表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【番外編完結】他力本願英雄  作者: 寒天
赤い目との戦闘
32/241

第28話 親父殿無双伝・後編

(血のように赤い目。伸びた犬歯……いや、牙。そして先ほどの魔法強化とは異質に膨張した筋肉。おまけに、先ほど与えた死にはしないが動けもしないギリギリを見極めたダメージが完全に消失、か)


 明らかに空気が変わった。先ほどまでのこの男――盗賊団“赤目”首領ガハラタは、少々力自慢の戦士と言った所だった。魔法強化なしで中級騎士、強化ありで上級騎士に一歩届かないくらいだっただろう。

 本来国の超一流が揃う場である騎士と同列に語られるだけでも凄まじいことなのだが、私からすればまだまだ敵ではない。今の私は念には念を入れて本気の装備を整えているし、あらゆる面でこの男に敗北する要素はなかっただろう。

 だが、今の真紅の瞳へと変わったガハラタをそんな評価で見るのは間違いだ。何がどうとは言えんが、今まで培ってきた戦士としての直感が告げている。

 この敵は、決して油断していい相手では無い、と。国を脅かす、強大な魔物を相手にするつもりで戦うべきだ、と。


「クククッ! どうした、ようやく剣を抜くのか?」

「ああ、そのつもりだ。どうやら、あまり余裕も持っていい相手ではなさそうだからな」


 滅多なことでは抜かない本気の証、腰に携えた我が剣【紅蓮】を中段に構える。

 奴の瞳にも負けない美しい真紅の刀身。まるで炎が凝縮して剣となったかのような輝きを持つ、国王陛下から頂戴したこのガーライルの刃。これを握って敗北することは許されぬぞ……!


「あはぁ? いい剣持ってんじゃねーか。テメェを殺してそいつも貰ってやるよ」

「フン。この紅蓮は陛下より授かりし忠誠の証。決して誰にも渡さぬわ」

「そうかい? ククク……なら、奪うだけだぁ!!」

「ッ!?」


 疾走。私の目でも一瞬見失いかけるほどの速度で、ガハラタは武器を持たない手を――爪を振るった。

 明らかに異常。どんな強化魔法があればこれほどのパワーアップを遂げられるのだ? それに、武器が自分自身の爪だと? これでは、本当に魔物のようでは無いか――!!


「ぬうん!」

「クカカッ! 流石に見事に弾きやがるか。だが――いつまで持ちこたえられるかな!?」

(クッ! 速度だけではなく、腕力も先ほどの比ではないか!)


 技量ではまだまだ私の足元にも及ばない。奴が隠しきれない気影を追うだけで、常軌を逸した速度にも対処することはできる。

 だが、この紅蓮の刃で弾いていると言うのに奴の爪は傷一つつかない。それどころか、こちらの防御を腕力でねじ伏せようとしてくる。

 もし私の手にあるのが紅蓮でなければ、その辺の鉄の剣であったのならば最初の一撃でへし折られているところだ。

 一体、この異常な力のカラクリはなんなのだ……?


「流石にやるな! だが、これならどうだ!」

「――ム!」


 ガハラタは正面らの連続攻撃を中断し、突然真横に跳んだ。そして、そのまま洞窟の壁を蹴って矢のように私に向かって飛んで来たのだった。


「オラオラオラオラッ!! ハハハッ! もう誰にも負ける気がしねぇ! こんなに動いているのに疲れ一つ感じすらしねぇぜ!」

(スタミナも、上がっているか……)


 奴はその跳ね上がった身体能力を駆使し、洞窟内の壁をあちこち蹴ることで三次元的な攻撃を仕掛けてくる。当然その程度で無様に直撃を受ける私ではないが、こんな無茶な駆動をしていると言うのに奴は疲労すらしていないようだ。

 少々おかしい。いくらパワーが上がろうが、その分消耗が増えるのは世の常だ。それなのに力を更に上げても消耗なしだと? それは、人間である限り不可能だろう……ッ!?


「真紅の瞳。異常な力。そして疲労すらしない肉体。まさか貴様……吸血鬼(ヴァンパイア)!?」


 私の頭に閃光のように浮かんだ一つの考え。この男、ガハラタの特徴を精査した結果導き出された、最悪に近い予感。

 それは、人に酷似した外見を持ちながら人を遥かに超えた怪物、ヴァンパイア。種族としてはアンデッドに属す為に疲労がなく、それでいて超人的な身体能力を持つモンスター。

 何よりもその特殊能力によって、一体で国を脅かすとまで言われる、災厄と同レベルのモンスターだ……!


「流石はお偉い騎士様。知識も豊富らしいな」

「……否定、しないのか?」

「いや、一応しておくか。俺は、ヴァンパイアではねぇよ」


 一旦無茶な跳躍攻撃を中断し、ガハラタはそんなことを言ってきた。

 だが、私に安堵は無い。そして、驚きも無い。何故なら、それは半ば予想できていたからだ。

 もしこの男が本物であれば、今でも私が無傷なわけは無いからな……。


「ならば、吸血鬼の従者ヴァンパイアサーヴァントかな?」

「ご名答。流石によく知っている」

「……ヴァンパイアには個体としての力も凄まじいが、それ以上に恐るべき能力がある。……【吸血】と言う能力がな」

「その通り。俺はあの方の能力によって生まれ変わった、吸血鬼の眷属よ!」


 吸血。文字通り、吸血鬼が他の生物の血を飲む行為。だが、それは決してただの食事ではない。

 奴らは噛み付いた相手の血を吸い、そこから吸った血の代わりに自分の魔力を込めた毒液を流し込む。そして“吸血鬼の血”と呼ばれるその毒に犯された生物は、即座に吸血鬼に近しい体質を持ったモンスターに改造されるのだ。

 吸血鬼の従者ヴァンパイアサーヴァントと呼ばれる、血を吸った吸血鬼に服従を誓うモンスターへと。


「本物には及ばないが、人間とは比べ物にならない力を持った吸血鬼の力を得るのだ。それは確かに、荒くれ者のカリスマになる程度は簡単だろうな」

「ああ。貴族共に搾取され、騎士共に追い掛け回される情けねぇ人間はもういねぇ。今ここにいるのは、どんな偉い奴でもグチャグチャにしてやれる強大なモンスター様よ!」

(恍惚とした表情。確かな理性。どうやら、奴は眷属の中でも上物のようだ。……哀れなことに、な)


 吸血鬼の従者ヴァンパイアサーヴァントには二種類ある。それは、理性を持ったまま吸血鬼の力を植えつけられたものと、意識も感情も何もかも奪い取られ、ただ吸血鬼の命令に従うだけの兵隊の二種類だ。

 その区分から考えて、奴は間違いなく前者。心を保ったまま魔物に堕ちたタイプだ。双方の同意がなければ作れないと言われる、サーヴァントの中でも上位の力を持つ個体と言うわけか。

 そして、それが表すのはつまり――


「……自ら魔物に魂を売った、と言うことか」

「あぁ。人間に従うのも、人間であるのも嫌になっちまってな。いつものように空腹のままゴミクズみたいに転がっていたら、あの方が声をかけてくださったんだ。『人間を止める覚悟があるのなら、全てを捨てて忠誠を誓う覚悟があるのなら、誰でも殺せる力をくれてやる』ってな」


 ……通常、吸血鬼に血を吸われた生物は自我を失い、吸血鬼の忠実な下僕となる。だが、吸血される側がそれを許容し、そして吸血鬼も通常より手間と魔力をかけて眷属を作った場合、元の意識と理性を残したまま眷属化することができる。

 当然人間を止めた影響は精神のあちこちに現れ、あらゆる事柄に対しての最優先順位が主である吸血鬼へと忠誠に書き換えられる。

 それをも許容した者だけがたどり着ける境地。それが、心を持った吸血鬼の従者ヴァンパイアサーヴァントである、だったな。

 所詮机上の学問だと半信半疑であったが、奴を見る限りは正しい説だったということか……。


「……なるほど、理解した。最悪の事態をな」

「あぁ。ぶっちゃけこの姿になれば分かるやつには分かっちまうからな。俺がヴァンパイアの力を受けていると」

「そして、それはつまりこう言うことだ。この近辺に、眷属を作れるほどの力を持った“本物のヴァンパイアがいる”とな」


 ヴァンパイアは、魔力さえあれば周囲の生命体を見境なく自分の配下にすることができる。故に、暗躍されると単体で国が滅ぶ危機すらある災厄のモンスターなのだ。

 現に、元はただのチンピラであっただろうガハラタでさえも、吸血鬼の血を持ってすれば数少ない上級騎士と同等かそれ以上の力を得てしまう。流石に自我を宿したまま魔物になるような個体も早々いないはずだが、危険極まりない話だ。


「さて、お喋りはこのくらいでいいか? 俺はあの方から極力この力の詳細を漏らしちゃならねぇと言われてるから、確実にテメェを殺さなきゃいけねぇからな」

「ほう、その割には随分ペラペラ喋ってくれたね」

「もうばれてる人間に隠しても仕方ねぇだろ? だったらせめて……真の強者たる吸血鬼に、大切な国が滅ぼされる未来を知ってから死んだほうが絶望もでかいだろぉよ!!」


 話は終わりだと、ガハラタは再び爪を立てて襲い掛かってきた。

 それにしても、自分の存在を隠し通す、か。この国を滅ぼすつもりだと言う言葉が真実である保障は無いが、そのつもりで行動すべきだろう。

 ならば、とっとと片付けるか。速やかにこの場を制圧し、このことを王に報告せねば。


「なっ!? 消え――!?」

「やれやれ、舐められたものだな」

「ッ!?」


 あいも変わらず身体能力任せの直線的な攻撃。鋭い爪を振りかざしての突進を、軽く動いて回避する。

 まったく、あらゆる魔を払い、国を守る剣である騎士の中から栄誉ある副団長と言う役職に選ばれた私が、人外の力を得たからと言うだけで倒されるわけがないだろうに。


「私が知りたかったのは吸血鬼が本当にいるのかどうか。そして、君が本当に人間ではないのかを確認することだ」

「ッ!? い、いつの間に後ろに!」

「得られた情報は最悪だったが、知らないよりは知っている方がいい。何よりも……これにより、一切の手加減が不要となったからな」


 吸血鬼の眷属に堕ちたものを生け捕る理由は皆無。わが国の法は人を裁く為のものであり、魔物を裁く法は存在しない。

 そして、主である吸血鬼に絶対の忠誠を誓う吸血鬼の従者ヴァンパイアサーヴァントが本当に必要な情報を吐く可能性も皆無だ。どんな拷問や魅了魔法を使って口を割らそうとしても、こいつらは主たる吸血鬼に不都合な行動はとれないのだ。

 それこそ、殺す前の多少のお喋り、くらいの認識を持ってもらわねばな。


「ここで倒れている賊共には法の下に裁きを受けてもらう。だが――貴様はここで殺すぞ、ガハラタ。人に仇なす魔物よ」

「へ、ヘッ! やれるもんならやって見やがれぇ!」


 ……再び跳躍。そして爪による攻撃。単純で、単調だ。力の緩急すらない、愚直な獣の突進だ。

 そんなものは通じないと、先ほど見せたばかりなのだがな。


「……【加速法・四倍速】」

「ッ! また!」


 加速し、再びガハラタの後ろをとる。どうやらこれ以上切り札のようなものは持っていないようだし、これで終わらせるとしようか。


「行くぞ、【紅蓮】」


 その言葉に反応し、私の手に握られた紅蓮の刀身が歪む。いや、正確に言えば空間そのものが歪んで見えているのだ。

 その、あまりの熱量によって。


「な、なんだそりゃ!?」

「優れた技術を持つ魔術師による錬金術……それによって作られた、炎の刃。見せてやろう。この紅蓮を私が振るうという意味を」


 我が紅蓮の刀身が赤く輝いているのはただの見掛け倒しではない。これは、剣でありながら魔力を備える兵器なのだ。

 込められた力は炎。一振りで炎を巻き起こし、斬撃と共に敵を焼き払う魔法の刃。持ち主である私の意志一つで、周囲の景色を歪ませる高熱を放つ必殺だ。


「ぬ、ガァァァァァ!!」


 放たれた魔力に当てられたのか、ガハラタはついに理性すらも捨てたようだ。まるで獣のような叫び声を上げて、ガハラタはまたもや私に高速の爪撃を放とうとする。

 だが、それも加速状態の私からすれば酷く鈍い。所詮吸血鬼の力のほんの一部を渡されただけの下っ端に、一応国の戦力としては最上位の私が本気で苦戦するほうが問題だがな。


「もう気影を隠す努力すら放棄したか? 見え見えだぞ?」

「ぬ、あぁ……」

「では、参る! ――【炎瞬剣・赫焉一刀(かくえんいっとう)】!!」

「が、があぁぁぁぁぁぁ!!」


 紅蓮の炎に加え、我が魔力を炎に変えて一刀に載せた一太刀。赤き一閃が、ガハラタの体を肩から縦に引き裂いた。

 吸血鬼の生命力は凄まじい。アンデッドだからなのかは分からないが、生半可なダメージでは瞬く間に治癒してしまうという。

 だが、それもこの一刀の前には無力だ。斬ると同時に傷口を炭にしてしまう炎の斬撃ならば、少なくとも再生は不可能。これが本物の吸血鬼だったらまだ安心できないが、流石に紛い物では燃やした上に真っ二つで死なないわけが無い。

 そう確信しつつも一応気組みを崩さずに、私は二つに分かれたガハラタの体へと剣を構えた。もうこれ以上戦うのは不可能だと確信するが、しかしまだ死んではいないかもしれないという予感があったから。


「く、そがぁ……。最後まで、油断なしかよ……」

「……まさか、本当にその体で生きているとはな」


 どうやら、本当にまだ息があるようだ。肩から心臓を両断する形で引き裂いてやったと言うのに、恐ろしい生命力と言える。

 まあ、本当に生きているだけのようだが。


「く、ククク……。どうやら、俺はここまでらしいなぁ」

「それはそうだろう。そこまでやられても問題なしと言われたら流石に困る」

「困るねぇ。……クククッ! じゃあ、最後にもう一つ困らせてやろうか」


 どうやら完全に戦闘能力はなくなったと確信し、紅蓮の魔力を解いて鞘に収める。

 すると、もう息も絶え絶えと言う様子でガハラタは最後に何かを呟くのだった。


「なぁ。俺たちが攫ってきた人間共、どうなったと思う?」

「お前達の被害者……? ここにいるのではないのか?」

「いーやぁ? ここには、俺たち“赤目”の構成員以外誰もいねぇよ? あいつ等は、全員あの方に献上したからなぁ」


 あの方……話しぶりから察するにコイツを魔物にした吸血鬼だろうが……まさか!


「この辺り一帯の村人。その全てを眷属にしたと言うのか……?」

「あぁ……クククッ! 残念だぜ。この腐った国が、滅びるのを見られないんだからなぁ……」


 まるで呪い。死の間際にそんな言葉を残し、ついにガハラタはその真紅の瞳を閉じた。

 ……ついに死んだ、か。言いたいことだけいって死ぬとは、確かに困らせてくれたな。


(今の話、どこまで信じていい? 少なくとも眷族にする為に攫ったと考えれば、見境なく全ての被害者を攫った理由としては納得できる。どうせ吸血鬼化するんなら、性別も年齢もあまり関係ないからな。だが、あくまでも私の知識が正しい場合の話ではあるが、普通の村人を自我を持つ眷族にすることは不可能なはずだ。となると自我の無いゾンビに近いものが多数と言うことになるが、だとしても、もし私が報告を受けた被害者が全て眷属になったとなれば、それはもう一つの軍隊だぞ……!)


 脳内で組み立てられた予想図に、私は思わず身震いしてしまう。

 それほどに恐ろしいことだ。この男ほどの力をそんな複数人に持たせることはできないにしても、一般兵くらいなら捻り潰せる力があると思ったほうがいい。

 そんなものが国を滅ぼすために作られた? ……危険すぎる!


(とにかく急いで戻ってこのことを王に知らせねば! ……だが、解せん。何かが、何かが引っかかっている)


 今すぐにでも王の下に向かわねばならんのだが、何か私の頭の中で引っかかっている。それが気になって、私はあえて足を止め、思考をめぐらすことにした。


(そもそも、何故奴はこのことを私に教えたのだ?)


 吸血鬼の眷属は、主にとって不都合な行動は絶対に取れない。つまり、奴の主の行動を私に教えることが不都合ではないと言うことになるのだ。それを元に考えれば、奴の話は全て嘘と言うことか?

 いや、確かに死に際の嫌がらせと言うことも考えられないことも無いが、それは楽観が過ぎるな。もっと考えるべきだ。

 そう、そもそも吸血鬼の情報と攫われた村人の関係を考えれば、今聴いた話を想像するのは難しくない。つまり、今の情報を漏らしても、吸血鬼にとってあまり不都合では無いだろう。

 むしろ、ここで私に教えることで何か奴らにとって都合のいい何かがあると考えての行動だと思うべきだ。


(私の次の行動は、普通に考えれば王城へ報告に向かうことだ。それも、わき目も振らずに可能な限り急いで。つまり奴はそれをさせたかった。他に目を向けてほしくなかった……?)


 そうだ、私を他の事件から遠ざけようとしているのだ。奴は他の何かに私が関与するまでの時間を稼ごうとしたのだ。

 では何がある。最近、吸血鬼が関わっていそうな、多数の配下を作れる能力が関わっているかもしれない事件は……!


「ゴブリンか! あの妙に整った行動、知性を感じる用兵! 最近現れたゴブリン軍はゴブリンだけで作られたものではない! その背後に吸血鬼の悪意があったと言うことか!?」


 思わず私は腹の底から頭に浮かんだ考えを叫んでしまう。それほどまでに恐ろしい発想だったのだ。


(もしや、急に掴めた盗賊団とゴブリン集結の情報。あの二つは意図的に流されたものだったのか? 同時に無視できない事件を認識させ、戦力を分散させることが狙いだったのか?)


 仮にゴブリンも吸血鬼の差し金だとすれば、一番に考えられるのはゴブリン共の長が吸血鬼の眷族である場合だ。

 ヴァンパイア・ゴブリンとでも言うべきものを一つ作れば、ゴブリンという数だけは揃っている兵力をあっさり手にすることができるだろうからな。あいつ等は一番強い同族に従う習性があるのだ。


(いや、しかしだから何だというのだ?)


 ここまで考えておいてなんだが、どうも納得できないことがある。吸血鬼の目的が国家転覆だとして、しかし流石にゴブリンの群れに負けるほど我ら騎士団は弱くないのだ。

 確かに吸血鬼の眷属は強大だが、今まさにゴブリン征伐を行っている騎士は一つの軍隊だ。いくらなんでも、元がゴブリンでは負けるわけが無い。私一人遠ざけても多少被害は広がるだろうが、大勢に影響は……!?


(いや待て。この二つの作戦が本命とは限らない。むしろ準備。そろそろ暗躍が隠し切れないと判断し、多少派手に準備を……眷属を増やそうとしているだけなのでは!?)


 騎士を分断させて派遣させる作戦。その予測が当たっていれば、敵吸血鬼の狙いも自ずと読めてくる。

 そうだ、ゴブリンや盗賊は本命ではない。ただの捨石、どこででも手に入る駒だと思っているのではないか?


(そうか、そう言う事か。恐らく、吸血鬼の狙い。それは、強力な手駒だ!)


 恐らく吸血鬼の狙いは、人類と言うカテゴリーの中でなら屈指の力を持つ“騎士”の眷属化だと言う事だろう。

 人間としては最高峰の力を持つ騎士を眷属とすれば、こちらの戦力を大幅に落とせる上に、質が落ちる自我を持たない眷族でもガハラタ級の力を持たせられるかもしれん。

 そうなれば吸血鬼の勢力は一気に強まる。そんな企みが成功したら、そのまま王都が落とされる恐れすらあるぞ!


(もしこの考えが当たっているのならば、ゴブリン共の側には吸血鬼本体がいる! そして、ガハラタが私を至急王都へ向かわせるようなことを言ったのは、ゴブリン側への――吸血鬼本体がいる場所への援軍へ向かわせないための誘導だった!)


 急に無視できない緊急案件が二つ上がった。そこで、戦力を二つにわけて同時に片付けることにした。

 何か悪い予感がして盗賊は私と残党狩りの数名だけで来たから、ゴブリン側の戦力は充実しているはずだ。だが、それでも急に吸血鬼だの、その力を持った常軌を逸したゴブリンなんてものが現れたら、壊滅的なダメージを負う恐れすらある。

 だから私を王への報告と言う当然の思考に誘導し、遠ざけようとした。吸血鬼と言う情報を持つ、この私をゴブリン側に向かわせないように手を打った。

 そう考えれば、全ての辻褄が合うではないか!!


(もうこの盗賊団の首領は倒した。残っているのは烏合の衆のみ。他の捕縛任務を担当しているものだけで十分だろう。一人を王への報告へ向かわせ、他の者で気絶させたものや逃げ出したものを捕縛。そして私は全力でゴブリン制圧部隊の元へと向かう。これが最善か!)


 この結論を持って思考を終了し、迅速に行動に出る。

 時間との勝負だ。この考えが見当違いだったのならばよし。もし当たっていて、かつ気づいたときには吸血騎士がわらわら王都へ攻め入ってきたなんて事になるのが最悪。

 急げ。とにかく、速やかに行動しなければ――!!

主人公「序盤のイージー稼ぎイベントで軽く稼ぐか」

裏側「国を滅ぼしかねない災厄のモンスターが出現している恐れが!」


クリアするために用意されているゲームイベントと現実を同列に考えた報いかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ