第58話 アレスの奮闘
「おやおや、現場は予想を遥かに超える惨事だねぇ。濃厚すぎる魔力で気分が悪くなりそうだ」
(……誰、だ?)
師匠と吸血鬼の戦いの決着の瞬間、その衝撃波で僕は吹っ飛ばされてしまった。
そのときに頭を打ったみたいで、ちょっと意識を失ってたみたい。どのくらい気絶してたのかはわからないけど、頭がズキズキ痛む感じからしてそう長い時間じゃない。多分一分くらいだと思う。
最近気絶から回復する時間が短くなってきた気もするし、もしかしたらそれ以下かもしれないな。
「……うん、捕獲対象は完全に沈黙。状態は不明だけど、当分目を覚ましそうにないね」
まだクラクラするけど、知らない誰かの声で徐々に意識が覚醒していく。
どこの誰かはわからないけど、それよりも闘いはどうなったんだろう? あの光の矢で勝負はついたんだろうか……?
「そっちの吸血鬼は……うわぁ、こりゃ酷い。生きてはいるみたいだけど、むしろキミなんで生きてんの? あ、吸血鬼ってアンデッドだっけ」
何かに驚く声がする中、僕はフラフラしながら立ち上がった。
ぼんやりと霞む視界には、一人の男の人が立っている。その足元にあの光がなくなった師匠が倒れていて、ちょっと離れたところに当分肉が食べられなくなりそうな有様の吸血鬼が転がっている。
それに、空が青い。どうやら、あの気持ち悪い世界からは出られたみたいだ。吸血鬼が戦闘不能になったからなのかはわからないけど、とりあえず助かったのかな?
「さて、と。それじゃ回収させてもらいますかね」
知らない男の人が、倒れている師匠に手を伸ばした。すると青白く光る鎖が伸びてきて、師匠の体をグルグルと縛り上げてしまった。更に転がっている吸血鬼にも同じように鎖を伸ばし、残っている部分を縛ったのだった。
「お、い。なんの、つもり、だ。にん、げん」
「うわっ! その状態で喋れるのか。これは研究しがいがありそうだ……」
吸血鬼は、下半身と左肩が消滅しているような状態にも関わらず意識を取り戻していた。それどころか、見ているだけで震えが走るような殺気に満ちた目を男の人に向けていたのだった。
「いやー、怖いねー。万全の状態だったら僕なんて一瞬で殺せるって目が言ってるよ。こりゃ、封印は特上の更に上くらいにした方がいいね」
でも、男の人はそれをへらへら笑いながら受け流してしまった。
それは殺気に慣れているからなのか、それともどう足掻いても今の吸血鬼にできる事なんてないと高を括っているからなのか。事実、一言喋って殺意を放つのが限界だったらしく、吸血鬼はまた意識を失ってしまったみたいだ。
……って、のんびり見てる場合じゃないよね!
「まてっ!」
「ん?」
正直いきなり襲ってきて僕達を殺そうとした吸血鬼がどうなっても知ったことではないんだけど、師匠を鎖で縛るなんて許せることじゃない。
今の師匠は意識を失っている。いつもなら気絶しても三秒以内に立ち上がって剣を構えられるよう訓練しているはずなのに、魔法の鎖で全身を縛られても意識を取り戻す様子がないんだ。
だったら、ここは僕が立つしかない。師匠を縛っている時点であの人は敵。そう考えて、僕が師匠を守るんだ!
「師匠を、離せ」
「キミは……誰なのかな? レオンハート・シュバルツが連れている子ってのは知ってるんだけど……」
僕はじいちゃんから譲り受けた剣を正眼に構え、男の人に向けた。
でも、明確な敵意である武器を向けられてもこの人は全く動揺した素振りを見せない。むしろ、嘲笑を浮かべたのだった。
「僕は、アレス。レオンハート師匠の弟子だっ!」
「弟子? へぇ……あのシュバルツに弟子入りとは、自殺願望でもあるのかい?」
軽い調子で、僕をからかっていると、真面目に相手にする気なんてないと宣言するように男は喋った。
そうだ、あの目はこっちを軽んじている目だ。村を襲ってきた吸血鬼が僕に向けた目と、同じだ。
「しかし弟子か。あのシュバルツの次期当主が見込んだ資質があるんなら持って帰ったほうがいいかな? 魔術師適正があるかはわからないけど、最悪人体実験の素材としても――」
「やあっ!」
目の前の男がぺちゃくちゃ喋ってる内に、とりあえず一太刀入れてやろうと僕は斬りかかった。
今まではうまく扱えなかったこの不朽の剣も、あの空間内での戦いで重心をうまく配分することで無理なく振る技術を会得した。ついでに、何となく純粋な腕力まで増えた気さえしているくらいだ。
それによって手にした、正しく剣技と呼べると自画自賛する一刀の前に、男は師匠たちを拘束している鎖とはまた別の鎖を無言の内に出現させることで交戦してきたのだった。
「鎖っ!?」
「本来は捕縛用だけど、やろうと思えばムチのように扱うことも可能さ」
男が出している鎖は、突き出した腕が直接握っているわけじゃない。腕のすぐ近くに小さな魔法陣が浮かび上がっており、そこから鎖が生えてきているのだ。
師匠たちを拘束しているのもそれで、今僕に向けられている一本だけの鎖とは違って10本くらいの鎖が同時に絡みついているみたいだ。
たった一本しか使わないのは僕を馬鹿にしているからなのか、それとも一度に出せる数に限界があるのかはわからないけど、僅か一本でもそこそこ厄介だ。
腕で握っているわけでもないのに、魔法陣から伸びた鎖は意思を持っているかのようにクネクネ軌道を変えてブンブン僕を打ち据えようとしているんだから。
でも――
「――見切ったっ!!」
「おお、やるね」
所詮、魔法でコントロールされているだけの鎖だ。その動きにはよく見ると規則性があって、僕はそれに合わせて剣を振って鎖を砕いてやったのだった。
「なるほど、ただの子供と思っていては危ないかな」
「やあぁぁぁぁぁ!」
間髪いれず、僕は走り出す。今度こそあの男を斬り、師匠を解放させるのだと。
「仕方がない、ちょっと真面目にやろうか。――【縛術・頑強な鎖】」
「同じ手を――え?」
全く同じ鎖がまた飛んできたから、砕いてやろうと剣を振るった。
でも、効果なし。さっきより少し強めに打ったつもりなのに、罅も入らずに僕の周囲を取り囲んだのだった。
「うわっ!?」
「はい、捕まえた。……どうしたんだい? 不思議そうな顔をして」
男は、やっぱりへらへらと笑いながら魔法の鎖を操っている。
抵抗したいところだけど、既に両腕を巻き込む形でグルグル巻きにされてしまった。引き倒されはしまいと足に力を入れて踏ん張るけど、どうしよう……?
「……ひょっとして、一度は砕けた魔法にやられたのに納得いかないのかな?」
「…………うん」
不思議そうに首を傾げていた男は、突然ハッとひらめいたように僕にそう問いかけてきた。
正直それは気になるけど、それ以上に僕を縛り上げたこの鎖への対処法を教えて欲しい。でも、この場に僕にアドバイスをくれる人なんていない。
だから考えるんだ。純粋な今の僕の腕力だけじゃこの鎖は破れないんだから、お喋りしてる間に何とか方法を考えるんだ……。
「仮にも準英雄の弟子なのにわからない……って、まあ仕方ないのかな? 師匠が剣の名門とは言え、魔法は門外漢か」
「……師匠は魔法も凄いけどね」
「そうなの? それは凄い。……まあいいや。それで魔法の威力の話だけど、仕方ない。ここは特別にこの僕が講義してあげよう」
男はなにやら高らかに、指を立てて得意げに喋り始めてしまった。
師匠には『敵を前にしたらとりあえずぶっ飛ばせ。考えなしに突っ込めって意味じゃないけど、どんなに弱そうでも一撃必殺の何かを持っていない保証はないからな。チャンスがあったらとりあえず倒すのが一番安全だ』って教えられてるけど、この人は鎖で縛られたとは言えまだまだ動ける僕を前にしても倒すどころか演説始めてしまった。
これは、僕なんて敵ですらないと侮られているってことかな? それとも、本職の戦士じゃないってことなのかも……。
「まずはじめに言っておくことは、キミも知っているだろうけど魔法の成り立ちだ」
(とにかく、今のうちにこの鎖を何とかしないと)
「魔法は『属性』と『構成』の二つで成り立っている」
(こう、関節をどうにかして縄抜けってのがあるって昔商人のおじさんが……ダメか。やり方がわかんない)
「よく使われるのだと、例えば炎術とか風術とかだね。これが属性。その魔法はそう言う特性を持っているんですよーと、まあそんな宣言だ」
(やっぱり腕力で……一転突破で緩ませるとか……)
「こう言うと魔力を火とか水とかに変換することを属性と呼ぶと思うのかもしれないけど、少し違う」
(グググゥ……だ、ダメだ。あの人は少しもこっちに注意を払ってないっぽいのに、鎖が勝手に締め上げてくる……!)
「例えば、空間に作用する魔法は空術と呼ばれたりするよね。でも、当然ながら魔力が空間に変化したわけじゃあない。ではどう言うことなのかと言うと、要するに属性ってのはその魔法の目的を意味するのさ。これは火を操るのを目的にしている。これは水を操るのに。これは空間変化を目的にしているのだ――って宣言だ」
ぺらぺら喋り続ける男の束縛からなんとか逃れようといろいろやってみるけど、隙だらけの術者と違って鎖は律儀に僕の動きを封じてくる。
こんなときどうすればいいんだろう? 魔法を打ち消す一番簡単な方法は、確か……。
「さっき僕が使ったのは縛術、つまり拘束魔法だ。これは使い手の少ないマイナーな魔法なんだけど、中々便利だよ。敵を縛る為に存在する魔法であるって宣言しているんだから、あらゆる魔法属性の中でも拘束力は当然トップだ」
(……魔力には魔力。どんな魔法でも、魔力で成り立っている以上それ以上の魔力をぶつけられれば消え去る……!)
「それで次に構成なんだけど、まあこれは簡単。要するにその魔法がどんな形状をとるのかってだけのことだからね」
(……まず、体内を流れる魔力をイメージする。そして、それを燃やすようなイメージて高め――)
「炎の魔法と一口に言っても矢のように小さなものを飛ばしたり、投げ槍のように大きなのを飛ばしたり、はたまた壁のように展開して守りにしたりって感じに――」
(爆発させるっ!!)
「いろいろ用途に合わせて加工――ん!?」
「――【魔力爆発ォォォ】!」
全身を流れる魔力を爆発させるイメージで開放する。すると僕を中心にした魔力の嵐が起こり、他の魔力を駆逐していく。
さっきまでびくともしなかった鎖も、純粋な魔力爆発には耐えられないのかミシミシと嫌な音を立てて崩れ去った。
これで、自由は取り戻したぞ……?
「あ、あれ?」
「あーあ全く、無茶するねぇキミ。魔力爆発はもっともシンプルな魔法であり、複雑な魔法式が一切必要ない純粋魔力攻撃だ。ある意味スキルと言ってもいいものであり、魔法使いが魔法を構築する暇すら惜しいときの緊急回避として優秀である――と、教科書的にはこんな解説だ」
鎖の束縛から解放され、さあ今度こそ斬り込んでやろうと体に力を入れた瞬間、何故か眩暈がして踏鞴を踏んでしまった。
何だろう、この感じ。まるで、師匠との修行で全身の力を使い果たしたときみたいな……。
「でもねキミ。魔力爆発は指先とか手のひらとか、そんな風に限定して放つものだよ。未加工の魔力を全身から放出なんてしたら……そりゃ体内魔力が一気に枯渇して立ってるのも難しくなるさね」
(クラクラする。けど……)
「ま、鎖を砕いたのはお見事だったけどね。じゃあ、もう一回捕まってもらおうかな――」
「このくらい、もう慣れてるっ!」
「――え?」
全身の魔力が枯渇して、足元がおぼつかない。頭もぼんやりする。
そんなこと、いつものことだ。師匠だったら、この状態になってから更に素振り千本とダッシュ百本くらいは平然と要求してくる!
「ハァァァァァッ!」
「ちょ、うそ!?」
力の入らない体を気合で動かし、内に眠っている魔力を強引に引っ張り出して全身をめぐらせる。
あの程度で魔力が枯渇するわけじゃない。ただ、全身を巡っていた分が一気になくなってちょっと力抜けただけなんだから!
「やあっ!」
「痛っっってぇぇぇぇ!!」
男は僕の剣を受け、大げさすぎるくらいの大きな悲鳴を上げた。
でも、イマイチ力の入っていない一太刀だったせいか、深くは入らず肩口をちょっと傷つける程度に留まってしまった。正直そこまで大したダメージではない。
とは言え、まずは一撃入れたんだ。少なくとも勝てないってことはないと証明された。だったら、後は僕ができる全部をやればいい!
「も、もう……。僕は本来インドア派のデスクワーク要員なんだよ……。斬った張ったなんて専門外だってば」
「何をわけのわからないことを!」
剣士の剣の前に立ち、それでも敵意を持っているんだ。ならば、それは斬られてでも何かしたいことがあるってことでしょ?
剣を持った敵に魔法までぶつけておいて、いざ斬られたら文句言われても困る……よっ!
「い、イダダッ! そんな危ないもの振り回すなよっ!」
(魔法の鎖が、また……!)
痛がりながらも、さっきと同じように鎖が伸びて僕を縛ろうとしている。
でも、今度のは砕ける奴だ。この性能の差が何を意味するのかはわからないけど、とにかく砕けるなら砕いて本体を――
「おっと、隙ができたねー【縛術・頑強な輪】」
「うっ! ……なんのっ!」
鎖を砕くのに一手使ったせいか、未だに小さな傷口を庇っている男に魔法詠唱の時間を与えてしまった。
今度は、僕を囲むように光る輪っかが現れたんだ。それは現れたと思ったら僕を拘束しようと一瞬で縮んでいったが、やられてたまるかと僕はその場でジャンプして輪の拘束から逃れる。
でも、その次の瞬間にはまた鎖が、しかも複数本伸びてきていたのだった。空中じゃ、避けられない――ッ!
「ぐわっ!」
「ちょーと大人しくしててねー。今止血するからさ」
鎖がムチの如くしなり、僕は強烈な衝撃と共に地面に叩きつけられた。
その程度でどうにかなるほど柔ではないけれど、鎖はそのまま器用に僕の周囲に突き刺さり、即席の檻を作ってしまったのだった。
「さて、どこまで話したっけ? ああそうか、魔法は属性と構成の二つで成り立ってるってところまでだっけ」
(え? まだお喋り続けるの?)
僕が鎖の檻を砕こうと剣に魔力を込め始めると、男は傷口に何か布みたいなのを当てながらペラペラまた喋りだした。
何なんだろう、この人。そんなに戦闘中に余計なお喋りしたいんだろうか?
「さて、とにかく魔法詠唱にはそんな意味と役割があるわけだ。でも、実のところこの二つは必要不可欠と言うわけじゃない。魔法を本当に成り立たせているのは自分の魂の中で構築した魔法式だからね」
「――セイッ!」
喋りに付き合う理由は、もうない。だからさっさと鎖を砕き、檻を脱出した。
男はそんな僕にため息を吐くも……再び虚空に魔法陣を作り出して大量の鎖をぶつけてきたのだった。
「全く、ここまで人の話を聞かない生徒は初めてだよ」
「生徒じゃ、ない! いいから師匠を離せ!」
「それはダメだ。捕縛がお仕事に含まれている立場としては、捕らえるべき対象を逃すわけにはいかない」
これだけ食らえば、もう感覚で分かる。今の鎖は砕けるタイプの鎖だ。
でも、数が多い。さっきみたいに鎖を砕くことに執心しすぎると隙を作ってしまう。どうしようか……。
「ま、とにかく魔法とは魔法式を魂に刻み、それによって魔力を変換することで発生する現象だ。口語での魔法詠唱はそのサポートでしかなく、省くこともできる。僕ら魔法使いはこれを無詠唱魔法と呼んでいるよ」
(鎖の動きは一つ一つ違う。空中で自由自在に曲がり、確実に僕の退路を塞いでいる)
「とは言え、魔法の技は中々に繊細だ。特性を絞り、その形状を与える役割を省けばそれだけ全体の完成度が甘くなる。キミが砕ける鎖と砕けない鎖の違いもここにあるわけだ」
(でも、よく見ろ。全ての動きを予測しろ。敵は決して戦士じゃない。必ずどこかに、隙がある――)
「はっきり言って、無詠唱で魔法を形にできる術士は少ない。もちろん口を動かす時間や魔法名から術の特性を知られないメリットはでかいから、身につけたいと思う人は多いけどね」
(――見えた!)
複数の鎖の連携を前に、僕はただ逃げることしかできなかった。
でも、師匠に教わった敵の意識の流れを読む技術。それに神経を集中し、鎖ではなく男の気の流れを読んだら答えが見えた。
一箇所。たった一箇所だけど、鎖の包囲から抜けられる道があるんだ!
「いけるっ!」
「ま、つまり何がいいたいかって言うとね」
鎖包囲の穴に向かって、僕は全力で駆け出した。
鎖の速度は既にわかっている。このタイミングなら、僕が抜けるほうが早い――
「僕が詠唱して使って見せた、強度自慢の鎖。それと今キミが相手にしているものが同じであるって、どうして思った?」
「え――」
「ほら、弾けろ」
男がそう命じた瞬間、僕を捕まえようと迫っていた鎖は――強烈な衝撃と共に爆発したのだった。
「うわあぁぁぁぁぁぁ!」
突然の出来事に、僕はまともに受身も取れないまま熱と衝撃によって地面に叩きつけられた。
衝撃で肺から空気が抜け、熱で皮膚に激痛が走る。周囲には小さなクレーターができ、その破壊力を感じさせていた。
「……僕が使ってたのは、魔法名を【爆術・炸裂する鎖】と言ってね。拘束にも使えないことはないが、本命はこのように爆弾として使う攻撃魔法なのさ」
「う、うぅぅ……」
「本当はあまり怪我とかさせたくなかったんだけど、キミが元気すぎるのがいけない。だからすこーしだけ痛めつけることにしたんだよ」
ダメージによって、僕は仰向けになったまま動けなかった。
計画通りと嫌らしい声で僕を嗤う男に言い返すことも出来ずに、ただ無様に転がっている。せめてもの抵抗と剣は手放さないけれど、それでも体中からもう無理だと、これ以上戦えないとの懇願が痛みとして脳を焼くのだった。
「さ、これでゲームエンドだ。もう意味はないけど、覚えておきたまえ。唯一の逃げ道ってのは、大概罠なんだってさ」
痛い。すっごく痛い。もう何もかも忘れて泣き出したいくらい痛い。
でも……それ以上に、情けない! これじゃ、僕は、何も変わっていない。ただ守られるだけで、誰も守れない弱い子供のままだ!
「は、なせ……」
「ん?」
「師匠を、離せ……」
痛みを無視し、寝ていろと訴えてくる僕の体を無視する。
今も目覚めない師匠のためにも、僕は、負けられないんだから……!
「今のを受けて立ち上がるとか……流石はシュバルツの弟子って言えばいいのかな? これでも捕縛隊として生かさず殺さずのラインは見たつもりなんだけど……」
「と、当然……。師匠なら、このくらいの痛みは気合で、何とかできるって、きっと言う……!」
痛いけど、苦しいけど、動く。手も足も動く。剣も握ってる。
なら、戦えるよ。戦わなくちゃ、いけないよ……!
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「息も絶え絶え、剣を握る腕だって……火傷の痛みで感覚すらないんじゃないかな?」
「う、うるさい、ぞ」
確かに僕の体は限界だ。高温を宿した爆発の直撃を受けたせいで、一言喋るだけで喉にもダメージがきてる。これじゃ、ポーションを飲むことだってできやしない。
せめて回復の魔導書でもあればましなんだろうけど、僕は師匠のアイテムをそこまで知っているわけじゃないんだ。すぐに取り出せる位置にしまわれていた投げナイフや煙球、蜘蛛の巣玉なんかにはあの空間内でお世話になったけど、ぱっとみ見分けのつかない魔導書を、あの袋のどこにあるかもわからない物を探す時間は流石にないだろう。
だから僕は、感覚すら失われている腕に力を込めるんだ。とにかく、師匠を助けることだけを考えて。
「い、く……」
「はぁ……。ま、根性だけは認めてあげるよ。【縛術・帯電する鎖】」
「う、わぁぁぁぁぁぁぁ!?」
敵に向かって一歩を踏み出すも、また現れた一本の鎖を前に避けることすらできずに捕まってしまった。
そして、次の瞬間には全身に激痛が走っていた。バチバチと耳障りな音が鳴り、ほのかに肉の焼ける嫌な匂いがしてくる。
元々ボロボロだった体に、これはトドメになる攻撃だ。もはや立っていることすらできずに、悲鳴を上げるだけの蓑虫のように地面に倒れこむ。
これは、電撃か……?
「雷術――ではないから威力はちょっと足りないけど、電撃の力を込めた魔法さ。ま、暴れる猛獣の躾にはこれくらいが最適だろう」
「あ、あぁ……」
もう十分だと判断されたのか、電撃を宿した鎖は魔力に還った。もう縛られてはいないのに、今度こそ僕は動くことが出来ない。
全身が痺れてしまったようで、体は僕の意思を無視して痙攣するだけなんだ。こんな程度で、僕は立つこともできなくなっちゃうんだ……!
「さて、じゃあ回収回収。思ったよりも時間かかっちゃったよ――?」
もう視界は霞み、意識も朦朧としている。そんな僕の耳にも男の陽気な声が聞こえてきたけど、ふいにその声色に困惑が混じった。
いったい、どうしたんだ……?
「全く、人の弟子に好き勝手やってくれたみたいだな……」
その声と共に、鎖がジャラジャラと音を立てていた。
ああ、やっと起きてくれたのか。何がなんだかわからないけど、僕も少しは役に立てたですかね、師匠……?
何か「過剰戦力だね」とか言いながらあっさりかませになった人がいたけど、ダサいよねー?
いやいや、弱者には弱者のやり方があるのですよ。漁夫の利を得る、と言う他力本願な勝ち方がね。
ちなみに戦力差は
神造英雄>>ミハイ(槍持ち)>>レオンハート(全力)>>改造軍団=レオンハート(人間)>>>>>ヘッド(鎖魔法の使い手。世間一般で言うところの一流魔法使い)>アレス
くらい。
これだけ見ると「まだまだアレスも未熟」とか言いたくなりますけど、冷静に考えたら11歳の子供が研究職とは言え一流の魔法使いにちょっと劣るくらいの実力者であるとか十分おかしい話。




