第65話 悪魔の侵攻2
「……以上です、団長」
「ああ、よくわかった。さっそく準備をするとしよう」
我々はあの、憎むべき吸血鬼へと堕ちた悪の騎士レオンハートがこの神聖なる聖都に足を踏み入れたことを団長に、我ら『神下浄化神官団』の中でも真に正義の執行を志している者達で構成された真浄化団の団長に報告した。
すると団長はニヤっと笑みを浮かべた後、さっそく手勢を集めるように命令を下している。
最近悪の騎士レオンハートはこの聖都周辺で血に飢えて魔物を殺しているとのことなので、計画としては周囲の魔物と一緒に纏めて浄化してしまうことになるだろう。
ああまったく、今日はきっと素晴らしい日になるだろうな。
「よし、決行は明日としよう。各自、明日の浄化に備えて休息をとるように」
「了解いたしました」
明日……ならば、今日中に武器道具の点検をやっておくか。
対悪結界はもちろんとして、闇感知の水晶や浄化聖杖が不調を起こしたりしては叶わんからな。
神聖なる女神様の加護を受けている我ら真浄化団が後れを取ることなどありえないにしても、やはりまず我々の力を見せぬことには女神様に呆れられてしまうが故に……ん?
「ここが強硬派の宿舎か?」
「何奴だ、キサマ?」
ここは我ら真浄化団が利用している、女神教の宿舎だ。関係者以外は立ち入ることなど許されるわけもない。
だと言うのに、唐突に覚えのない中年男が部屋の中に入ってきた。間違いなく我々の仲間ではない。
我ら真浄化団は戦闘集団。つまり得手不得手はあっても皆肉体を鍛えており、あんな太鼓腹の持ち主は存在しない――なんて理由もその通りだが、それ以上に年齢的にありえない。神官団全体ならまだしも、我ら真浄化団は若い世代を中心に構成されており、年長者である団長ですら20代前半だ。こんな、そろそろ生え際が怪しいおっさんが所属しているはずがないのだ。
「ワシを知らんのか?」
「知るか。格好からするとそれなりに裕福な……貴族のように見えるが、我らには関係ないな」
団長は格好だけは豪華なおっさんに、きっぱりとそう告げた。
我らは崇高な思想によって動く真浄化団。金と権力しか持ち合わせのない貴族に頭を下げる道理などない……流石は団長だ。
「ワシを、知らない? シラナイ? シラナァイィィ!?」
「な、何なんだこのオヤジは……?」
そんな風に団長の毅然とした態度を尊敬していると、突如おっさんが奇声を上げた。
明らかに正気ではないその態度。もしや、禁じられた薬物でも使っているのだろうか? 腐敗した貴族の中にはその手の物に手を出す愚か者もいると聞いたが……実物を見るのは初めてだな。
「ワシは、ワシは貴族だぞぉぉぉぉ!」
「う、うぉ!?」
狂ったおっさんは、何の武器も持たずに団長に向かってその運動不足の身体をぶつけようと突進を仕掛けてきた。
流石の団長もそれには驚いたようだが、しかし全く問題にせずにあしらってしまう。突っ込んで来たおっさんの足を引っ掛け、投げの要領で転がしたのだ。
「ぐぎゃ!?」
「何なのだ、いったい……」
団長は神官団全体でもトップクラスの実力者だ。神聖魔法だけではなく、体術を初めとしたあらゆる戦闘技能で高い能力を有している。
その団長を肥満オヤジがどうこうできるわけもない。そんなことは本人にもわかっていると思うんだけど……何なんだよ、本当に。
「はぁ。おいお前ら。このおっさんを縛り上げて牢にでも入れておけ。大方ご禁制の薬物でも使ってるんだろうから、正気に戻るまで閉じ込めてから役人にでも引き渡しとけ」
「あ、はい」
団長は面倒そうにそう指示をだし、さっきまで座っていた椅子に疲れた様子で腰掛けた。
肉体的には何の問題もなくとも、唐突に狂った肥満オヤジに体当たりされればそりゃ疲れるでしょうね。
「ワシは無敵だ……」
「はぁ?」
「ワシハ、ムテキダァ!!」
捕縛しようと近づいたら、おっさんはまたもや奇声を上げて立ち上がり、そして拳を振りかざしてきた。
しかしその構えは素人そのもので、これからどこを殴るのかこちらに教えてくれているかのような大振り。当然当たるわけもなく、軽く避けてその脂肪がたっぷりついた腕を掴んだ。
さて、後は縛り上げて……?
『ご苦労。お前の役割は終わった』
(なんだ? 誰の声だ?)
『これからはお前が私の器だ。強硬派の団員ならば十分役立つだろう。この無能と違って、お前は意識すら飲み込ませてもらうぞ』
おっさんの腕から、何か嫌なものが伝わってきた。
これは、まさか邪気――ッ!?
「おご、お……!」
無防備に掴んでしまった腕から流れてくる魔の力に、俺は抗うことができない。
咄嗟に団長に助けを求めようとするも、団長は椅子の上であくびをしていた。もうこのおっさんのことは頭の中から排除してしまったらしい。
でも、違うんです団長。こいつの中には、邪悪な何かが――
『特殊能力発動・精神寄生』
邪悪な声がそう言った瞬間、俺の中の何かが奪われた。視界が突然暗くなり、その場に膝をつく。
同時におっさんの中から邪悪は消えたらしく、おっさんもまた崩れ落ちた。……まさか、邪悪は俺の中に……?
「ん? どうした? 何かあったのか?」
「いえ、ちょっと立ちくらみがしましてね。『気にしないでください』」
突然崩れ落ちた俺を心配したのか、団長が声をかけてくださった。
しかし、俺は俺の意思に反してなんでもないと、問題ないと口を動かしてしまう。俺の中に入った何かが、勝手に俺の身体を動かしているのか……?
「ん、そうか。ならいいんだけどな。じゃ、そのおっさんは任せたぞ」
「はい、了解しました」
団長は俺が――俺の身体を勝手に使っている誰かが言ったことを素直に信じてしまった。
そして、そのまま部屋を出て行ってしまった。多分、明日の浄化作戦の準備を始めるつもりなんだろう。いったい、俺はどうなってしまうんだ……?
「だ、団長ぉ!」
「あ? 今度はなんだ?」
謎の邪悪に身体を乗っ取られるという大失態に絶望していたとき、部屋にまた誰かが飛び込んできた。
身体も勝手に動いてそいつのほうを見る。今度の奴は、俺も知っている同期の奴だった。そそっかしい奴で、いつもしょうもないドジをして怒られている奴だ。
「あ、悪魔です! 悪魔が現れました」
奴はそう、物凄い勢いで叫んだ。あまりにも大声を出しすぎてちょっと咽ている。
団長は、そして他の団員達はその話を詳しく聞こうと真剣な表情となっている。俺も心情は皆と同じなんだが、しかし全く動かせない身体は意味ありげな笑みを浮かべるばかりだった……。
◆
「それで、今日は何の用?」
「何の用ってわけじゃないんだけど、なんだかだるいのよ。だからこの辺で休んでたらまたアンタが来ただけよ」
昨日アタシが倒れてから一日。ニンゲンの町に戻ったレオンは今日もこの辺りに剣を抱えてやってきた。
アタシはただここにいれば美味しい血がやってくるから待っていただけなんだけど、優秀な狩人は捕獲の瞬間まで爪も牙も見せないものなのよ!
「いや、休むってこの辺りそこそこ危ないぞ?」
「大丈夫よ。ちょっとは回復してるから」
大方その辺のモンスターが危ないとでも言いたいんでしょうけど、生憎この大陸の貧弱モンスターなんてアタシの敵じゃないわ。
魔力も多少回復しているし、軽く魔眼で見てあげるだけで魔物なんてみんな逃げていくし。
「……はぁ。わかったわかった。もう俺は何も言わないけど……なんでついて来るの? 俺これから弟子の様子を見に行かなきゃいけないんだけど」
「べ、別にいいじゃない! 偶々アタシの進行方向にアンタが歩いてるだけなんだからね! ……それよりも、弟子って何?」
「ん、ああ。お前さんよりもちょっと年下の男の子を弟子にしてるんだよ。俺の計算だとそろそろ終わるころだから見にいくの」
アタシの華麗なる弁論にレオンはあっさりと騙され、話題を変更してやった。
しかし弟子って……えーと、どう言う意味だったかしら?
「まあいいわ。それで、どこに向かってるのよ?」
「人食い魔狼ってモンスターの縄張り」
「モンスターの縄張り? 何でそんなとこに?」
「一昨日寝ている間に拉致ってそこに置いてきたんだ。実力的には十分対応できるはずだし、二日もあれば殲滅できてるだろう」
「へー、ニンゲンってそんなことするのね」
ニンゲンはひ弱だって聞いてたけど、そんなことするんだ。
なるほど、それが弱い生物なりに生き残るための知恵ってわけね。あえて過酷な環境に身を置くことで自分を鍛える……わからなくもないわ!
「……ん?」
「どうしたの?」
「いや、何かが近寄ってくるような音が……」
「……そう言えば、何か聞こえるわね」
レオンがやや表情を引き締め、周囲を警戒しだした。
アタシもそれに釣られて何となくあたりをキョロキョロと見てみる。まあ、アタシの生命感知に何の反応も無いから、どーでもいいことなんでしょうけど。
「……カーラちゃん」
「なによ?」
「俺の後ろに下がってくれる? どうやら、招かざる客らしい」
表情を完全に引き締め、腰の武器を抜きながらレオンがアタシにそう語りかけてきた。
アタシをちゃん付けで呼ぶのにちょっと思うところはあるけど、何となく許してあげた。アタシは寛大なのよ。
でも、下がれとはどう言うことかしら? この吸血鬼であるアタシを下がらせようなんて、随分自信満々じゃない。
……ま、いいでしょ。何がどうなってるのかわからないけど、お手並み拝見といきましょうか。
「ギ、ギギィ……!」
「……何アレ?」
しばらく待つと、遠くから黒い何かが近づいてきた。
大きさはアタシより少し小さいくらい。全身真っ黒で、体にはトゲトゲとした固そうなのが沢山ついている。
背中からは羽を生やしていて、顔はブサイク。ニンゲンとも違う感じね。なんと言うか、その辺のモンスターの顔を思いっきり悪意を持って歪めたって感じかしら?
「もしかして、悪魔……か?」
「アクマ?」
「実物を見るのは始めてだけどな。でも何でこんなところに?」
アクマ……えっと、確かモンスターの名前よね?
吸血鬼とどっちが強いのかしら?
「ギィ……」
「気のせい? 何か苦しそうだけど」
「んー、多分この辺の結界のせいだな。悪魔とか相性最悪だろうし……」
ビリビリと何かに痺れているようにも見えるアクマに、レオンはそう言った。
結界ってなんのことかしら? あたしの体調悪いのに何か関係あるのかしらね?
……って、身体を引きずるようにこっちに向かってきてるわね。まさかあたしに刃向かうつもりかしら?
「ギィ、イィ!」
「ん?」
ちっちゃいアクマは拳を振り上げ、レオンに殴りかかった。
でもレオンは手にした剣すら使わずに、困惑したかのように左手一本で拳を掴み取って止めてしまう。
何かしら? このアクマっての、実はすんごく弱いんじゃない?
「……こいつ、死に掛けか?」
レオンは掴んだアクマの腕をそのまま捻り上げ、左腕一本で投げた。
大した抵抗も見せずにアクマは地面に叩きつけられ、そして全身にヒビが入る。何こいつ? ちょっと弱すぎない?
「やっぱり、こいつ結界にやられているな」
「どういうこと?」
「あ、つまり――ッ!?」
困惑した表情で砕けていくアクマを見ていたレオンは、突然ハッとした表情になってその場から飛び退いてあたしの方に走ってきた。
そして左腕であたしの身体を抱え、凄い速さで移動する。その衝撃に思わず「ぐえっ!?」とか言っちゃった気がするけど、気のせいよね。
……と言うか、いきなり何すんのよ!
「ちょっと、苦しいじゃない! いったい――」
「伏せてろ!」
「えっ!?」
レオンは離れた後、まるであたしの盾になるように身体を被せてきた。
いったい何をしたいのかって訳がわからなくなったそのとき――突如、さっきのアクマの方から爆発音が聞こえてきてあたしはついビクッと身体を震わせちゃった。
い、いったい何なのよ本当に!?
「……【死に際の呪い爆破】か」
レオンは後ろの爆心地を見て、何かに納得したようにそう呟いた。
何を言っているのかわからないけど、とりあえず説明を要求するわ!
「ねえ、なにがどうなったのよ?」
「えーと、今の悪魔の能力だ。多分今の悪魔は炸裂する小悪魔。単体での性能はその辺のゴブリン程度の、悪魔種とは思えないような雑魚だけど、倒されるとその場で呪い効果つきの爆発を起こすんだ」
「へー。つまりめんどくさい奴なのね」
「……ま、そうだね」
簡単に倒せるくらい弱いけど、倒されてから攻撃してくる。めんどくさいわね。
でも、あたしには通用しないわ。呪いだかなんだか知らないけど、吸血鬼の守りをそう簡単に破れるとは思わないことね!
「ちなみに、呪いの効果はHP……生命力の最大値の減少、能力値低下、時間ごとに生命力や魔力にダメージといろいろある。食らうとマジで危険だから気をつけるように――っと、つい癖で解説しちゃったか。まあとにかく、あれはそんなモンスターだな」
「ふーん。でももう倒したんでしょ? じゃあもうどうでもいいじゃない」
「そうなんだけど、でも気になるな……。えっと、カーラちゃん」
「何よ?」
「何か起きてるみたいだから、俺の弟子がちょっと心配だ。急いで迎えに行くけど、キミを一人にしておくわけにも行かない。と言うわけで、乗ってくれる?」
「へ?」
レオンはあたしの前で背を見せて膝を曲げる形でしゃがんだ。
いったい何をどうしたいのかしら? 乗るってどう言うこと? 踏んで欲しいってこと?
「早くしてくれる? ちょっとばかり時間が惜しい」
「だから、あたしにどうして欲しいのよ?」
「あー、だから、俺がおんぶして走るから乗ってって言ってるの」
「おんぶ? えーと……ああ! わかったわ!」
確か、昔一度おとー様にやってもらったことがあるわね。まだ空も飛べなかったころ、高いところに引っかかった何か……確かつい投げちゃった宝石を取る為だったかしら。
おとー様は『高位吸血鬼の私がこんなことを……』なんてにやけながら言ってたけど、あれは楽しかったって覚えてる。
レオンはあれをあたしにやってくれるつもりなのかしら? ……いい心がけじゃない。なら、乗せてもらおうかしらね。
「よい、しょっと」
「ん。じゃあ、しっかり掴まってね。かなり急ぐから」
「フフン、そんなこと言っていいのかしらね? あたしの力はサイキョーよ!」
吸血鬼の腕力、舐めてもらっちゃ困るわ。あたしが本気で握れば大抵のものは握りつぶせるんだから。
まあ、別にレオンに恨みはないし、軽く両肩に掴まる程度にしてあげましょうか。
「お、おう。思ったよりも力強いね……。まあ、その方が大丈夫か。それじゃ、舌噛まないように口閉じててね」
「わかったわ。でも、そんなに言うほどの――」
「魔力開放――【常態加速法】」
「速さなんて――えぇぇぇぇぇ!?」
レオンが一歩を踏み出した瞬間、世界がぶれた。そして、あたしの身体に物凄い力が加わってきた。
ちょ、ちょっと速過ぎない! ニンゲンってここまで速く走れるものなの! 脚力に特化した種族なの!?
「喋らない方がいいよー」
「む、むう」
一歩一歩を踏み出す度に地面を抉りながら、この爆速レオンは走り続けている。
でも本人的には全然大した事無いのか、軽い感じで走り続けてる。結構揺れるからあたしは口閉じてしがみ付いてるけど、ニンゲンって思ってたよりもずっと凄いのね……。
◆
「だりゃぁぁ!」
朝起きたら人食い狼の巣にいた。そんなことに最近なれつつある自分に愕然としつつも、ついに最後の一匹の首を刎ねた。
全く、本当に全く! 師匠ももう少し手加減してよ! いくら『ついて来れなきゃ死ぬよ?』って前置きつきの弟子入りと言っても、こう何度も何度も死地に放り込まれたら泣くよ僕!
「はぁ、でも、これでもうこの辺は安全だよね。追跡を振り切る一番確実な方法は追跡者を倒すこと……って、それは本当に正しいんですか師匠?」
まあ、あの人はそれで今まで生き残ってきたって言ってたし、真実ではあるんだろうね。それが出来れば誰も苦労しないってだけで……。
「いや、出来ても苦労するけどさ。実戦と訓練を交互にやってるおかげで成長は実感できるけど、毎回毎回本当に……」
なんて、愚痴が無限ループしそうだ。早く町に戻って休もう。
師匠の方針では実戦、休息、訓練、実戦……ってサイクルが一番有効って言ってたし、無事に帰れば明日一日身体を休められるだろう。またあの拷問用としか思えない重りつきの休憩だろうけど……。
「……ん? 何だ?」
とぼとぼ返り血で酷いことになっている服にため息を吐きながら歩いてたら、何か向こうから歩いてきた。
何だろ? 黒いのが1、2……3匹向かってくる? 新手の魔物? この辺に生息してる魔物は僕にやらせる用を除いて全部師匠が狩ったって言ってたのにね?
「ギィ……!」
「ギィッ!」
「何だろ、物凄く弱そうなんだけど」
この周囲は聖都に張り巡らされた浄化の二重結界によって守られているらしい。だから魔物もそれに合わせて弱体化しているんだけど、それにしてもこの黒いの影響受けすぎているような気が。
まだまだ僕の勘なんて当てにならないけど、間違いなくこいつらあの魔狼たちより弱い。最近わかるようになってきたんだよね、そう言うの。
「ギィ!」
(何だかよくわかんないけど、襲ってくるなら迎え撃つ!)
身体に活を入れ、飛び掛ってきた三匹を見据える。
多対一に陥ったとき、一番いいのはその場から逃げること。それが出来ないんなら……高速で数を減らす!
「シッ!」
黒い魔物に合わせて僕も踏み込み、囲まれる前に懐に入る。
いくら数がいても、敵の懐に入れば一瞬だけ一対一にできる。後は、一撃で仕留めるだけ――
「よせアレス! 攻撃するな!」
「えっ!?」
突然聞こえてきた、物凄い速さで近づいて来た師匠の叫び声。
その声に咄嗟に反応し、攻撃を止めた。黒い魔物の中心に突き立てようとした剣を無理やり止めたんだ。
でも、僕が止まっても魔物は止まらなかった。その不気味な顔を邪悪に歪めて、自ら僕の剣に突き刺さりに来たのだった。
「なん――」
「ギィィィ!」
「あっ――ぐぅおぉぉぉ!」
何がしたいのか全くわからない黒い魔物の行動に動揺した直後、魔物の身体が突然黒い靄のようなものを放出しながら破裂した。
僕はそれに対応することができずに、視界が黒一色に染まるのを黙ってみているしかできなかったのだった。