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【番外編完結】他力本願英雄  作者: 寒天
聖都の光と闇と
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第61話 吸血鬼カーラ

「……疲れた」


 アタシ、最強吸血鬼(予定)のカーラはニンゲン達が住むという水竜大陸にやってきていた。目的はもちろん、伯爵級吸血鬼を倒したと言う人間を倒してアタシの実力を証明することだ。

 それにしても、産まれてから火竜大陸以外に行ったことなかったけど、他の大陸に行くのって大変なのね。おとー様に転移魔法で連れてってとお願いしても『お前にはまだ早い』の一点張りで許してくれなかったから自力飛行する破目になったじゃない!

 途中で魔力が尽きて海に落ちてバチバチして痛かったし、溺れそうになって――別に呼吸とか必要ないんだけど、海水って触ると痛いのよね――苦しかったし、散々だったわ……。

 結局その辺の流木とかにしがみ付いて魔力の回復を待っては飛び、また限界が来て落っこちるのを繰り返すこと数度。太陽が何度も上り下りするのを眺めながら、寂しくてちょっと泣いちゃいそうになりつつおとー様からの魔法通信をスルーしつつもようやく大陸にたどり着いたのよ。

 火竜大陸とは違って随分涼しい。それに見たことのない緑色の……何かしらこれ? 随分ふにゃふにゃしてて脆そうだけど、生命反応あるわよね?


「ちょっと、アンタなんなのよ?」


 足元にいっぱい、似たようなものがある緑色の奴に声をかけてみるけど、返事はない。私の生命感知に反応がある以上これは生き物のはずなのに、なんで無視するのよ!

 ああでも、ひょっとして喋れないのかしら? この緑色の奴、口ないし。ついでに目も鼻も口も、何にもない。おまけにちっちゃくて、体全部を合わせてもアタシの手のひらくらいしかない。どうやって生きてるのかしら?

 魔法を使って栄養補給してるとか? でも魔力は見えないのよね。こんな姿じゃゴブリンにも勝てそうにないけど、ひょっとして正体不明の未知生命体発見しちゃった?


「……よし! アンタらをこのアタシの最初の戦果にしてあげるわ! 指し当たっては捕虜にしてあげる!」


 この謎の存在をおとー様に見せてあげれば、褒められるかもしれない。そう思って高らかに宣戦布告したんだけど、やっぱり緑色の奴は風に揺れるだけでなんのリアクションも返してはくれない。

 ……ちょっと、寂しい。


「ま、まあいいわ。せっかくだから見栄えのいい奴を選びたいところね……」


 足元に緑色の奴はいっぱいいるけど、どうせなら派手なほうがいい。そう思って辺りを見渡したら、ちょっと目立っている奴を見つけた。

 他の奴らは緑一色に薄い体しかもってないのに、コイツだけは頭っぽいものを持っている。しかも色合いは黄色一色で、髭みたいに沢山細いのが伸びている豪華な感じだ。多分、コイツがこの緑色の奴らの王様ね!


「フッフッフ。光栄に思いなさい、このカーラ様の初めての首になれることをね」


 そう啖呵を切って、アタシは黄色い冠をつけた緑色の奴に手を伸ばし、そこで固まった。何の抵抗もされないことにちょっと驚きつつも、どうやって持ち帰ればいいのかがわからないのだ。

 首を取るのだから、やっぱりこの黄色い頭の部分をちぎるべき? でも他の緑色の奴との共通点がなくなっちゃうから、やっぱり丸ごと持って帰るべきよね。

 アタシはそう考え、この緑色の王の真下の地面に指を突っ込んだ。体ごと持ち帰る以上、ちぎれないように土ごと持って帰ればいいという冴えわたる頭脳が導き出した回答って奴ね!


「……あら? なにか引っかかってるわね? このアタシに抵抗しようとは、少しはアナタにも誇りがあったのかしら?」


 地面から引き抜こうとしても、抜けなかった。どうやら地中に足を隠していたらしく、超細い足が土に絡んで抜けないのだ。この足の感じから想像するに、触手系のモンスターの一種なのかしら?

 ……まあいいわ。そんな抵抗、このカーラ様の前では無力と知りなさい!


「フッハッハ! どうだ、アタシの実力を見たか!」


 触手のような足を使っての抵抗も、その範囲を更に超える地面を掘ると言う奇手によってあっさり瓦解した。

 地面ごと、この黄色い奴はアタシの捕虜となったのだ! アタシ、完全勝利!


「さて、これは……箱にでも入れておくとして、これからどうしようか?」


 アタシは持参した荷物の中に討ち取った黄色い奴を仕舞い、視界一杯に広がる緑色の奴ら以外何もない世界で立ち尽くした。

 水竜大陸って、ニンゲンが住んでるのよね? 何で緑色の奴しかいないの? 確か人間ってアタシたちの同じように腕二本足二本の二足歩行生物って聞いてたんだけど、聞き間違い? まさかこいつらがニンゲンなのかしら? 


(でも、これじゃ文字通り手も足も出ないわよね? ニンゲンって種族はひ弱でアタシたちには手も足も出ないとは聞いてるけど、ここまでじゃないと思うんだけど……あ)


 足元に広がる緑色の奴の正体に悩んでいたところ、生命感知に何か別の存在が引っかかった。

 今度の奴は中々大きい。アタシよりもちょっと大きいのが二体もいるようだ。これこそがニンゲンなのではないかと直感し、アタシはその場から勢いよく飛び立ったのだった。



(えーと……多分、この辺りだと思うんだけど……いた!)


 数分飛んだところで、四足歩行生物に繋がれた乗り物に乗った二足歩行生物を発見した。

 あれならアタシも知ってる。ウマって生き物ね! 火竜大陸じゃ生きられない弱い生物だけど、水竜大陸では移動の足として利用されている場合もあるって『水竜大陸動物図鑑』で読んだもの!

 それに、あのウマで乗り物を動かしている生き物。あれこそがニンゲンよ! あれも図鑑通りだわ!


「ちょっと、そこの人!」

「ん? おおっ!? そ、空から?」


 飛行によってウマの前に降りたったら、ウマもニンゲンも驚いたようだ。

 ウマはいきなり現れたことに驚いて止まったようだけど、ニンゲンは空から来たことに驚いている。空を飛ぶことのどこに驚く要素があるのかしら?


「いやー、驚きましたな。その若さでそれほどの技が使えるとは、さぞ優秀な魔術師様なのですな。それで、いったいあっしに何のようで?」

「え? そう? まあアタシが優秀なのは間違いないけどね!」


 何かよく分からないけど褒められたから、とりあえず胸を張っておく。空を飛ぶことと魔術に何の関係があるのかは謎だけど。


「そうそう、それで用事だけどね? アタシは今とあるニンゲンを探しているのよ」

「はぁ? いったいどなたを?」


 ニンゲンはアタシの質問に素直に答えるつもりのようね。どうやらアタシが吸血鬼だとは思ってないみたい。

 何でだろ……あ、ゴホンッ! と、当然よね! 全てはアタシの計画通りってことよ!


 今のアタシは、吸血鬼の特徴をとあるマジックアイテムで隠している。目の色とか爪とかを変えるタイプではなく、認識をずらすことで気にならなくなるって感じかしら?

 アタシ達吸血鬼とニンゲンは敵対関係だからね。この水竜大陸で活動する以上このくらいの偽装は当然よ。そのおかげでこのニンゲンもアタシのことを疑わずに話してくれているのだし、アタシの先見の明って奴が輝きまくってるわ!

 断じて『最近持ってるアクセサリに飽きちゃったから何か欲しいな』なんておとー様におねだりした綺麗な指輪が偶々そんな効果のアイテムだっただけなんてことはなかったわよね、うん。


「そ、それでね。探しているのは――――」

「……?」

「いるのは……」


 ど、どうしよう。そう言えば、アタシ伯爵級を倒したって言うニンゲンの名前知らない。それどころか、性別とか身長とかその辺のこと何にも知らない。

 いったいどうやって聞けばいいのかしら? 今からでもおとー様に連絡を入れて聞けば……ダメね。うっかり通信なんてすればその瞬間居場所を特定されて転移で確保、長い長いお説教になるのは目に見えているもの。


「あの、何かあったんですかい?」

「え、えっとね」


 ダメ、こうなったらこの場で全てを解決する質問をアタシの脳からひねり出すしかない。

 考えるのよ、考えるのよアタシ――――


「あ、アタシが探しているのは『伯爵級吸血鬼を倒したニンゲン』よ!」


 ……そのままじゃん。自分で自分にツッコミ入れるのも虚しいけど、言わざるを得ないわ。そのままじゃん……。


「伯爵級吸血鬼? 伯爵級と言うのは無学なあっしにはよくわかりやせんが、吸血鬼を倒したお方になら心当たりがありますよ?」

「え? 吸血鬼を倒したニンゲンを知っているの!?」


 このニンゲンの言葉に、ちょっと凹んでいたアタシは即座に元気を取り戻した。

 ニンゲンは弱っちい生き物のはず。例外的に強い人間って言う、進化したような存在が出てくることもあるらしいけど、基本的に吸血鬼どころか下等モンスターにすら劣る力しかない、脆弱でどうやって今まで生き残ってきたのか疑問が残る種族のはず。

 だったら、その吸血鬼を倒したニンゲンは間違いなく人間の希少種。伯爵級を倒したニンゲンである可能性は高いわね!


「アナタ、そのニンゲンについて詳しいのかしら?」

「詳しいってほどじゃないですがね。実はつい最近、その方をこの馬車に乗せたんでさぁ」

「まぁ! 知り合いだったの?」


 これは予想以上の収穫ね! きっと居場所も知っているに違いないわ!


「そのニンゲンの名前は? 今どこにいるの?」

「驚かねぇでくださいよ? なんと、かの有名な騎士様、吸血鬼殺し(ヴァンパイアバスター)のレオンハート・シュバルツ様をこの馬車に乗せたんですよ!」

「ヴァ、ヴァンパイアバスター……?」


 なに、その不吉な肩書。怖いんですけど……。

 だ、ダメよ怯えちゃ。アタシはカーラ。誇り高き吸血鬼一族なんだから!


「そ、そう。それは凄いわね。それで……その、えっと、その殺し屋?は今どこにいるのかしら?」

「いや、殺し屋じゃなくて吸血鬼殺し……って、まあいいんですがね。どこにいるかは、生憎存じ上げませんね」

「なんでよ? アンタその男と知り合いなんじゃないの?」

「知り合いと言っても道を教えるついでにご一緒しただけですからね。そこまで深い交流は……」


 このニンゲン、使えねぇ……。場所を知らないんじゃ意味ないじゃない!

 でも、とりあえず名前がわかっただけでも進展かしら? えっと、レオンハ……ハ……


「ハックション!」

「キャッ! な、なによ?」

「どうも失礼を。最近風邪気味でして」


 グズグズと鼻を弄りながらニンゲンがそう言った。

 ……カゼ? 風属性がどうかしたのかしら? 周りにはこれと言って何もないわよね?

 まあいいわ。とにかくえっと、ハ――ハクション? うん、そのハクションの居場所を探らないと。


(さて、それじゃあこのニンゲンには、知ってることを全て吐いて貰うとしましょうか)


 余計なことは、一切考えないようにしてからね。


「ねえ、アタシの目を見てくれる?」

「へぇ? なんでしょ――」

「【魔眼・魅了の目(チャームアイ)】」


 アタシは目に魔力を込め、魅了の魔眼を発動させた。

 ニンゲンの男は全く抵抗する素振りを見せず、あっさりと魅了にかかった。別に魔眼はお互いの目を合わせる必要なんてないんだけど、この方が効きがいいのよね、何となく。


「アタシの質問に答えてくれる?」

「はい……」

「その、吸血鬼に勝った男と出会ったのはいつかしら?」

「今から一ヶ月ほど前です……」


 一ヶ月……結構前ね。魅了している以上嘘じゃないだろうし、この男の情報を聞いてもあんまり役に立たないかもしれない。

 まあ、とりあえず全部聞いてから考えるとしましょうか。


「最後にいたのはどこなの?」

「この近くにある、ニナイ村です……」

「……その村に行けば何か分かるかしらね?」

「いえ、吸血鬼の襲撃があったらしく、村民は全員避難して今は誰もいません……」

「え? そうなの?」


 別に質問じゃなかった呟きにまで律儀に反応してくれたんだけど、困ったわ。いきなり手がかりが消滅してしまったわね。

 ……どうしましょうか。


「ちなみに、その村民とやらがどこ行ったのかはわかるかしら?」

「わかりません……」


 最後の希望を託した質問だったけど、慈悲はなかったみたい。

 ……ホントにどうしよう。もう帰っちゃおうかな……。


「はぁ、いったいそいつはどこに行ったのよ……」


 もうおとー様に連絡入れて、迎えに来てもらおうかな。

 緑の奴の王様倒したし、水竜大陸も見られたし、ニンゲンも見れた。十分な成果があったと言っても過言ではないのでは――


「あの方は、聖地に向かっていると言われています……」


 え? 今何と?


「も、もう一回言ってくれるかしら?」

吸血鬼殺し(ヴァンパイアバスター)様は、聖地マーシャルへ向かわれていると言われています……」


 ……こいつ、最初から知ってたんじゃない! アタシ聞いたわよね! そのニンゲンがどこにいるのかって!


「何で今まで言わなかったのよ! 確かに言ったわよね! 『今どこにいるのか』って!」

「商人として、情報はただで教えるほど安くはないからです……」

「ショウニン? ショウニンってなに?」

「物を売り買いする職業に就く人間のことです……」


 ムムム、よくわからない。何で物を売り買い――この意味も正直よくわかんないんだけど――するのに情報云々の話が出てくるのかしら?

 ま、何でもいいわ。いずれにしても、一つハッキリしたことだしね。


「結局、魅了の魔眼を使ったアタシの頭脳の勝利ってことよね!」


 何だかよくわからないけど喋るつもりがなかったニンゲンに、全てを見通していたアタシが魔眼を使うことで情報を引き出した。

 うん、やっぱりアタシは偉大ね。完璧ね。サイコーね!


「それじゃ、行きますか!」


 もうこのニンゲンに用はないし、さっさとハクションの元に向かおう。

 この人は魅了の魔眼で意識を失っているも同然だけど、まあ後10分もすれば自然と正気に戻って今までのことは忘れるはずだし、放置でいいかな。元々込めた魔力も大した事無いしね。


 こうして、アタシは再び飛行を行って水竜大陸の空へと舞い上がった。そのままグングン加速して一気に進んで――あ。


「……聖地って、どこにあるのかしら?」


 一気に進んで、どこに行けばいいのかわからなかったから元の場所に戻って話を聞いてから空に戻った。

 ま、まあ大したことじゃないわよね。それじゃあ改めて、聖地マーシャルとやらへ出発よ!



「【魔眼・支配の目(ドミネーションアイ)】!」


 両の眼に込めた魔力によって、視界にいたでかい狼の動きが止まる。この真紅の眼で睨みつけられた者は意識はそのままだが、肉体の支配権を俺に奪われるのだ。


「命令する。襲え」


 俺は支配下に置いた狼へ、他の狼に攻撃するように命令した。その命令に対して逆らう意思を感じるが、それも魔力でねじ伏せる。そこに慈悲なんて必要ない。

 今の俺の仕事はこいつら、旅人を狙った人食い狼の魔物を壊滅させることなのだから。


「ギャウンッ!」

「ガゥ!」


 いきなり裏切った仲間に対応できなかったのか、すぐ隣にいた別の狼が喉笛を噛み切られてあっさりと絶命した。

 魔物とは言え獣。友愛だの友情だのを感じる心くらいはあったのだろうけど、残念ながら残酷であると知りつつも同情はしてやらない。

 お前達は人間を襲い、食った。だったら、その報復に何をされたって文句はないだろう……?


「【下級死霊作製(クリエイトアンデッド)獣の動死体(ゾンビースト)】」


 続いて全身に流れる闇の魔力に命じ、今死にたてほやほやの狼の死体に入り込ませる。すると瞬く間に闇の魔力は死体を蹂躙し、改造していく。

 闇の魔力は吸血鬼の血を筆頭として、他者の尊厳を奪うと言うか、作り変える性質がある。それを使って、ただの死体をアンデッドモンスターに改造するのだ。


「バァ……」

(成功。やはり魔力だけで一から作るよりも死体を使ったほうが効率が良いな)


 異形と化して立ち上がった狼の死体を前に、俺は満足する。

 前に吸血鬼が人間の死体からゾンビを作り出したことがあったが、自分でやってみるとその違いがよくわかるな。消費魔力的に考えても、これを使うなら緊急避難以外なら死体ありでやるべきだと納得できる。


「とりあえず、お前も襲え。狙いは向こうで唸っている連中だ」

「バウッ!」


 俺の命令に従い、こっちは逆らう意思を見せずに――もう死んでいるので意思なんてないんだが――元仲間の狼へと駆けていった。アンデッド化の影響で身体能力は落ちているだろうけど、その分不死性もったのだから足止めにはなるだろう。

 さて、今のうちに逃げたほうの群れを追うか。


「【特殊能力(スキル)飛行(フライ)】」


 俺は魔法に頼らず、種族としての特殊能力によって空へと上がった。翼もないのに容易く宙に浮かべるというのも変な感じだが、なるほどこの感覚は人間ではありえない気持ちよさがあるな。


(逃げた群れも生命感知で捕捉している。空からならすぐに追いつけるな)


 俺が狩りに来た狼魔物の群れは、総勢30匹ほどで構成されていた。

 その中で、まず俺を見て10匹ほどが攻撃を仕掛けてきた為普通に返り討ちに。その時点で生き残った半数が逃亡し、残り半数が襲い掛かっては来ないまでも俺を警戒しつつ唸り声を上げていたのだ。

 そこで俺は魔眼で群れの連携を崩し、同士討ちさせてみたのだ。この吸血鬼モード2――自分でもちょっとあれな気がする安直ネーミングだけど、別に誰に言うわけでもないしもうこれでいいかな――の性能チェックと訓練の的として。


「さて、最後の実験だ。【闇術・邪弾(ダークショット)】」


 空中から走る狼の群れに向かって人差し指を伸ばし、そこから生命を蹂躙する闇の弾丸を放った。

 魔力の属性変換を物凄く苦手としている俺であるが、この闇属性への変換は物凄くスムーズにできた。まるで、体内に魔力変換を肩代わりしてくれる何かが埋め込まれたかのようだ。


「ギャウンッ!」

「続けて【闇術・邪弾連弾(ダークネスガトリング)】」


 初級編はうまくいったということで、今度は同一の魔法を連続発動させるちょっと高位の技術を組み込んだ魔法を放つ。

 この魔法式の構成は、体で覚えたものだ。魔力を視認できる状態でこれに殺されかけた。その記憶は何年経とうとも色あせることなどない。今まではこれを使えるほどの闇の魔力はなかったけど、このモード2なら使用可能だな……!


 闇の弾丸が無数に放たれ、逃げていた群れを撃ち抜いた。それだけであの狼魔物たちは死亡したらしく、生命感知からも死亡が確認できる。

 後残ってるのは狼ゾンビにビビってるあの群れだけか。もう支配眼で操った奴は倒されて殺されちゃってるし、ちゃっちゃと終わらせるとしようかね――




(…………自己嫌悪だ。もう絶対あのモード2は使わない)


 全てが終わった後、俺は落ち込んでいた。そりゃあもう、こんな何にも無い原っぱで体育座りしたくなるくらいに落ち込んでいた。


(いやいやありえないだろ! 何だよ肉体の支配権を奪って同士討ちさせるとか、鬼か悪魔か! いや吸血鬼か!)


 今までも吸血鬼の力を使うと性格変わるとか言われたことは有るけど、自覚はなかった。でも、今回はハッキリ分かる。吸血鬼化を解除すると同時に自分自身に嫌悪感が走るくらいに分かってしまった。

 確かに、俺もミハイの奴に更に血を入れられてより吸血鬼化が深化したことは心配していた。でもこれと言って変化ないし、まあいっかと適当に流して利用することまで考えたよ!

 今回の件もその練習に使えるかなと思って、アレス君は町に置いて一人で討伐に来たくらいには思ってたよ!

 今まで戦ってきた吸血鬼連中の使ったスキルを思い返して、俺にもできないかなーとかリスト作っちゃうくらいにはあれこれ考えたよ!


(でも、あんなことする気は全くなかったはずだ。魔眼にしても魅了とかその辺を使って動きを封じることはできないかとか、そんなことを考えていたはずだ)


 なのに、いざ二回目のモード2に入った瞬間、頭の中にモヤがかかったというか、逆に物凄く澄んだというか、とにかく異常が起きた。人間なのに吸血鬼化している時点で物凄く異常なんだけど、今まで以上の異常が起きたわけだ。

 今回はまあ、いい。元々旅人狙いの人食い狼魔物なんて全滅させる以外の選択肢なんてないし、その手段で俺が傷ついた以上の問題はない。

 でも、もしあの性格残酷化と言うか、鬼畜化の影響で守護すべき人間まで傷つけたり、ドン引きされたりしたら本気で立ち直れないぞ……。


「はぁ……。それに、このモード心情的な理由以外でも使いたくないわ。腹へった……」


 このモード2、精神への異変以外にも問題があった。ハッキリ言って、燃費が悪すぎるのだ。

 それも、普通の魔力消費が激しいとかそんな話じゃない。もっと根源的な、本能的な餓えを感じてしまうのだ。

 ぶっちゃけ、こう、あれだ。生物の体内を流れる赤いアレを飲みたくなるというか……。


(いやダメだ。流石にそれはダメだ。それをやったら本当に何かを失いそうだし)


 俺は頭を軽く振って、ついさっきまで狂いそうになるくらいに感じていた衝動をかき消す。

 吸血鬼って連中は、血をエネルギー源にしている。俺も吸血鬼の力を使っている以上はそうなんだけど、今までは持ち前の分だけでよかったというか、吸血鬼化した際に改造される肉体が必要とする分は自分の血で賄えていたんだ。

 でも、このモード2は吸血鬼としての力が今までの比ではない。そのせいで俺の血だけでは全然足りなくて、他の奴の血を吸って補給しないと干からびそうになるんだ。吸血鬼化を解除すればその問題は解消されるんだけど、現在重度の貧血です。速やかに血を生産できる栄養豊富な食事を所望します。


(はぁ、聖地についてからもう一週間。いつまで待たされるのかねぇ)


 ちょっとフラフラしながら、俺は帰路につこうと動き出す。とっととこの転移玉を聖域に置いてきて、楽になりたいもんだよ本当に。


 俺は吸血鬼化の実験を終え、討伐証明代わりに狼どもの死体を近くに隠しておいた荷台にせっせと積み込んでいく。

 いつまで経っても俺の要請に「うん」といってくれない、聖地のお偉いさんに愚痴を零しながら。

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