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【番外編完結】他力本願英雄  作者: 寒天
赤い目との戦闘
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第30話 吸血鬼の従者

完全主人公視点です。

「な、何が起きたんだ……?」


 心の底からわけが分からない。そんな感情を乗せた呟きを漏らすメイを尻目に、俺は目の前で繰り広げられている何かをただ見ることしかできない。

 突然目の前に現れた謎の少年。その異常性に一人全く気づいていない様子だったアードが、ビクンビクンと脈打つように跳ねているその光景を。


「あ、あ、あっ!」

「し、しっかりしろアード! 気をしっかり持て!!」


 断続的に、喋ると言うよりは空気が漏れていると言ったほうが正しい音を出しながら地面を悶えるアード。そんな彼に、シルビィ隊長が動揺しながらも声をかける。

 だが、アードはそんな声にピクリとも反応しない。いや、恐らく聞こえてもいないんだろう。

 今まさに、アードから命の気配が消えていっているんだから。


(何が起きたのかはわからない。でも、何が原因かだけはハッキリしてる……!)


 本来ならば、今すぐアードを担いでこの作戦のベースキャンプへと戻るべきだ。そこには軍医もいるはずだから、俺たちが何をどうこう言い合うよりは遥かに生産的な何かをしてくれるだろう。

 でも、それはできない。したくても出来ない。個人的な事情があるのだろうリリスさんまでもがアードに駆け寄ろうともしない理由たる、謎の少年がアードのすぐ側に立っているのだから。


「……いったい、何した?」

「んー? それ、僕に聞いてるのかな?」


 当たり前だろ。と言いたいところだが、十中八九挑発だ。ここは黙って敵の反応を見よう。

 もっとも、どうやら真面目に会話する気は無いみたいだけどな。


「ハハハのハー。ま、見てればわかるよー?」


 そう言って、謎の少年は足元で悶えてるアードを蹴飛ばした。

 それを見たシルビィ隊長とリリスさんの気配にやや乱れが生じるが、無視して問題ないレベルだ。少なくとも、感情的になって隙を晒すような真似をするほど心乱れたわけじゃない。

 まあ当然か。敵は俺たちが全く反応できない何らかの方法で移動し、俺たちの背後にいたはずのアードに噛み付くなんて芸当をやってのけた規格外なんだから。


(加速法なら……ダメだ。さっきの移動術、文字通り目にも留まらないあれが速度であると仮定し、それが奴の基本スペックだとすれば、二倍速くらいじゃ話にならない。最低でも三倍……四倍まで引き上げないと勝負にならないかも……)


 俺が普通に引き上げられる速度は、二倍速までだ。ここから体への負担を覚悟すれば三倍速まで上げられて、命の危機を覚悟すれば10回に1回くらいは四倍速にたどり着ける。

 ……つまり、事実上俺が使えるのは三倍速までってことだ。でも、それでも奴に追いつけるかはわからない。それほどまでに、恐らくこの子供は強いんだ……!


「でもさー。ホントはさ、僕が姿を現すつもりなんてなかったんだよねー」

「……そうか。それは残念だったな」

「そうだよー。残念だよー。全く、お姉さんが余計なことするからだよー?」


 謎の少年は、相変わらずちっとも残念とは思っていなさそうな調子でシルビィ隊長を睨んだ。

 そんな正面の視線に対し、シルビィ隊長は果敢ににらみ返す。流石は中級騎士に上り詰めた胆力だと言えるだろう。

 後は気配に一切の余裕がなく、顔が冷や汗で濡れてなければなおよかった。あの様子を見る限り、あの少年は間違いなく中級騎士より強いってことが証明されてるも同然だもんな……。


「僕が王様から命令されたのはさ、いっぱい強いオモチャを作れってだけなんだよねー。だからさ、僕が直々にこんな表舞台に立つつもりなかったんだよー?」

「……王様?」


 間違いなくフィール王国の国王のことじゃないな。この世界は人間の力の関係上、人の国は本当に例外を除いてフィール王国しかないはずだから、他種族の王か?

 ……うん、そもそも人間の王じゃないって考えた方が自然だな。

 と言うか、オモチャってのは何だ? そういやさっきも言ってたな。あの赤目ゴブリンを指して『せっかく作ったオモチャを壊されるのは困る』とか何とか……。


(つまりコイツの目的はゴブリン支配? オモチャってのが何を指すのかはわかんないけど、とにかく『王様』とやらの命令でコイツは動いてるのか……ッ!?)


 焦りと恐怖でほとんど纏まらない頭を必死に動かしていたら、不意にアードの痙攣が止まった。

 そして、ゆっくりと、何か恐怖を感じさせるような不気味な動きで立ち上がったのだった。


「あ、アード様……?」

「アード。お前、大丈夫なのか?」


 リリスさんとシルビィ隊長が、警戒を怠らずに立ち上がったアードに声をかける。

 そんな自分に向けられた声に対し、アードは全く反応しなかった。むしろ、俺たちへと完全に背を向けて謎の少年と向かい合い、ゆっくりと跪いたのだった。


「なっ!? これは……」

「あの貴族的プライドの塊みたいな男が、跪いた……?」


 アードとの付き合いは本当に短い。何せ、今日の早朝が初対面だからな。……もしかしたらもっと前に出会ってたりするかもしれないけど、少なくとも俺の認識では今日が初対面だ。

 まあとにかく、そんな短い付き合いでもはっきり分かっていることはある。それは、アードという人間は悪い意味で貴族の権威を誇っていると言うことだ。

 貴族であることを、権力者の血を引くものであることを鼻にかけている。俺たち見習い騎士としてある意味同等の立場の人間からすれば冷たい目でみるだけで済むが、権力に逆らえない一般人から見れば間違いなく一番嫌われるタイプだ。

 それが他者に跪く。それが起こりえるのは、アード以上の権力者が相手の時のみの筈。そして、あの少年は間違いなくそのアード以上の権力者では無い。

 ならば、答えは一つだ。今のアードは……正気じゃ、ない!


「さて、と。僕からみても、君たちなかなか強いよねー。この人だけは全然ダメっぽかったけど、君たちならいいオモチャが作れそうだよ。だからさぁ……僕に跪いてね!」

「フンッ! 死んでもゴメンだな」

「当然だ。我ら騎士が忠義を尽くすのは陛下のみ。……アード! お前もさっさと正気に戻れ――」

「ウガァ!!」

「ッ!?」


 再度アードに向かって叫ぶシルビィ隊長。今度はアードもその声を無視はしなかった。しなかったのだが……どうやら、最悪の予想が当たったらしい。

 アードはシルビィ隊長に向かって、先ほど醜態を晒していたアードとは思えない速度で抜刀からの剣戟を放ったのだった。

 その、全く生気を感じさせない血色最悪の顔色と、真紅に染まった目を見せつけながら。


「クッ! 何だ! 魅了か! 催眠か! だがこの身体能力は……」

「どう考えてもさっきまでのアードは比べ物にならないし、そもそも理性までなくなってるみたいですよ!」


 流石に、ほぼ不意打ちの攻撃とは言え無防備に攻撃されては中級騎士を名乗れない。隊長は咄嗟にアードの剣に反応し、剣を合わせることでその攻撃を防いだ。

 そして、俺はその二人の間に割り込んでフォローに入る。俺たちの中では最強であるシルビィ隊長の手が塞がっているなんて、そんな最悪の状況をいつまでも許すわけには――ッ!?


「な、にぃ!?」

「シュバルツが、押されるだと! クッ!」


 技術も何も無い。ただ身体能力だけで押し込む力の剣。そんな印象を持たされる連撃を、アードは俺に対して放ってきた。

 そして、それは驚くべきことに、俺の手に余るレベルのものだった。気影を読む余裕すらなく、ただひたすら飛んでくる斬撃を弾くのが精一杯なのだった。


「不本意だが助太刀するぞシュバルツ!」

「助かる!」


 今のアードを一人で相手にするのはきつい。まだ本調子だったら一人でも何とかなるとは思うけど、ついさっき三倍加速に魔法剣技を併用した身としては些かきついんだ。

 ここはメイの協力も借りて、とっとと拘束するのが正解だろ……!


「でりゃ!」

「うがぁ!?」


 ……どうやら、メイの頭の中には手加減とか取り押さえるとか、そんな平和的な解決法は存在しないらしい。

 助走の勢いをそのままに、思いっきり右ストレートがアードの頭に直撃したのだ。マジで数メートル真横に人が吹っ飛ぶような、凄まじい一撃が。


「よ、容赦ないな……」

「遠慮や手加減などしている場合か。今、私たちに全く余裕など無い……!?」

「うぁ……アアッ!」


 俺とメイは即座に謎の少年へと構えるが、しかしすぐさまその場から慌てて飛び退く破目になった。

 普通の人間なら間違いなく気絶、と言うか良くて入院、普通は墓の下に入るようなパンチ。それを頭に受けたはずなのに、アードは何事もなかったかのように再び俺達の方へと襲い掛かってきたのだ。

 これじゃまるで、さっきの赤目ゴブリンクラスの回復力でも持っているようじゃないか……!


「す、【水術・粘水の池(スライムタンク)】!」

「うがっ!」


 俺たちへ向かって再度特攻してきたアードが、突然空中に現れた水の中に囚われた。そして、そのまま水ごと地面に落下し、どこぞの亡者のように動けずに悶えている。

 どうやら、あの水は高い粘性を持っているらしい。それも、接着剤としてそのまま使えるくらいにねばねばしている。その粘水で全身を覆うことで動きを封じる魔法みたいだな。

 術者は、当然と言うべきかリリスさんだ。どうやらおどおどした態度のまま、素早く現状を把握して魔法を使ったらしい。

 あの拘束系魔法なら、再生力も関係ない。突然跳ね上がったパワーも抑えることは出来るみたいだし、しばらくは大丈夫だろうな。


「よくやった、リリス」

「は、はぃ」


 褒められたのに、やっぱりおどおどしてる。でも、どことなく嬉しそうに見えるのは気のせいか?

 ……なんて、和んでる場合じゃないな。目下過去最高レベルに危険な誰かさんは、今だ健在なんだから。


「アハハのハー。やっぱすぐにやられちゃったかー。ま、そりゃそうだよねー」

「……随分余裕だな」

「余裕ついでに、アードがどうなってるのか教えてくれると嬉しいんだけど?」


 正直アードのことは好きじゃない。と言うか、ぶっちゃけ嫌いだ。でも、だからって助けられるのなら助けるべきだろう。レオンハート的には。

 最低でも、理性を失ったモンスターみたいな状態からは治してあげられればいいんだけどな。あんまり期待は出来ないかもしれないけど……。


「んー? どうなってるか、ねー。別に教えてあげてもいいよー?」

「あれ? いいの?」

「うん。従者(サーヴァント)以下の下等種(レッサー)がどうなろうと知ったことじゃないしね」

「……サーヴァント? レッサー?」


 うーん……単語としては分かるけど、どういう意味だろ? しかし何か引っかかるんだよな。こう、ゲーム知識的な意味で……。

 それも、危険を訴える本能が全開で騒ぎまくるような何かが……!


「レッサー、サーヴァント。……ヴァンパイア?」


 頭の中でひたすら単語を呟き、そしてそこから連想ゲームをやってみた。すると、ふとしっくりくる単語が浮かんできたのだった。

 あー、そうだ、ヴァンパイアだ。聖勇では比較的有名と言うかシナリオに関わってくるモンスター一族、ヴァンパイア。

 その中の最下級種が下等吸血鬼(レッサーヴァンパイア)で、その一個上が吸血鬼の従者ヴァンパイアサーヴァントなんだ確か。


「へー。君物知りだね。これだけで僕の正体を見抜いちゃうなんてさー」

「お、おいレオンハート! ヴァンパイアとはどう言う事だ!?」


 あれ、つい口に出しちゃったらしい。しかしどういうことと言われてもちょっとぼんやりと考え事しちゃっただけでって……ん?

 つまりあれか。この謎の少年の正体が……ヴァンパイアだってことなのか?

 ……やばいよな、それ。


「それでは改めて、一つ自己紹介と行こうかな。僕の名前はミハイ。ミハイ・イリエ。誇り高きヴァンパイア一族であり、吸血鬼の男爵(ヴァンパイアバロン)の一人さ」

「……バロン級って……まじで?」


 聖勇における吸血鬼は、その強さに対して貴族の階級で名前が付けられている。所謂(こう)(こう)(はく)()(だん)って奴だ。

 これにちょっとと言うかかなり特殊なモンスター、“王”を加えてヴァンパイアの強さが表されている。ついでに、何の階級も付かないただの吸血鬼(ヴァンパイア)ってのもいるな。

 これは他のモンスターで言えば、つまりオーガの上位種にマッドオーガがいるように、吸血鬼は普通のヴァンパイアの上に男爵(バロン)が。そしてその上に子爵(ヴァイカウント)と順に強くなっていき、最後に吸血王(ヴァンパイアキング)が君臨するわけだ。

 そして、普通の吸血鬼の更に下には“ヴァンパイアの吸血によって支配された他の生物”と言う設定のモンスターとして、下等吸血鬼(レッサーヴァンパイア)吸血鬼の従者ヴァンパイアサーヴァントがいるわけだな。


「バロン……? どう言う事だ?」

「んー、そっちの女の子は知らないのかな? 僕ら吸血鬼一族の階級をさ。ま、人間に一々説明するのも面倒だし――簡単に教えてあげるよ」


 ……教えてはくれるのか。どうやら、自分のことを話したいタイプらしいな。


「……ま、要するにさ、君たちの目の前にいるのはね、人間なんかじゃ絶対に届かない領域に君臨するヴァンパイア一族の中でも、より高貴な力の持ち主ってことさ」

「ッ!?」


 その瞬間、バロンを名乗った少年から強烈な魔力が放たれた。

 ただ魔力を開放しただけ。ただそれだけなのに、俺とメイ、それにリリスさんが踏鞴を踏んで後退してしまう。

 ……ゲームの設定的に言えば、普通のヴァンパイアですらマッドオーガを超える力を持っている。ましてその上位種である貴族位級ともなれば、最下級の男爵(バロン)でもこれくらいはできるってわけか!


「クッ! お前達は下がれ……いや、逃げろ!」

「なっ! しかしそれでは――」

「お前達がいてもいなくても変わりは無い! 無駄な死体が三つ増えるだけだ! それよりも、一人でも逃げ延びてこのことを本隊に伝えろ!」


 一人奴の魔力波に耐え切ったシルビィ隊長が、死を覚悟した目で俺たちにそう命令を下した。

 無駄な死体が三つ。どうやら既にアードに関しては諦めているようだ。ゲームでは、少なくとも戦闘中にスキル【吸血】を受けても一時的に支配下に入れられるだけだったからまだ助けられるとは思うけど……あのミハイって奴がいる限りはそれも無意味か。

 ……そして、そのシルビィ隊長の判断は間違っていない。この場にいる誰がどうしようが、それこそシルビィ隊長自身すら含めて、ミハイに太刀打ちできる奴はいないだろうからな……!


「ク……クソッ!」

「あ、あの、私はどうすれば……」

「――レオンハート! お前が指揮をとれ! メイとリリスを連れて逃げろ!」

「え、ええっ!?」


 強敵を目の前にして逃げることしかできそうも無い、むしろ逃げることすらできないかもしれないなんて屈辱に震えるメイ。そして、強大すぎる敵の力に震えるだけのリリス。

 そんな二人を、俺が何とかして逃がせってか。急にそんなこと言われても……なんて、弱音吐いてる暇も無いな。

 意地張ろうが勇気出そうが、俺達がここで戦おうとすれば漏れなく全員奴の支配化に入れられるのがオチ。だったら、何とかして逃げ出すのが唯一奴に抗う道だと思うしかないのか……!


「あー、ダメだよ逃げちゃ? 僕が君たちに用があるんだからさー」

「何だと?」

「僕は強いサーヴァントを一体でも多く作るように命令されているからさー。その素体として、強い人間を捕まえたいんだよねー。即興で作ったさっきのレッサーとは全く違う、もっと強いのをさ」


 ……ゲームでは、当然ながら同種族のモンスターの能力は全て同じだった。生憎と、一体一体のステータスにランダム性を持たせられるほど容量のあるゲームじゃなかったしな。

 でも、当たり前だけど現実では違う。同じ種族、同じ種類だとしても、一つ一つに性能差があるのは当然のことだ。

 つまり、ミハイの目的は俺たち自身。中級騎士にまで上り詰めたシルビィ隊長は当然として、まだまだ子供の俺たちも見習いとは言え騎士に任命されるくらいの力はある。人間と言う枠組みの中で言えば、お手軽に攫えてそこそこ強い存在とも言えるわけか……。


「さっきから、レッサーとは一体なんのことだ?」

「ん? あれー? 知らないの……って、そうだったね。人間は僕らヴァンパイアの能力【吸血】を正しく理解して無いんだっけ?」

「……そもそも、私はヴァンパイアとやらについて知らんのだが、お前は知っているのか? シュバルツ」

「いや、正直詳しいことは何も」


 メイが何か知っているんだろと言う目で俺を見るが、俺が知っているのはあくまでもゲーム知識だ。

 ゲーム中のイベントとモンスター図鑑なんかから『吸血鬼には他生物を吸血鬼の僕に変える能力がある』とは知っているけど、それ以上のことは知らないんだよね。


「えっと、確か人間の中では『吸血された生物は知性を持たないサーヴァントになる。ただし、お互いの了解があった場合に限り理性を持ったサーヴァントになる』みたいに言われてるんだったかな?」

「……その通り、だ」


 顎に手を当てて、台本でも読むように抑揚のない説明をするミハイに対し、シルビィ隊長が頷いた。どうやら、奴の言葉は正しく人類の知る知識を語っていたらしい。

 だが、そんな隊長をあざ笑うような笑みを浮かべて、ミハイは更に話を進めるのだった。


「ハッキリ言うと、その考えは全くの見当ハズレなのさ」

「何? どういうことだ?」

「つまりねー、他の生物の都合なんて、僕らヴァンパイア一族が一々考慮するわけないだろってことさ」

「……ッ! まさか!」

「んー? 理解した? 理性を持つ持たないなんて、吸血される側の事情は全く関係ないんだよ。僕たちは魔力を(どく)に変化させて他生物へ送り込むんだけど、その血の質で理性を持たない下等種(レッサー)となるか、理性持つ従者(サーヴァント)になるかが決まるわけだね。ま、君らはレッサーもサーヴァントも区別がつかないみたいだけどさ」


 ……少なくとも、ゲーム知識で考えれば吸血された生物は吸血鬼に従うようになる。それはさっきのアードを見てもわかるし、青ざめているシルビィ隊長の顔色からもわかる。

 そして、今のミハイの話と合わせれば、これは非常に恐ろしいことだ。だって、それはつまりさ、理性を持った、つまりさっきのミハイみたいな狂った化け物にはせずに、元の経験と技を持ったヴァンパイアの(しもべ)を量産できるってことなんだから……!


「ま、そんなわけでねー。僕としては少しでも強く、才に溢れた人間が欲しいわけだよ。レッサーを作るだけなら片手間でもできるんだけど、流石の僕らでもサーヴァントクラスを作ろうと思ったらちょっと気合入れて魔力を使う必要があってねー。材料は厳選したいわけさ」

「……それで、アードは不合格。私たちは合格と言うわけか。貴様の言う、オモチャの材料としてな……!」

「ピンポーン。アードってのは、そこで悶えてるレッサーのことだよね? わざわざ作ったゴブリン素体のサーヴァントとの戦いは見せてもらったけど、お姉さんとそこの二人は文句なく合格。後は、そこの水色の髪の子もまあ合格ってところかな。人間にしてはなかなかやるよねー」

「……レオンハート! 何をしてる! さっさと逃げないか! 一人たりとも犠牲を出すことは許さん!」

「ッ!? は、はい!」


 獲物を狙う目。その真紅の瞳に残忍な意思が乗せられた瞬間、再びシルビィ隊長は吼えた。

 そりゃそうだ。つい奴の話に聞き入っちゃったけど、今の話をそのまま考えれば、ここに留まることで起こるのは死体が無駄に三つ増えるなんてもんじゃない。あの吸血鬼に忠実な兵士が三体増えるってことだからな……!


「おっと、逃がさないよー」

「――ッ! 私の、騎士としての全てにかけて、ここは通さん!」


 改めて逃げ出そうと急いでメイとリリスさんに目で合図するが、ミハイは妨害しようと一歩前に出てきた。

 それに対し、シルビィ隊長は俺たちの前に立って、死を覚悟しているからこその気迫を持って足止めをしようと構えた。

 だが、ミハイはそんな隊長の覚悟を笑うかのように軽く手で口元を隠した。それは、思わず漏れ出た笑いを隠す仕草そのものだ。


「クッ! 何がおかしい!」

「いや、何がってさー。まさか、僕直々に相手してもらえるなんて思ってるのかな、なんて思っちゃってさー」

「どういうことだ!」

「つまりねー。……こう言うことさ」

「ッ!? な、なんだこいつら……!」

「最近従者に集めさせた、ちょっとしたオモチャさ。素体としては確かに優秀かもしれないけど……君らなんて、所詮こんな雑兵で十分でしょ?」


 ミハイは片手を、まるで合図のように上げた。

 すると、いつの間に潜んでいたのか、ゴブリンの巣があった森からわらわらと、先ほどのアードを思い起こさせる真紅の目をした亡者の如き不気味な動きの集団が現れたのだった。

戦闘前の簡単な力関係図紹介


ミハイ(バロン級ヴァンパイア)>>マッドオーガ=ガハラタ(吸血鬼化)>キルアーマー>シルビィ隊長=ゴブリン(吸血鬼化)=ガハラタ(解放前)>レオンハート(現在)=メイ(現在)=アード(吸血鬼化)>リリス>>>アード(通常)=ガハラタ(人間時代)>ノーマルゴブリン>一般人


さあどうするレオンハート!

※あくまでもイメージです。実際に戦う場合は相性や瞬間的な強化術の関係などもあり、この順位で勝負がつくとは限りません。

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