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【番外編完結】他力本願英雄  作者: 寒天
聖都の光と闇と
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第66話 悪魔の侵攻3

「あちゃー……遅かったか」

「綺麗に吹っ飛んじゃったけど、大丈夫なのかしらねー?」


 背中のカーラちゃんが全く興味のなさそうな感想を述べるとともに、俺は呪いつきの爆発が起こった場所を見る。

 アレス君が知らなくても仕方が無いが、あの悪魔は倒しちゃダメなやつなんだ。ゲーム時代にも登場した嫌がらせモンスターの一種で、戦闘不能になると同時に爆発してこっちにダメージを与えてくる。

 その嫌らしさといったら、速度で完全に上回っている上に相手にターンを回すことなく勝利しても毎回毎回被害を受ける極悪っぷりだ。知らずにあの炸裂する小悪魔――ブラストインプが出現するダンジョン攻略なんて行こうものなら、全ての戦いを瞬殺楽勝で潜り抜けたのにボスの前にたどり着いたころにはHPもMPも空になっていましたなんてことがよくあるくらいには。

 あの最後っ屁の呪い、通常のダメージに状態異常だけではなく、MPダメージまであるんだよな……。


「流石に一発で死ぬほど柔な鍛え方はしてないはずだけど、大丈夫か?」


 どうやらここには三体のブラストインプがいたようだけど、一匹爆発したら誘爆して他の小悪魔も爆発しちゃったらしい。計三発分、多分大丈夫だと思うけど確認しなきゃな。


「おーい、大丈夫かー?」

「し、師匠……」

「あら、生きてるわね」


 アレス君は潰れた蛙みたいなポーズでぴくぴくしていた。全身から何やら陰湿な気が放たれており、どう見ても呪われている。

 でもまあ、生きてるなら何とでもなるだろう。幸いにもここは聖なる結界で守られているおかげで邪悪な呪いなんて大半が浄化されて消えてしまうし、呪い解除を得意とする神官だって腐るほどいるからな。


「なんかも、ダメです。何もやる気起きません。だるいです」

「あー、呪い毒かな? あとはステータスダウンに精神系の状態異常も来てるのかも」


 どうやら思ったよりも大丈夫そうだけど、バッチリ呪いの効果が出ている。

 あの小悪魔ども、死に際の呪いの効果が多種多様なのが本当に面倒なんだよな。能力値自体は全然問題ないから状態異常防御で何とかしたいところなんだけど、種類が豊富すぎてそれも難しいと言う意地の悪さ。

 上級悪魔なんかが召喚スキルでしょっちゅう呼び出すのもよくわかる嫌な性能だよ本当に。ま、この世界でなら呪いの爆発から走って逃げることができる分マシだけどさ。


「これがレオンの……えっと、デシ?」

「そうだよ。今はこんな感じだけど優秀な教え子だ。と言うわけで、早く町に連れて行かないとな。カーラちゃんも来た方がいい。何か危なそうだから」


 この子がどこで寝泊りしているのかは知らないけど、本来悪魔なんて絶対いるわけの無い浄化結界の中でエンカウントする状況。何かが起きているのは間違いないだろう。

 そんな中に子供一人残しておくわけにもいかないんだけど……とりあえず町まで連れてけばいいよな?


「町? 町って……あの妙に白い壁に覆われてる場所?」

「そうだよ?」


 聖都マーシャルはイメージを守る為なのか、白一色……とまでは行かないものの、過剰なくらい建物やら道やらに白が使われている。町を守る為の防壁も白一色だ。

 カーラちゃんはそれであそこを認識しているらしいな。ま、確かに俺も最初に見たときはちょっとビックリしたし。


「あたし嫌よ、あそこに行くの」

「何で?」

「だって気持ち悪いんだもん、あそこに行くの」


 カーラちゃんは聖都が嫌いらしい。まあ確かに、神聖すぎて居心地悪いって気持ちはわかるな。

 基本節制を心がける神官だらけだから何となく堅苦しいし、娯楽の類もほとんど無い。健全性は文句なく世界一位の都市だけど、普通に欲も穢れもある一般人には些か住みづらいところであるのは間違い無いんだよなぁ。


「……でも、今は非常事態だ。そんなこと言わずに一緒に来なさいって。本当に危ないから」

「大丈夫よ、あたしサイキョーだもん」

「いや、そうは言ってもね」


 子供らしい根拠の無い自信だけど、じゃあ大丈夫だねなんていうわけにもいかない。

 確かに握力はちょっと凄いものがあったし、普通の子供よりは強いんだろうけど……ねえ?


「しつこいわねー。大丈夫よ、ちゃんと安全な場所も確保してるんだから」

「そうなの? 誰か保護者でもいるのかい?」

「ホゴシャ? えっと……ええ! いるに決まってるでしょ!」

「うーん。それならまあ……」


 その安全な場所に連れて行けばいいか。別に聖都に拘る必要はないし。

 ああでも、アレス君を放置するわけにも行かないよな。今も呪いで苦しんでいる以上、できれば一分でも早く神官の下に連れて行ってやりたい。

 どうしたもんかな……。


「どうしても聖都に入りたくない?」

「嫌よ、気持ち悪いんだもん」

「それじゃあさ、聖都の入り口までならどうだ? そこまでならいいんじゃないか?」


 妥協案はここかな。流石にアレス君を放置するわけにもいかないけど、この子を放置するわけにもいかない。

 聖都の近くにいてくれれば他の神官兵とかもいるし安全だろう。しばらくそこで待ってもらってアレス君を神官に見せた後、この子を親元に届ければいいよな。


「んー、別にいいけど、何であたしをそんなに連れて行きたいのよ?」

「あ、あはは……まあいいじゃない。さて、それじゃアレス君。気力ないだろうけど掴まってね」

「はーい……」


 ここで「君一人残したら危ないから」とか言ったら反発される気がするし、笑って誤魔化そう。

 そう会話を強引に中断して背中……にはカーラちゃんがいるので、アレス君を両腕で抱える。特に他意はないが、所謂お姫様だっこだ。

 背中に既に人一人乗せているので、バランスを考えるとこうなるのだ。本当なら脇に抱えるとかにしたいんだけど、重りをつけるなら前後均等の方がいいし。


「んじゃ、口閉じてろよー」

「も、もう驚かないわよ」


 常態加速法によって速度を速め、ダッシュする。これをやると疲れるけど、移動速度は通常よりもずっと早くなるんだよね。


「ししょ、早、うぶっ!」


 ……1.5倍速で揺れるその乗り心地は最悪のようで、体調が悪いアレス君が酔っているが気にしないでおこう。



「おお、これは哀れな。すぐに浄化を行いますね」

「よろしくお願いしますね」


 俺は前と後ろに子供を抱えて聖都までたどり着いた。そして、町の警備をしている神官兵の側にカーラちゃんを降ろし、待っているように言い聞かせて病院を兼任している神殿にアレス君を担ぎこんだのだ。

 途中で何匹かまたあのめんどくさい小悪魔を見かけたけど、無視させてもらった。流石に背中と両腕が塞がっている状態で戦いたくないし、あの程度の雑魚悪魔なら神官兵達が何とでもしてくれるだろう。無理に俺がでしゃばる方がおかしいんだ。


「それで、呪い解除はどのくらいかかりますか?」

「そうですな。この聖都は強力な結界に守られていることもあり、邪悪な力はたちどころに消失します。それに合わせて我々も浄化の法を使いますので、三時間もあれば終わると思いますよ」

「そうですか。ありがとうございますね」


 俺は教会の神父さんに頭を下げてアレス君を任せた。

 いろいろ好条件が重なったのに三時間もかと一瞬思わないでもないが、それこそゲームではないのだ。金を払ってはい治りましたとなるほど簡単ではない。

 と言うわけで、俺はその時間の間にカーラちゃんの方も送り届けないとなと教会の外に出たのだった。


「さて、それじゃあカーラちゃんのところに……?」


 教会の外に出たところで、なにやら町がざわついているのに気がついた。

 住民の大半がクソ真面目で規律正しい信徒ばかりなせいか、普段は怖い先生の授業中の教室みたいに厳粛な空気が漂う町なんだけど、今はがやがやと騒がしいのだ。

 それに、なにやら統一された複数の足音も聞こえる。何だろうな? なにやら大事になるような気がするけど。


「あれって……」

「神官兵団ですよ。何事でしょうか?」

(神官兵団?)


 何となく声のする方に行ってみると、集会場みたいな広場にたどり着いた。野次馬も多く集まっている。

 そんな野次馬達のおばちゃん達の話をなんとなく聞いてみると、神官兵団の話題で話しているようだ。どうやら広場に神官兵団が多く集まっているらしい。

 集会か何かかとも思うけど、野次馬のわざつき方を見る限り非常事態なんだろうな……。


「ねぇ、あのお方って……」

「間違いないよ、メメーラル様だ」

「メメーラル様?」


 町の人の話につい口を出してしまった。でも、知らないんだよねその名前。

 ……そんな俺の呟きを聞いた町の人の目が怖い。こりゃ、この町の人からすれば知らない事は罪レベルの有名人だな。町の有力者――それも尊敬を集めているタイプの話題だとこんな反応が多い。

 特に、団結力が強い宗教集団である聖都では強烈だな。この、何とも言えない気まずい感じは。


「あなたね、メメーラル様を知らないの?」

「え、ええ。申し訳ないです……」

「全く、最近の若いもんは常識ってもんがないね。メメーラル様と言えば若いころは獅子奮迅の活躍で女神教の発展に大きな貢献をした方じゃないかい。顔もよくてあたしらの時代じゃちょっとした憧れだったんだからね。もうあの人が町を歩いてればあたしらキャーキャー……とは敬遠な信徒としてしなかったけど、清楚に贈り物とか沢山したもんだよ。ちょっと前に行われた教皇選抜選挙でも有力候補に上がっていたほどのお方なんだから知らないなんてありえないよホントにさ。まあそのときの選挙では今の教皇様を推しに推し捲って自分は推薦されただけで教皇になる意思なんてないって半ば辞退しちゃってたけどさ、それでも第三位に入った人望あるお方なんだよ。地位も枢機卿、つまり女神教の中で二番目に偉いお方なのさ。考えてみれば今の教皇様が選ばれたのも納得だよ、メメーラル様が支援していたんだからね。まああのお方個人の魅力も大したものだからメメーラル様の力だけって事はないけどさ、それでもやっぱり影響は大きかったと思うよ。全く立派だよね、後進に道を譲って自らは補佐に徹するなんてよく聞くけど実際に出来る人なんてそうそう居るもんじゃ無いんだから――」

「わ、わかりました! 凄い方なんですね!」


 おばちゃんのお喋り。世界が変わってもその破壊力は変わらないらしい。いや、いつ息してるんだこの人は。

 なんておばちゃんパワーに圧倒されていると、広場の中央からカンッ! と言う高質な音が響いてきた。どうやら盾を叩いて音を出したらしい。


「聞いてほしい、我らが同胞達よ!」

「ほら、あの方がメメーラル様だよ。よーくその目に焼き付けときな」

「わかりましたよ」


 逆らっても絶対損するだけなので、素直に頷いて広場に設置されている壇上を見る。

 そこにいたのは、なんと言うか……ナイスミドルだった。口を開いたら真っ白な歯が光ったぞあの人。すらっとした長身で身体も引き締まってるし、確かに奥様方の人気者になるのも頷ける。

 メメーラルなんて名前に聞き覚えはないから俺の知る歴史には出てこない人なんだと思うけど、確かにありゃカリスマの塊っぽいな。


「現在、我々は危機にさらされている!」

「危機?」

「落ち着いて欲しい、悪魔だ。悪魔が現れたのだ!」


 その一言で野次馬達はお互いを伺いあい、不安を露にした。

 しかし演説しているメメーラルさんへの信頼だろうか。パニックになることはなく、ただ続きの言葉を待っていた。

 しかし悪魔ね。あれのことかな……?


「現れた悪魔たちは推定で100体! そのどれもが強力な力を持っていると考えられる!」

「悪魔が100体も……」

「そんな……」


 今の話には流石に動揺したのか、少しだけ場がざわめいた。

 しかし100ね。強力な力って事は、あの道連れ小悪魔じゃないのか? 死に際の呪い攻撃が厄介ではあるけど、悪魔退治の専門家みたいな連中ならどうにでもできるだろうし。


「悪魔の外見は身長2メートルを超える人型である。現在その悪魔たちは浄化結界を囲う形で展開しているが、既に小型の召喚悪魔を使ってこちらへの攻撃を仕掛けてきている。現在は神官兵団が総力を挙げて防衛しているが、気を抜かないで欲しい。これより私も前線に赴くが、その前にここに女神教として命令をだす。外出禁止令だ。いざとなれば避難することも考慮して、決して町の外に、いや家の外に出ないで我々の指示に従ってくれ! これはこの町としての命令であり、町民以外にも有効な命令である! 以上だ!」


 その言葉に民衆は戸惑いながらも頷き、それぞれの家に戻っていった。

 俺の場合は、きっと宿に戻るべきなのだろう。わざわざ町民以外も、なんていっている以上それは当然だな。

 ……まあ、従うわけにもいかないんだけどさ。


(町の外にカーラちゃん残してきてるし、放っておくわけにはいかないよな)


 チラッと市民誘導している神官団の人達を見た後、俺もそれに従う振りして歩き出す。

 そして、人ごみに紛れると同時に建物の間に入る。これだけ人が居れば一人消えてもばれないだろうしな。


(さてと、聖都から出るのは……そう難しくないな。さっさと行ってカーラちゃんを回収しよう。流石にこの状況なら中に入ってくれるだろうし)


 俺は町の外れまで走ってきた後、軽くかがむ。

 聖都は純白の城壁で囲まれているから、出入り口以外から出ようと思ったらこれを超えなければならないんだ。

 高さにして約10メートル。まあこのくらいなら余裕だな。


「よっ!」


 垂直飛びで城壁を超え、俺は外に出た。

 さて、早く行ってあげないとな……。

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