第5話 見習い騎士試験
この話から『見習い騎士試験編』スタートです。
「明日より、お前に見習い騎士試験を受ける権利が与えられる」
「………………」
レオンハート・シュバルツ11歳。明日で満12歳になる俺は、今日もグレモリーのクソジジイと親父殿にコテンパンのギタンギタンに叩きのめされていた。
今日は多対一の戦闘訓練と言う名目で親父殿とジジイ製ゴーレムの部隊に一日中追い掛け回されたのだ。軽く三途の川……がこの世界のあの世にあるのかは知らないが、まあそれっぽいものを見たような気はする。
(しかし多対一の戦闘訓練が必要なのは認めるけど、一人でも俺なんて瞬殺する親父殿が敵チームにいるのは酷くね……?)
俺は気絶しながらも内心で愚痴を漏らす。言葉にすれば『自分よりも強いものが複数で徒党を組んで襲ってくることなど珍しくもない!』って感じに死体が惨殺死体までランクダウンする修行が待っているのはわかりきっているし、口には出さないけどさ。
そんな風にいい感じにボロボロだった俺に、親父殿は騎士試験について告げたのだった。
……気絶して数秒で覚醒できる辺り、俺も大分この地獄に慣れてきたと感じさせられる。あんまり嬉しくないけど、しかしそんなことどうでも良くなるくらいに衝撃的な話だよねこれ?
「き、騎士試験ですか……?」
「見習い騎士試験、だな」
ボロボロになった体も、毎日毎日叩きのめされていればそれも慣れる。すぐに復活して親父殿と向かい合うが、やはり聞き間違いではなく見習い騎士試験についての話だったらしい。
(見習い騎士……騎士試験条件を満たす選択肢の一つか……)
親父殿の言葉を聞き、俺は見習い騎士について思い返す。
この国の子供達に将来何になりたいかと聞いてランキングをつければ、ほぼ間違いなく騎士がブッチギリ第一位となるだろう。騎士の力によって権威を保つこの国において、騎士とはそれほどの憧れと尊敬を集める職なのだ。
見習い騎士とは、その登竜門とでも言うべき称号なのである。
「騎士試験を受ける条件はわかっているな?」
「はい。見習い騎士として二年以上の功績を積むか、国立騎士学院にて全6年の過程を収めることですね」
「ウム。そして、お前は見習い騎士を目指すのだったな」
「その通りです」
騎士になるには騎士試験をクリアするのが一番確実だ。そして、その騎士試験は受験するだけでも条件を満たさないといけないのだ。
それが12歳から受験資格を得る見習い騎士として実績を積むか、6年過程の騎士学院を卒業するかなのである。
ちなみに、親父殿は学院主席卒業によって試験免除で騎士の仲間入りを果たしている。その学院で知り合ったのがグレモリーのジジイと言うわけだ。
「父上は、学院卒業生なのですよね?」
「ウム。私は10のころより入学し、16になったところで騎士の資格を得た。私としては今からでも学院入学で全く問題ないと思うのだが……」
「いえ、私はあくまでも見習い騎士として騎士を目指します」
「ムウ……そうか。お前がそう言うのなら無理に止めはしないが……しかしなぁ……」
親父殿は俺が見習い騎士になるのに反対ぎみなのだ。断固として反対と言うわけではないのだが、心情的には賛成しかねると言う所だろう。
まあ当然だ。俺が親の立場だったら、どう考えても学院ルートを勧める。
だって、危なすぎるんだもん。
「見習いとは言え、騎士は騎士だ。職務としては他の騎士のサポートとなるが、時には命を落とすような危険な任務に付くこともあるだろう。一応法では12歳から見習い騎士になる事が許されているが、去年の最年少受験者は15歳だ。はっきり言って早すぎると思うのだが……」
「私の決心は変わりません」
「ムウ……」
騎士とは命を賭けて戦うのが職務だ。それだけが仕事の全てと言うわけではないが、見習いだとしてもその危険はついて回る。
そのせいか、騎士になるには二年の実績でいい見習い騎士になるのは15歳くらいからと言うのが慣習になっているんだよな。それも、ほぼ落ちる事を前提にした受験を繰り返すのを覚悟して。
(普通は20歳くらいで騎士になれれば優秀って評価なんだよなぁ……。でも、俺にはそんな時間ないんだよちくしょう)
親父殿は10歳で学院入学を果たし、16歳で主席卒業した。
学院卒業者には全員騎士試験受講資格が与えられるわけだが、その中でも成績上位5名には試験免除で騎士になる資格が与えられるシステムになっているのだ。ぶっちゃけ、16歳で主席卒業とか化け物の所業である。
と言うのも、学院は学院で超絶厳しい場所なのだ。入学試験もかなりの難関で、10歳で合格とか神童として崇められてもおかしくない偉業と言っていい。その中で更に留年することもなくストレートで主席卒業なんて、優秀なんて言葉じゃ収まらない才能である。
そして俺は、そんな親父殿よりも更に早く騎士資格を得ようとしているのだ。
「俺は確かに16で騎士になったが、お前はお前だ。無理して命を失っては元も子もないぞ?」
「……私が自分で選んだ道ですから」
「そうか……」
親父殿は、自分のプレッシャーで俺が焦っているのではないかと心配しているのだ。若気の至り……なんていうほど老けてないけど、前科がある分余計心配なんだろう。
しかしまあ、それはゼロではないが一番の理由ではない。俺が最短ルートで騎士になろうとしているのは、何よりも俺が原因なのだ。
俺、と言うか本物のレオンハートが騎士になったのは――なんと12歳。俺は明日で12歳になるわけだから、つまり来年には見習いどころか正式に騎士になっちゃってたんだよねこれが。
もうこれは尋常な早さじゃない。最短と言われる見習い騎士ルートでも14歳で試験資格を得るのに、なんで見習い騎士にようやくなれるかもしれない年齢で騎士になっちゃってるんだよ本物は。
その情報自体はファンブックに書いてあっただけで、最年少で騎士になった方法はさっぱりなのがまた面倒だ。どうすれば追いつけるのかわからないのに、高すぎる壁だけは見えてるんだもんな……。
なんて愚痴りたくもなるけど、とにかく俺はそんな超天才を超えないといけないんだ。
(魔王襲撃までに俺は見習い騎士を引率する階級――上位騎士に上り詰めているのが最低条件。本当は全てをコントロールできる騎士団長の地位を得ているのが理想なんだけど、とにかく俺には一分一秒が惜しい)
見習い騎士として入団してくる主人公を守る為には、俺もそれに相応しい地位を得ている必要がある。
まあいっそ騎士にならないで主人公だけ助け出すって手段もあるんだけど、ギャンブル過ぎて取りたくない手段だ。安全確実に主人公に聖剣を手にしてもらう為にも、やはり可能な限り不確定要素はなくしておきたい。
「やれやれ……では、見習い騎士試験受験に関する説明をするとしよう。汗を流したら私の執務室に来なさい」
「わかりました」
ここで一旦解散となり、俺は一人でシャワー室に向かう。
……シュバルツ家に産まれて何が嬉しいって、普通に風呂に入れることだ。文明的にはそれほど進んでいないこの世界、風呂に入れるのは上流階級のみだ。
この国は水に恵まれてるけど、わざわざ水汲んで湯を沸かす労力を払う者は少ないんだよね。風呂好きの元日本人としては、仮に一般邸宅に産まれていたとしても意地でも沸かすと思うんだけどな……。
って、そんなことよりも今はもっと重要な事があったか。
「やれやれ、試験か……。俺大丈夫なのかなぁ……」
思わず不安が口に出てしまう。本物のレオンハートより遅れているとは言え、12歳で見習い騎士に合格するなどほぼ夢物語だ。ほとんど命知らずの記念受験と言われる暴挙だと言うのに、世界の為にも受かるしかないと言うプレッシャー。
これで不安にならないのなら、そいつの心臓には毛が生えているどころかそもそも心臓がないレベルだろう。
そんな事を考えながらも、俺は自宅で休む為に歩いているにも関わらず剣を構えてため息をついたのだった。
「クソジジイ……休憩くらいとらせろよ」
自宅の庭。おおよそこの世でもっとも安全な場所の一つで、俺は複数の魔物に奇襲を受けたのだ。
より正確に言うと、魔物を模した魔道人形――モンスターゴーレム試作型に。
「今日は狼タイプか? どうせ目の辺りに映像水晶でも仕込んでるんだろクソジジイ」
我が魔道の師、グレモリー。魔道の探求に命を賭ける魔の賢人。能力だけなら文句なく最高クラスなのだが、一つ致命的な悪癖がある。
それは、新作の魔道具やら呪いやら魔法やらが完成すると、すぐ弟子――つまり俺で試そうとすることだ。
毎回毎回あの魔法狂いジジイの実験に付き合わされて死にかけたせいで、すっかりあのジジイ限定で外面を取り繕うことすらできなくなってしまった。
この五年で親父殿のジジイを前にしたときの変貌振りにも納得できてしまったが、道徳的にはともかく修行にはなるからと放置されたときは流石に殺意芽生えたな……。
「デリャッ!!」
目視できる敵影は三体。魔力の気配から考えて、息を潜めて隠れているのが二体。計五体の狼ゴーレムが俺を囲んでいる。
そんな事を無意識に判別できるようになったと言うべきかなってしまったと言うべきかはわからんが、とにかく俺は素早く地面を蹴り、狼ゴーレムの一体に斬りかかった。
数で劣るときには一対一に持ち込む。ついさっき教わり、そして全く有効活用できなかった親父殿の教えだ。
俺はこれをとにかく速攻で仕掛けて敵の数を減らすと言う風に解釈しているのだが、さっきは親父殿指揮下のゴーレムに上手く連携されてボコボコにされてしまった。
だが、自作ゴーレムの性能を見たいだけのジジイ指揮下のゴーレムならば――
「加速法――二倍速!」
自分の中の魔力を滾らせ、一気に解放する事で肉体を瞬間的に強化する。これこそ戦士系職が使うスキルだ。加速法は特に速力強化に特化したものであり、まだ体ができていない俺でも高い効果を発揮する能力である。
加速した剣を前に、狼ゴーレムは真っ二つになる。気のせいか『耐久性に難ありだな』とかどこかのジジイが呟いた気がするが、気にせず俺は残りの狼ゴーレムを――無視して走り去った。
「ジジイの試作運転になんざ誰が付き合うか! 囲いが破れたんだからさっさと帰らせてもらう!」
多対一、すなわち不利な状況へと追い込まれたときの定法。それすなわち“さっさと逃げる”に尽きる。
逃げると言う言い方がイヤなら“仕切りなおす”でもいいが、とにかく不利とわかってるのにその場で戦い続けるなんて馬鹿のすることだ。後ろに守るべき何かがあるとでもいわない限り、俺は逃げることを恥だ何て思わないのである。
(そう言う甘さは徹底的に絞られたもんなぁ……。余計なプライドなんて持つのは百年早いって……)
毎度毎度気絶するまで叩き込まれている数々の教え。それを忠実に思い返し、俺はシャワー室へとすたこらさっさと逃げ込んだのだった。
◆
「さて、これから見習い騎士試験についての説明を行うが……どうしたのだ?」
「いえ……別に……」
親父殿の執務室。そこで俺は説明を受けるためにやって来たわけだけど、ちょっと傷を負っていた。
と言うのも、ここに来るまでの間にさっき軽くいなされたのが気に食わなかったのか、またゴーレムに襲われたのだ。さっきと同じように対処したんだけど、今度は俺が裏をかかれてやられちゃったわけである。
それもすっかり慣れっこなのですぐに復活したけど、常在戦場の心得が強制的に養われる生活をしている自分に慣れて来た事が一番心に来るな……。
「あー、それでは始めるぞ。まず最低限知っておくべき事として、騎士試験も見習い騎士試験も二つの項目から成り立っているのだ」
俺が知らない所でボロボロになっているのは親父殿も慣れている為か、あるいはかつて自分の身で俺と同じ経験をしているからよくわかっているからと言うべきか、とにかくスルーして解説を始めてくれた。
俺としても一々説明するのは面倒くさいので、余計な事は考えずに親父殿の説明に意識を集中させるのだった。
「試験内容は『個人の実力』と『協調及び適応力』の二つだ」
「……すいません、個人の実力はとにかく『協調及び適応力』ってなんですか?」
「ウム、説明しよう」
そう言って親父殿は一旦口を閉じ、机の上に並べてある大量の書類の中から1枚取り出したのだった。
「これを見なさい。例年使われている試験会場の地図だ」
「会場って……森、ですよねこれ?」
「ウム、森だ」
地図に書いてあるのは、どこをどう見ても森だ。流石に12年も生きていれば言葉もマスターしてるし、地図をそこまで致命的に読み間違えるようなへまはしない。
ここに記されているのは、どう見ても軽く野球場を建設して十分あまりが出る広大な森なのだ。
「見習い騎士試験第一次は、受験者のペアでこの森に入り、指令をクリアすることだ」
「指令? と言うかペアって……誰かとチームになるんですか?」
「その通り。騎士とは知っての通り集団で動くことが多い。そのため、見知らぬ他人とでも協力し合えるかを試すわけだな」
「なるほど……」
騎士団と言うだけあり、騎士は基本集団で戦う。いくら強くても集団の和を乱すような輩に入団を許可するわけには行かないと言うのはわかる話だ。
「森の中には監視水晶が幾つも設置されている他、試験官として任についている現役騎士が監視を行っている。それを元にチームとして行動できているかを判断し、合格者を決めるわけだ」
「……それで、指令と言うのは何なのでしょう?」
「それはわからん。毎年指令内容は変更されているからな」
つまり、その部分は事前準備不可。どんな状況にも即時対応して見せろと言うことか。性格も相性も不明の相方といきなり未知の課題に挑ませるとは、なかなか難儀な試験だ。
まあ、親父殿が本当に指令内容を知らないかはまた話が別だけど。むしろ、親父殿なら知ろうと思えば簡単に調べられるはずなんだけど。
(もっとも、仮に知っていても絶対に教えてはくれないだろうけどさ。厳格でルールに厳しい親父殿が息子と言えど不正なんてするはずないし)
親父殿は教えてはならないことを教えるような真似は絶対にしない。それは確かめるまでもなくわかっているので、俺は黙って続きの説明を待つのだった。
「一次試験は例年三日から五日かけて行われる。試験会場には強力な魔物の類は生息していないが、普通の野生動物は多数生息しているからな。それらへの対処ができるかも試験項目の一つだ」
「食料などは?」
「自給自足だ。任務によっては長期にわたってサバイバル生活を送る事もある騎士になるのだから、それくらいは最低条件だ」
「なるほど」
結構厳しいな。まあ狭き門の試験としては当然なんだけど、見知らぬ他人と協力しながらいろいろ問題を解決しないといけないわけか。
当然指令をクリアできなければ無条件で失格だろうし、初っ端から脱落者続出しそうな試験だな……。
「一次試験終了後、審議を経て二次試験が開始される。この間には少し時間が設けられているから体を休めることができるぞ」
「ちゃんと休息は得られるんですね」
俺は思わずほっとしてしまった。休息期間があるかないかは俺にとって死活問題なのだ。
数日とは言え、一切気を休める事ができないサバイバル生活を完遂してすぐ二次試験となると流石にきつい。
俺も毎日とんでもない密度で鍛えられていると言ってもまだまだガキであることに変わりは無いし、スタミナは不安要素の一つだ。多分受験者全員俺より年上であることから考えても、休憩時間が与えられるのはありがたい話なのだ。
「ちなみに、二次試験に移れるのは一次の合格者だけだ」
「一次で落ちたらその時点で追い返されるわけですか」
「そう言うことだな。そして二次試験だが……これは個人戦だ。それも余計な事は一切考えなくていい、お互いに条件を揃えた上での受験者同士による一対一の模擬戦闘によって判断される」
「それに勝てば合格と言うことですか?」
だとすると、対戦相手しだいでかなり難易度が変わることになる。まあ面倒な一次試験突破者なら皆それなりの実力を兼ね備えているんだろうけど、それでも個人差は大きいだろう。
そんな風に俺は考えていたのだが、親父殿はゆっくりと首を横に振るのだった。
「勝てばいい、と言うわけではない。騎士団が欲しいのは確かな実力のあるものだからな。仮に運よく生き残っただけの未熟者を一方的に降したとしても意味がない。逆に言えば、十分見習い騎士足りえる実力を持ったもの同士が戦ったとして、その場合でも当然一人敗者が出る事になる。実力十分なのに負けたから失格、と言うのも本意では無いと言うことだな」
「では、どう言う基準で合格不合格を出すのですか?」
親父殿の言い分はわかる。要するに、力のあるものを選抜したいだけであり、そのときの対戦相手に左右させたくは無いということだ。
それはわかるが、じゃあどうするのか。親父殿はそれを説明してくれたのだった。
「簡単だ。行うのは一対一の個人戦だが、これを総当たり戦で行う。これならば対戦相手の幸運不運はあるまい」
「えっ……? でも、それ物凄い試合数になるんじゃ……」
騎士になりたい若者は多い。となれば当然、その前段階である見習い騎士を希望するものだって数多くいるはずだ。そんな大人数で総当たり戦なんてやったら、とんでもない時間がかかると思うんだけど……。
そんな心配が顔に出ていたのか、親父殿はちょっと意地の悪い笑みを浮かべて俺の言葉を否定したのだった。
「不要な心配だ。一次試験において受験者のほとんどが落ちる事になるのだからな」
「ほ、ほとんどって……」
「まあ、全体の一割が残れば豊作だろうと言うところか」
一次にして合格率10%か。こりゃ狭き門の名は伊達じゃないな。
当然二次でも相当数落ちる事になるんだろうし、気合入れないといけないな。
「とは言え、それでも総当たり戦をするには少々多すぎるのは容易に想像できる。これから先の話は実際の試験結果に左右される為はっきりした事は言えんが……大体平均して10人ほどのグループに分けられることになっているな」
「10人……? と言う事は、二次試験は45試合もやるって事ですか?」
10人で総当たり戦をやった場合、理論上の試合数は全45だ。これは十分多いと思うんだけど……。
「まあ確かに、理論上はそうなるな。だが、実際には全試合が行われることはマレだ」
「どう言うことですか?」
「まず第一に、実力十分だと判断されたものはそこで試合から抜ける。滅多にある事ではないが……その場合そやつの残りの試合は中止となるわけだ」
「でも、それだと他の受験者のアピール回数が減ってしまう事になるのでは?」
試合と言いつつも、これはあくまで自分の実力を見せ付ける舞台だ。それなのに、他人の都合で自分の試合が減らされるのは冗談じゃないと怒る奴がいてもおかしくないと思うんだけどな……。
「当然の考えだ。故に、この勝ち抜けが行われることはほぼないと言ってよい。あくまでも例外的処置、これ以上の試合は他の受験者にとっても不幸しか生まないと言う場合のみ適応されるルールだ」
「では、やはり通常は45試合もやると言うことですか?」
「いや、試合数が減る第二の理由がある。すなわち、参加者が棄権した場合だな」
「棄権?」
せっかく二次試験まで進んだのに棄権とかありえるんだろうか?
そんな考えが顔に出ていたのか、親父殿は少々凶悪な笑みと共に事情を説明してくれた。
「単純な話だ。二次試験の試合はノンストップでその日の内に行われる。つまり、傷を癒したり体力を回復させたりする時間は精々が他の者の試合時間くらいしか無いわけだ」
「あー、なるほど……。あれ? でもそれだと総当たり戦する意味がなくなりません?」
二次試験が総当たり戦なのは偶々強者、あるいは弱者と当たってしまって実力を正確に測れないと言う事態を防ぐ為のものだと親父殿は言った。
でも、その説明だと最初の方にやたら強い奴に当たっちゃって棄権級の怪我した奴とか不憫だよな……。
だが、親父殿は俺の疑問に首を振って否定したのだった。
「そうでもない。これはあくまでも見習い騎士足りえるかを試す試験。実力がそもそも足りていないのならばどうしようもないが、合格にたる実力を持っていてもなお勝てない敵……そんな強者に当たったのならば怪我する前に止めればいいのだ」
「止めるって……一試合だけ棄権とかありなんですか?」
「ありだ。棄権も降参もな。騎士団が欲しいのは実力と冷静な判断力を併せ持つ戦士。猪突猛進の腕自慢が欲しいわけではない」
「戦う相手との実力差を見極めることもできない奴に用は無い……ってことですか」
「ウム。相手との実力差を見極める能力は非常に重要だ。むしろ、力の差をわきまえずに特攻したと言うだけでも失格ものだな。もちろん体力が低下していて勝てないと判断し、休息の為に一試合だけ棄権するのも問題ない」
「なるほど、そう言った駆け引きも試験の内、と言うわけですか」
要は自分の力を示せばいいわけだから、究極的には勝つ必要がない。だが、殴り合いの実力以外にもいろいろ見られる事になるってことか。
そう考えれば約45試合って大量の試合計画の意味も変わってくる。つまり、自分の力をアピールできる対戦相手を自分の目で見極めろって事なんだろうな……。
「無論、今お前が考えるべきなのは一次試験についてだがな。二次試験についてあれこれ考えるのは一次を突破した後だ」
「はい……!」
見習いとは言え、エリート集団である騎士になれるのはほんの一握り。一度の試験で通る人間なんて、それこそ片手で数えられる程度だろう。
指令って奴も気になるし、ペアがどんな奴なのかも重要。多分その辺の事はぶっつけ本番しかないんだろうけど、今から緊張してきたな……。
「一次試験で私から言える事はあまりない。先ほど見せた騎士団管理の森林内で行われるくらいしか決まりは無いのでな」
「全ては自分の実力で乗り切れ、と言うことですね……」
こりゃ、何が何でも一次試験突破を当面の目標にした方がよさそうだな。かなりきつそうだ。
(でも、いくら頭で考えたって実力で失格と言われれば何も言えない。俺も日々力をつけているつもりだけど、実際どの程度だと他の人と比べた事は無いしな)
基本親父殿とジジイに修行をつけられているのが俺の日常だ。それ以外の時間は母上に勉強を習っているか、あるいはメシ食ってとにかく寝るが常だ。
そんな生活送ってるせいか、俺ってとにかく人付き合いないんだよね。もうその辺の人間らしい生活は魔王関係の死亡フラグへし折った後でと決めているとは言え、自分の力がどのくらいなのか今一わかってないのはなんか不安だ。
となるともう自分は強いと自己暗示のように信じるしかないんだけど、実力以外の要素を試される一次試験に落ちれば実力審査にすらたどり着けないんだよなぁ。
「……私は、その難関を突破しなければならないわけですか」
「そうなるが……何度も言うが、別に急ぐ必要は無いのだぞ? 試験とは言え命の危険がないわけじゃない。後三年はじっくり力をつけても誰も文句は言わんしな」
「いえ……こればかりは譲れないのです」
「そうか……。では、手配しておこう」
「お願いします。それで、明日から12歳になるわけですけど、試験はすぐ始められるのですか?」
見習い騎士試験を受ける条件は12歳以上であることのみだ。ついでに15歳未満の受験希望者は保護者の同意が必要だったりもするけど、親父殿が納得してくれているんだからそれは問題ない。
つまり俺は明日にでも受験できると思うんだけど……そこんとこどうなんだろう?
「それは無理だ。試験の開催日は決まっているからな。一番早い試験だと……二ヵ月後になるか」
「結構先なんですね」
言われてみれば、受験希望者が出るたびに一々やってられないよなそりゃ。開催日は当然決まってるか。
しかし、そうなるとしばらく暇になるな。何故か明日から試験を受けるんだってくらいの意気込みだったし、今まで通り地道に基礎鍛錬を積んでいくしかないか。
そんな俺の甘い考えを見透かしているのかはわからないが、親父殿はため息一つついてから顔を引き締めた。俺を徹底的に叩きのめすときの、鬼教官の顔へと。
「まだまだ未熟なお前だが、男が自分の意思で戦場に行くというのを止めるつもりは無い。だが、こうなれば父として、そして師としてできる事を可能な限りやるとしよう」
「うむうむ。それが我らにできる唯一の事だの」
「あ、ジジ……グレモリー先生。いつからそこに?」
「ついさっきだよ。試作ゴーレムのデータが取れたので早速改良してやろうと飛んできたら面白そうな話をしてたのでな。私も参加しようとやってきたのだ」
さ、最悪なパターンな気がしてきたぞ……? やる気全開の親父殿に、悪乗り全開のクソジジイのペアって……下手するとそれこそ命に関わる。
思わず腰が引けてしまう俺だが、こんな室内に逃げ場がある訳がない。完全に心を決めた様子の親父殿がゆっくり立ち上がるのを黙ってみていることしかできなかった。
「先生。今より二ヶ月間、レオンに流浪の行を行いたいと思います。ご協力を」
「ム? 流浪の行? 確か……お前さんの家に伝わる修行法であったか?」
「はい。自然と一体化し、五感を研ぎ澄す修行です。見習い騎士試験に挑むに当たって、アレ以上の修行はありますまい。命を賭ける息子にしてやれる、非力な父から贈れる唯一のものです」
「あー……シュバルツ式鍛錬を実施する方がよほど命の危機だとは思うが……まあいいじゃろ。弟子の進歩を見るには殺してみるのが一番だと昔から言うしの」
「あの、その教訓絶対どこか間違ってます……」
やばい。今までの修行で培った危険察知センサーが全力で警報を鳴らしてる。特に、あの他人の命を好奇心で壊しかねないクソジジイが一瞬とは言え躊躇する所が何よりやばい。
だが逃げられない。逃げようとした時点で捕まるんだからそんなこと考えるだけ無駄なんだけど、仮に逃げられても世界がデッドエンドなんだから完全に詰んでる。
俺は、それを自分に言い聞かせて雄雄しく親父殿に向き合うことにしたのだった。
「あ、あの。お手柔らかにお願いしましゅ……」
……超引け腰の上に噛みまくりと、全然雄雄しくなかったねすいません。でも逃げなかったんだから褒めて欲しい。
この二人の達人が浮かべている、凶悪な笑みを前にしても逃げ出さなかったんだから……。
早くも12歳になりました。段々異世界的常識(と言うより父親の感性)を自然に受け入れられるようになったみたいです。