第4話 大魔術師の平和的レッスン
「2497、2498、2499、2500……と。……ふぅ、二千プラス五百本素振り、終了だ」
屋敷の庭で行っている自主練。今日は親父殿も忙しいらしく、一人で親父殿の教えを思い返しながら剣を振っていた。
慣れとは恐ろしいもので、元はインドア派だったはずの俺もすっかり日々の鍛錬が習慣になってしまった。それを苦に思わないんだから、人間ってのは何にでも適応できるもんなんだな。
「んー……。でも、今日はちょっといつもよりか疲れたかな」
重りをつけた模造刀を近くの壁に立てかけ、軽く肩を回す。今日は体内を流れる魔力の事を意識しながらやったせいか、いつもより疲れた気がするな。
(まあ、何にも感じなかったんだけどさ。むしろ無意識では出来ていた身体強化が、意識したせいで弱くなってる気がするし)
下手に意識を回したせいで、体内の魔力の流れが乱れているのかもしれない。この疲労感は、そのせいで力が落ちたのが原因なのかな?
(俺としても、せっかくの新事実を有効に利用したかったんだけどな。もし意識的に魔力ってのが操れれば、今以上に高次元の運動ができるかもしれないし)
無意識の強化でも自分が人間なのか疑うくらいのことができるんだ。だったら、要所要所で最適な強化に全パワーを回す、何て事ができれば凄い事になりそうだし。
(もしかしたら、それが技なのかな。ゲーム時代では気にしたことなかったけど、確かに飛ぶ斬撃とかいくら体鍛えても無理だよね。やっぱ、剣士としても魔力の扱いって重要なんだろうなー……)
そんなことを考えながら、少し休んだ俺は次のメニューを消化していく。指導者がいない分、いつもより量を多めにしているから時間が無いのだ。
基礎筋トレ、走りこみ、型稽古。日課にちょっとプラスαを加えたメニューを終えようとしたとき、屋敷の方から俺に声がかけられた。
「レオン様ー! グレモリー様がお見えになりましたー!!」
「わかったー! すぐ行くって伝えてー!!」
今日はグレモリー先生の二回目の魔法講座だ。前回は全ての根源である魔力操作ができなくて頓挫しちゃったけど、今日はどうするんだろ?
一応前回教えられた基礎魔法理論は頭に叩き込んでおくように言われてたし、毎日復習もして完璧に覚えたつもりだ。覚えただけで使えはしないんだけど、まあ怒られはしないだろう。
そう思いながら、俺は訓練用の道具を片付けて本邸に向かったのだった。
「本日は外で訓練を行う」
「え?」
本邸でグレモリー先生から最初に告げられた言葉がこれだった。おはようもこんにちはもなく、いきなりこれだ。
別にいいんだけど、何となく強引な人だなーと思う。なんと言うか、人の話とか全く聞かずに自分の用件だけ済ませて帰るタイプだきっと。
だって、まだイエスともノーとも言ってないのに部屋から出ようとしてるんだもん。
「ちょ、何で外に行くんですか!?」
「ん? そんな事は後で話してやる。いいからこい」
「……はい」
一刀両断だった。自分の予定は絶対に決行する。そんな鋼の意思が感じられる言葉であった。
(まあ、別にいいんだけどさ。最近じゃ日中はほぼ間違いなく外でトレーニングしてるわけだし、すっかり外にも慣れたんだけどさ……)
そんなことを思いながらも、俺は結局外に出た。すると、一足先に庭に出ていたグレモリー先生は何やら呪文を唱えていたのだった。
「――――――!!」
未だに操れはしないが、しかし感じる事はできる魔力。その波動が高まっていく事を俺は感じていた。
その力は、この前先生が適正審査の為に見せたものとは比較にならない。戯れに使って見せたあの時の魔力の軽く十倍はありそうな力の放出だった。
(なんだ? 何が始まるんだ!?)
いきなり『修行だ』の一言で殺傷性の高い魔法が飛んできても不思議は無い。それを警戒し、俺は軽く重心を落として何が起きてもいいように構えた。
だが先生は全くそんな素振りを見せず、黙々と準備を整えただけであった。
「できたぞ。そんなところで身構えてないでここに来い」
「……えっと、何をするんですか?」
「だから言っただろう。今日は外で鍛錬するとな」
「へ?」
外と言われても、ここは外だ。まあ屋敷の敷地内なんだけど、屋根の下でないのは間違いない。
俺の困惑を見て取ったのか、先生は短く説明を加えてくれた。
「私の言う外とはな、このような壁に囲まれた閉鎖空間の事ではない。誰に守ってもらうこともない、本物の外のことなのだよ」
「つまり、敷地の外に出るって事?」
「その通りだ。わかったらここまで来い」
よく考えたら、俺屋敷の外に出たのって魔物に殺されかけたときだけだ。外に出るのをやんわりと制限されてた気がするし、何より俺自身が外への恐怖心を持っていた。
別に外に出たら足が竦んで動けなくなるとかそこまでは言わないけど、俺の知る聖勇の世界ではないとわかった途端恐怖を感じるようになったのは間違いない。我ながら臆病な話だが、それは事実だ。
もしかしたら、親父殿達はそんな俺の心中を察していたのかもしれないな。あの事件は俺からするとただの自業自得だけど、俺以外から俺を見れば初めてのお出かけではしゃいだら死に掛けたって状況なわけだしな。
それで軽く引き篭もりになってると思われて、修行の名目で矯正しようと思っても不思議は無い。
「……わかりました」
それを察すれば、先生の命令に背くわけには行かない。俺の自業自得で負わなくてもいい心労を負わせてしまったわけだし、これ以上迷惑はかけられん。
俺は、気合を入れて先生の手を取ったのだった。
「では、これより転移魔法で跳ぶぞ」
「え?」
「ああそれと、手を離すとどこかで落としてしまう事になるからな」
「え?」
「ではしゅっぱーつ」
「ちょ、ちょっとまっ!」
「【空術・次元跳躍】!」
俺の話なんて全く聞かない先生は、さっさと転移魔法を発動してしまった。
この魔法はゲーム時代でも登場した便利魔法で、一度行った――あくまでも登録できる場所のみだが――場所に瞬間移動できる優れものだ。多分、ゲーム全体で見ても使用率トップなのは間違いない。
でも、この魔法にそんな危険なリスクがあるなんて知らなかった。術者以外は転移中に振り落とされることあるとか、下手すれば命に関わる――
「ああああぁぁぁああぁぁぁぁ!!」
「ん? 落ちたか」
「そんなあっさりぃぃぃぃぃぃ!!」
言ってしまえばジェットコースターに安全装置無しで乗っているような感覚。何の覚悟もなくそんな突然の衝撃に耐えられるわけもなく、俺は簡単に振り落とされてしまった。
先生の実にあっさりとした感想と共に、俺はどこかへと転移してしまったのだった。
「いてて……ここどこだ?」
気がつけば、俺は全く見知らぬ場所にいた。見渡す限りの岩場。草木一本生えていない岩の世界だ。
「落ち着け……該当しそうなのはシュプルー岩石地帯? それともガガルの岩山?」
俺はゲーム知識とこの世界にやって来てから学んだ地理情報を総動員して現在地を把握しようと頑張ってみるが、やはりわからない。
せめて先生がどこへ転移しようとしていたのかさえわかれば方向から予測できたかもしれないが、今ある情報から確証を得るのは無理だ。
わからないものはわからないとこの考えを諦めた俺は、次にやるべき事を考える事にした。
「見える範囲に町とかは無い……下手に歩き回るのは却って危険か。多分先生が探しに来るだろうし、ここで待ってるのが一番堅実な考えかたかな……」
流石に誰か探しにきてくれると思うので、俺は救助を待つことにした。迷子になったらその場から動かないのが一番大切だって、昔誰かが言っていたような気がするし。
そんな訳で近くの岩に腰をかけ、俺はひたすら待つことにした。一時間、二時間と、ただひたすら空に浮かんだ雲を眺めて救助を待ったのだった。
だが――
「誰も探しに来ないよ!? どうなってんのこれ!?」
三時間ほど雲を眺めたあたりで、いよいよ俺に限界が来た。いや、本も漫画もゲームもない殺風景な岩場でこれ以上じっとしてろとか、ある意味拷問だよ。
痺れをきらして周囲を睨みつけるように見渡してみるけど、やっぱり何もない。この三時間で見える範囲の事は全部把握したし当然だな。
こうなったら適当に歩いてみるかと、最初の心構えをあっさり忘れた俺は行動を開始しようとした。それが迷子がもっと迷子になる原因なのだとはわかっているのだが、これ以上何もしないことに俺が耐えられん。
「どっちに行こうかなー」
右も左もどうせ岩場だし、別にどっちに行っても構わない。ヒントは全くないんだから、適当に進むしかないのだ。
「よーし、こっちに行こうか――ッ!?」
さあ歩き出そうと思った瞬間、俺を強烈な殺気が襲った。これは以前先生から感じたものと同じ、敵意。間違いなく俺を狙ったものだった。
(何かいる――こっちか!)
気配の方向を素早く察知し、俺はその方向とは逆にジャンプして距離をとった。
その方向には少々大きな岩があるが、確実にその後ろに何かいる。俺は、その何かに対して素手ながら構えをとった。七歳の俺が構えても微笑ましさしか感じられないかもしれないが、俺は本気だ。
何が出てきても叩き潰す覚悟で、俺は岩の後ろにいる何かの出方を待った。その岩の後ろから出てきたのは――
「――スライム!」
現れたのは、生きる粘液――スライム。この目で本物をみると信じられないが、ゲームではおなじみの液体モンスターだった。
今まで気にしたことなかったけど、改めてみると謎しかない生物だな。アメーバみたいなもんと解釈すればいいんだろうか……?
って、それどころじゃないな。生物学的好奇心発揮する前に俺が考えるべきなのは……俺の命がやばいってことだよなこれ。
(これは……勝ち目無いぞ……!!)
ゲーム知識だが、スライム種にはある特性がある。それは、打撃攻撃の完全無効化だ。
聖勇において、様々な攻撃には必ず武器属性が設定されている。それとは別に火や水といったエレメント属性があるのだが、ここで重要なのは武器属性だ。
武器属性には“斬”属性、“打”属性、“魔”属性の三種類がある。そして全ての攻撃には、必ずどれか最低一つの属性がついているのだ。
(スライム種には打属性への完全耐性がある。武器を持っていない今の俺には必然的に素手で殴る以外に攻撃方法はない。これじゃ、絶対に勝てない――!)
斬とは剣や槍から繰り出される斬る攻撃。魔とはそのまま魔法による攻撃。そして打とは、拳やハンマーから繰り出される打撃攻撃を指す。
今日は魔法の勉強だからと思い、俺は剣を携帯していない。いやまあ、普段から俺が使っているのは訓練用の刃を潰した模造刀だし、どっちにしろ打撃になるんだけど……ともかく、今の俺にあるのは殴る一択。これでは絶対にスライム種には勝てないのだ。
(せめて俺に打撃系の技があれば話は違うんだが……ないものねだりしてもしょうがないか)
せめて拳は構えるが、俺の知識の中だけで考えれば十割俺の負けだ。もちろん俺のゲーム知識がこの世界において絶対ではないことはわかっているが、命のかかった状況で自分に都合のいいほうに考えられるほど楽観的ではない。
故に俺のとれる手は、この場において一つだった。
(――逃げの一手だろ!)
たかがスライム。姿や名前から考えると、そう思うかもしれない。
実際、聖勇においても打撃耐性以外の面で考えれば雑魚といっていい。もちろんスライム系の上位種と言うことなら強いのは沢山いるが、ノーマルスライムなら最初のステージあたりで出てくる雑魚だ。
そして、目の前にいるのは外見から考えてノーマルスライムだ。ドットで表現されていたゲーム画面との比較なので絶対ではないが、九分九厘そうだろうと俺は読んでいる。
ステータス的は雑魚に分類されるスライム相手なら、俺の脚で逃げ切ることは可能なはずだ。俺は、こと身体能力に関してならそのくらいの自信を持っていた。
仮にも騎士を目指すものが敵前逃亡と言うのには問題あるかもしれないが、これは戦略的撤退なのだと言う事にしておく。
(……よし! あいつは俺について来れてない!)
スライムは俺を追いかけているが、どう見ても俺の方が早い。日頃から走り込みを怠っていない俺の持久力ならこのペースで数分は走り続けられるし、問題なく振り切れるだろう。
そんな生き残りの算段を立てた俺だったが、しかし現実は常に俺にとって都合の悪い方に進むと決まっているかのように動くのだった。
「ッ!? な、なんだ!? 体が重く――」
何故かはわからないが、まるで足に重りでもつけたかのように俺の体は重く、そして鈍くなってしまったのだ。
これではスライムよりも遅い。となれば、直に追いつかれることは間違いないと言うことだった。
(何でだ! 何で急に……鈍足のバッドステータスか!?)
この変化で俺が思いつくのは、状態異常の一つ“鈍足”だ。ゲーム知識だが、この状態異常にかかると敏捷値が半分になってしまうのである。
聖勇において、敏捷値は行動順と回避率、命中率に影響する結構重要なステータスなのだ。地味な嫌がらせ状態異常だが、これが入ると物理戦ではかなりのハンデを負う事になる。
(でもなんで? スライムにそんな特殊攻撃は無いし……やっぱ俺の知ってるスライムとは違うのか?)
鈍足化を使ってくる敵はそこそこいるし、それを引き起こすアイテムも魔法もある。だが、ノーマルスライムにはそんな能力ないはずなのだ。
と言うことは、目の前にいるのはノーマルスライムではない。もしくは今俺に起こっている不調の原因はゲーム時代の何かとは関係ないと考えるしかないか。
(まあどっちにしても……こうなりゃ破れかぶれだ!)
今の足では逃げ切れない。となればもう、正面から戦うしかないのだ。
こうなればもうゲームと現実は違う事に賭け、素手による打撃攻撃でスライムを倒せるかもしれないと言う僅かな可能性に縋るしか方法はないわけだ。
都合よく刃物としても使える石とかが落ちていないか目を走らせてみるが、どう見ても鈍器にしかならない石しかない。仕方がなく俺は呼吸を整え、スライムに格闘の構えをとった。
「――せいっ!」
放つのは基本に忠実な右正拳突き。剣がないときの戦闘法として格闘技も少々習っていたのだが、まさかこんなに早く使う事になるとはね。
若干自棄になった俺の渾身の突きは、スライムの体に突き刺さり――そのまま貫通した。貫通したところで、スライムには何の影響もないようだけどな。
それどころか俺の腕にそのまま纏わりつき、締め付けてくるくらい元気満々だねこりゃ。
「いでででででっ! この、離れろ!!」
腕をブンブン振ってスライムを引き剥がそうとするが、これが中々離れない。左手も使って引き剥がそうと頑張ってみるが、逆に左手までスライムに飲み込まれてしまう有様だ。
(このまま行くと、全身に覆い被されて窒息死ってところかクソッタレ!!)
やばい。死がすぐ目の前に迫ってる気がする。いや、明確にこのままだと死ぬ。間違いない。
「ガァァァァァッ!! クソッ! 離れろ! 離れろこの野郎ぉ!!」
滅茶苦茶に腕を振り回し、そこら中の岩やら何やらに俺の腕ごとぶつけて回る。だが、スライムは我関せずと言わんばかりにひたすら締め付けてくる。
流石に殴るだけじゃなくてこするように攻撃すればダメージもあると思うんだが……と言うか実際削れているんだが、全く怯む様子がない。こいつ、痛覚とか恐怖心とかないのか?
いやまあ、外見から言ってもそんな高尚なものがあるとは思えないけどさ。
「殴ってもダメぶつけてもダメ擦ってもダメ……他に何かないか? 何か!?」
必死に頭の中を総洗いし、走馬灯を見る勢いで脳みそフル回転させる。
スライム種に通用するのは斬か魔。剣がない以上斬は無理で、魔法にいたっては取っ掛かりすら見つけてない。他にも打の技――MPを使用する肉体の魔法の中にある打と斬の両属性技とかが使えればいけるけど、今のところどうすれば技が使えるのか全くわかってない。
手詰まり、何も思いつかない。て言うか何にも手立てがない。黙って死を受け入れるのが安息への道。そんな諦めすら浮かんでくる状況。
それでも何か無いかと必死に考えた先に浮かんだのは――半ば恐喝されながら頭に叩き込んだ基礎魔法理論だった。
(基礎魔法のプチブラスト! あれならスライムにも効く!!)
プチブラスト。俺の知らない、ゲームにはなかった魔法。魔法職についたものだけが習得できる、攻撃魔法の中で一番下であるはずの初級魔法のさらに下に位置する入門魔法。
原理は至極単純で、僅かに魔力を放出し、それを爆発させるだけの魔法。破壊力は精々が埃を巻き上げる程度であり、基礎の基礎練習用でしかない魔法。
だがそれでも、魔法には違いない。魔法ごとに設定された威力値と術者の魔力値を参照して導き出す聖勇のダメージ計算をそのまま当てはめてもいいのなら、俺の体内にあると言う全魔力を纏めて使えばスライム一匹くらいなら退治できるかもしれない。
(魔力動け! 目覚めろ! 起動しろぉぉぉ!!)
今もギリギリと両腕を締め付けられる感覚を味わいつつ、俺はひたすら体内に流れているらしい魔力に何とかしろと切実な叫びを上げてみる。
でも、やっぱりそんなに都合よく行くものでは無いらしい。俺の中の不思議パワーはこの期に及んでもうんともすんとも言わず、何もできないままとうとうスライムは俺の首まで到達したのだった。
そして、スライムは一切容赦することなく俺の首を締め上げる。今までの比では無い恐怖と死を実感した俺は、その場に倒れこんでしまった。
「あがぁ……ぁ……」
脳に酸素がいかない。死ぬ、本当に死ぬ。首から聞こえてくるミシミシと言う音と共に、俺の意識まで闇に沈んでいく。
……いよいよ落ちる一歩手前。後三秒もすれば完全に昏睡状態になりますと言う極限状態。
もう俺と言う人格がほぼ消滅したそのとき、突然体の内側から何か熱を持ったエネルギーのような物が噴出してきた。詰まりが取れたと言うように、勢いよく全身を駆け巡るのを体中で感じたのだ。
俺はそれがなんなのか、それで何ができるのかを感覚的に把握する。あらゆるプロセスを飛ばし、その使い方を強引に習得する。手遅れにならないように、手早く速攻で準備を完了させる。
そして、そのまま力任せに開放したのだった。
「――プチブラストォォォッ!!」
俺の全身から放たれた魔力は即座に破裂し、周囲一帯を吹き飛ばした。
魔法としての位が低いからか威力は大したこと無いが、本来指先ほどの魔力を破裂させるプチブラストを全身でやったんだ。とても入門魔法とは思えない威力を発揮したのは間違いない。
爆発でできた、俺の体がすっぽり埋まるくらいのクレーターの中に俺は横たわる。今のでスライムも消し飛んだらしく、朦朧とした意識でだけども首にも腕にも苦しさが無くなった。
「はぁ……はぁ……。やった……のか?」
「ウム、見事にやり遂げたな」
「そうですか……」
今誰かと会話したような気がするけど、もう俺にまともに思考する力は残ってない。
もう何も考えることなく、地面の上で無様に気絶同然に眠るのだった……。
「全く、試作品のスライムゴーレムをここまで粉々にしよって。しかしまぁ、命の危機なら流石に目覚めると思ったが……予想以上かも知れんな、これは。我が弟子として、これより厳しく鍛えてやるとするか……」
こうして、俺の全く予想していなかった初めての遠征は終了した。
この後、俺は剣の達人と魔の賢人の二人に日夜徹底的に鍛えられる事になる。そして、そんな日々を五年過ごす事になるのだった。