち始めたのだ。
その瞬間、会場は爆発したように複数の声に包まれたのだった。
「お、俺は接近戦等を得意とする剣士だ! 自分で言うのもなんだけど、かなり強いぜ!」
「私は魔術師だ! 氷を操る呪文を得意としている!」
「俺様は格闘家だ! 俺の拳を味方にしたい奴は俺の元へ来い!」
始まったのは、受験者による乱雑なアピールタイム。自分があぶれとなりここで失格にならないよう、仲間を集う目的で自分の強みを大声で叫んでいるのだ。
だが、それは確かに有効な手段だが同時にリスクもある。なんと言っても、自分と組んだ一人以外はこの後敵になるのだから。
(ここで自分の能力を大声で宣言しちゃうと、当然この後の試験で情報面で一歩不利になる。きっと、このゼロ次試験で求められているのはそう言う能力。自分の情報を周囲のライバルに隠しつつ、優秀な力の持ち主を見つけ出すのが趣旨なんだろう)
そう考えると、第二次試験で個人によるタイマンが用意されているのも意地の悪い話だ。手の内を晒さないようにパートナーにすら自分の手札を隠したいってのに、こんなところで暴露させてるんだからな。
(とりあえず、今職業までぶちまけている連中は除外したい所だ。まずは一次試験の突破を最優先にしたいし)
クラスを教えると言うことは、つまり自ら自分の能力や長所、逆に弱点や短所を赤裸々に公開しているに等しい話なのだ。これはゲーム知識とはまた別に親父殿から教わったことなので間違いない。
状況変化に焦ってそんな重要情報を考えなしに暴露してしまうような短絡的な奴とは組みたくないってのが本音だな。
……しかしここにいる連中、皆一次職には就いているんだな。騎士がまず一次なのにどう言う事なんだとは思うけど、そもそもゲーム的な意味でのクラスって概念がないんだからしょうがないか。
(この試験で言う騎士ってのはあくまでも称号であり、役職だ。スキルやアビリティを所得する為のクラスとは根本的に違うって事だろうな)
一口に騎士と言っても、その仕事はいろいろある。ならばこそ、コピーかクローンのように同じ事しかできない面子を集めるよりも多種多様な人材を集めた方がよい。
故に剣を得意とするもの、拳を使った格闘術を得意とするもの、肉弾戦は苦手でも魔法を得意とするものなどいろいろ集まっているのだ。
(要するに、騎士を目指す奴の中にもいろいろいるってこったな)
連中の言う剣士とか魔術師ってのはゲームにもあったクラスだ。だが、ここで言うのは自分は剣を修めてきたとか魔法を得手としているとかそんな意味合いのはずだ。
俺ならば、それに当てはめれば剣士だろう。ジジイに魔法も習ったとは言えやっぱ苦手で、基本的には剣を主軸に据えてるしな。
それに見たところ、この会場にいる奴の内の三分の一くらいはアピールなんてしてないみたいだしな。多分俺と同じ考えにたどり着き、情報を隠している奴に狙いをつけてるんだろう。俺もあの辺から狙うべきか――
「諸君! 僕を見たまえ!」
とまあそんな風に頭の中で状況整理したり現実逃避していたとき、自ら壇上に上がった一人の金髪碧眼の美男子が現れた。
皆何事かと一斉に壇上へと振り向く。俺も同じように金髪の魔法使い風装備の男を注視したのだった。
「……僕の名はクルーク・スチュアート! 魔法の名門スチュアート家の三男であり、炎の魔法を操るウィザードである!」
「……だから?」
全員唖然としている。まさかわざわざ試験官が退室して無人になった壇上に上がってまでやる事が他の連中と同じく自己アピールとは思わなかったのだ。
いやまあ、確かに目立ってると言う意味ではこれ以上無いくらいに成功している。この会場にいる全員が彼の容姿と能力をはっきりと認識しただろうから。発言のたびに一々行われる、煌びやかな魔法使い衣装で行われる舞台役者のような身振りと共に。
「僕ほどの大天才がこの会場にいた事を君達は感謝すべきだ! さあ、僕のパートナーになりたいものは前に出たまえ!」
会場の凍りついた空気を感じ取れないのか、そもそも空気を読むなんて能力備わっていないのか、金髪の頭軽そうなイケメン――クルークは高らかに超上から目線で更に言葉を追加した。
……とりあえず、アレはないな。会場中の心が一致したような気がする。
「どうしたのだ? 遠慮せずに――」
「えっと、俺は接近格闘戦を得意としている。白の騎士として同じ格闘型がコンビで守護すると言うのはどうだ?」
「俺は奇襲能力が自慢だ。そこで遠距離攻撃が得意だと言う君と組んで黒の騎士になると言うのはどうだろうか――」
壇上のクルークを無視して受験者達はそれぞれ交渉に移り始めた。何となくあぶれの一人になりそうな馬鹿が現れたせいか、さっきよりも皆冷静に事に当たってる気がする。
(しかしそうか、バランスよく戦士と魔法使いで組めばいいってわけでもないのか。なんで合格条件を二種類も出したのかと思ったら……多種多様な能力の持ち主達に自分にあった方を選ばせる為だったってわけか)
守りの白の国を選ぶのならばスタミナと防御能力を。攻撃の黒の国を選ぶのならばスピードと攻撃能力を。そんな感じに考えて自分にあった方を選べってことになるわけだな。
となると、どっちを選ぶのかは早い者勝ちってルールにも大きな意味が出てくる。ペアが成立してから国を選ぶって話だったから、最悪二人して適正のない国に配属されるってこともありえるわけか……。
(って、そんなこと考えてる内にどんどん人減ってないか!? こりゃ俺も早く動いた方がいいな)
気がつくと、既に半数の受験者が別室へ移動していた。砂時計の砂も半分近くが下に落ちてしまっている。思っていた以上に俺は考え込んでいたらしい。
とにかく行動にでるか。屋敷の敷地と魔物の巣窟くらいにしか出向いてなかったせいで若干人見知りになってるとは言え、こりゃ躊躇してる場合じゃないな。
そう考え、俺は近くの剣士風の男性に話しかけたのだった。
「あの、俺と組みませんか。俺も剣には自信があるんですけど、それで――」
「あー、悪いがパスだ。いくらなんでもこんな大事な試験で子供に付き合うつもりは無いんでな」
「え……」
言葉による一刀両断。剣士風の男性は俺の誘いを一も二もなく断り、他の受験者の所へと行ってしまった。
(いや、うん。くじけるな次行け次)
ちょっと心が折れそうになりながらも、俺は次の候補者へと話し掛けた。
しかし――
「ガキの遊びに付き合う気はねぇ」
「この先は命がけだ。悪い事言わないからさ、ここで帰っときなよ」
「邪魔だ」
相手にされない。全く微塵も相手にされない。イジメかってくらいストレートに拒絶される。
でも、それもそのはずだ。だって、俺12歳の子供なんだもん……。
(そりゃそうだよねぇー!! 誰だってどう見ても他の受験者より一回り小さい子供と組もう何て思わないよねぇ!! 俺自分が子供だってことをすっかり忘れてたよコンチクショウ!!)
どうやら、俺は自分で思っていた以上にテンパッてたらしい。他の受験者の能力を見極めようとするばっかで、俺自身が周りからどう見えるかが完全に抜け落ちてた。
これは完全に俺の失態だ。まあ才能溢れるレオンハートの体なんだからすくすく健全に成長こそしてるんだけど、この年代の子供にとって一年二年の差は非常に大きい。まして俺を除けば記念受験の15歳くらいが最低の試験場ではその小ささがより際立つのも当然だ。
(ヤバイ、ヤバイよこれ。このままだと一次試験に進むことすらできないぞ……)
俺が無駄な努力をしている間にも人はどんどんいなくなり、そして時計の砂もほとんどなくなってきた。
残り人数は俺を含めて11人。この中から何とかしてパートナーを見つけないと……。
「おや少年、君も受験者なのかい?」
「え……あ、あんたは……」
「君のような子供でも知っているだろう? この希代の天才魔術師クルーク・スチュアートのことならね!」
途方にくれていた俺に話しかけてきたのは、さっきの馬鹿だった。やはりと言うかなんと言うかペアからあぶれたらしいのだが、何故かこの期に及んでも自信満々だ。
「何か用ですか?」
「いやなに、ちょっと気になったのでね。他の連中があまりにも見る目がないから気ままに散策でもしていたのだが、君が身につけているのはかなりの上物だとこの僕の輝く眼が訴えかけてきたのだよ!」
「へ?」
俺が今身につけているのは、親父殿から貰った鎧だ。この試験の為に子供サイズを特注してくれたもので、いつもの訓練用に使っている重いだけのものとは違う実戦用だ。
それと、腰に下げた剣もあるか。肉厚で折れにくく、切れ味もなかなかのもの。更に対人戦を想定して峰打ちができるように片刃の長剣で用意してもらったんだよね。
これらは親父殿の伝手で作られた以上、半端なものでは無いはずだ。俺にはそう言うのはよくわからないけど。この世界にはゲームみたいに全く同じ製品なんて存在しないし、ステータス閲覧なんてできないしな。
「君、名前はなんと言うんだい?」
「……レオンハートだけど」
「そうか、姓はなんだい?」
「シュバルツ。レオンハート・シュバルツ」
俺は早く何とかしてパートナーを見つけたいのだが……なんて心の声なんぞこの男に聞こえるはずもなく、クルークは大きく両手を上げて感動したように叫んだのだった。
「おおっ! かの剣の名門と謳われるシュバルツ家の嫡男か! ガーライル副団長が大事に育てていると言う未来のエース君だね!」
「え? えーと……え?」
確かに親父殿は騎士団副リーダーの地位に上り詰めているし、レオンハートならば将来のエースと言えるだろう。
だが、俺が入ったせいでいろいろやらかしたレオンハートになんでそんな噂が立ってるんだ?
「それならその装備にも納得がいくよ! 飾りを排除しながらも強さと言う美しさを強調する造形。まさにシュバルツ家の人間が好みそうなデザインだ」
「は、はぁ……」
この鎧、そんなコンセプトあったのか? てか、親父殿もあんまり外見には拘ってないと思うんだけど……イメージ的に。
っと、そんなこと考えてる場合じゃない。また一組ペアが完成しちゃってるよ! 早くしないと――
「さて、レオン君。君に提案があるのだが?」
「なんですか!? できるだけ手短にお願いします!」
残り9人。もう4組しか作れない。時間も無い。早くしないと失格になる。
そんなこの場の誰もが感じている焦りを全く感じていないようで、クルークはあっさりとその言葉を言ってのけたのだった。
「僕と組まないかい? かのシュバルツ家が認めたのなら実力十分だろうし、この大天才である僕とも釣り合いが取れるだろうからね!」
そんな風に、一応問題解決になる提案をあっけらかんと言ってのけたのだった。