第79話 最高の天運
今章ラスト。次章のための息継ぎ回なので短めです。
(領主……この辺りで、一番偉い人ってことね)
騎士位は貴族位と同等の権威を持つとされる。その中の中級騎士である俺なら、まあ大抵の貴族の威光を恐れる必要はない。
だが、それでも礼儀を払う必要がないわけではない。礼儀は大切だと口を酸っぱくして教え込まれた身として、膝はつかないが頭を深く下げて迎え入れた。
「みな、楽にしてくれ。今日は領主として来たのではない。……一人の父親として参った」
「父親として?」
「そ、そうだ父上! こいつらに言ってやってくれ! 俺がどんな立場の人間なのか――」
「……その口を閉じよ、恥さらしが」
「えっ!?」
イカサマ貴族は早速現れた父親に縋ろうとしたが、帰ってきたのは恐ろしいほどに冷たい拒絶の言葉だった。
何故自分がそんなことを言われるのかわからないと言いたげに口を空けてぽかーんとなるイサカマ貴族だが、領主殿は厳格な印象そのままな声で、自分の息子を無視して俺たちに対して話し始めたのだった。
「この度は、息子が迷惑をかけて申し訳ない。父として謝罪させてもらおう」
「いえいえ、そんな領主様自らが謝罪なんてぇん……」
「いや、ここは素直に受け取って欲しい。この馬鹿者のやっていることを知りながら矯正できなかった私にも非はあるのだから」
「……では、お気持ちは受け取っておきますわぁん」
意外なことに、この父親は息子とは全然違うタイプの人間らしい。
どうやら本当に謝罪しているらしい様子の領主殿に、俺も座長もすっかり毒気を抜かれてしまった。
「ところで領主様ぁん? 何故こちらにいらしたのですぅん?」
「ああ、この馬鹿息子が出かけたと聞いてな。なにやら嫌な予感がして来てみれば……このような無様を晒しおっていたので堪らず出てきた、と言うだけのことだ」
「ち、父上……」
領主殿の息子を見る目が、所謂ゴミでも見るような目って感じに冷たい。今まで散々でかい態度を取ってきたイカサマ貴族ったら、震えちゃってるよ……。
「し、しかし父上! いつも仰られているじゃありませんか! 貴族とは勝たねばならないと! 私はその教えに従っただけです!」
イカサマ貴族は必死に自己弁護しているが、その言い訳はなんと言うか……あれだった。
いや、言っている事はわかるよ。貴族ってのは、それも領主貴族ともなれば、言ってしまえばその地の王だ。王とは常に最強であり、隔絶した存在でなければならない。常に絶対勝利を約束してくれるってくらいの安心感があって始めて民衆は統治者についてくるわけだからな。
そのカリスマを暴落させない為にも、為政者は常に強くならねばならない。敗北などもっての外で、場合によっては見栄を張ってでも勝利しないといけない商売なんだ。
でも……じゃあイカサマに走るってのはダメだろう。
個人的には「イカサマはギャンブルに付き物」って考えは否定しないけど、露呈した時点で全ての正義を失うのがイカサマだからね。絶対に負けられないってんならともかく、こんな勝っても負けてもどっちでもいいただのお遊びでやっていいことじゃないんだ。
領主殿も俺と同意見なのか、物凄く呆れた様子でため息を吐いた。本人曰く次期当主らしいし、自分の後継者がこんなのになってしまったことを後悔しているのかもしれないね。
「…………そう言えば、お前は騎士殿に勝負しろとか言っていたな」
「え、うん」
「それで、勝ったら見逃せ、とか言っていたな?」
「そ、そうですが……」
「……やはり、教育を間違えたな。せめて交渉術くらい身についているかと思ったが、ここまで愚かだとは思っていなかった」
領主殿は再度深くため息を吐き、これでもかと言わんばかりに落胆した様子を見せた。
それをみた野次馬達は不思議なもので、領主殿に好意的な視線を向け始めている。まあ、息子があんなのであるって事実への同情の視線だけど。
「……騎士殿、一つ提案がある」
「なんでしょう?」
領主殿は俺の目を見て話し始めた。やっぱり、本物の貴族となると凄い迫力だな。
貴族ってのはとにかく安全な場所から指示を出すのが仕事と勘違いしているのが多く、傲慢な役立たずが多い。そんな勘違いしちゃってる連中の愚行が最近問題になっているけど、迫力が服着て歩いているような本物もしっかりいるんだよねぇ……。
「この愚か者の提案、一部受けていただけませんかな?」
「一部、とは?」
まさかイカサマ賭博の現行犯および国法違反を見逃せってわけじゃないだろう。
人がいない場所ならともかく、この人は公衆の面前でそんな交渉するほど考えなしではないだろうし。
「まず大前提として、勝敗に関係なくこの馬鹿者は連行してくだされ。それは決して変わらぬ決定事項です」
「父上!?」
それじゃ意味が無いと、イカサマ貴族は叫んだ。
だが、領主殿は微塵も気にせずに自分の話を進めるのだった。
「むろん、このような茶番を引き受けていただく以上、騎士殿が勝利すれば相応の礼金を支払うとお約束する。と言うより、勝敗に問わず支払っても構わない」
「いえ、流石にそれを受け取るわけにはいきません」
後で賄賂受け取ったとか言われても困るしね。政治と金の問題はどんな世界でも怖いものだ。
「……そうですな。失礼しました」
「いえ、問題ありません」
「では、純粋な勝負として、騎士殿が勝利すればそれに相応しい金銭――カジノコインでいいですかな? それをお支払いしよう」
「極普通の賭け事ですね。では、こちらが負けた場合は何を要求されるおつもりで?」
今のところ別に断る理由はない――そんなことをするだけ時間の無駄ってのはあるけど、領主貴族の要求を跳ね除けるほどのことじゃない――が、俺が負けた場合の条件次第じゃ断固拒否しないといけない。
それは勝てばいいなんて話ではないからな。さっきみたいに罪人を見逃すなんてことを賭けの対象にしたりすれば、場合によっては罪人を自分の意思で逃がしたってことになっちゃうし。
だが――
「特には何も」
「え?」
「騎士殿が敗北した場合でも、私から要求することは何もありません。そちらの損は、精々勝負の時間を無駄にしたというくらいですな」
領主殿の要求は、ある意味予想外だった。だって、何も要求してこないんだもん。
「では、何故勝負を? こちらからすればノーリスクのギャンブル、と言うことになりますが」
「むしろ当然でしょう。多忙な騎士殿の時間をこちらの私情で取らせるのだ。言ってしまえば、この条件は私からの謝礼と思っていただきたい」
領主殿はそこまで言った後、展開についていけていないイカサマ貴族の方へ初めて振り向いた。
そして、底冷えする声でゆっくりと語りかけたのだった。
「よいか、この勝負で賭けるのは、私の立ち位置だ」
「た、立ち位置?」
「そうだ。もしこの勝負で敗北すれば、私はお前に対して一切の弁護を行わない。人員的な意味でも資金的な意味でも、お前はお前一人で裁判に挑むのだ」
「そんな!?」
最初から最後まで父親の、貴族の威光だけでできているような男だったのだろう。そんな男が突然手を離されて一人で立っていられるわけがない。
本人もそれを理解しているのか、もはや切り捨てると言っているも同じ父親のその宣言に目を見開いた。
そんな息子に対し、父である領主殿はどこまでも冷たく更に言葉を綴った。
「なに、勝てばよいのだ。もしお前が勝てば、まあ最低限のことはしてやる。この状況で無罪を主張するのは無理があるが、減刑嘆願くらいはしてやろう」
「そんな……」
無条件で父親の庇護を受けられたはずのイカサマ貴族は、ここにきて崖っぷちだ。
さっきまでの張りぼての自信は崩れ去り、今のこいつは父親にただ助けを求める無力な子供。そんな、本当の顔を晒しているのだった。
「先ほど自分でも言っていたが……上に立つものにとって、勝利とは決定事項だ。それが無様に不正を暴かれ、何の反論もできない。そんな愚か者を一族として認めるわけにはいかない」
「で、でも……」
「故に、これは最後の審判だと思え。己の力で勝利する。それが最後の希望を手にする絶対条件だと思ってな」
領主殿はそこで話を打ち切り、眼力で息子の反論を封じた。
そして、再度こちらに振り向いて一言告げた。「この勝負、受けていただけますかな?」と。
「……了解しました」
俺はその要求に、首を縦に振る。言ってしまえば、この勝負は彼が父親としてかけた最後の情け。それをやる前から跳ね除けるほど俺も鬼ではない。
……長い話にすっかり飽きてこの前一座の人に貰った知恵の輪に挑戦していたカーラちゃんも「勝負を挑まれたんだから受けるわよね!」と興奮しているし、すっかり蚊帳の外に置かれつつも自分の取り分のコインはちゃっかり回収しているアレス君が期待した目で見てくる以上、俺に否定の権利など最初から無いみたいだしね。
「では、勝負方法はこのままポーカーでいいですか?」
「構いませぬ。あまり時間を取らせても悪い、チップの駆け引きなどは度外視した一発勝負としよう。より強い運命を引き寄せる力を持つ者が勝つ。ただ役の大きさを競うゲームだ」
領主殿が提案したルールに俺は軽く頷き、アレス君がさっきまで座っていた席についた。
そして、成り行きでそのままディーラーを勤める気らしい野次馬の男が慌ててカードを集め、シャッフルしだす。
特に文句はないので俺は黙ってその様子を見る。他のギャラリーも座長も、そして領主殿も特に興味はないらしく無言だ。
そんな中、状況を理解したのかイカサマ貴族はゆっくりと顔を上げ、俺を睨みつけてきた。これでもかと憎しみを込めた目で。
◆
(クソクソクソッ! 何でこんなことになった!)
いつも通りの遊びのはずだった。いつも通り、ちんけな賭場で小遣いを稼ぐだけの簡単な遊びだったはずだ。
暇に飽かせて磨いた俺のイカサマ技術は、自慢してもいいくらいに高レベルで身についていると自負している。元々こんなギャンブルなんてものに正々堂々挑む方が愚かなのだ。勝利する為、勝負の前に策を練るのは上に立つ者として当然だと父上はいつも仰っていたのに……何故俺を否定する!
(クッ……! 既に父上は俺を無罪放免にすることはないと公言してしまった。貴族の言葉は尊く、それ故に容易く撤回できはしない)
俺は追い詰められている。既に勝っても負けても目の前のクソッタレに引きずられて法廷に立たされる事は既に確定してしまったのだ。
しかし父上の口添えがあれば、裁判なんてどうにでもなる。俺は尊い貴族。こんな小さな事件の罪など、どうにでも出来る立場なのだ!
だが……
(それはあくまでも父上の力があってこそ。父上が庇ってくれなければ爵位を持つわけでもない俺は……裁かれる!)
所詮はイカサマ。賭場で小銭を稼ごうとしたくらいでそんな重罪を負うことはないだろう。
だが、それでも王都で正式に罪人と認定されるというのは俺の名を著しく傷つける。それこそ、俺の貴族としての今後の人生に影を指すかもしれないほどに。
俺の輝かしい未来を守る為には……勝つしかないのだ、この男に!
「では、カードをお配りします。この勝負では賭け金なしの純粋な役勝負とのことなので、まず場札を公開させていただきます……」
俺が選んだ男が山札の上から五枚をめくり、場に晒した。……ふむ、『炎10』『炎11』『炎A』『水10』『風9』か。
既に10のワンペア。ここからなら4カードを、あるいは炎のフラッシュ……いやストレートフラッシュでも狙えるな。これは高役勝負になりそうだ。
(このゲームは降りなしの一発勝負。より強い手札を揃えた方が勝つ運のみの勝負……クソ、そんなのやってられるかよ)
俺が好むのは勝つ勝負だ。勝つか負けるかのギャンブルなんてものに人生賭ける気はない。
俺は腕に仕込んだカードを取り出せないかチラッと周囲を見渡すが、勝負を見物している連中の中に俺の腕に注視している奴が何人かいやがる。
この状況ですり替えは不可能だな。流石に一度暴かれたイカサマをもう一度やるのは危険すぎる。
「では、手札をお配りします」
俺は腕の中のカードを取り出すことなく、そのままカードを受け取る。
配られたのは……『風10』と『炎2』か。セオリーなら『風10』を残して3カードや4カード狙い、もしくは『炎2』を残してのフラッシュ狙いだが……フ、そんな真っ当なギャンブルをする気はない。
『わかっているな?』
『はい』
俺は、目の前の男――この勝負のディーラーを勤めているただの野次馬と言う設定の男に目配せし、予め決めておいた不自然に見えない指の動きを使った暗号会話を行う。
そう、このディーラーこそが俺の切り札。もう一つのイカサマだ。
(吸血騎士も父上も甘いな。切り札は隠し持て。それが破られた場合の次善の策も用意しろ。基本だろう?)
大方、既に暴かれたイカサマしかないと踏んでいるのだろう。だが、俺にはまだ手が残っているんだよ。
カードを配るディーラーが配下である、と言う事実がな。
一見してさえない中年にしか見えないこの男だが、実はそれなりに訓練を積んでいるイカサマ師だ。
この男の技は、カードをシャッフルしているときにある程度の数のカードの配置を記憶してしまうこと。そして、素早い手業によってセカンドディール――山札の一番上以外からカードを引くこと――を行い、望んだカードを手元に引き寄せるのだ。
残念ながら一流とは呼べない力量である為に『全てのカードを操る』とまではいかないが、そこはある程度妥協することでクリアしている。本当なら場札から互いの手札まで全てコントロールして欲しいのだが技術的に不可能なので『カードの交換時に好きなカードを抜いて渡す』と言う技に特化させたのだ。
俺の子飼いのイカサマ師を念の為配置したのがプラスに出たということだな。
周りの野次馬も俺の手元ばかり見てディーラーの方は見ていない。一度俺自身だけで行うイカサマをみた為に、もうもっとも重要な山札を管理するディーラーに意識がいかないのだろう。
この状況は決して望んだものじゃないし、予測していたわけでもないが……まだ俺に運はあるようだ。この勝負は貰ったな。
(炎の札を寄こせ)
俺は手札をいじる素振りに手話を混ぜ、『炎』と単語を伝えた。
これでフラッシュは確定。数字までは操りきれないこの男だが、マークの管理は完璧だ。そう確信した後、俺は最初にカード交換を宣言する。
「私は一枚交換する」
俺は『風10』を裏側で捨て、代わりにディーラーから『炎9』を受け取った。今の動きをよく注意してみればディーラーは山札の一番上からではなく二枚目を手渡していたが、どうやら誰も気がついていないらしい。
(愚かなものだ。愚者は一つを知っただけで全てを理解した気になる。一つのイカサマを見抜いたから他の全てに警戒心を失うなど……所詮その程度か)
この勝負の前提を思い返すと腸が煮えくり返るようだが、運悪く見つかりさえしなければこの程度なのだ。
父上ならあるいは気がついているかもしれないが、わざわざ言葉にしたりはしないだろう。父上は『勝利しろ』とは仰られたが『正々堂々戦え』などとは言われておられないからな。
「じゃあ、俺も一枚交換で」
吸血騎士は手札を俺と同じく一枚交換し、ちょっと目を見開いた。
あの反応が何を意味するのかはわからないが、どうでもいい。既に俺の勝利は確定しているのだから。
(場札から考えて、最強の役は炎のロイアルストレートフラッシュ。だがそれは俺が『炎12』を持っていることで既に消え去った幻想だ)
ポーカー最強の役は、10~Aかつ同じマークをそろえるロイアルストレートフラッシュ。しかし、そのために必要なカードを自分の手札にしている以上何の憂いもない。
次に強いのはストレートとフラッシュの合わせ技であるストレートフラッシュだが、それも『炎12』に加えて今引いてきた『炎9』を合わせれば実現不可能だ。
俺の役はフラッシュだからまだ4カードやフルハウスに負けてしまうが、先ほど『風10』を捨てたのがここで大きい。捨てた以上奴の手札にはもう『10』のカードが二枚揃うことはありえないし、フルハウスの完成も残り一枚の『10』を持ってきた上で更にワンペアを作る超低確率を突破しなければならないのだ。
懸念すべきは同率となるフラッシュを完成されることだが、ディーラーがわざわざ上から二枚目を引いてきた以上トップカードは炎ではなかったのだろう。こいつは全てのカードを記憶できるわけではないが、奴がフラッシュ以上の役を完成させている可能性は極めて低い。
この勝負、まず間違いなく私の勝ちだ!
「ではオープンだが……クククッ! やはり私は天運に見放されてはいないようだね」
「ん?」
「それ、フラッシュだ」
俺は手札を公開し、役を見せ付ける。吸血騎士がどんな手札を揃えたのかはわからないが、負けはありえない。
みたか父上よ? 俺――私こそがアナタの後を継ぎ、次期領主となるべき人間。それを理解していただきたいですね。
「……えーと」
「何だね? さっさと手札を公開したまえ」
吸血騎士はなにやら頬を掻いて、困ったような仕草をした。
まあ状況的に敗北が確定しているのだ。いざ自分がこんな大衆の前で敗北を晒すのは嫌だと言う気持ちもわからなくはないがね――
「……イカサマするなら、100%勝てるようにすることを勧めるぞ? ほら」
「……ほう、『炎13』と『J』……素晴らしい」
父上が公開された吸血騎士の手札を見て、思わずと言った様子で感嘆の声をあげた。
まったく、何が凄いというのだ。『炎13』と『J』など……ん?
(場札には『炎10』と『炎11』と『炎A』。それに『炎13』とワイルドカードであるジョーカーが加わると……え?)
ワイルドカードは全てのカードの代用と言う意味を持つ。この場合、ジョーカーは『炎12』として扱われることになる。
すなわち、答えは炎のロイアルストレートフラッシュ。ワイルドカード込みとは言え、ポーカーにおいて最強最大の役。これ以上は決して存在しない、人生で一度出せれば幸運レベルの奇跡の役……?
それがこの場面で出る? ありえない。ありえて、堪るかぁぁぁぁ!!
「き、キサマ! イカサマしたな!」
「え、なんで?」
「最高役など早々出るものではない! イカサマでもしなければな!」
あまりのことに、俺は恥も外聞も礼儀も捨てて怒鳴った。イカサマしていたのは自分だとか、そんなことはどうでもいい。
こんな結末、俺は認めんぞ!
「……控えよ」
「ち、父上!?」
だが、その怒りは父上の小さくも背筋が凍るような一言であっという間に沈静されてしまう。
何なんだ? いったい何が起きているんだよぉ……!
「運命は強者に味方する」
「は?」
「これはお前自身の持つ天運を図る為の試験であった。そしてその結果がこれだ。イカサマを働いた上で真正面からの完全敗北。もはや一切の情けなど不要だろう?」
「うう……」
やはり、父上は俺の策に気がついていたらしい。
でも、でもでもでも! イカサマなら奴だってしている! していなかったらロイアルストレートなんて出るわけないんだ!
「この勝負、山札の一番上のカード。それはジョーカーであった。つまりお前が下手な小細工などせずにそのまま引いていれば、お前の手元に最高役が転がってきたわけだ」
「……あ」
もし俺の手札に加わったのが『炎9』ではなくジョーカーだったのならば、確かに俺の手役はロイアルストレートだった。逆に奴の手役は炎のフラッシュ止まり。この結果は逆転していたのだ。
そう、普通にやっていれば、俺は完全無欠に奇跡の勝利を手にできた。運命は私を選んでいたのだ。
それを、セカンドディールでディーラーがカードを変えたせいでこの結果になってしまったのだ。それを思い知った俺は、即座にディーラーをにらみつけた。
「ひっ!」
「キサマが余計なことをしなければ……」
殺す。この場で殺す。こいつが無能でなければ俺は最高の天運を見せ付けることができたのだ!
父上の疑心を晴らし、俺こそが最高の後継者だと見せ付けることができた。それをこいつはぁ……!
「止めよ」
「ッ!?」
父上は今日一番に冷たい、殺気すら篭った声で一言告げた。それだけで俺の体は勢いを失い、硬直する。俺にはそれしかできなかった。
父上はそんな俺を無視して、自分の手役に驚いているようにも見える吸血騎士の方へ振り向き、滅多に見られない温和な笑みを向けるのだった。
「騎士レオンハート殿。貴殿の運命を引き寄せる力、見事だった」
「いやー……自分でも驚きですけどね。俺、ギャンブルは弱いですけど……何故かイカサマする奴には全勝できるんですよ」
「フッ……。世を正し、人を守る騎士である貴殿にとっては最高の天運、と言うことですな」
父上は一転して機嫌良さそうに喋っているが、しかし俺への怒気は微塵も衰えていない。
俺は、俺はどうすればいいんだ……?
「ではお約束通り、後で勝者への贈り物をさせていただこう」
「はぁ、どうも……」
吸血騎士は気の無い様子だが、ちょっと嬉しそうにも見える。さてはこいつ、金無いな?
もうそんなことを考えて内心で罵倒するしかできない。俺がそんな自分でも不毛だと思うことをやっていたとき――首筋に強い衝撃を感じた。
「グッ!?」
「さて、我が家の恥をこれ以上晒さないよう、眠っているがいい。後の人生は自分で何とかするのだな」
いつの間にか、俺の背後に誰かいたらしい。恐らくは父上の部下であろう何者かによって、俺の意識は失われていくのだった……。
◆
「それじゃ、王都まではここで縛り上げておくか」
イカサマ貴族との勝負を終え、一座の公演も終了した。これから出発することになる。
それまでの間いろいろ手続きをしていたイカサマ貴族は無事俺の下に連行され、こうして縛り上げられている。王都までは一座の荷馬車の一つに押し込んでおくことにした。
道具置き場に詰め込む感じになるけど我慢してもらおう。大丈夫、あのディーラーを勤めた一般人……の振りをしていたイカサマ貴族の手下と一緒だからさ。
(……父親に見捨てられる、か)
領主殿の言葉。息子であるこの男を完全に切り捨てる発言。
これが、自分のものではない力に頼った男の末路、か。イカサマとは言え技術は大したものだったし、いざと言うときの父親頼りって根性がなければもっと手ごわい相手だっただろう。
しかし最後の最後で当てにするのは自分の者ではないほかの誰かの力。それじゃあ、いざと言うときこうなるってことだ。
そろそろ久しぶりに俺も父親に……親父殿に出会う。そのとき、俺は息子として胸を張れるくらい強くなったのかね……?
「それじゃあ、出発するわよぉん!」
『はーい!』
そんなことを考えているうちに、出発準備が出来たらしい。こうして俺たちは、ちょっとしたトラブルを乗り越えて無事出発することができたのだ。
「……むぅ」
「いい加減に機嫌直してよ、カーラさん」
「うるさいわね! もう一回勝負よ!」
「ふわぁーい……」
移動中。
お子様達――カーラちゃんは、すっかりゲームに嵌っている。どうやら一人だけ勝利を経験できなかったことがご不満のようで、アレス君を捕まえて借りてきたトランプ使ってひたすら勝負を挑んでいるのだ。
しかしアレス君の強運は時に影響されないらしく、連戦連勝を記録している。勝負事で手加減するって発想はないアレス君は当然全力で挑み、結果としてエンドレスゲームへの強制参加になっているらしい。
俺は早々に逃げ出して一座の手伝いなんかをやっている。この平和な時間が続けばいいね。
平和なうちに、これを自分のものにしたいところだしな。
「光の魔力、生成。吸血鬼の心臓、機動。――モード・混沌!」
光と闇の魔力の同時使用。これによって、かつて悪魔と戦ったときの力を自力で引き出す。
まだ成功率は10%くらい。融合がうまく行かずに霧散させてしまう。偶然成功しても維持できずに5秒で解けてしまう。
でも、いつか完全なものにしてやる。この力を、自分のものにしてやる。偶発的に得た、自分の意思でコントロールできない力に頼っても未来はないと再確認したわけだし、俺も気合を入れてやるしかない。
その目標を目指して、俺は魔力を練る。近い未来に待つ、上級騎士試験を見据えながら……。
次回からはいろいろ集大成になる予定の上級騎士試験編になります。
その前に、今日中に今章の人物設定を乗せる予定。




