第50話 レオンの流儀
自身の武器の魔力を解放させ、目の前の若い騎士を睨む。無表情の中にどこか困惑した雰囲気を出してこそいるが、敵は変わらず右手を前に出した無手防御の構え。
だが……それじゃ、俺には勝てねぇぜ？
「しゃあっ！」
この戦闘の最初に放った顔面狙いの突き。それを、さっきと全く同じように放つ。違うのは、俺の武器である【星幽の槍】を解放しているって点だけだ。
まあ、その違いこそが何よりもでかいわけだけどな！
（さあ、軽く死ねっ！）
吸い込まれるように中級騎士の顔面に向かっていくアストラルランス。
それに対して、またしても奴は俺の槍を目で見切って腕で払おうとする。同じ攻撃なんだから同じ対処をってことだな。
それこそが俺の狙いだとも知らずによぉ！
「ん？」
「貰った！」
寸分狂わず奴の腕は俺の槍を側面から払ったが、しかし俺の攻撃の軌道は一切ずれることはない。
そう、奴の腕は俺の槍に触れる事はなかったのだ。まるで幻でも攻撃したかのように、すり抜けてしまったのだから。
（これぞアストラルランスの能力！ 俺の魔力による命令に従い、実体から幽霊のような非実体へ、そして非実体から実体へ瞬時に変化する槍よ！）
この槍の前では、盾で弾こうが鎧で防ごうが無意味。敵の防御は非実体としてすり抜け、攻撃の瞬間に実体として敵を貫く。
その防御不可能の一撃こそが俺の真の力。回避不可能な俺の槍術と、防御不可能なアストラルランスの能力。
この二つを併せ持つ俺が、負けるわけがない――
「加速法」
「えっ――！？」
腕で払うのに失敗した中級騎士は、そのまま顔面を潰されるしかないはずだった。
俺もこのままただで殺すつもりなんてなかったから、重傷を負っても死にはしない程度を狙うつもりだった。だが、それでも戦闘不能間違いなしの一撃のはずだった。
そんな俺の予測は、外されることとなった。俺の目の前から、一瞬で標的が姿を消したことによって。
「なあ、アンタさ」
「なっ！？」
消失した敵に一瞬唖然としていたら、背後から声がかけられた。
そう、敵は俺に全く気取られずに背後に立っていたのだ。声なんてかけずに攻撃していれば俺を倒せたかもしれないほどに完璧に。
「くそっ！」
俺は慌ててその場から遠ざかる。そんな俺に追撃の意思すら見せず、中級騎士の男は呆れたような表情でため息をついたのだった。
「……アンタさ。どんだけ怠けてたんだよ？」
「……は？」
「いや、元上級騎士なんだろ？ 一体どれだけ怠ければここまで弱くなれるんだ？」
「何を、言っている？」
「だってさ、上級騎士名乗るには弱すぎだろ、アンタ」
……何を言っている？ 俺が弱い？ かつては上級騎士の称号を得、そして今でも裏社会では名の知れた強者であるこの俺が？
それに怠けてただと？ ふざけるな。俺は騎士団を除名されてからも鍛錬だけは怠ってない。この強さこそが俺の唯一の誇りであり、俺を俺足らしめるものなのだから。
そして何よりも、かつてこの俺に苦渋を舐めさせたあの男への復讐を果たす為にも、決して腕を衰えさせるなんてありえない。
だというのに……なんでこの野郎は俺を見下す？ まるで哀れむようにこの俺を、本物の強者であるこの俺を……！
「――ラァァァァァァァッ！ スキル【士気高揚】！ 【戦気膨張】！」
「やれやれ……」
咆哮と共に全身に魔力を滾らせ、自己強化スキルを発動させる。正真正銘、俺の全力の攻撃を放つ為に。
だと言うのに、この全開の力を前にしてもこの男はため息を吐くばかりだ。俺が何をしようが、自分からすれば児戯だとでも顔に書いてあるようなため息を。
「アアァァァアァァァァアッ！」
突く、払う、打つ。あらゆる技法を持ってアストラルランスを振るう。
その威力は、モンスターであろうとも瞬殺すること間違いなしの俺の切り札。これを放ってなお死ななかった者など、一人しかいない。
だってのに、何でこいつは何事もないかのように平然としている？ 当然のように回避している……！
「だから、今のアンタじゃ無理だって」
あっさりと避けられる。防御不可だとさっきの一撃で悟ったのか、全てを回避されている。まぐれすらありえないと俺が悟ってしまうほどに、完璧な動きで。
……勝てないってのか？ 俺じゃ、コイツには……！
「な、何をやっておるかベルトルト！ さっさと殺せ！」
俺の劣勢を見て、ゴルドが叫んだ。それも、本来持っている傲慢さを乗せた声で。
奴は、俺の力を知ってからは俺に対して卑屈だった。なのに、俺以上の存在が現れたなんてクソったれな現実を知った瞬間、俺にまで傲慢な態度になっちまってる。
クソ、クソクソクソクソクソクソッ！ ドイツもコイツも舐めやがってぇ！
「何でだ！ 何でそんなに俺を見下す！ 俺じゃ剣を抜く必要すらねぇって言いたいのかあぁ！？」
ゴルドもムカつくが、今俺がもっとも苛立つ相手は目の前の中級騎士だ。
かつて俺を騎士団から追い出したあの男のように、俺を哀れむような目で見やがる、この男だ……！
「剣を抜く必要がない、か……。まあ、確かにその通りと言ったらその通りだけど、それだけじゃないぞ？」
「何だとぉ！？」
「騎士の剣は人を守る為の剣だ。いくら犯罪者相手でも、意味もなく抜いていいものじゃない。元とは言え上級騎士だったアンタなら、言わなくてもわかってることだろ？」
「ヌゥ……！」
その言葉、俺の一番嫌いなあの男の言葉だ。
騎士は人を守る守護者であり、敵を殺す為の殺戮者ではない。だから、その剣は、槍は本当に必要な時だけ振るえ。
そんな世迷言をあの男は、当時一介の上級騎士でしかなかったあの男は常々口にしていた。
自分の力に絶対の自信を持っていた俺が、犯罪者やモンスターを血祭りに上げる度に。
「俺が一番怒っているのもそれだ。元とは言え騎士が、多くの人を脅かしている？ ふざけるなよ？ 俺はまあ……あまり大したこと言えるような身分じゃないが、それでも騎士の名を汚すような真似だけはしないと決めているぞ？」
「騎士なんざ馬鹿の集団だ！ あんな馬鹿が頂点に君臨するような連中がどう思われようが俺が知るか！」
「へぇ、一応聞いておくけど、知ってるの？ 毎日騎士って集団がどれだけ命張ってるのかさ」
顔面、肩、腕、足、胸、腹。あらゆるところに常人では目で見ることすら不可能なはずの槍撃を放つ。
だが、こいつはそんな神技とも謳われた俺の槍を避けながら平然と会話を続けている。
……俺の槍なんざ、片手間で避けられるってのかぁ！？ 舐めやがってクソがぁ！！
「……命を張っているのなら、せめて武器くらい抜いたらどうだよ！」
「ん？」
「ああそうだ。相手が人間なら極力武器は武器は抜かず、殺さずに止める？ くだらん！」
「おいおい、そんなの当たり前だろ？ この国じゃ犯罪者は法で裁くって決まってるんだ。それを国家に属する騎士が意味もなく無視しちゃまずいだろ？」
「うるせぇ！ それでこっちが死んだらどうするんだよ！ ただの馬鹿だろうが！」
槍の突きと同時に、蹴りを混ぜる。体術と武器術の混合は基礎の一つだが、俺の槍を完全に避ける奴なんてここ数年出合ったことはなかった。
だからこそ久しぶりに使う型だが、こいつは初見で対処してきた。気影を見切ったのか、それとも反射神経によるものかはわからないが。
「人間相手に剣を使わないで、それで負けたら、ねぇ」
「どうするんだよ、えぇ！？ 人類最強を名乗るんだったら常に必勝の準備をするのが当然だろうが！」
「まあ、そりゃそうだね」
「ガハッ！？」
呆れたようにそう呟いた後、俺の放った右足蹴りを片手で受け止めてから軸足にしていた左足に足払いをかけてきた。
それでバランスを崩した俺は、無様に転がっちまう。俺の連打の隙を縫ってここまで的確な対処だと？ こいつ、本物の化け物かよ……！？
「確かに、まあ騎士は負けちゃいけない責任背負ってるよな。それは俺も認めるし、毎日プレッシャー感じまくってるよ」
「だったら！ だったら何故剣を抜かない！」
転がされた俺は、次の瞬間には足だけで拘束されていた。
関節を固定し、直立したまま足だけで人体の動きを封殺する。これは、騎士団流の捕縛術か……！
（クソッ！ 外れねぇ！）
「んー、それで、対人間相手に武器を持たない理由だっけ？ いや、ぶっちゃけ俺もそこまで拘ってないし、武器が必要な相手なら武器持つぞ？」
「じゃあ、俺は武器が必要ないレベルだったってことかよ！？」
「うん。全盛期の何分の一まで落ちてんの、アンタ？ ……まあそれはともかく、俺はアンタの意見を全く否定しないよ」
「あぁ！？」
「だってさ、実際武器使ったから殺しちゃうわけでもないし、それで負けたらこれ以上ないアホだしね」
じたばたもがく俺をがっちり固めつつ、軽い調子でこいつはそんなことを言う。
何だ？ 何が言いたいんだ？ 剣すら抜かずに俺を圧倒しておいて、何故そんなことを言うんだ？
「俺が簡単に剣を使わないのは、騎士の剣ってのは特別な力だって思ってるから、かな？」
「特別な力……？」
「ああ。未だに未熟者である俺が言ってもあんまし説得力ないけど、それでも一般人からすれば騎士の剣ってのは人類の守り手の力だ。絶対的で、強大な力があるって思ってもらっているはずだ」
「当たり前だ！ 騎士は人類最強集団の称号だからな！」
もうもがくことすら止めて、俺は俺の上でくっちゃべりながらもアレスってガキの仕事を見ている男に叫ぶ。
一体、お前は何を言いたいのだと。かつて人類最強の精鋭であると認められる肩書に憧れ、そして除籍されたこの俺に。
「強力な力。それが自分を守ってくれると民衆が信じているからこそ、俺たちは騎士でいられるんだ。騎士が人類の守り手でいられるのは、結局のところ一般の人たちがそう思ってくれるからだと俺は思っているわけだな」
「はぁ？」
「でもさ、力が強ければ強いほど、それは同時に恐怖の対象になりえる。俺はそうとも思う。だから俺は、何かあればその力は自分にも向く、そんな風に思って欲しくないんだよ。そんなことになったら、いろんな意味で申し訳ない話だし」
ちょっと照れた様子で、この男はそんなことを言った。
つまりあれか？ 自分の剣が何かの拍子に人間にも向く。そんなことはないとアピールするために、人に剣を向けないと決めているってのか？
――ふざけてる！ なんで強者が弱者に遠慮しなけりゃならねぇ！ 何があろうとも、弱者は強者を恐れ、敬うのが世界の法だろうが！
「そんなくだらない理由で剣を使わないってのか！？ 大体、ここには俺たちしかいないだろうが！」
「いやいや、気絶しているとは言え一般人の子供に、今も必死で子供らの縄を斬ったり介抱したりしている俺の弟子もいるでしょ」
「はっ！ 大体、俺の最初の問いには答えてねぇじゃねぇか！」
「最初の問い？」
「もしその辺の弱者に遠慮して武器を使わず、そのまま敗北したらどうすんだって話だ！」
騎士は最強の証。だからこそ、敗北は許されない。そんなお題目は別にしても、負けて殺されたらどんな高潔なご意見も意味がねぇ。
そんなの、当たり前の話だろうが！
「……だから、そんなことにならないように俺たちは毎日血反吐を吐いてんだろ？」
「なにぃ？」
「信念を貫いて勝つ。それができない奴が騎士なんて名乗るなよ。何の為に強くなったのアンタ？」
何を当たり前のことを。そう表情だけで言っているようなこの男は、俺の上ではっきりと言い放った。
本物の強者なら、自分に不都合なことだろうがやれて当然だろうと。それをやる為に強くなったんだろうと。
「――ッ！ 何が騎士足るもの不用意な暴力を振るってはならないだ。暴力ってのは強者の特権だろうが。人類最強の称号である騎士になったってのに、何が暴力は最後の手段だ！ 力は絶対のルールだろうがアホくさい！」
騎士は守る者？ 殺す者でもなければ裁く者でもない？
ふざけるなよ。強い奴が弱い奴を虐げるのは当然だろうが。俺の言うことを聞かなかったクズ共に制裁を加えるのは当たり前だろうが！
それを咎める？ 騎士として見逃せない？ ああ嫌になる。何が騎士だ。強者が力を振るうことを忘れて何の価値がある！ 力は、使ってこそ意味があるんだよ！
ああ本気でムカつく。まるであの野郎のような言葉だ！ ……いや、言葉だけじゃねぇ。よく考えれば顔立ちも似てるような気も……。
「……ああ、そうか。そのムカつく話、ようやく合点がいったぜ」
「……何言ってんの？」
「思い出したよ。どうにもテメェがムカつく理由。間違いねぇ、テメェの目、ツラ！ どこかで見たと思ったら、あの野郎にそっくりなんだ。あの、最高の騎士様によぉ！」
当時から騎士団内では最強と呼ばれていた“最高の騎士”。俺が騎士団のルールを無視して暴れ続けたら注意とか言って小言言いに来て、そして俺を哀れむように圧倒しやがったクソ野郎。
最終的に俺を騎士団から追放した張本人、ガーライル・シュバルツの野郎にそっくりなんだ……！
「強くなる理由なんざ一つしかねぇ！ 弱者を虐げる為だ！ 強者として食う側に回る為だ！」
「……それが仮にも騎士だった奴の言葉かよ。いや、だからクビになったのか？」
この男は、かつてのガーライルを思い出させる男は、あのときのガーライルそっくりの表情で俺を見ている。
あのときの、俺を正式に騎士団から除名したときのガーライルとそっくりな表情を。
俺は、かつてこのアストラルランスを守っていた村を一つ滅ぼした。その槍は最強の騎士である俺が持っているのが正しいのだから、それを俺によこせと要求したのに断ったから。
結果として、俺がこの槍を持つことで滅んだ村なんて鼻で笑えるほどの魔物を殺せる力を得たのはまちがいねぇんだ。だから、悪いのは弱いくせに俺に逆らったあの村人共のはずだ。
それなのに、ガーライルは激怒して俺を裁きの間に送ると言い出した。騎士であるからこそ許してはならないなんて抜かして。
そして、俺はそのときまでは小言程度で済んでいたガーライルの奴と本気の殺し合いを行った。いや、今も俺が生きている以上、俺だけが殺すつもりの戦いだったのかもな。
結果は思い出したくもないが、アストラルランスをもってしても俺は素手のガーライルに破れたんだ。最強であるべきなのは自分だと常に思っていたのに、奴と俺にはそれほどまでに差があったんだ。
そのまま俺は法の裁きにかけられ、判決は死刑。上級騎士の強さを持った異常者は生かしておくのは危険だと判断されてしまった。
だが、そのまま殺されてやるほど俺も甘くはない。武器を失ったとは言え、それでも俺は必死に抗い、逃げ出した。その道中で運よくアストラルランスを奪い返し、今日まで薄暗い裏社会で生き抜いてきたんだ。
それこそが、俺が強いことの証明。今も命を繋いでいる事実そのものが俺を強者であると知らしめる証拠なのだ。
ああそうだ。俺は弱くなんてない。俺は、強者だ――
「俺は――」
「ああ、もういいよ。大体分かったから」
「あぁ！？」
前言を撤回しろと叫ぼうとしたとき、完全に呆れたと言う目で、哀れみすらなくなった目でこいつは一言履き捨てた。
そして、フリーになっていた右拳を握り、俺の頭目掛けて構えた。これで終わりだ、と宣言するように。
「ようするに、強者は強者として傲慢に振舞っていいだろって言いたいんだろ？ そこまで弱くなっておいて何言ってんだって気もするけど、一応言っておこうか」
「クソッ！ 何とか脱出を……！」
「俺に負けてる程度で強者絶対の理論を支持するのはやめた方がいい。この世の中には、今の常識じゃありえない化け物が確実に存在してるからな」
拳が振り下ろされる。それは俺の脳を揺らし、一瞬で意識を奪い取る。
クソ、最後の最後まで、全く歯が立たなかった。まるで、かつてのガーライルと戦ったときのようだぜ……。
◆
「さて、と。アレス君、子供らは無事か？」
「はい。全員見ましたけど、怪我はありません」
よくわからないことを叫んでいた元上級騎士のベルトルト。想像よりも遥かに弱くて素の能力だけで圧倒しちゃったけど、やっぱ騎士辞めてからサボりまくったんだろうな。
まあ、俺だって魔王関連の荒事が片付いた後も今みたいな生活送るとは思えないし、むしろレオンハートとしての役割を全て果たした後は徹底的にダラダラする予定だしな。
自覚なしとは言えレオンハートの体を奪っちゃった以上はその勇名を汚す事はできないとは言え、本来の目標はダラダラ適当に生きることなんだからさ。
「まあいいか。こいつらは全員この町の守護騎士にでも引き渡して終わりにしよう。ついでに不正に奪われた資産なんかも取り返さないといけないんだけど……」
正直専門外なのでそう言ったものには詳しくない。まあとりあえず「もうゴルドはいないから君達の物は君達が持って帰っていいよ」と言うわけにはいかないのがわかるくらいか。
最低限、本来の持ち主の証明とかしないと返そうにもどれ返せばいいかわからないし……ん？
「あわわわ……」
（あ、ゴルド忘れてた）
そういや、コイツには何もしていなかったか。この、護衛がやられて股間から生暖かそうな液体漏らしているこの肥満親父、どうしたものかな？
つか、中年肥満親父の失禁とか対処に困る。手下同様気影でも使って気絶させようかな？
「お、お前！」
「ん？ 何？」
「あのベルトルトをたおすとは、かなりの使い手だな！ どうだ、私に雇われないか？」
いや、小便タレが何か言い出したんだが……何のつもりだこいつは？
そんなガクガク震えながら声を上げられても、なんだか俺が弱い者虐めしている気になっちゃうんだが……。
「もちろん報酬は払う！ 騎士なんかやるよりもずっといい暮らしが出来るぞ？ どうだ？」
「いやどうだと言われても……お断りさせてもらうぞ？ これから豚箱に入るおっさんの下につく気はない」
「き、キミが私に協力してくれればなんの問題も……」
「とりあえずもう黙れ」
「ぐぼっ！？」
鬱陶しいので、頭に拳骨入れて寝かしつける。あんまり触りたくないし、あとは守護騎士に任せるか。
「じゃあアレス君。とりあえず子供だけ回収して俺たちは出よう。後は治安維持を任務にしている連中の仕事だ」
「はい」
道中で発見できた気配は全部気絶させたはずだし、後三時間は目覚めないだろう。
かつて上級騎士だったとは思えないほど衰えていたとは言え、それでもこの集団では最強であったベルトルトって奴は少し強めにやったから丸一日は寝ているだろうしな。
「それにしても、やっぱり師匠すごい強いですね！」
「ん？ どしたの？」
「だって、あの人昔は上級騎士だったんでしょ？ 師匠って実は上級騎士よりも上なんですか？」
……うーん、そんなキラキラとした尊敬の目で見ないで欲しい……。
いや、あんなの騎士辞めてから堕落しまくって弱体化してただけだからな？ 仮にあの程度が上級騎士として通じるとか言われたら、俺の想定している対魔王軍戦線が構築不可能になるし……。
いや、そんなことないよね？ 親父殿は特別な存在だとしても、流石に親父殿一人で騎士団壊滅させられるなんてことは無いよな？
「コホン。とりあえず、俺はただの中級騎士だよ。何度か上級騎士申請出して蹴られてるから、まだ上級騎士には届かない程度の実力のな」
「えー？ でも、上級騎士相当の実力者って人に……」
「これは戒めだなアレス君。どんなに強くなろうとも、人ってのは本来弱い生き物なんだ。昔一流と呼ばれる領域に上り詰めた人間でも、サボればあそこまで弱くなるんだよ」
「……そうなのかな？ でも、師匠がそう言うんだからそうなんでしょうね。僕あの人の槍を目で追うことも出来なかったんですけど、アレでもそんなに弱くなってたんですか……先は長いですね」
「ま、頑張れ」
落ち込むアレス君の頭に手を乗せ、軽く笑う。
俺も昔は親父殿を見ながら「いやこれ人間じゃないだろ。異世界人って絶対俺の知ってる人間じゃない」なんて思いながらも我武者羅に頑張ってみたらここまで来たからな。
いまだ目指す領域には全く届かないけど、スポーツ医学とか完全無視で頑張れば頑張るだけ強くなってるし、成果が出ている以上頑張り続けるしかないだろう。
「じゃ、行こうか。アレス君はリリーアちゃんを家まで送ってくれ。俺はこの町の守護騎士に連絡取ってくるから」
「わかりました」
リリーアちゃんはアレス君に任せ、残り六人の子供を担ぎ外に向かう。
もうこのアジトに意識のある人間は一人もいないはずだけど、一応警戒はしておくかね……。
区切りがいいけど、今章はもうちょっとだけ続きます。
