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【番外編完結】他力本願英雄  作者: 寒天
青年編開始 聖剣の神殿と吸血鬼殺しと勇敢な男の子
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第45話 初めての弟子

「やはり、この村は放棄するしかないのでしょうかな?」

「ええ、レオンハート……シュバルツ騎士がこの村に隠されていた、今回の騒動の原因となった転移玉を引き受けてくれるそうですが、だからと言ってこの村に留まるのは危険です。最悪の事態を想定すれば、村人全員で避難した方がいいでしょう。少なくとも、あの転移玉に対応した転移門の作成が終了するまではこの家の地下にある転移門にも価値があると言わざるを得ませんので」


 全ての戦いが終わった後、俺、パウル、ガハムさんは村長さんの家に集まって話し合っていた。

 怪我人の治療や村人達へのケアで時間を取られたけど、ようやく今回の事件に関しての情報を統合し、そして今後について考えることになったのだ。

 そして、最終的な結論として、村の人たちはこの村から避難してもらうことになった。俺としては転移玉さえ持ち出せばこの村は安全かなと思っていたんだけど、パウルが危険だと言い出したのだ。その意見には村長さんとガハムさんも同意見らしい。


 ついでに、村長さんはやっぱり元騎士らしい。任務の詳細は話せないらしい――聖剣の神殿をみた俺からするとほとんど予想つく――が、とにかくあの地下室の存在がばれないように守るのを役目としていたらしいのだ。

 でも、今回の一件で完全に魔物側に聖域の情報が漏れた。と言うか最初から漏れていたんだけど、とにかくもう細々と目立たずに生きていても意味が無い。

 そんなわけで、こんな危険地帯からさっさと逃れてしまおうと言うことになったのだ。個人的には不本意だけど、仕方が無いことなのかな。


「ところで、避難するにしてもどこに行くんですか? この転移玉に対応した転移門が他にもできればこの村を襲う理由が無くなるという理屈はわかりますけど、一日二日でできるものじゃないでしょう?」

「そうですなぁ。とりあえず、最寄の町に行く事になるでしょうが、それから先の事は……」


 俺は、思った疑問をそのままぶつけた。小さな村とは言え、それでも数十人の村人がいるのだ。まさかゲームのように住民全員数えても10人くらいしかいないなんて事はない。

 そして、そんな人数が纏めて移動するとなれば寝床一つ用意するだけでも一苦労だ。まさか宿にでも泊まろうと思えば、こんな村の備蓄なんて三日とかけずに消えてなくなるだろう。


「その件に関しては、私が何とかしよう」

「何とかって、どうするんだパウル?」


 今回の件で解消されることとなる同居人、自称冒険者のパウルが自信満々にこの問題を引き受けると言い出した。

 このパウルも謎なんだよな。まあ悪い奴じゃないとは思うけど、親父殿クラスの達人であるガハムさんを連れていることといい、持ち物といい言動といい、どう考えてもただの旅人じゃないんだよなぁ。


「ガハム、最寄の街とやらには大規模な宿泊施設があるな?」

「あるな。王家管轄の、避難民用に建造されている宿がある。今回の件ならば使っても問題は有るまい。維持費は国民の血税なので、あまり長時間使われても困るがな」

「そうだな。というわけで、街に着いたらしばらくの宿なら国が用意してくれる。そのまま居つくわけには行かないが、街での生活基盤を築く間くらいなら構わないだろう」

「なるほど……それならなんとかなりそうですな」

(なるのか? そう言う施設って、使用許可を得るのに時間とかかかるもんなんじゃないのか?)


 俺は利用した事無いけど、王家管轄の施設ってのはお役所仕事だ。申請出してから認められるまでに時間がかかるって聞いてるんだけどな。

 でも、この場に集まっている俺を除いた三人はとくに問題ないと思っているようだ。何かあるのか? 王家管轄を一発で動かせるような鬼札が?

 ……ああ、ひょっとして、村長さんのコネか? この人身分は明かしていないけど、聖剣の神殿への門を任されているほどの人だもんな。まあ、聖剣の存在自体は御伽噺レベルの信憑性なんだけど、あの聖域に入れば聖剣の事は知らずとも何かあると思うだろうし。


「では、そう言う方向で村の者達にも話を通します。畑を捨てることになる者達からは反対意見も出るでしょうが、そこは何とか纏めて見せましょう」

「頼りにしています」


 村長さんは、村の方針を完全に避難の方向に決めたらしい。これで村人に関する話は終わりかな。


「ところで、レオンハートはどうするんだ? 転移玉を持って旅に出ると言っていたが、行き場所は決まっているのか?」

「ああ。とりあえず、ここと同じく聖域と呼ばれる場所に持って行ってみようと思ってる」


 村人を狙うくらいなら、俺を狙え。そんな啖呵をきった俺だけど、流石にこのまま永久に命を狙われ続ける気はない。

 と言うわけで、吸血鬼勢力では手が出せないような場所に持って行ってみようかと思っている。ゲームにも出てきた、神の威光を受けた地ってところにな。


「聖域……なるほど、聖地マーシャルですか。確かにあそこならばアンデッドモンスターへのカウンターとして最高でしょうな」


 聖地マーシャル。そこは、聖剣の女神を称える大都市だ。魔王も聖剣も御伽噺レベルのお話ではあるけど、それでも信仰って形で残っているのだ。

 ゲームでも、魔王によって侵攻を受けた主人公はまず対魔王の手がかりを求めてその街に向かった。

 ……まあ、最終的に魔王軍によって壊滅させられるんだけど、流石に魔王が復活したわけでもないのにあっさり落とされはしないだろう。対闇の能力に秀でた神官たちが沢山いるはずだし。

 流石に、大々的に“聖地への転移玉”を持ち込みましたと宣伝する事はできないけども。


「では、ここから聖地までの地図を用意しましょう。以前巡礼者が宿を求めて来た時に置いていったものがあります」

「それはありがたい。大分道中が楽になりますよ」

「いえいえ。あなたに受けた恩を思えば、この程度は何でもありませんよ」


 こうして、話し合いは終わった。後は村長さんの仕事だ。村人達の大移動はガハムさんとパウルが引き受けてくれるらしいので、俺はさっさと転移玉をもってこの場から離れたほうがいいだろうな。


「あの、話は終わりましたか? お茶もって来ました」

「おお、アレス。すまんな」


 話は終わったと立ち上がろうとしたとき、アレス君が四人分のお茶を入れたお盆を持って部屋に入ってきた。

 俺もアレス君に一言お礼を言ってお茶を受け取り、一口啜る。……うまいな、これ。


「ふむ、中々うまい茶だな。何か特別な茶葉を使っているのかい?」

「い、いえ。村で普通に使っているありふれた物です。その、貧相ですいません……」

「いやいや、謝る必要はない。むしろ誇っていいよ。それでこの味が出せるのだから大したものだ」


 パウルも驚いているな。やっぱ、うまいよなこれ。アレス君、戦っている姿からも才能のきらめきを感じたけど、料理の才能も凄そうだな。

 薬草ポーション一つ作るのにも悪戦苦闘する俺とは豪い違いだ。


「えっと、これからどうすることにしたの、じいちゃん?」

「ん? うむ……この村から出て行くことになった」

「……出て行って、どうするの?」

「近くの街に皆で避難することになるだろうの。それから先はどうなるかわからんが、頑張って街に根付くしかないの」

「そう……」


 アレス君の表情に影が差した。そりゃそうだよな、産まれてからずっと育ってきた村を離れるんだから。

 でも、こればかりは仕方が無い。そう思って黙っていたら、急に何かを決意した顔でアレス君は口を開いた。


「ねえじいちゃん。僕、街に行ったら何か役に立つ?」

「む? そりゃまあ、子供でもできる仕事だってきっとある……」

「つまり、ほとんど無いんだよね?」

「む……」


 村長が言葉に詰まった。まあ、実際かける言葉が見つからない質問だ。

 この世界、子供(じゃくしゃ)が簡単に生きていけるほど優しくはない。街の中とは言っても、裏通りに行けば親のない孤児の子供たちが毎日の食料を得る為に盗みを働いていることも珍しくないくらいだ。

 弱い子供にできるんだったら、強い大人がその仕事を奪う。この世界は、まだまだそんな段階なのだ。他所の子供に情けをかけている余裕があるのならば、自分達の着る服を買う。そんな、ギリギリの状態で人間って種族は生きているんだ。

 だからまあ、子供が役に立つかと聞かれればイエスとは言えないよなぁ。


「アレス、お前はまだ子供だ。そんなこと考えなくてもいいんだぞ?」

「でも、これから村の皆は大変だよね? 畑は持っていけないし、村の蓄えも街で過ごせるほどはないでしょ?」

「大丈夫だ。当面の事はパウル殿の好意で何とかなるはずだからな」

「……そうなんだ。それでも、僕は村のみんなの荷物にはなりたくないんだ」

「アレス……」


 とても子供の言うことではない。でも、否定はできない言葉だ。だって、真実だもん。

 実際、これから先ニナイ村の村民は苦労するだろう。それはもう、とても無力な子供を養う余裕なんてないくらいに。

 まあ、アレス君なら給仕としてとかいろいろ働ける気もするけど、それも確実ではないしな。正直、今は労働力として使えない口は一つでも少ない方がいいって状況と言えるだろうな。

 俺自身が金銭的に全く余裕が無いだけに、この問題に口出しできることはない。アレス君が何を言いたいのかはわからないけど、成り行きを見守るしかない。

 ……なんて思っていたら、急にアレス君が真剣な顔で俺のほうに歩いてきた。何事かと思っていると、アレス君は俺の前で立ち止まり、そして直角になるほど頭を下げたのだった。


「お願いします! どうか、僕を師匠の旅に一緒に連れて行ってください!」

「……へ?」

「アレス、お前……」

「僕は、村の皆を守りたい! でも! 僕にできることなんてない! だから僕は、騎士になりたいんです! 今回みたいなことが起きても、皆を守れるような騎士に! どうか、僕を正式な弟子にしてください! お願いします!」

「いや、その……」


 アレス君の宣言に、俺は固まりつつも納得する。確かに、俺についてくれば村への負担はなくなるし、将来この世界でもっとも確実かつ高給取りだろう騎士になる道も開けるかもしれない。

 俺自身はそんな大した権力も力も持っていないけど、我流で騎士を目指すよりは流石にましだと思う。俺だって、親父殿から修行を受けなかったら未だに見習い騎士にもなれてないかもしれないし。


「いいんじゃないのか? 将来有望な弟子を持つのは騎士としてもありがたいだろう?」

「そうだな。世の中、本人が強いだけでは高が知れている。やはりその力を受け継ぐ弟子を持つのは強者の務めと言うものだ」

「いや、でも俺についてくるといろいろ危ないし……」

「覚悟はできています! 騎士になる以上、敵にやられて死ぬ覚悟は既にできています!」

「でもさ、その……俺は特別危ない立場の人だし、やっぱり俺についてくるのはいろいろまずい……」

「だからこそ修行になります! それに、いざと言うときは僕を盾にしても囮にしても構いません! むしろ、魔物に狙われているのに一人で行く方が危険です!」

「いやまあ、そりゃそうかもしれないけど……」


 無責任な肯定をしてくれるパウルとガハムさんだけど、危険すぎるだろう。

 確かに騎士として……と言うか、この世界の常識として『一人前になったら弟子を取るのが当たり前』というものがある。ただでさえ弱い種族として、優れた技術を持つ人間は少しでも多くの人間にそれを伝えるのが当たり前なのだ。

 この世界での成人は20歳(はたち)だからまだ18の俺がそんなことを考えるのは早いんだけど、同時に中級騎士ともなれば弟子の一人や二人取っていてもおかしくはないと言われればその通りなのだ。

 でも、もしアレス君を連れた旅の途中で今回みたいな大軍団に襲われた場合、アレス君を見捨てて一人逃げるとか俺絶対無理だよ。どう考えても危なすぎる。

 そもそも、俺この旅は通常二人以上で行動するのが前提の騎士なのに、王様直々に一人で行けって言われているんだぞ?

 まあ、それはあくまでも騎士の話で、一般人を供にしちゃいけないなんて言われてないけどさあ。


「えっと、そうだ、村長さん。やっぱりこの先あのアンデッド集団に狙われる俺なんかとお孫さんが一緒に行くのは問題ですよね……?」

「……確かに、祖父として孫が危険な目に合うのは反対です」

「ですよね! だからアレス君――」

「しかし、同時に元騎士として、大切に思うからこそ過酷な場にやるべきなのかもしれません」

「――へ?」


 最後の砦として、俺は保護者である村長さんに助けを求めた。でも、何故か覚悟を決めた戦士の顔で何か決意されてしまった。


「アレスよ」

「な、なに? じいちゃん?」

「シュバルツ殿の弟子になるのは、過酷な道だ。命を落とすこともありえる。あのシュバルツ家だからな」


 そうそう。俺と一緒に来るのは物凄く危険なんだよ。いつまた今回みたいな魔物の群れに襲われるかわからないんだからな。

 ……そう言う意味だよな、村長さん? 何か俺が思ってるのとは別の何かを心配されてる気がするんだけど、気のせいか?


「しかし、お前が本当に騎士になりたいと思うのならば、お前にこれを託そう。そして生き残るのだ」

「じいちゃん? これって、あの時使っていた剣?」

「ああ。私が若いころ、陛下より賜った品だ。もう私自身が騎士として剣を取ることはない。ならば、新たに騎士を目指すお前に渡すことが陛下の意思に報いることとなるだろう」

「いいの? そんな大切な剣なのに?」

「ああ。ただし、その剣を持つ以上、決して誰に恥じることも無い騎士となれ。私が言うのは、それだけだ」

「……わかった! 僕、頑張るよ」

「うむ。ではシュバルツ殿。孫をよろしくお願いしたします!」

「あ、はい」


 ……ん? 何故かアレス君の弟子入りを許可しちゃった? 村長さんがあまりにも覚悟を秘めた目で頭を下げるから、つい頷いてしまった。

 でもいいのかこれ? 下手すると、俺と一緒に殺されてゾンビにされる恐れすらある危険な旅なんだけど……。


「師匠! これからよろしくお願いします!」

「あ、うん。でも、本当にいいのか? マジでいつ死んでもおかしくない旅……」

「いいんです!」

「あー、そう。ならもういいのかな……?」


 弟子入り志願の子がここまで固く決意してるんじゃ、後は俺が覚悟を決めるしかないか。本人が死ぬ覚悟できてるって言うんだし、もう頑張ろう。

 しかし弟子かー。そんなのとるなんて想定もしてなかったけど、アレス君才能あるみたいだし、責任もって預かる以上はちゃんと鍛えないとまずいよなぁ。

 ……とりあえず、親父殿から受けた修行をアレス君に合わせてやればいいのかな? これは中々の難題だ。


「では、今度こそ私は村の者に説明しに行きます」

「ワシらも行くとしよう。村人の護衛をするとなれば人手がいる。他の連中も呼ぶぞ」

「あー、そうだな。そうするのが一番か」


 俺がなんだか唖然としている内に、他の皆様方は何やら自分達の仕事に取り掛かってしまった。

 俺もアレス君を預かることになったわけだし、村を出る前にいろいろ準備しないとなぁ……。


「じゃあ師匠、これからどうするんですか? さっそく旅に出るんですか?」

「ま、その前にアレス君の旅支度だな。とりあえず、着替えとか食料とかいろいろ準備しないとね」


 目を輝かせている村の少年アレス君に、俺は落ち着くように手でアピールしながらとりあえずすべきことを言う。

 俺も何だかんだ言って旅なれてきたからな。もう旅に出る為に必要なことくらいはわかっているのだ。


「よし、アレス君。とりあえず着替えと武器を持ってきなさい」

「はい! でも、他にもいろいろいりますよね?」

「ん? ああ、水食料くらいは俺のほうで調達しておく。後は……別にいらんな」

「え? でも、商人のおじさんとかいつももっといろいろ持って……」

「大丈夫大丈夫。俺も昔はいろいろ準備してから旅に出てたけど、ほとんど使い物にならないから。基本、旅なんて飯と武器以外は気力と体力で乗り切るしかないんだ」


 俺も昔はテントとかマントとかみたいなものから火打石に磁石にと本当にいろいろ用意していた。でも、結局知らないうちに壊れてるからな。

 最終的に、自分の体力さえあれば大抵の問題はクリアできるという結論にいたり、今ではジジイ製の容量無視の袋があってもメシと着替え以外は魔道書やポーション類と言った、ゲーム時代に持ち歩いていたようなアイテムだけになったのだ。

 この辺は、やっぱりゲームに酷似した世界だな、うん。本来ならば万全を期さないと旅なんてできないだろうけど、この世界は体力で何とかなるのだ。


「な、なるほど……。これも修行ですね。がんばります!」

「うんうん。旅から学べることは多いぞ? 俺も旅に出る前に比べると随分成長したと思うしな」


 特に、食料調達とかね。正直予め持ち込んだ食料とかビックリするくらい早くなくなるから、すぐに野生の獣相手に食うか食われるかの死闘を繰り返し、そして現地の魔物とかと獲物の取り合いをすることになるからね。

 もちろん旅の間も基礎修行を怠る事はできないから、これがハードなんだ。とりあえずアレス君の目標は素手で川魚を捕らえるところからな?


「ま、いろいろ大変だけど、こうなったら頑張ろうか。とりあえず最初の目標は、10日後に生きていることかな?」

「は、はぃ……」


 ハッハッハ。何を引け腰になっているのかなアレス君?

 旅なんて、常時流浪の行みたいなもんだからね。文字通り死ぬほど大変だけど、まあ死ぬ覚悟があるんなら大丈夫さ。

 とは言え、村を出る前に軽く修行をつけておかなきゃならないか。最低限不意打ちに対して反応できるようになる為の修行として、昼夜問わずいきなり攻撃される生活に慣れるくらいのことはやっておきたいから、出発は三日後くらいを見ておこうかな。

 ああ、それにきちんと基礎トレメニューも考えないといけないか。今までみたいに『ちょっと村の子供に訓練つけてあげる』なんて軽いものじゃなくて、正式に弟子にするんだもんな。

 とりあえず今までのなんやかんやでアレス君の体力は分かっているし、魔力操作トレーニングも兼ねて指一本動かせなくなるまで実戦形式の組み手でもやっておこうかな。


「あの、何か不吉なこと考えてません? 妙な寒気がするんですけど?」

「気のせいだよ。っと、そう言えば、この村の人たちも全員で移動するんだよな。と言う事は、携帯できる食料は貴重品か。じゃあ自分で用意しないとな」

「用意って、狩りにでも行くんですか?」

「まあね。とは言え旅に出る前の最低限の仕込みもあるから、食料自体を用意するよりも狩りの仕方を教えるとしようか」

「は、はい」


 うむむ。一人で旅をしていたときはこんなこと考えたことも無かったけど、人と一緒だと、それも弟子と一緒だといろいろ考えることが多いな。師匠なんて立場に立ってみると、確かに弟子をとったことの無い人間を一人前とは認めないって考え方は納得できる気がしてくる。

 そうだな、やっぱり自分の食料くらいは自分で取れないと旅になんて連れて行けないし、組み手が終わったらその辺の森の中に連れてってサバイバルさせてみるか。人間、本当に死にそうになったら案外何とかするもんだしな。俺も大丈夫だったし、きっとアレス君も大丈夫だろう。


「うっし! とりあえず武器とか着替えとかの旅支度を済ましたら、いつもの訓練場に来てくれ。そこで最低限の仕込みをするから」

「――わかりました!」


 急に目をキラキラさせ始めたねアレス君。やっぱり、この世界の人間は頑丈だな。弟子にとる前だって魂抜ける程度にはきついトレーニングさせたのに、全く恐れてないんだもん。

 俺が親父殿からしごかれたときにはどうやって逃げようか考える毎日だったのに、本当に頑丈な子だ。結局このレオンハートの体が優秀なのか日々の鍛錬にも慣れちゃったと言うか毎日修行しないと落ち着かない感じになっちゃったんだけど、この子ならすぐにそうなるかもしれない。

 もしかしたら将来魔王との戦いでも活躍できる逸材かもしれないし、ここは一つ俺の学んできた全てをぶつけてみるとしようかな……。

正式に弟子入り確定。この子の運命やいかに。

これで今章はラストです。

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