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【番外編完結】他力本願英雄  作者: 寒天
聖都の光と闇と
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第70話 モード“2”

「……クソッ、マジで強いな」


 俺は穴だらけの身体を再生しつつ、今も降り注ぐ闇の矢を弾きながら頭上のイーエムに悪態をつく。

 魔法一発一発が強力な上に連射性能も高い。その上本体の性能も高い上に特殊能力もあるとか、隙が無い強さって奴か。


「……【光術・光壁(ライトウォール)】」


 小規模な光の壁を展開し、魔法への盾を作る。あまり長くは持たないが、体勢を立て直すくらいはできるだろう。

 でもどうしたものか。奴に有効な光の魔力も無限ではない。既に腕輪に蓄積されている分の大半も使ってしまったし、こんな一時しのぎもそう何度も使えない。


 ……しゃあない、賭けに出るか。


「再生終了――最大出力! 【風術・風竜降臨(ドラゴンダイブ)】!」

「む?」


 俺の実力では到底使えない、上位魔法(メガマジック)。だが腕輪と言うドーピングと、風を操る刃の二つを上乗せすれば強引に形にすることならできる!


「風の竜――」

「地に落ちろ!」


 発動された風術により、空の雲を吹き飛ばすように強大な風の塊が出現する。それは竜の如き容貌を持った竜巻となってイーエムに向かって落ちてきた。

 はっきり言って、俺はこの魔法を作り出すので精一杯。コントロールなんてできやしない不恰好な魔法だが……空中での飛行を不可能に近い状態にするくらいのことはできるはずだ。


「優雅ではないですね!」

「竜に飲まれたくなかったら降りてくるんだな!」


 命中とかそんなことを考えない、魔力を注ぎ込んだだけの魔法。それによって生み出された竜は空でただ暴れている。普通に考えたら魔力を捨てたに等しい行為だな。

 でも、あの魔法が残っている間は空を飛ぶ事はできない。あいつがその気になれば魔法そのものを消し去ることも出来なくはないだろうが、ちょっと降りれば無傷で凌げる魔法相手にそんな無駄遣いはしないだろうな。


「やれやれ、仕方がない。地上戦、乗ってあげましょうか」

「ああ、行くぜ!」


 今の一発で魔法刀と風の腕輪の魔力を消耗してしまった。しばらくは使えない。

 それでも役目は果たしたと俺は剣を握り、初手から全力を発動する。今の俺の限界値、六倍速の加速法を。


「――瞬剣・唯一!」


 刀を真っ直ぐ敵に突きつける形で構え、突進する突き技で行く。単純明快な技だが、六倍速の今ならこれ以上無い必殺となる。

 もっともそれは、俺の速度に敵がついて来れないのなら、だけどな。


「おっと、【肉体変化・茨の豪腕】!」

(――やっぱり反応してきたか!)


 真っ直ぐ進む俺の前に、奴の腕が変化した壁が立ちふさがった。

 その腕はイーエムの身体を覆い隠すほどの巨大さを誇り、更に全面に鋭利な棘がついている。突っ込めばそれだけで死にかねないな。


「――瞬剣・空破竜尾返し!」


 ぶつかる前にバックステップで下がり、それと同時に下段から剣を一振りする。

 同時に普段は発生しないよう魔力で抑えている、高速移動によって生じた衝撃波を起こす。これでこの一太刀は空を裂き、遠距離を斬り裂く真空の刃と化す――!


「ほう」

「まだまだぁ!」


 触れてもいない奴の腕は両断される。だが、その程度では悪魔にとって蚊に刺されたと変わらないダメージだろう。

 それはわかっている。わかっているからこそ、加速法の残り三秒で決定打を与える!


「これで全部だ――【光瞬剣・獅子白十字】!」


 下がると同時に後ろに回り、残る光の魔力を全開にした刃によって十字の斬撃を放つ。

 こいつは六倍の俺にもついてこれる反応速度を持っているが、動きそのものは俺よりも遅い!


「『とま――』」

「遅い! 消えうせろ!」

「【――――】!」


 二重の斬撃によってイーエムの身体は四つに分けられ、同時に光の魔力によってその肉体は見る見るうちに消滅していった。

 十字に斬ると同時に、その交差点に魔力を残すことで衝突させ、爆発させる。消耗も激しいが威力も高い俺の必殺の一つだ。


「まだまだぁ!!」


 だが、この程度で死んでくれるほど相手は甘くはない。俺は更に魔力を練り上げ、開放する。

 この一瞬で光の魔力を作ることなんて俺には出来ないが、元々魔力は魔力で打ち消しあう性質がある。光の魔力ほどの効果は期待できないが、直接魔力をぶつけて完全に消滅させてやる――!


「ぐ、おぉぉぉ!?」

「ラストォッ!」


 俺の発した魔力が渦巻き、周囲もろともイーエムを吹き飛ばす。

 掛け値なしの完全開放――純魔力砲(ブラスター)を食らいな!




「はぁ、はぁ、はぁ……」


 力を一気に放出したせいで、流石に息が切れる。俺はその場で膝をつき、大きく抉れた地面を眺めた。

 ありったけを込めた攻撃が終わると同時に、加速法も終了した。もうほとんどの力を使い果たしてしまった上にしばらく加速法は使えないが、これだけやればいくらなんでも倒せただろうと自分で作った破壊跡を見てそう確信する。

 強敵相手には一気呵成に仕掛け、実力を発揮される前に倒す。セオリー通り、だな。


「ふぅ……。思ったよりもいけたな。全力で攻められたらやばかっただろうけど……」


 身体に無茶な攻撃の反動が現れ、腕が震える。同時に、そのダメージを吸血鬼の肉体が治癒していく。

 リスクのでかい自爆技を気軽に使えるのはやっぱり大きなメリットだな――ッ!?


(おかしい。何で俺はまだ吸血鬼の身体を維持し続けられるんだ?)


 ここは浄化結界の中。今まではイーエムが結界を無力化していたからこそ吸血鬼化できていたが、奴がいなくなった以上強制解除されなければおかしいはずなのに。

 ……つまり、それは――


「フフッ!」

「クッ! やっぱりか!」


 何事もなかったかのように、黒い粒子が集まっていく。そしてそれは再び人の形を作り出し、イーエムへと変わるのだった。


「お辛そうだ。随分無理をしていたようですね」

「お前は、余裕そうだ、な……」


 乱れた息を整える暇すらなく、無傷のイーエムは俺の前に再び現れた。

 確かに真っ二つどころか四分割にしたはずなのに、何でここまでピンピンしてやがるんだ……?


「もう必要ないでしょうが、後学の為に教えておきましょう。私達悪魔は自分の身体を魔力によって好きに作りかえることができる。それはつまり、限りなくリアルな分身すら可能――なのですよ」

「分身、だと……?」

「ええ。本体ともいえる私の核が入っていない抜け殻をね」


 囮の分身を作っていただと? 俺は偽者相手に攻撃していた……いや、そんなことありえない!

 あの強さで分身体だったってのもかなり怪しいけど、それ以上にあの高速戦闘でいつ偽者と変わる隙があったってんだよ!


「さて、それではトドメを刺させていただきましょう。今のはかなりの負担を前提にした力の模様。もはや手は残されていないでしょう」


 イーエムはそんな俺の疑問など気にするわけもなく、嫌な笑みを浮かべてゆっくりと近づいてきた。

 そして、奴の言葉は概ね真実だ。実力以上の魔法行使、限界出力での加速法と魔法剣技の併用、更に魔力を全力放出。どう考えても無理をしすぎた。

 正真正銘全力の攻撃で倒しきれなかった。どうやら、俺は賭けに負けたらしいな……。


(やばいな、割と本気でまずい)


 残っている魔力では、もうまともに戦えない。おまけに僅かとは言え結界の効力で回復力が落ちているせいで、まだ加速法の反動から回復し切れてない。

 イーエムはニヤニヤと笑いながらゆっくりと歩いてきているとは言え、とても間に合わない。悪魔らしくなぶり殺しにするつもりなのかは知らないが、こりゃ本当に何か起死回生の一手が、何か――!


「最後におもしろいものを見せてあげましょう。人間ではまずたどり着けない領域の力をね」

「なに――」

「――終わりです。【邪炎術・地獄炎(ヘルフレイム)】」

「グッ、あぁぁぁぁぁ!?」


 俺の身体を、黒い炎が包み込んだ。この魔法は、闇術と炎術を融合させたのか!?

 理論上は存在するとか言われてる融合魔法だけど、同系統の魔法を融合させて増幅するだけでも使い手がほとんどいない希少技術だ。それを別属性を掛け合わせるとか、そんなの実際に使える奴なんて見た事無いぞ!


「グ、この、クソッ!」


 炎をかき消そうと腕を振り回すが、全く効果は見られず俺は燃やされていく。

 おまけにこの炎、生命力を奪う闇の力が合わさっている。炎単体でもとんでもない火力なのに、これは強烈過ぎる――!


「が、は……」

「そろそろ終了です――貴方の命もね」


 俺は黒い炎に対処することができず、燃え尽きこそしなかったが全身に大火傷を負った挙句に倒れた。

 魔法の効果が終了して炎こそ消えたが、身体の中も外も徹底的に蹂躙する魔法。まさに、殺すための魔法……か。こりゃ、本気でやばい。


(うわ、腕が黒い……)


 プスプスと全然食欲をそそったりはしない嫌な匂いを放つ自分の腕を、身体を見て俺は力なく笑う。

 いや、自分では笑うつもりはないんだけど笑ってしまう。と言うか表情筋が勝手に動いてる。どこかやられておかしくなったのかもしれない。

 これ、本当にどうすりゃいいんだよ。どうせ人もいないし、この際吸血鬼モード2を使うのも悪くはない。でも、あれは闇が強すぎていくら弱体化されていてもこの結界の中じゃ発動できない……!


「あらら……もったいないわねー。黒焦げじゃないの……」

(痛っ! 誰だ……?)


 五感もほとんど壊れた中で、誰かの声が聞こえてきた。クソ、今ので目もやられたのか、視界がぼやけやがる……。


「うーん……これは、大丈夫なのかしら……。正直あたし達でもちょっと危ないくらいだし、もうダメなのかしら?」

(だ、誰だかは知らないけど、随分言いたい放題言ってくれるな。と言うか、ここは危ないぞどこかの誰かさん)


 声の印象からは幼い子供のような気がする。でもここに子供が突然現れるわけもないし、耳もおかしくなってるのかな。

 いや、もしかしたら悪魔のお仲間なのかもしれないか。いずれにしても、何か考え――いや、閃け俺。俺の考えなんて休んでいるも同じだ。だったら脳みそなんて使えないものを超越して、何かを引きずり出せ……!


「お嬢さん? どちら様ですかね?」

「ん? あんた誰よ?」

「おや、これは失礼を。私はイーエムと申します。以後、お見知りおきを」

「そう、あたしはカーラよ」


 ……ん? 今知ってる名前が出たような気が。

 いやまさかね。あの子には聖都に行くかあそこで待機しておけって言っておいたし、まさか真反対の方向にあるこの場所に現れるわけが……。


「それで、何の用ですかな? 今取り込み中なのですがね」

「別に用ってわけじゃないんだけど。美味――が――」

「――血――? それ――」

(あ、やばい。いよいよ耳もダメになってきた)


 本格的に身体がダメになってきたのか、もう言葉すら満足に聞くことが出来ない。

 このままじゃ、本当にまずい。魔力も生命力もほとんど使い果たして、指一本満足に動かすことができない。しかも敵は俺より遥かに強い。

 俺の低スペックな頭ではもう『詰んでいます。来世に期待しましょう』って答えがはじき出されているんだけど、何とかならないのかこれ……?



「まっ! と言うわけで、あたしはあたしの目的を果たさせてもらうわ!」

「はぁ、いいでしょう。全く、幼い吸血鬼と言うのは本能に忠実で困ったものです」

「よくわからないけど、褒めてるのかしら?」

「……ええ、大変素直ないい子だと申し上げています」

「そっ! それじゃ、いただきます」


 あたしはしばらく見ないうちに随分焦げ臭くなったレオンの側にしゃがみ込み、比較的ダメージの少ない左腕を手にとった。

 レオンをこんな有様にしたアクマの……何とかは任務だか何だかの為にこんなことしたらしいけど、まあどうでもいいわ。この指輪があるのにあたしが吸血鬼であると見抜かれちゃったけど、特に敵対する意思も無いらしいしね。

 それじゃ、チューっと行きましょうか。ちょっと焦げ臭い匂いが風味の邪魔をしてるけど、それでもレオンの血はとっても美味しいからね。ここは期待して――あ。


(そう言えば、吸血って魔力補充以外にも何か意味があるんだっけ?)


 おとー様が教えてくれたけど、確か血を吸うと同時に自分の魔力を使って作った何かを注ぐのが真の吸血だって聞いたことあるわ。

 それが出来るようになって初めて一人前の吸血鬼だって言ってたし、あたしもやってみようかしら? でも何をどうすればいいのかしらね?


(うーん……とりあえず、血を吸いながら魔力注いで見ましょうか。何事も経験よね、経験)


 やり方はわからないけど、やってみればきっとできるわよね、あたし天才だもん。

 と言うわけで、さっそくカプっとレオンの腕に噛み付いて牙を突きたてる。そして一気にチューっと……?


(……? 前とちょっと味が違うわね? 何だか質が落ちてるような……焦げてるからかしらね?)


 相変わらず魔力は豊富だけど、前よりも不味いわ。まあそれでも十分美味しいから別にいいと言えばいいんだけど……ちょっと残念。

 ま、いっか。それよりも、えっと……魔力注げばいいのよね? とりあえずやってみましょうか……多分大丈夫よ!


「おや? 何を……?」

「ぷぅぅぅぅ!」

「……膨らませたいんですか? いや、悪魔でもやりませんよ? 半死人に空気吹き込んで破裂させるとか」

「な、何言ってんのよ! あたしは……あれ?」


 牙の先から魔力を出そうと気合入れたら、何かいろいろ別のものも一緒に出しちゃった。まあ気にしない気にしない。

 ……って思ったら、何かレオンが光りだした。黒いオーラを纏って、倒れたままボウボウ燃えているみたいな黒い魔力が。

 何かしらこれ? あたしのせいじゃない……いいえ違うわ。何が起きているのかはわからないけど、きっとこれはあたしのおかげで何か良いことが起きようとしているのよ!


「あー……」

「あら? 目が覚めたの?」

「馬鹿な……いったい何をしたのです?」

「なにって、血を吸っただけだけど?」


 見る見るうちに焦げ焦げだったレオンの身体が再生していく。何だ、やっぱりニンゲンだって再生できるんじゃない。

 でもアクマは何だか驚いている。よくわかんないけど、あたし悪くないわよね?


「ふ、フフフフフ……」

「えっと、レオン? 大丈夫……?」


 何か、再生しながらレオンが笑い出した。元気なのはいいことだけど、ちょっと不気味。


「やっぱり、俺は日ごろの行いがいいらしいな……。何だか知らんが、奇跡ってのは起きるらしい……」


 レオンは、強い闇の魔力を纏って立ち上がったのだった。



「……何故か吸血鬼の力を操れる。それが貴方でしたねレオンハート。これはうっかりしていました」

「吸血鬼?」


 意識も失って完全に死んだと思ったとき、腕から純粋な魔力が注がれてきた。属性は闇、この聖域の効果で押さえ込まれてうまく扱えなかった力だ。

 一体どうしてそんなことになったのかはとても不思議だが……吸血鬼だと? 一体どこに吸血鬼がいるんだ?


「随分元気になったわねー。これはきっとあたしのおかげよ、感謝しなさい」

「え? ……あの、カーラちゃん? 何で君はここにいるのかな?」

「そんなの……秘密よ! それよりも感謝しなさいよ、あんたが立てたのはあたしのおかげなんだから」

「へ?」


 秘密でこんな危険な場所にいるのを流されても困るんだけど、それよりも……カーラちゃんがいったい何をしたと?

 何故か俺の身体に闇属性の魔力が注がれたおかげで俺はこうして立ち上がったわけだけど、まさかカーラちゃんが俺に魔力を与えたのか?


(この魔力の感じは……吸血鬼の血? いや、違うか?)


 俺は過去二度ほど吸血鬼の血を食らったが、そのときは全身を掻き毟りたくなるような苦しみを伴った。

 そして何より、魂を犯そうとする暴力的にして冒涜的な力が全身を巡るのがあの血の力だ。でも今の俺にそんな様子はない。純粋に、力だけが身体を駆け巡っているのだ。


(この吸血鬼の血に似ているようで違う、この力はなんだ? カーラちゃんが……まさか!)


 吸血鬼の血は魂を支配する猛毒。力だけはそれに似たものを持っているこれをカーラちゃんが何者なのか……その答えは、彼女との出会いを思い出せば自然と思い浮かぶものだ。

 そう、あんなまだ10代前半であろう女の子が、一人飢え死に寸前で行き倒れていたことを思い出せば。


(忌み子、か……?)


 忌み子。それは、俺が旅の中で知った忌むべき風習だ。生まれながらに特殊能力を持ってしまった子供の中でも、特に不幸な子供達と言う悲しい存在。


 そう、この世界には剣の覚えが早いとか、魔法の筋がいいとか、そう言ったものとは別の特別な才能がある。努力では決して習得できない、異端の才能を持つ者が。

 それをゲーム風に言うなら、常時発動型能力(パッシブスキル)だろうか。例えば魔法理論を理解する必要もなく魔力を炎や雷に変換できたり、動物の言葉が理解できたり、植物を操れたり……魔物の力を宿していたりだ。


 この世界では、そんな異能力を持っていること自体は大した問題ではない。むしろ優れた才能の持ち主として優遇されるだろう。

 何せ、努力すれば素手で鋼鉄の塊を破壊し、魔力を練れば大火を巻き起こすことすらできるのが当たり前なのだ。今更ちょっと系統が違うだけの異能力なんて気にする者は早々いない。

 でも、何事にも例外がある。それが忌み子。人に受け入れられない――魔物の力を宿してしまった子供がそれだ。


(カーラちゃんが本物の吸血鬼って可能性が無いわけじゃないけど、爪も鋭くないし牙も見えないし、瞳も真紅じゃない。何よりも……本物の吸血鬼が魔力を、血を流してただ力が回復するだけなんてありえない。この子はきっと、吸血鬼の力を産まれ持ってしまった子……なんだろうな)


 ゲームの話だが、勇者の仲間の一人にそんな設定を持ったキャラがいた。そいつは魔物の力を吸収して使えるって異能を持って生まれたんだが、それ故に化け物と蔑まれ、迫害されていたって設定だったはずだ。

 カーラちゃんも、多分それと似たような事情なんだろう。行き倒れていたのは吸血鬼の力を――闇の力を持っているのに聖都に近づいたりしたから。そして、一人なのは捨てられたから。そんなところなんだろう。

 全く――やるせないね。


「ハァッ!」

「――ほう、随分回復しましたね……」


 しかし今は、そんな感傷に浸っている場合じゃない。カーラちゃんから受け取った闇の魔力のおかげで身体は回復したし、今ならさっきよりはマシな戦いができるだろう。

 弱体化しているとは言え、聖域の結界の効果で俺の中の光属性のパワーアップもあって中途半端にしか使えなかった闇属性の力が復活したんだからな。これなら行ける……モード2に!


「お前は『使いたくない』なんて言ってられる相手じゃねぇ……ここは正真正銘、全力で行かせてもらう!」

「ふぅ……いいでしょう。どんな力を残しているのかは知りませんが、相手してあげましょう。先ほど程度では運動にもならないと思っていたところです」


 カーラちゃんから受け取った、一切俺を侵食しようとかそんな意思を感じない闇の魔力。それを起点にして、心臓の中に封印されているミハイの野郎の血を覚醒させる。

 いつもの吸血鬼化を越えた領域。より深い闇の力を覚醒させる――!


「――モード、2」


 爪は鋭利に伸び、牙は鋭く尖り、視界は赤く染まる。

 いつもの肉体を吸血鬼の従者に変えるなんてレベルではない、本物の吸血鬼化。上位の吸血鬼になったミハイが惜しみなく注いでくれた血の力を解放し、ノーマル吸血鬼すら超えた貴族位吸血鬼に匹敵する肉体へと自分自身を変化させる。


 今の俺は正真正銘人間ではないのだろう。元々モード1の時点で十分人外だが、こうなれば完全に人ではない何かだ。

 でも、なってしまえば悪い気はしないものだな。


「……その力は、子爵……いえ、伯爵級吸血鬼に匹敵するものを感じます。あなた、本当に何者なんですか? 流石にそこまでの血を注がれて正気を保てる生物などいるはずが……」

「ちょっとレオン! あんた吸血鬼だったの!? あんなに血美味しいのに!?」


 悪魔イーエムと、カーラちゃんが別方向から驚きの叫びを上げた。

 ……やっぱ、カーラちゃんも吸血するんだな。忌み子はそう言ったところも魔物の特徴が現れるから迫害されるんだよなぁ。

 いやまあ、しかしどうでもいいか。今重要なのは、目の前のイラつく悪魔をどう八つ裂きにしてやるかってことだけだからなぁ……!


「――【死霊創造(クリエイトアンデッド)】! 出て来い亡霊共!」

『オオォォォ!』


 魔力を使って、低級の幽霊型アンデッド亡霊(ゴースト)を召喚する。ああ全く、モード2になってからと言うもの、力の使い方が手にとるようにわかるなぁ。

 こいつの能力なんて大したもんじゃないが、かく乱と嫌がらせに特化した雑魚モンスターだ。どうせ上級悪魔をどうにかできるモンスターを召喚するなんざ不可能なんだから、何事も有効活用しないとな。


「憑依能力と小規模な魔法を使う下等モンスターですか。そんなものが何の役に立つと?」

「さぁな! それじゃ、いくぜ!」


 全身に闇を滾らせ、モード2の俺と悪魔イーエムの第二ラウンドが始まった……!

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