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【番外編完結】他力本願英雄  作者: 寒天
天才(?)になりました
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第3話 大魔術師グレモリー

「本日よりレオンハート、君の魔法教導を担当する事となったグレモリーだ。頭を垂れて敬いたまえ」

「は、はい……。よろしくお願いします」


 いつものように頭と体の運動をした後、急に親父殿に呼び出された。

 また何か知らず知らずの内にやらかしたのかとちょっとビビリながら本邸に行ったところ、如何にも魔法使いですって感じのお爺さんにいきなり先生発言をされた。

 つい反射的に挨拶しちゃったけど、この人誰だ? 親父殿の紹介である以上怪しい人では無いんだろうが、俺的には完全に見知らぬ人なのだが……。

 そんな思いを込めて親父殿に目線を送ってみた所、理解してくれたのかご老人の紹介を始めてくれた。


「レオン。この方はかつて王立学院にて教鞭をとられていた事もある優秀な魔導師だ。既に引退した身の上ではあるが、無理を言ってお前の家庭教師を頼んだのだよ」

「えっ……? あの、私は魔法の才能が無いから止めろという話ではなかったのですか……?」


 俺も最初は魔法の習得を親父殿に頼んでみたのだが、いろいろあって諦めろと遠まわしに言われた。

 実際初歩の初歩、算数で言えば足し算の概念くらいのところで躓いている俺には魔法の才能は皆無なのだろう。それは理解しているつもりなのだが、それでも諦めるわけには行かないから独学で何とかしてやろうと頑張っていた。

 それなのに、なんでいきなり外部から先生を呼んだんだ? 親父殿は、俺の魔法には見切りをつけたんじゃなかったのか?


「そんな事は無いぞレオンハート。もちろん一流の領域に立つにはそれ相応の才能が必要不可欠だが、凡俗であろうとも凡俗の領域内でなら修められるのだ。まあ私ほどの一流にかかれば、三流を二流に繰り上げるくらいまでのことはしてやれるがな」

「ぼ、凡俗って……」

「お前はあのクソ真面目で正面突破しかできないガー坊が匙を投げるほどに魔道との相性が悪いと聞いた。これは老人の暇つぶしには最適だと思ってやって来たのだ」


 凄い言われようだな……一切反論できないのが悲しいが。

 それにしてもガー坊ってなんだ? ガチョウか?


「あの、ガー坊って……?」

「あー、先生。出来ればその呼び名は勘弁していただけませんかな?」

「フンッ! そんな口はもっと威厳と貫禄をつけてから利くんだな、ガー坊よ」

「……はぁ。なんであいつも、よりにもよって先生を召喚するんだ……」


 なにやら親父殿が黄昏ているが、ひょっとしてガー坊って親父殿の事か?

 親父殿の名前はガーライル・シュバルツだから、確かにガー坊だ。ガー坊ではあるが……あの親父殿を坊呼びって……何者だこの爺さんは?


「あの、この方……グレモリー殿と父上はどのようなご関係なのですか?」

「ん? 私とガー坊の関係か?」

「はい、非常に親しいご関係のようですが……」


 正直、メッチャ気になる。親父殿は別にこの国で一番偉いと言う訳ではないが、それでもかなり高い地位にいるはずだ。

 その親父殿を、坊主呼ばわりできる人間などそうそういまい。となれば、この爺さんも相当凄い何某なのは確かだろう。

 ちなみに、俺が親父殿を父上呼びしているのはマナーとしてだ。流石に心の中ではともかく公共の場で親父殿と呼ぶわけにもいかないので、口にするときは父上と呼んでいる。


「お前の親父であるガー坊と私は、まあ一言で言えば生徒と恩師の関係だ。どうしようもないヘッポコだったガー坊を一人前に仕上げたのは、まあ私と言っていいだろう」

「……その分、いろいろ迷惑もかけられましたがね。忘れませんぞ、私達を魔法の実験台にしようとした事件は」

「何を言うか! ちょっと新しい呪いを開発したから試しただけであろうが!」

「その解呪方法も考えずにとりあえず試したせいで、私がどんな目にあったのかお忘れか!」

「ちょっと一週間ほど下痢腹になっただけでは無いか! いい大人が細かい事をいつまでも――」

「実験失敗の結果でしょうが! 本来ならどんな効果が出る予定だったのか、私は未だに聞いておりませんぞ!」

「カーッ! そんな過去の失敗など、私はいつまでも引きずったりしないんだモンッ!」

「拗ねるな気色悪い! ジジイがモン、とか恥ずかしくないのかコラァ!」

「なんじゃとぉ? 久しぶりにその性根叩きなおしてくれようか!」

「やってみろクソジジイ! あの時の俺だと思うなよ!」

「………………」


 微笑ましい? 師弟喧嘩に俺はすっかり取り残されていた。

 と言うか、あの品行方正で厳格な親父殿もやっぱり人の子だったんだな。知己の前だからか、すっかり童心に帰って言葉が若返ってるよ……。

 とは言え、出来れば俺のいないところでやって欲しい。と言うか、親父殿はそんな生徒を好奇心で呪うような人に俺を預けるつもりなのか。まさかとは思うが、いよいよ見放された?

 そんないろいろな感情がこもった俺の視線に気がついたのか、親父殿はヒートアップした喧騒を止め、身なりを整え軽く咳払いしてから俺に話しかけてきた。


「……あー、ともかくだレオン。クソジジ……グレモリー先生にお前の魔法教導を任せる事となった。人格はともかく教師としての能力は一流だ。安心してくれていい」

「何を安心しろと……」


 まだちょっと冷静じゃないらしい。所々に若かりしころの残照が感じられる。

 まあそれはこの際聞かなかったことにして、どうやら親父殿は俺の為に魔法の先生を呼んでくれたって認識でいいんだよな?

 正直、凄い不安なのだが。何だかんだ言っても親父殿の紹介なら大丈夫だとは思うのだが、なんか余計な心配事を抱える破目になりそうだ……。


「フンッ! まあいいわい。ではガー坊の息子よ。早速お前の適正を見せてもらおうか」


 そう言って爺さん……グレモリー先生は、何かをブツブツ呟き始めた。


(何をしてるんだろ……ッ!?)


 ボーっと見ていると、不意に何か背筋が凍るような未知の感覚に襲われた。まるで、いきなり腹を空かした肉食獣の前に放り出されたかのような恐怖にも似た何かに。

 その謎の感覚の前にじっとしていられなかった俺は、咄嗟にグレモリー先生から離れるようにジャンプしてしまったのだった。


「な、何今の……?」

「……ふむ。思ったよりも鋭い反応だの」

「先生恒例の資質試しですか。いつもの事ながら荒っぽいやり方ですね」


 未だに冷や汗と動悸が止まらないのだが、親父殿とグレモリー先生は感心したような顔で話していた。

 一体今のはなんだったのか出来れば早急に説明を求めたいのだが……俺の意向は無視して話は先に進んでしまうらしい。


「では次だレオンハートよ。この水晶球に手を当てろ」

「へ? えっと、触れればいいんですね?」


 グレモリー先生は、どこからともなく透き通った丸い水晶を取り出した。アイテムボックス的な魔法だろうか?

 ゲーム時代ではアイテムは無制限に持ち放題だったのだが、この世界ではそうは行かない。それもまたゲームと現実との違いなのかと思っていたのだが、専用の魔法があるのかもしれないな。

 それはともかく、俺は言われたとおり水晶球に両手を当てる。これで一体何がわかるのかは不明だが、とにかく何かしら意味があるのだろうと考える前にやってみる事にした。

 すると、水晶の中に何か白いモヤのような物が浮かんだ。それを見て親父殿たちは感心しているが、一体何の意味があるんだ?


「魔力親和性で言えば、決して落第ではないな。むしろ、良の項目をつけてもいい」

「ええ……驚きました」

「あの、一体これは何の意味が……?」


 大人二人で納得されても、俺には何がどうなっているのかさっぱりわからない。いい加減に説明して欲しい所だ。

 そんな俺を前に、グレモリー先生は頷いてから説明を始めてくれたのだった。


「では、説明してやろう。最初の悪寒……アレはな、魔力を体で感知できるかと言う実験だ」

「……?」

「あー、つまりな。私はあの時、お前に向かって攻撃系の魔法発動準備を行ったのだよ。可能な限りゆっくりと、感知しやすいようにな」

「……え?」

「その結果、お前はかなり早く私の魔力に反応した。魔力を肌で感じる力があるかどうかは魔道を会得するに当たって重要な要素だからな。お前は見所ありと判断できる」

「……はぁ」


 要するに、俺は軽く殺されかけてたと。その敵意満々の魔力とやらを無意識に感知し、心臓バクバクになったと。

 これは、やっぱかなり危なそうな爺さんだ。魔法とか魔力とか言ってるから今一フワフワしてるけど、要するに拳銃突きつけて撃鉄の音に反応したかを試したとかそう言うことだろ?

 まあ親父殿との鍛錬でも三途の川を見るのはわりとよくある話だし、お花畑を垣間見た事だって一度や二度じゃない。修練の過程で死ぬのは困るけど、死に掛ける程度なら問題なしと言うしかないだろう。

 でも、せめて事前に言って欲しいと思うのは俺のわがままなのかな……。


「そしてこの水晶球だが、これには魔法力を吸収する特性があってな。一人前の魔法使いから魔力を強引に奪うと言うほどではないが、何も考えずに触れれば多少持って行かれるのは間違いない」

「えっと、つまりあの白いモヤモヤしたのは私の魔力だったと?」

「そう言うことだ。そしてそれが指し示す意味だが、体内の魔力を外へ出す、つまり魔法を使いやすい体質なのかを見極めることだな」


 その結果がよかったと言うことは、俺は魔法を使うのに適した体質の持ち主と言うことか?

 いや、体質だけなら間違いなくそうだろう。俺は聖騎士として多彩に魔法を操ったレオンハートなのだ。素質だけなら、間違いなく最高クラスのはずなのである。

 だが、幾ら肥えた土壌と豊富な肥料、的確な知識を揃えて木を育てようとしても肝心の種が腐っていれば育つわけは無い。

 本来ならそこにあるのはレオンハートと言う最高の種だったはずなのだが、ここにいるのは俺だ。流石に腐っていると言うほど絶望的だとは思いたくないが、育ちが悪いのは確実だろう。

 だがそれでも、素質があるといわれたのは朗報だ。不純物(おれ)が入ったせいで魔法を扱う素質そのものが消滅したとか言われたらいろいろゲームオーバーだったが、最低限努力する価値だけは保障されたのだから。


「ともあれ、レオン。お前には魔法を扱う素質がある。だからまずは自分の体で理解する為にもグレモリー先生の下で鍛錬するといい」

「私も自分の研究があるから毎日と言うわけにはいかんが、時間をみて教えを授けてやろう。光栄に思え」

「は、はい。よろしくお願いします……」


 こうして、俺は矢鱈尊大で危ない趣味を持っていそうな老魔術師の教え子となった。正式に弟子に取ったわけではないらしいが、ともかく暗中模索だった魔法習得への光明が差したのだった。




 そして次の日、俺は早速グレモリー先生の教えを受けたのだった。


「……以上が基礎魔法理論。まずこれを理解せんことにはどんな魔術も使えはしない」


 最初にやったことは座学。シュバルツの屋敷の一室で、俺は魔法を使うならこれだけは知らなければ話にならないと言う、幼児向け初級魔法入門書にも書いてあったことを一からわかりやすく丁寧に解説されていた。

 さすがかつて国立学校で教鞭をとっていた経験があると言うだけの事はあり、一人で入門書相手に唸っていた時とはわかりやすさが全く違う。違うのだが――


「では理解したのならば、初歩の初歩、プチブラストを使用してみよ」

「……すいません。とりあえず何をどうすればいいんですか?」

「なぬ? だから、さっき言ったであろうが」

「……あの、魔力ってどうすれば操れるんですか?」


 理論は何となく理解できた。でも実践は無理。だって、魔力を扱うってのがまず大前提、できて当然使い方など考える必要もなしってレベルで語られたんだもん。

 そしてこれは、別にグレモリー先生が悪いわけではない。入門書でもそうだったが、この世界の住人にとって魔力をどうこうするのは呼吸に等しくできること。どうやればなんて考えたこともないってレベルの話らしいのだ。


「どうすれば……? 体内を巡る魔力に動けと命じるだけだが?」

(……うごけーうごけー……)


 精一杯念じてみたが、体はうんともすんとも言わない。本来なら生まれたての赤子でも出来るようなことでも、長年魔力なんて持ち合わせていなかった俺にはさっぱりわからないのだ。

 だって、要するに体にいきなり羽が生えたようなものなのだ。今まで存在すらしていなかった器官を動かせなんて、生物的にできる事できない事が常識として刻まれてしまっている俺には物凄く困難なのだった。


「ふーむ? 今まで数多くのひよっ子に教えを授けてきたが、魔力の動かしかたがわからんと言うのは初めてのケースだな」

「すいません……才能無くて……」

「いやいや、別に才能が無いわけではない。むしろ、常人よりあるのは昨日確認したであろうが」


 ……その慰めは、レオンハートに対してものだ。今は俺がレオンハートなんだけど、レオンハートの素質を幾ら褒められても俺には全く関係ない。

 事情なんて知っている訳がないグレモリー先生にそんなことを言っても愚痴どころか頭おかしい人扱いされるだけなんだけど、慰めが慰めにならないのは結構きつい……。


「そう、才能が無いのではなく……頭が悪いのかの」

「グフッ!?」


 す、ストレートに心の急所ぶち抜かれたぁ!?

 そうだよ、頭の中身だけは俺100%だよ。レオンハートパワーが一切ついていない、混じりっけなしの俺そのものだよチクショウッ!


「まあそう悲観するな。何故魔力が扱えないのかはわからんが、仮説を立てる事はできる。……恐らく、普段はきちんと魔力を操っているのだからな」

「え? そうなんですか?」

「うむ。そうでなければ、お前はお前の父親から剣を学ぶなどできるはずがない」


 ……? どう言う事だろう? 剣と魔力に何の関係が?


「全ての生物は自身の体内を流れる魔力によって自身を強化している。それはお前も例外ではない。そうでなければ、とてもガー坊の鍛錬についていくなど不可能だからな」

「俺、知らないうちにそんなことしてたの?」


 確かに、レオンハート凄いなってか凄すぎるなーとは思ってた。

 いくら才能があると言っても所詮は七歳の子供。それが重りつけて何キロも息切れせずに走ったり、生前だったら二、三回振っただけで腕が壊れること間違い無しの模造刀振り回したり、腕力だけで自分の体くらいの岩石持ち上げたりとかできるなんて本当に人間なんだろうかとは思ってた。

 その化け物じみた身体能力を持った俺を相手にしても全く問題ないどころか俺よりパワフルな親父殿とか、流石はゲーム世界の住民だと思考放棄してた。

 でも、理由あったんだね。まあファンタジーな理由だったけど、剣士や騎士も魔力使ってたんだ。知らんかった。


「察するに、お前は何も考えていない時なら、魔力を扱おうとか考えなければ上手く力を使えているのだ。だが、理論を元にあれこれ考えながらだと途端に出来なくなってしまうわけだな」

「えっと、つまり?」

「頭が悪い、と言うことだ。二つの事を同時に処理できんのだろうな」


 グレモリー先生の断言に、俺は思いっきり肩を落とした。頭が悪いってそう言うことだったのね。

 つまり、無意識でなら使えているわけだ。ただ、意識的には使えないだけで。

 しかしするとどうすればいいんだ? 俺が意識すると使えないって事は、もうどうしようもないんじゃ……。


「ふむ……アレでいくか」

「え? 今何か言いましたか?」

「……いーや? 何も言っとらんぞ」

「そうですか?」

「そんなことよりも、今日は理論の叩き込みのみで行くことにする。生活レベルの魔法からクラスのサポート無しでも習得可能な初歩攻撃魔法についてな」

「は、はいっ!」


 実践は無理だから、とりあえず座学か。もし魔力を自分の意思で使えるようにならなかったら無駄になっちゃうわけだけど、とにかく知らないよりは知っていた方がいい。

 そう思って俺はグレモリー先生の授業に集中した。まだまだ付き合いの薄い俺にはわからない、危険な笑みを見落としながら。



「邪魔するぞ」

「いらっしゃーい……ってなんだ、グレモリーの爺さんか」

「何だとは何だ。客に向かって」

「客扱いして欲しかったら店の商品にケチつけまっくて値切るのはやめてくれよ」

「フンッ! そんな口はケチの付けようがないマシな商品並べてから利くがいい!」


 私がやって来たのは町の裏路地にある小さな店。小太りでいかにも悪人面の店主が切り盛りしている、合法と非合法の中間くらいに存在している怪しい店だ。

 何が非合法で合法なのかと言えば、禁止されている薬物の原料などを扱っていることだな。精製してしまえば違法だが、原料自体は薬にもなる為禁止されてはいないと言ったグレーゾーンの商品を多数扱っているわけだ。

 他にも違法な呪いのアイテムを分解し、効果を持たないガラクタとして売ったりもしている。それ単体では本当にガラクタなのだが、見るものが見れば全ての材料をここで揃えることが可能になってしまうと言うことだ。

 現に私クラスの魔術師からすれば、軽く見渡しただけでもちょいと弄れば呪いの触媒に使えそうなものがいろいろある事がわかるしな。


(法の穴をついているからこそのグレーだが、国が本腰を入れれば間違いなく御用だの。利用客の私が言うことでもないし、そんな細かい事を一々気にするつもりもないが)


 買った者がどう使うかは買ったものの自由。この店には一切あずかり知らぬこと、と言うのがこの店主の言い分だ。私としても自慢ではないが、知的好奇心と法律ならば間違いなく前者を優先するしの。

 とは言え無論、今日ここに来たのは非合法な犯罪を犯す為ではない。ここのような危険な橋を渡っている店にしか置いていない魔術用のアイテムを作る材料を買いに来ただけだ。

 私が自らの手で作り出し、自らの頭脳で考案したアイテム。それを単体では合法な素材から作り出すのだから、決して非合法ではあるまい? なんせ、これから作り出すものの事など法律のどこを見ても書かれてはいないのだからの。


「それで、何が欲しいんで?」

「そうだの、ではスライムの粘液に下級魔力石、それとキラースパイダーの糸を貰おうか。ついでにあればでいいが、錬金術液もな」

「へいへい。全部ご用意できますよっと」

「無論、全て本物を用意するのだぞ?」

「わかってますよ。そこいらのガキならともかく、アンタほどの魔術師相手にそんなせこい真似はしませんって」


 それは、そこいらのガキなら躊躇無く適当な偽物を渡して金を騙し取ろうと言うことかの?

 まあ私は正義の味方では無いし、こんなあからさまに怪しい店で騙される方が悪いと思うがな。


「えっと、それぞれどの程度ご入用で?」

「うむ、スライムの粘液は丸一体分。魔力石は一つでいい」

「糸と錬金術液は?」

「そうだのー……50メートルほどくれ。錬金術液はポーション瓶五本分もあれば足りるだろう」

「へーい。まあ何をする気なのかは知りませんけど、何をしてもアタシは一切関知しませんのでそのつもりでね」

「わかっておる。お前如きに関知されるほどしょうもない真似はせんわい」

「へいへい。まあ、いつもの定型文だと思って聞き流してくださいよ」


 憎まれ口を叩きながら、店主は私の指定した素材を次々にテーブルに並べていく。

 無論、その全てを私の眼力を持って精査していくのは当然だ。まさか私相手にインチキ商品を売りつけようとするほど馬鹿ではないだろうが、それでも信用は出来ん男だからな。

 そんな事をしている内に、注文した品は全て揃った。もちろん、全て本物であるのは私自らが保障しよう。


「お会計は3800ゴールドです」

「相変わらずふっかけるの。とは言えまあ、今日に限れば妥当な所か」

「そりゃそうでしょう。未加工の魔力石なんてそうそう手に入るものじゃないんですぜ」


 ゴーレムを初めとする人造魔法生命体の核となる他、様々な魔法のアイテムの燃料にもなる魔力石。その有用性から、需要が高すぎてなかなか手に入らない。

 今回頼んだのは下級であるが故にそこまで高価と言うわけではないにしろ、欲しいと言えばすぐに出した時間を考慮に入れれば多少相場より高くとも文句はいえんか。

 そう私も納得し、久々に値切ることなく懐から金銭を支払ったのだった。


「では、確かに支払ったぞ」

「…………はい、確かに。毎度どうもー」


 店主は店主で私を信用してはいないのか、それとも普段から値切りまくっている当て付けか、払った金貨を一枚一枚これ見よがしに数えよった。

 正直いい気分ではないが、こんな店では仕方が無い。こういった場所では公の場とは違い、騙される方が悪いのだ。騙されないように常に警戒するのは当然の事なのだ。

 そんな思いで店主が数え終わるのを待った私は、全ての品を異空鞄(ディメンジョンバック)に仕舞いこむ。これは私が自らの魔術でどこにでもある鞄の中を異界化し、本来の容量を遥かに超える収納スペースを持たせた鞄である。

 私の術によって成り立っている為、私の手から離れれば普通の鞄に戻ってしまうがな。私の意志一つで別にこの鞄ではなくとも収納した異界に繋げるので、盗難対策もバッチリと言うことだ。

 逆に言えば、私以外にはこの鞄を使えないと言うことだが。もし半永久的に使える魔道具として同じ物を作ろうと思ったら、尋常ではない費用がかかる。もし低コストで作れれば一生研究費に困る事は無いのだが……今度考えてみてもいいかもしれんの。


(まあそれは後回しだ。あの小僧との次の授業は三日後。それまでにアレを完成させねばの……)


 こうして、私は一人裏路地を後にした。そして、我が家の研究室でとある魔術を執り行ったのだった。

師匠その2が登場。中身が凡人なので苛烈で強引な師匠は必須なのです。

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