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【番外編完結】他力本願英雄  作者: 寒天
青年編開始 聖剣の神殿と吸血鬼殺しと勇敢な男の子
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第39話 少年アレス

「ど、どうですか師匠!?」

「いや、だから師匠になる気は無いって」


 重り代わりの丸太を両脇に抱えながら走っている俺の隣で、黒髪の少年アレス君が俺よりは細い丸太を腰紐の先に引きずりながらひたすら走っている。息を切らせながら、目を血走らせ、ちょっと魂が抜けかけてる感じだな。

 あのまま完全に魂が抜けて、体が意思を必要とせずにオートで走り始めればとりあえず入門編くらいだろう。


 彼は今、何故か俺なんかの弟子になりたいと言う希望に沿って、晩御飯までの間と言う限定期間で俺の指示に従い鍛錬の真似事をしていた。

 俺はまだまだ未熟で、とても人にものを教えられるほど立派な人間ではない。何度もそう言ったのだが、何故かアレス君は全く聞き入れてくれなかった。

 まあ子供心から来る騎士への憧れって奴なんだろうけど、結局それに根負けして基礎トレーニングだけ見てやると言うことになったのだ。

 技を教えるなんてとても俺如きが言えることじゃないけど、まあ体力づくりくらいならいいだろってことにしとこう。


「がんばれー。後53周でノルマ達成だよー」

「ごじゅ!? ……が、ガンバリマス」


 ……うん、まだ余裕あるみたいだな。すれ違いざまに声をかけてみたけど、まだ受け答えができてる。

 今俺とアレス君が走っているのは、村の柵の内側だ。要するに、ニナイ村を後50回程度ぐるぐる丸太引きずりながら走れと言っているわけだな。ちなみに、俺のノルマはその10倍だ。

 しかし思い出すなぁ。俺が11くらいの時には、走りこみの時にはジャラジャラ大量の重りをつけて丘の上にあるシュバルツ邸を上り下りしていたっけか。アレス君は今までほとんど自己流で訓練していただけだろうから、まあこのくらいが妥当だろうな。

 でも、晩飯まで後一時間ないよな。今のペースだと俺はともかくアレス君は間に合いそうに無いけど……ま、できなきゃできないでもいいのだ。

 そもそもノルマを達成するたびにプラス100周だし、目標には永久に届かないのが基礎トレと言うものだしな。とにかく全力さえ尽くせば問題なしってね。





「ガハッ! グボッ! ゴフゥ!?」

「うんうん。いい感じに壊れてきたな。謎の呼吸音がして来た」


 そんなこんなで、晩飯まで残り僅かな時間となった頃、アレス君は大分壊れていた。

 俺にも覚えがある、もう意識が体からほとんど離れている状態だ。既に千鳥足で、それでも何かの意思だけで必死に前に進もうとしている状態だな。

 俺は既にマラソンを終え、他の基礎トレーニングに入っているけど、アレス君はマラソンをクリアできそうに無い。まあ、まだまだ基礎体力作りの最中だししょうがないか。元々時間も短かったし、重要なのはこれから先も続けていくことだしな。

 ……ま、それはそれとして、ペースが落ちるのは感心しないなぁ。


「【風術・風の槌(ウィンドハンマー)】」

「ぶぼぉ!? ハ、ハイ! ガンバリマス!」

「うんうん、頑張れ頑張れ」


 俺の腕輪も使っていない超しょぼい魔法を受け、喝を入れられたアレス君は再び速度を上げた。流石に最初の元気はないが、まあ今の体力ならアレが最高速かな?

 やっぱり、走りこみなのにペースを落とすのはダメだよね。疲れてきたといっても、本当に動けなくなって倒れるまでは全力を尽くさなきゃダメだ。

 そんな俺の、と言うか親父殿からの教えに従い、ペースが落ちるたびに殺傷力皆無の魔法をぶつけているのだ。何度も繰り返したおかげで、今ではすっかり魂が欠落しても走り続けられるようになったな。なかなか素質があるようだ。


「騎士様ー。お食事の用意ができましたよー」

「ん? ああ、どうもー。……じゃあアレス君、そろそろ終わりにしようか」

「ヒフ、ハヒ、ホヒ!」

「……おーい? 大丈夫かーい?」


 高いところからアレス君を監視しつつ素振りをしていた俺に、遠くから村の人が声をかけてきた。

 その声に応え、そろそろ時間切れだとアレス君に告げる。が、アレス君はそんな俺の声に全く反応せず、白目剥きながらただひたすら走り続けている。ありゃ俺の声なんて全く聞こえて無いな。


「意識が飛んでもトレーニングが続けられるようにやってみたけど、完全に飛んじゃってるな。しょうがない。そろそろ止めるか」

「ハフ、ホフッ!」

「おーい。もう終わりだよー」

「ガフッ!」


 俺はアレス君のところまで一気にジャンプし、肩に手を当てて覚醒させる。

 まあ、止まると同時に崩れ落ち、そして水を求める魚のように口をパクパクさせて空気を求めているが、生きてる証拠だな。まだまだ余裕があるようだ。


「さて、アレス君。このくらいにして、そろそろご飯にしようか」

「ご、は……?」

「うん。それが終わったら、お風呂に入ってもう寝なさい。体作りで本当に重要なのは、鍛錬よりもむしろ食事と休息だよ。疲れを明日に残さないようにね」


 イマイチ聞いているのかわからないが、とりあえず心得だけでも喋っておく。俺がいつまでもこの村で指導するわけには行かない以上、無理して体壊されても夢見が悪いしね。

 まあ、指導者がいるときには限界まで無茶させるのが常識らしいけど。異世界人の肉体常識は本当にぶっ飛んでるよ。


「……し、師匠」

「ん? どしたの? 後、師匠じゃないからね」


 なんてことを言ってる内に、アレス君の意識が戻ってきた。とは言ってもまだ半分死んでるみたいだけど、半分意識が戻ってきたんだからよしとしよう。

 さて、何か言いたいことでもあるのかな?


「騎士に、なるって、とっても大変、なんですね……」

「ああ、大変だよ」


 息も絶え絶えと言った様子のアレス君だが、その言葉には強い共感を覚える。実際、俺もこの世界に生まれたときにはここまで大変なものだなんて思ってもみなかったからね。


(しかし騎士になりたいか。この世界の男の子は皆そう言うけど、ここまで熱意のある子は初めてかもね)


 どうやら、アレス君は将来騎士になりたいらしいのだ。それで現役騎士である俺に弟子入りしようとしたらしいのだが、そう簡単に騎士になれると思われてはこまる。

 騎士になるには、年齢一桁の頃から毎日三途の川を往復するくらいは当たり前って覚悟が必要なのだ。俺も修行を始めてから知ったことだけど。

 そして、その覚悟があるかを試すと言う名目で俺への弟子入りを諦めてもらおうと思ったのだが、まさか本当にここまでついてくるとはなぁ。

 だからって弟子にするとは言わないし言えないけど、根性と努力だけは認める。何か、憧れだけじゃない理由とかあるのかもね。


「ま、とりあえずキミを家に送っていこう。どこだい?」

「あ、の。一番、ヒュー、大きい、家、です」

「一番大きい……? え、ひょっとして、村長の家?」

「は、フュー、い。そうで、カフー、す」


 ……偶に生命の危機を訴えるような呼吸音が混じって聞き取りずらいが、なんとアレス君は村長さんの家に住んでいるらしい。お孫さんかな?

 村長の孫に産まれたんだったら、そのまま村長になる勉強でもした方が遥かに安全で楽だと思うんだけどなぁ。俺が同じ立場だったら、いかに村長という権力を使って怠惰に生きられるかを検討するぞ。

 実際、レオンハートとして生まれなかったら間違いなく今みたいな生活送ろうなんて考えもしなかっただろうし。


「ま、とりあえず送っていくよ」

「は、い。ありがと、フヒュー」

「ああ、もう喋らなくていいから、呼吸に集中しな」


 俺は文字通り息も絶え絶えのアレス君をおんぶし、村長の家へとゆっくり歩いていく。

 別に走ったりジャンプしたりしてもいいんだけど、俺だってほとんど死んでいる背中の少年を労わる常識くらいは持ち合わせてるからな。



「……どうしたのだ? アレスよ」

「…………」


 客人との密談を済ませた後、何事もなかったかのように一介の村長の仮面を被りなおす。そして、いつもの日常を送ろうと食卓に腰掛けたのだが、何故か孫が死人の様にテーブルに突っ伏していた。

 ……何故か、遠い昔に見たことがあるような気がするの。こう、若いころ、まだ騎士団にいたときに見たような……。


「……た……つ……」

「ん? どうした?」


 口をパクパクさせて何かを訴えている孫の声を聞くべく、耳を口元に近づける。

 そして、何とかその言葉を拾ってみた。


(頑張った……強くなる……?)


 ……つまり、強くなるために張り切って運動して疲れた、という事か? それだけでここまで死にそうになるとは思えんが……。


「……それで、大丈夫なのか?」

「…………う」


 今のは『うん』か? とりあえず息はある、と言った状態だな。

 ……やはり覚えがある。この、“生きてはいる”としか表現できない絶妙なレア加減。こう、騎士時代に封印した記憶に何かが……あ。


「も、もしかしてお前、あの騎士様――シュバルツ殿に関わったか? まさか、鍛えてくれなんて頼んだのか?」

「……う、ん」

(ああ、なんと言う無謀なことを。あの記憶に鍵をかけた伝説の武門一族、シュバルツ家に教えを請うなど、あの世への片道切符を買うようなものだぞ……)


 忘れもしない……いや、正確には忘れようと頑張って記憶に鍵をかけたあの事件。

 当時まだ騎士として生きていた頃、一人の子供が騎士学院に入学を許された。まだほんの10になったばかりの、今のアレスよりなお幼い子供だった。

 当時偶々学院に訪れていた私は、その子供が所属していた班が鍛錬を始めると言っていたので、つい軽い気持ちで一緒に参加しようと言ってしまったのだ。ちょっと、世間を知らぬ子供に騎士の現実を教えてやろう、などという気持ちで。

 そして、逆に私が打ちのめされた。日ごろから騎士としての鍛錬に手を抜いたことはなかったのだが、その班の生徒達はもちろん、現役騎士であった私までもが足腰立たなくされたのだ。

 純然たる、ただの訓練によって。10歳の子供が平然とこなしていくトレーニングメニューをクリアできずに、騎士である私が子供より先に倒れたのだ。


(思えば、あの事件こそが私が陛下の密命を承諾する直接的な原因だったのかもしれん。この世界には、私などとは比べ物にならない本物と言う奴がいるのだと思い知らされたのだからな)


 もし私が、その少年こそがかの有名なシュバルツ家の人間であると知っていたのならばそんなことはしなかったのだろうか?

 いや、きっと、三大武家などと言っても、自分ならば決して引けをとらないと若さに任せた自信を持って行動しただろう。結局挑戦し、そして打ちのめされたのだろうな。


「とりあえず、ご飯は食べられるのか?」

「う、ん。たべ、なきゃ、ダメって、言ってた」

「言ってた? 誰がだ?」

「し、しょう」

「……そうか」


 師匠と来たか。もし本人公認だった場合、この子の命にかかわるぞ……。

 これは早急に何とかせねば……グゥ。きゅ、急に胸の辺りが重くなってきた……。


「……では、とりあえず食べるとしようか。今日は客人もいるから、少々豪華だぞ」

「きゃ、客……?」

「ああ。立派な御仁だ。くれぐれも粗相の無いようにな」


 あの御仁にはこの家に滞在してもらう予定だ。話し合いが終わってからは『ちょっと日課の鍛錬に行って来る』と言って森の奥へと消えてしまったが、そろそろ戻ってくるだろう。

 それに、今日はいろいろあっていつもよりも食卓が豪華だ。シュバルツ殿は昼間に森に入ったお土産といって大きな猪を狩ってきてくれたし、殿下達も手持ちの食料を提供してくれた。

 おかげで、いつもならばありえない、たっぷりと肉を使った夕食が仕上がっているのだ。


「……こ、この匂いは……肉!?」

「ん? 一気に元気になったな」

「じいちゃん! 肉! 肉あるの!?」


 アレスは私が自ら運んできた焼いた肉の匂いに誘われ、先ほどの死人のような状態から一瞬で回復した。

 ……もしや、今代のシュバルツはシュバルツのわりに常識があるのか? 私の記憶だと、一度シュバルツの鍛錬に付き合えば三日は身動き一つできなくなるのが普通なのだが。


「ほれ、ちゃんと食べる前に手を洗うのだぞ?」

「わ、わかった!」


 私のお決まりの言葉に従い、アレスは素直に手洗い場へと駈けていく。

 普段は肉一つ手に入らないこんな村だが、南の大陸は加護のおかげで水だけは豊富だからな。せめて病気にならないように清潔にしてもらいたいのだ。


「ただいま戻りましたぞ」

「おお、お疲れ様です。丁度これから食事ですよ」

「む、それは申し訳ない。まるで見計らったような時になってしまいましたな」

「いえいえ。どうぞこちらへ」


 気配を消していたと言うわけではないのだろうが、いつの間にかバ――ガハム殿が帰ってきていた。


「あ、こんにちは」

「む? おお、もしかして、アレス君かな?」

「は、はい! アレスって言います!」

「うむ、いい返事だ。ワシは……ガハム、と言う。旅人だが、しばらく世話になるぞ」

「はい!」


 大急ぎで手を洗ってきたアレスとガハム殿が挨拶をしている。どうやら、隠していても隠し切れない強者のオーラをアレスも感じ取っているようだな。

 まるで、いつも憧れを口にしている騎士を見る目でガハム殿を見ているとは。


「この食事はガハム殿とシュバルツ殿のおかげで食べられるのだぞ? 感謝していただくとしよう」

「はい! ありがとうございます!」

「うむ。子供は元気が一番だ。冷めない内に食べるとしよう」


 本当はついさっきまで死体と変わらない状態だったのだが、ガハム殿から見てもすっかり元気そのものに見えるようだ。

 やはり、今代のシュバルツは常識を持ち合わせているようだな。あくまでも、シュバルツのわりには。


「僕、肉なんて久しぶりだよ!」


 ……やはり、孫の笑顔を見るのはいいものだ。



「いやー、おいしいねー!」

「酔っ払いには何出してもうまいとしか言わないだろ」

「そうかーい? アッハッハッハ!」

「はぁ。笑い上戸の酔っ払いと一つ屋根の下とか、何の嫌がらせだよ」


 アレス君と別れた後、俺も食事を取るために仮の家に戻ってきた。そして、そこで未だに酔っ払っていたパウルに絡まれたのだ。

 酔っ払いの相手を真面目にする以上に無駄な行動はないので、俺はその言葉をほとんど無視して用意された食事をとることにした。したのだが――結局メシ食いながら酔っ払いのご機嫌そうな話を聞く破目になったのだった。


「いやー、こんな味付けの食事を取るのは初めてなんだよー」

「何でだよ。ただ肉に塩かけて焼いたのとどこにでもあるスープ、それに野菜を洗って切っただけのサラダだろ?」


 加えて、日本基準で言うと非常に固いパンもある。極平均的……よりもやや上の田舎の食事ってところかな。

 普通なら、こんな村の食事で肉はまず出てこない。ぶっちゃけ、固いパンとそれをふやかす為の薄味スープしかないってのも珍しくないしな。

 そんなこの世界の食事情は身をもって知っていたし、育ち盛りとしてはきっちり栄養取りたかったのでわざわざ肉をとってきたわけだが、そんな感動するほどの物ではないだろう。

 はっきり言って、ちょっと都会のレストラン辺りに慣れている者ならば顔を顰めるレベルの食事だ。俺としても食事には前世的な意味でうるさいので、あまり笑顔にはなれないしな。

 まあ、辺境の村で食べるものとしては文句なく上物だし、出されたものに内心はともかく文句を言う事はないけども。


(騎士を相手にするんだからって無理が伝わってくる献立だ。流通の問題何かから考えても、この味付けに使っている塩ですらここじゃあ高級品だろうしな)


 南の大陸の北端であり、内陸に位置するこのニナイ村では塩の一つもなかなか手に入らないだろう。

 まあこの世界には魔法という反則的な流通方法があるのだが、だからこそ貴重な魔法使い達を動かすのには金がかかる。結果的に、貧しい村は魔法の恩恵を受けることも少ないのだ。


「いやー、こんな斬新な味付けは本当に初めてなのだよ~」

「……ま、酔っ払いの舌にコメントするだけ無駄か」


 そんな、辺境の村基準で言えばご馳走でも、世間基準で言えば貧しい食卓。それに対し、パウルはどこまでも上機嫌だ。

 思っていたよりもマシな食事だったと上機嫌になるのならまだしも、味そのものが高評価ってのはどう言うことなんだか。

 しかも、味が気に入ったとかそう言う話ではなく、この塩かけただけの味付けの珍しさに驚いているようにも見えるし。

 全く、コイツは料理人の技術の結晶みたいな高級料理しか食った事無いのかよ。

 ……いやまあ、実際結構うまいんだけどさ。俺、別にグルメじゃないし。




「ん、ご馳走様」

「んー、満足満足」


 結局、パウルは最後までほろ酔いご機嫌なまま食事を終えた。俺もまあ、満足できたな。やっぱり旅用の保存食よりはずっとうまかった。

 さて、メシ食った後は軽く汗でも流して、さっさと寝るかな。


「んー? どこ行くんだい?」

「村の公衆浴場だ」


 南の大陸は、別名水の大陸と呼ばれている。人が生活するのに適した環境を持つこの地では、非常に水が豊富なのだ。

 こんな貧乏な村でも問題なく風呂の用意ができるくらいにな。流石に、沸かすための労力と燃料の問題で一家に一台とは行かないんだけども。


「そっかー。僕も行こうかなー」

「そんなベロベロ状態で大丈夫……まあ、アルコール抜く為と思えばいいのか」


 この世界の人間を地球人と同じ目線で考えてはいけない。例え、意識が朦朧とするレベルまで酔っ払った状態で水風呂に叩き込まれても平然としているだろうからな。まあ、実験したことはないけど。

 そんな俺の予想に従えば、別に酔っ払いが風呂に行くくらい問題ないだろう。純粋に迷惑になるって点はどうしようもないけど。


「うん、じゃあ行こうか!」

「はいはい。テンションの高い奴だな本当に」


 こうして、俺はパウルと一緒にメシ食った後に、今度は風呂で裸の付き合いをすることとなった。

 全く、昼間はゲームして、メシ食って、ついでに風呂まで一緒に行って、これから同じ屋根の下で寝るわけだ。

 改めて思い返すと、特に後半部分は男相手じゃ何か寒気がする内容だけど、何か新鮮だな。

 こう、他人と一緒に馬鹿なことやるなんてことはさ……。



「それで? そろそろやるのかい?」

「はい。指示された場所は、人間共の呼称でニナイ村と呼ばれる地で間違いありません。既に呪術魔法による遠隔攻撃を開始しています」


 我が主、貴族級の吸血鬼であるお方に跪き、私のこれまでの成果を報告する。

 与えられた指令から情報を集め、万事がうまく行っていると報告するのだ。


「うん、よろしい。では、作戦成功の報を楽しみにしているとも。……この作戦は非常に重要度の高いものだ。私も期待しているからね」

「はっ! ありがたき幸せ!」


 情報収集には苦労させられたが、既に任務達成まで残している課題は“人間の小さな村一つを落とすこと”だけだ。

 誇り高き吸血鬼である私からすれば造作もない仕事であり、絶対に失敗するなとの念押しを受けて配下の魔物で構成した軍まで用意しているのだ。失敗しようがないといったところだな。

 ついでに、念の入れすぎと言われても文句を言えないほどに万全を期し、あの人間共の中で一番強そうな老人を呪術で弱らせているのだ。

 もはやこれより始まるのは戦いではない、蹂躙なのだと確信しか持てんな。


「では、吸血鬼(ヴァンパイア)アハロン。お前の成功を期待する」

「必ずや、ご期待を裏切らない成果を挙げて見せます!」


 そう言って私は立ち上がり、この豪華な部屋から退出する。

 この任務に成功すれば、恐らくは褒章として更なる力を、血を分け与えられるはずだ。そうなれば、この私自身が貴族級の吸血鬼へと上り詰めることも不可能ではあるまい。

 一般階級の吸血鬼である私にこのような勅命が下されたこの幸運、決して逃しはしないぞ……!

シュバルツ家=死亡フラグ(常識破壊されている人を除く)

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