第69話 魔王
「20位……微妙な数字だな」
自身を序列20位と名乗った悪魔を前に、俺はいかにも馬鹿にしていますという表情を作って挑発する。
相手が吸血鬼ならこれで手の内でも見せてくれるところなんだが……しかし、悪魔は苦笑しただけであった。
「まあ、確かに。私よりも強いのが19は確実にいる、ということですからね。そう言う意味では――大したことはないですね!」
「クッ!」
悪魔イーエムは、空中に浮かんだまま人差し指を俺に突きつけ、そこから闇の魔力を固めた弾丸を発射してきた。
あれは吸血鬼もよく使う闇術の基本技だ。魔法名の宣言すらしないとなると、相当魔法の技術に長けていやがるな。
(でも避けられないほどじゃない)
回避の基礎とも言えるステップ移動で、隙を見せずに魔弾を回避する。
微塵も本気を感じさせないイーエムの初撃はあっさりと地面を抉るだけで終わり、今度は俺の番――といいたいところなんだけど、さてどうしたものかね。
「とりあえずこれで行くか――魔道書【付術・飛行】」
俺は腰の道具袋から魔道書を取り出し、自分にフライをかけた。
相手は翼を持った空の住民。戦術の大半が近づくこと前提の俺にとって、空を飛ぶ相手にはまずこれをしないことには始まらない。
「飛行魔法ですか」
「これで、空の優位は無くなったぜ」
実際には自力で飛べる奴に魔道書頼りの俺ではまだ不利なのだが、とりあえずそう言っておく。
戦闘は力と技、そして心を競うものだ。やるからには常に強気で、相手の気迫を飲み込むつもりでいく!
「それは怖い」
「――ハァッ!」
俺は腰に差している、青い刀身を持った魔法刀を抜いた。悪魔相手に一切の手加減など不要だ。
この刃に秘められた魔力を開放してもいいが、やはりまずは接近戦で行こう。大抵の場合、魔法に長けている奴は接近戦を不得手とすると相場が決まっているもんだ。
そんな算段で俺は宙を舞い、イーエムに斬りかかった。飛行魔法頼りである為に、加速法は使えない。
しかしそれでも、俺の放った一太刀は素早く、正確にイーエムの首を目掛けて伸びる。青い軌跡を残して進む一撃をどう対処するのかと瞬きもせずに睨みつけていたそのとき――悪魔は、悪魔らしいやり方を早速見せてくれたのだった。
「【特殊能力・悪意の肉体】」
「ッ!?」
青い刃は吸い込まれるようにイーエムの首を捉え、そしてそのまま何の妨害を受けることもなく跳ね飛ばした。
しかし、俺はそれを見ても微塵も勝利を実感することはない。当然だろう。文字通り、俺の攻撃は奴の体を素通りしただけ何だから。
「我々悪魔には実体というものがありません。この身はすべて魔力によって構成されている……単純な物理攻撃はほとんど意味がありませんよ?」
イーエムは首と胴が離れても全く痛みを感じていないように、宙に孤立した頭でそう言い放った。
この能力は、吸血鬼の身体を霧状にする能力とは似ているようで違う。吸血鬼はあくまでも自分の肉体を一時的に霧に変える事ができるだけであるが、悪魔はその逆。精神体と呼ばれる実体のない、言ってしまえば意思を持った魔力こそが悪魔の正体なんだ。
今目の前にある肉体も、言ってしまえば偽者のようなものなのだろう。いくら破壊されても魔力が減るだけで決定打にはならない。それが上位悪魔の面倒なところなのだ。
(有効打になりえるのは悪魔の力……闇の魔力をかき消せるような攻撃だ。幸いにもここはその手の能力をブーストしてくれる結界の領域内。この悪魔の力で中和されているとは言え、いける!)
ぶっちゃけ、上位悪魔と戦うのは初めての経験だ。そもそもその辺で出くわしていい相手じゃない。どこぞの迷宮の奥で暇人……もといボスでもやってるべき存在だ。
そんなのの情報なんてゲーム知識と信憑性のない古文書くらいのものだが、それでも神聖魔法の類が有効なのだけは間違いない。元々あれはそのために作られた魔法だからな。
しかし、俺に神聖魔法の心得はない。だが――その上位互換がある!
「腕輪は十分すぎるくらいに溜まってるな――」
「さて、それではその身体、頂きましょうか。私が直接入ればいかに貴方が強くとも――」
「【光術・退魔の鎧】!」
「ほうっ!?」
悪魔はその変幻自在の身体を使い、他の生物の体内に侵入し、操作することができる。
所謂悪魔憑きって伝承がこの世界ではマジである――って以前立ち寄った村のおばあちゃんから茶飲み話で聞かされたことがあったけど、どうやら本当だったらしい。
イーエムは首と胴が離れた身体をそのまま漆黒の粒子に変え、俺を乗っ取ろうとしてきたのだから。
俺は、それに対して自分の身体に光属性の魔力を纏わせ、自動迎撃を行うカウンター魔法を発動させる。
何をしても効果が無いこの精神体の能力だが、特効属性と言ってもいい光なら効果は抜群だ。堪らず黒い粒子は俺から離れ、少し離れた空中で再び実体化したのだった。
「これは神聖属性……いや光属性ですか。今の人間に使い手はほとんどいないと聞いていましたが、流石は聖なる力の集まる場所、と言うべきですか」
(俺、聖都とほとんど関係ないけどね)
光の魔力に焼かれて実体化した身体が少々焦げているイーエムは、全くダメージを受けた様子もなく余裕の表情だった。
こいつらにとって、身体なんていくらでも作り直せる模造品でしかない。見かけのダメージなど全く関係が無いのだ。
「しかし光……なるほど厄介だ。非実体の状態で受ければ流石にダメージを受けますね」
「肉体が無い以上、魔力ダメージに対する抵抗力は落ちるってか?」
「よくご存知で。では――行きますよ?」
イーエムの身体から、メキメキと凄い音が聞こえてきた。あれは骨の軋む……身体を組み替えている音か。
全く、普通の生物なら絶対ありえない一手だな……。
「特に技でもなんでもありませんが……悪魔の巨腕、とでも言っておきましょうか?」
(……両腕が馬鹿でかく膨れ上がった。リーチと質量で攻撃するつもりか)
身体を自由に組み替える悪魔の能力。それを利用し、イーエムの両腕は通常の五倍ほどに膨れ上がった。
普通に考えたらバランスが悪くなって不便にしかならないだろう変化も、根本的なところが違う悪魔ならば問題ないのだろう。元々身体の全てが魔力だし、重さも大して気にする必要ないのかもな。
「行きますよっ!」
「――フンッ!」
予想通り、イーエムは宙に浮かんだままその巨大な腕を叩き付けるように伸ばしてきた。
しかし、飛行魔法に移動を任せているとは言え、それでも馬鹿正直に正面から攻撃されて対処できないなんてことはない。軽く移動することであっさりと初撃を回避する。
巨大な武器を使うときの最大のリスクは攻撃した直後だ。
当然、武器が大きければ大きいほど重量も増す。つまり身体がどうしても流されてしまうことになり、隙を晒しやすいのだ。
それは自分の身体を武器として改造したイーエムにも当てはまるのではないかとちょっと期待して観察していたんだが――残念ながら、俺の予想は悪い方に当たってしまった。
イーエムは自分の回避された右腕を素早く切り離してしまったのだ。確かにどれだけ重い武器でも、手放せば問題ないだろう。そんなの自分の身体でやるなと言いたいけど。
(吸血鬼以上に何でもありな身体だ。もっと視野を広く取らないと動きを見切れないな……)
気影は身体の予備動作と相手の意識の二つを読み取ることでイメージされる。しかし、この相手に身体の予備動作なんて読もうとしてもほとんど無意味だろう。
ならば闘争心を全開にし、思考ではなく感覚と勘で敵の動きを掴もうと心のギアを更に一段階上げるが、ここでイーエムはある意味予想外の行動に出た。
ただ使う腕を変えただけの、さっきと全く変わらない単純攻撃に打って出たのだ。
「舐めるなよ。でかいだけの腕なんざ、二回も見せれば避けるだけじゃすまないぞ……!」
初見では回避した。ならば次はカウンターを取ってやろう。
悪魔はその肉体の構成の特殊さによって急所と言う概念がないが、逆に言えばどこを狙っても一定のダメージを期待できると言うことだ。魔力を吹き飛ばせる攻撃をすれば、腕でも頭でも同じダメージになるんだからな。
まして、あんなに魔力使って膨れ上がらせた腕なんて、格好の的にして絶好の弱点ってことになるだろうさ!
「光術剣・獅子――」
「読めていますよ、その行動はね。――『止まりなさい』」
「んっ!?」
タイミングを合わせて光の魔力を込めた剣を放とうとしたとき、俺の身体は俺の意思を無視して停止した。これは、奴が最初に見せた精神操作スキルか?
素早く全身の魔力を漲らせると共に気合を入れ、呪縛を払う。この言霊による呪縛なら一瞬あれば払いのけることができるんだ。
でも、接近戦の最中の一瞬は――あまりにも、長すぎる!
「があっ!?」
動きを止めた一瞬。その一瞬が命取りとなり、俺はイーエムの巨大な腕に叩き落とされた。
威力に特化して強化されただけの事はあり、抵抗することもできずに俺は地面に叩きつけられる。俺の身体は地面にそのままめり込んでいき、小さなクレーターができる威力だった。
「……潰してしまいましたか? 人間の割には強いので力加減を間違えてしまったかもしれませんね」
イーエムは「ククッ」っと笑い、土煙の中に隠れた俺を笑う。
まあ確かに、今のは人間のままなら叩かれた蚊みたいになっていてもおかしくない一撃だったな。どうやら奴の言う20位ってのは、ランキング入りしているだけで人間の能力値を大きく超えている化け物内の格付けらしい……なっ!
「……ん?」
「モード、ヴァンパイア!」
全身に闇の力を流し、肉体を人間から吸血鬼に変化させる。
こうなれば肉体の耐久度は通常時とは比較にもならない。俺は吸血鬼化を使うことで地面に叩きつけられる前に肉体を強化し、ダメージを最小限に抑えたのだ。
(咄嗟だったけど、できたか。浄化結界の中じゃ吸血鬼の力は使えないけど、奴が自分の魔力で結界を無力化しているのが有利に働いたな……)
光の中で闇の力は存在する事はできず、また闇の中では光などかき消されてしまう。
普段は俺も自分の体内魔力をコントロールし、吸血鬼の力と光属性の魔力がぶつからないように制御しているくらいだ。
悪魔である奴が浄化結界の中でも存在できるようにやっていることだが、おかげで俺もこの闇を使えるようになったわけだな。
(とは言え、やはりこの聖域の結界を完全に無力化できているわけじゃないみたいだな。光の魔力が強化されてた時点で予想はしていたが……)
俺は自分のちょっと爪が伸びた手を見てみると、バチバチと魔力の閃光が光っている。闇の属性に変わった俺を、浄化結界が攻撃しているんだ。
「……その力は、闇? それもこの気配は吸血鬼? まさか、貴方は……レオンハート・シュバルツとか言う人間なのですか?」
「へえ、いつの間にか俺も名前が売れたね。まさか悪魔にまで知られているなんてさ」
「ええ、よく存じていますよ。此度の騒ぎ、半分は貴方が狙いですからね」
「……俺を? しかも半分?」
「ええ。と言っても、正確には貴方自身ではなく貴方が持っている転移玉にですが」
それを聞いて、俺は咄嗟に懐の転移玉に手を伸ばす。
なるほど、イーエムの狙いの半分はこの転移玉――聖剣か。これを狙っているのは吸血鬼の一派だと思っていたが、悪魔までとはな。
「それは、吸血鬼にでも頼まれたのか?」
「ほう? いや、残念ながら外れですね。そもそも、吸血鬼の皆さんに――いや、我々魔の勢力全てにあなたの持つ転移玉の捜索をお願いしたのが私達なのですよ」
「なに?」
「それは我らの王にして神が所望した物。ならばこそ、魔の眷属その全てが手を取り合って協力し合うのは当然でしょう?」
「王にして神……! まさか!!」
悪魔が王と呼び、そして神とまで呼ぶ存在。
俺は、その存在に一つだけ心当たりがある。魔族の頂点に立つ、絶対の存在に。
「おや、ご存知なのですか? 今の時代の人間の無知さではあのお方のことすら知りえない存在だと思っていましたよ」
「……大昔の古文書なんかを見たときに、な」
嘘ではない。俺も知識の裏づけの為、旅の間各地に残されたその手の文献を読み漁ったものだ。
まあ向いていない作業だっただけにあまり成果はないが、それでもぼんやりとその存在を確認する事はできたんだ。
……『魔王』の存在を、な。
「だが、お前の言う神――魔王は封印されてこの世界にはいないはずだ!」
「ええ、非常に不愉快なことですがね。ですが……消え去ったわけではありません。そして、いつまでも封印され続けるほど大人しい方でも在りません。もはや、その声を我らに届けることすら可能なほどにお力を取り戻しておられるのです」
「そんな……」
魔王復活が俺に残されたタイムリミット。それまでに魔王を倒せる何かを用意するのが俺に残された唯一の希望だったんだ。
しかし既に魔王は目覚めている。考えてみれば、最近の魔物の活性化とやら……それも魔王復活が原因だったのかもしれないな。
そして、こいつはその魔王の声を聞くことができるほどの存在。
それを思えば、20位って言葉は恐ろしい意味を持つことになる。その括りの中にいる連中の正体が、何となくわかってきたんだから。
「……確か、魔王には四つの配下があるんだよな?」
「博識ですね。その通り。人型モンスターを束ねる魔人王――貴方には吸血王と言った方がわかりやすいですか? そして獣系モンスターを束ねる魔獣王、無器物系モンスターを束ねる魔剣王、そして最強生物と謳われる竜族を束ねる魔竜王。彼らこそが序列1~4位に座す最高幹部ですよ」
「……その中には、お前ら悪魔は入っていそうにないな」
括りだけでいえば、両腕が膨れ上がっているとは言え人型を取っているイーエムは魔人王の配下にも思える。
でも、肉体そのものを好きなように組み替えることができる悪魔に形など無意味。それ以外のどれにも当てはまりそうにないのが悪魔だ。
おまけに、奴の言う序列に配下四魔王が入っているとなると、つまりこいつは――魔王軍の中で20番目の実力を持ってるってことかい!
「その通り、我々悪魔は魔王様の、四魔王を束ねる絶対者、魔王神と呼ばれるお方直属の存在ですよ。その力、その他大勢の魔物と一緒にしてもらっては困りますね!」
「魔王神、大層な異名だな」
それは初めて聞いたが、呼び名なんてどうでもいい。
それよりも、さてどうするか。以前戦ったミハイは男爵級吸血鬼が成長した姿だった。強くなって、階級は子爵級か伯爵級ってところだったんだろう。
それですら、まだ上に二つも位が残っている階級だ。そんなミハイにあそこまで苦戦した俺が、序列20位なんて化け物と闘えるのか……?
「さて、お喋りはこのくらいにしておきましょう。もう身体は慣れましたか?」
「何だ? 待っていてくれたのか?」
「ええ。弱体化しているとは言え、聖なる結界の中で闇の眷属である吸血鬼の力を使っているのです。そもそも人間風情がどうやってその力を操っているのかが不思議なのですが、お辛そうでしたからね。私も久しぶりに運動するので、やるからにはフルポテンシャルでやってもらわねば困ります」
「そうか、よっ!」
完全に舐められていると理解しつつも、その実力差をなんとなく理解した俺は、とりあえず再び正面からの突撃を試みた。
言葉から何となくその実力を理解したが、具体的にどのくらい強いかなんて、ぶつかってみないとわからない!
「ハッ!」
「空中戦の不利を知ってなお突撃を仕掛けてきますか?」
「――【光術・星光の矢】!」
「魔法を併用、ね」
話の間にある程度チャージした腕輪の魔力を再び使い、光の矢を五本作り出して飛ばす。
この魔力の矢系の魔法は本数で魔法使いとしての実力が測れるなんていわれるもので、一般に一流と言われる魔法使いで十本ほど出すことができる。本職ではない俺では五本が限界だ。
それでも弱点である光の矢なら十分牽制になると思って使ったのだが、イーエムは薄ら笑いを浮かべて腕を元に戻し、こちらとほとんど同じ構成の魔法をくみ上げたのだった。
「【闇術・暗黒の矢】」
「なっ! この数は――ッ!?」
奴が一瞬でくみ上げた闇の矢は目算で50本。こんなの、明らかに人間の限界値を超えていやがる!
やはりこの悪魔、半端じゃなく強い。少なくとも、魔導で張り合うのは無謀なんてものじゃないな。
「――光剣」
青い刃に光の魔力を流し、維持する。一瞬で爆発させる魔法剣技と違い、威力を抑えて長時間光属性を剣に宿す能力だ。
俺の放った光の矢はあっさりと闇の矢に飲み込まれ、残る矢は俺に殺到してくる。
俺はすぐさま発動している飛行の魔法を発動し、空中に止まる。そして残る矢を光の剣で弾き落とすのだった。
「お見事お見事。吸血鬼の襲撃を乗り越えただけの事は――ありますね!」
「ッ! 速い!?」
イーエムは魔法が打ち落とされるのを見ると、背中の翼を翻して接近戦を仕掛けてきた。
その速度は異常の一言。さっきまでの動きとは別人と言うしかない動きだった。
「チッ!」
「――惨劇の魔爪!」
イーエムの指先が変形し、鋭利な刃物となった。
そしてそれを振るい、俺を両断しようとその刃を振るってくる。
対して俺は、飛行魔法を解除。重力に身を任せることでその場から落下し、ギリギリ回避する。
そして、同時に確信する。こいつを相手に、不利な条件なんて何一つ許されはしない!
(空中じゃ加速法の意味が無い。あれ相手に吸血鬼化しても加速法なしで戦うのは無理だ)
突撃の結果、わかったのはこのままじゃ触れることもできないってこと。
ならばと俺は地面に着地し、そこで剣を構える。上空から遠距離攻撃を繰り返されれば非常に不利だが、もし慢心して地上戦に応じてくれればあるいは……。
「申し訳ないが、私は魔王神様より使命を授けられた身。せめてキミの不調が治るまで待ってあげたが、それ以上の手加減は期待するな!」
「だよなやっぱり!」
イーエムは宙に浮かんだまま、次々と闇の攻撃を連発してくる。
正面からの遠距離攻撃なんて避けられて当然と俺も回避するが、やっぱりこっちのフィールドに来るつもりはないか――ッ!?
「フフッ! 『動くな』」
「クッ! この……!」
また一瞬動きを止められ、そのまま闇の矢やら弾丸やらに身体を貫かれる。
その程度の痛みで戦意を失うことはないが、やっぱりあいつの言霊は厄介すぎる。
このままじゃジリ損だ――!
◆
「……聖都って、どこかしら?」
レオンと分かれてからしばらく、あたしは――道に迷っていた。
「あの白い場所にいけばいいのよねー? 大体、道案内もなしに行けとかレオンも無茶が過ぎるのよ、あたしは悪くないもん」
レオンに待っているか聖都に行けって言われてからしばらく、あたしは聖都とかって場所に向かって歩き出した。最初は待ってるつもりだったんだけど、待ってるの飽きちゃったのよね。
だからって別にいきたいわけじゃないんだけど、気まぐれね。ただ待ってるのに飽きたからちょっと行ってみようかなーって思っただけなんだけど、どこにあるのかわからないのよ。レオンは「あっちに行け」って指差してたから、そっちにあった雲を目印に歩いてきたのに……何にもないじゃない!
何だか急に風が強くなって嫌な感じだし、何がどうなってるのよ!
「どんどん嫌な感じがなくなってるのだけがいいニュースね。それでも空を飛べるほどじゃないし……はぁ、どっちにいけば正解なのかしら?」
そもそもあの白い街は気持ち悪い感じが特に強い場所だから、行きたくなんてない。こんなに面倒ならもう行くの止めようかしら。と言うか、止めましょう。
「じゃあどっちに行こうかしら? とりあえずレオンのところに……あれ?」
レオン、どっちに行ったっけ? さっきまでレオンは生命感知で感じ取れてたのに、急に何も感じなくなっちゃったわね?
あの血の味をもう一度味わうまでは別れるつもりないんだけど……どうしよう?
「……うーん、何となく、あっちから強い力を感じる気がするわね」
迷った末、あたしは直感に身を任せることにした。
何となく凄い力を向こうの方から感じる気がするし、とりあえずあっちに行きましょうか。
ちなみに前章で出てきたミハイですが、その能力に加えて伝説級の武器を持っていたので十分悪魔イーエムの言うランキングに食い込める実力者でした。
つまりこの悪魔も素の状態だとボコボコにされたミハイと同等以上だったりする……。




