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【番外編完結】他力本願英雄  作者: 寒天
赤い目との戦闘
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第27話 親父殿無双伝・前編

「ば、バケモノだぁ!」

「は、早くボスに連絡を……!!」


 俺たち、最近旗揚げした盗賊団“赤目”は結成以来の脅威に晒されていた。バケモノの襲来、と言う脅威に。


「テメェら!! ボスの戦闘準備が整うまであのバケモノを足止めしろ!!」

「へ、ヘィ!!」


 俺は緊急時におけるボスへの連絡係を任されている。だから今も、攫ってきた奴らに作らせた洞窟を利用したアジトの一番奥に用意されたボスの部屋へと必死で走っているんだが、あちこちからあの怪物を何とかしろと仲間達が上げる怒声が聞こえてくる。

 俺たち“赤目”は、ボスの類まれなる力を慕う荒くれの集まり。だから、敵襲があったときは構成員で敵を足止めし、ボスが戦いやすい舞台を作るように命令されている。そりゃ本物の騎士団みたいに統率の取れた動きじゃないかもしれないけど、一応訓練だってしてるくらいだ。


「だ、第一バリケード陥落!! 敵は速度を落とさずに進行中!!」


 だが、あのバケモノには全く通用しない。あの異様な輝きを放つ、白銀の鎧を纏ったバケモノには。


(チクショウ! なんで、何であんなバケモノがいきなり攻めて来るんだよ……!!)


 俺は、そんな信じてもいない神を罵倒するようなことを内心で叫ぶ。だが、その答えは俺にだってわかってはいるさ。

 そんなの、俺たちが盗賊だからに決まってるんだから。そして、あのバケモノは本来正義と呼ばれる存在だってのも、わかってはいるさ。

 でも、だからってありえないだろ!? そりゃこの辺り一帯の村をボスの命令通りに襲ったりもしたけど、だからって俺らみたいな新興勢力にいきなりあんなのが出てくるなんてよぉ……!!


「どうしたぁ! 一体何事だぁ!?」

「ボ、ボスに急いで連絡を! 敵が、敵が攻めてきましたぁ!!」


 俺は仲間内でも認められている俊足を飛ばし、仲間の悲鳴を背にボスの部屋までたどり着いた。そして、ボスの部屋を守っている“赤目”の幹部クラスのアニキ達に事情を説明する。

 今まさに、俺たちは壊滅の危機に直面しているのだと。


「敵だとぉ? どこのどいつだ?」

「き、騎士です! 国の騎士です!」


 そう、攻め込んできたのは俺たちが活動拠点としているフィール王国が誇る最高戦力、王国騎士だ。


「騎士……チィッ! アジトの場所を嗅ぎつけやがったか。それで、何人だ?」


 アニキは俺の報告を聞き、舌打ちしながら敵の数を聞いてきた。

 だが、正直こんなことしてる場合じゃない。あいつに対抗できるのはボスしかありえない。だから、急いでボスへ連絡を入れなきゃいけない――


「私かね? そうだな、自己申告でよければ、一人だが?」

「あ……あぁぁ……!?」


 アニキの質問に煩わしさを感じていたら、不意に背後から聞こえてきちゃいけない声が聞こえてきた。

 でも、ありえないだろ? いくらあのバケモノだって、俺たち“赤目”の構成員は100人を超えるんだ。その全員で張った防衛線を、この僅かな問答の間に突破できるなんて……!


「だ、誰だテメェ! ここを天下の赤目盗賊団のアジトと知ってんのかコラァ!?」

「フム、知っているから来たんだが?」


 アニキの恫喝に全く怯む様子を見せない、背後の誰か。力と自信に満ち溢れた、ここまで俺以上の速度で戦いながら走ってきたはずなのに、息の乱れすら感じさせない静かな声。

 ああ、間違いない。この声は、ついさっき聞いたばかりのバケモノの声だ。


「く、クソッ! 生きて帰れると思うなよ! 俺たち赤目のボスが誰だかわかってんだろうなぁ!!」

「ああ、正直知らんのだが教えてくれるか? お前達のボスが、一体何者なのかな」


 アニキ達は、皆腰に差した上物の剣を抜いた。

 アレは、村を襲ったときに村を守っていた戦士から奪った得物。盗賊団の中でも実力上位とボスに認められたからこそ渡された、本物の戦士が振るうに相応しい業物。

 別に名誉とかそんなものにこだわる奴なんて盗賊団にはいないけど、それでもボスを慕って集まった俺たちからすりゃあボスの右腕と認められた証のようで、ちょっとした羨望の対象だった物だ。


「ケッ! そんなに知りたいってんならなぁ……精々あの世でボスに逆らった馬鹿共から聞くんだなぁ!!」

「……まあ、いいがね。この奥の気から察するに、君達のボスはこの部屋にいるんだろうからね」


 でも、その右腕の剣も、あのバケモノの前には何の力も感じられない。だって、ここまで進撃する中ですら一度も抜かれていない、奴の腰の剣の方がずっとずっと凄いことは間違いないんだから。

 そして何よりも、奴自身の力が凄すぎることくらい、この国で一週間も過ごせば誰だって知ることになるんだから――


「な、何だとぉ!?」

「俺たちの一斉攻撃を、素手で……!?」


 この場にいる、ボスの警備兵を任されたアニキ達は全部で五人。その全員が、奪った上物の剣でバケモノに斬りかかった。

 だが、バケモノはまるでアニキ達の剣がどんな軌道を描くのか前もって分かってたみたいに全て素手で受け止めてしまった。未だに使われてもいない剣など、必要も無いと誇示するように。


「て、テメェは一体何者……! ま、まさかその鎧の紋章は……!!」

「獅子の紋章って、まさかだよなぁ……?」


 アニキ達も気づいたようだ。アジトが洞窟内にある関係上視界が悪いとは言え、流石に剣で斬り付ける距離まで近づけばそりゃ気づくよな。

 指の力だけでアニキ達の全体重を乗せた五本の剣を抑え込んでいる、あのバケモノの鎧にでかでかと刻印されている獅子の紋章(エンブレム)のことくらい。


「さて、貴様らの名などどうでもいいが、一応剣を抜いた相手との戦いだ。奥にいる貴様らのボスへの紹介も兼ねて、一応名乗っておこうか」

「なっ!? け、剣が――」

「私の名はガーライル・シュバルツ。騎士である!」

「ぐばっ!?」


 指の力で止めていた業物を、名乗りと同時にこのバケモノ――かの“最高の騎士”ガーライルは、やはり指の力だけでへし折った。

 それと同時にほとんど目にも見えない、恐らくは高速の手刀と思われる攻撃を振るい、五人のアニキ達を一瞬で気絶させる。

 そして、そのついでと言わんばかりに俺の首筋ににも鋭い衝撃が走る。


「やるねぇ。ちょいと手下共には荷が重過ぎるか。流石は王国にその人ありと謳われたガーライル副団長様ってところか」


 こうして、俺もまた意識を失っていく。

 最後に部屋から出てきた、俺たちのボスの声を聞きながら……。



「フム。そういう君はこの不届き者共の首領でいいのかね?」

「ああ。盗賊団“赤目”首領、ガハラタだ」


 手にした戦斧の握り心地を確認し、身につけた幾つかのマジックアイテムの力を感じ取る。

 ……今まで集めた道具はどれも問題なく使用可能っと。手下共はこの副団長様を相手にするにはちと弱すぎたが、それでも俺が武装するだけの時間を稼げたんだからよしとするか。

 国最強の前衛戦士と呼ばれる男を相手にするにゃあ、流石の俺も全力でやらなきゃいけないだろうからな。


「さて、一応言っておこう。降伏して大人しく罪を償いたまえ」

「冗談! ここまでわざわざあんたほどの男が来たってことは、わかってんだろ? 俺たちの罪とやらをさ?」

「……やれやれ。贖罪と言うのは罪の大きさで決まるものではないよ?」


 俺たち赤目は、()()()()()()()()()()()()十数個の村を壊滅させた極悪犯だ。

 この国の法律じゃあ、権力を持たねぇ庶民が人を殺せば同じ痛みを持って償わせろとなっているからな。当然、縛り首は免れねぇのよ。


「生憎だが、悪いとも思っちゃいねぇよ。そうだ、俺たちに罪の意識なんてものは欠片もねぇのさ。お前ら偉い人って連中だってそうだろ? 相手が罪人だから、貧乏人だから、生意気だからなんて理由で散々俺たち弱い者を殺してきたんだからなぁ。だったら同じことを俺たちもするだけよ!」

「フム……。君達のような、国の権力者……貴族達に恨みを持つものは多い。それに、罪人相手なら、確かに騎士は容赦しないからね。だが、決して弱いものを虐げることはないよ。少なくとも、騎士はね」

「ケッ! ここにはそんな高潔な騎士様とやらに追い掛け回されて俺の庇護下に入った奴も多いのよ。俺らにとっちゃあテメェら騎士も、いけ好かない貴族共の同類なんだよぉ!」


 あいつ等は、いつも権力とやらで俺たちの稼ぎを奪っていく。何で俺たちが育てた芋を、麦を俺たちが食っちゃいけないってんだよ!

 だから俺は奪うことにした。偉い人とやらは俺たちが生きる糧を奪っていくんだ。だったら、俺だって弱い奴から奪ってもいいはずだろ!

 でも、今度は騎士って言う名の偉い人が現れた。俺より弱い奴から奪った金も食料も、全部力で奪われた。俺自身は何とか逃げ出せたが、結局真っ当に生きても汚れた道に入っても貧しくて弱いことに変わりはなかった!

 ……あの方に救われるまでは、な。


「……不当に税を引き上げ、私腹を肥やす愚か者がいることは知っている。我々も、貴族を名乗る罪人を裁こうと日々努力しているよ」

「だからなんだ! 貴族だって罪人(おれたち)と変わらないってだけだろうが! だったら俺がその辺から金もメシも女も全部奪っていいはずだろぉが!」

「そんなことは無い。彼らも必ず裁かれる。……我ら騎士は、弱き者を守るためにいるのだからな」


 ……ケッ! やっぱりいけ好かねぇな、騎士って奴は。上っ面の正義だけで剣を抜きやがる。

 大体、奪われた後で奪った野郎が死のうが裁かれようが関係ないんだよ! こっちは今食う飯が必要なんだからな!


「その弱い者が生きる最後の手段、それがこの商売だ。幸いにも俺はもう弱者じゃねぇが、俺を頼って多くの弱い奴が集まってくる。それがテメェの言ってることがただの綺麗事だって証拠だろうがよ!」

「耳の痛い話だ。……だが、ならば何故君の言う弱い者の一員である近隣の村を襲った? 君の主張を真とすれば、今の君は君を苦しめた腐敗貴族と同類となるのだが?」

「ハッ! そんなの言うまでもねぇだろ? 俺は正義の味方になった覚えはねぇ。ただ、奪われる弱者から奪う強者に回っただけなんだからなぁ」

「……強者が弱者を虐げる。そんな世界に異を唱えるつもりは無い、と言うことか」

「ああ! 今の俺は強い! そして強者の目で見る世界は、確かに奪う者の世界だったってだけよ!」


 弱い奴が虐げられ、奪われる。それはこの世界の真理だと俺は知っている。弱い者として奪われ、そしてあの方のおかげで強い者の世界を知った。

 そんな俺だから、それは断言できるぜ。結局、世の中は強い奴が好き勝手に生きているだけだってなぁ!

 だから俺は何も気にしねぇ! あの方に授かったこの力で、騎士も貴族も庶民も何もかも全部ぶっ壊してやるのよ!


「でりゃあ!!」

「ム……!!」


 俺の武器、戦斧は片手に収まるサイズの斧だ。普通の斧より小さいとは言え、それでも破壊力は抜群だ。欠点と言えば大きさの関係上命中率は低いことくらいか。

 だが、それも俺の身体能力があれば何の問題も無い。歴戦の戦士とやらも、反応することすらなく真っ二つに――ッ!?


「なるほど早いな。今までの賊どもとはレベルが違うらしい」

「――止めた、だと!?」


 俺が不意打ち気味で放った頭をかち割る一撃を、この騎士は手甲で受け止めた。微動だにすることなく、純粋に身体能力だけで完全に受け止めたのだ。

 ……ありえねぇ! この俺の一撃を、避けるならまだしも正面から受け止めるだと! 今まで奪ってきた宝を使って手に入れた、この魔物の骨で作られた一級品の戦斧の一撃を!?


「武器はなかなかの物を使っている。技巧に少々問題があるようだが、パワーも一流。並みの使い手なら今の一撃で死んでいるな」

「く、クソッ! 流石国一番の戦士ってだけの事はあるな!」


 腕力、反応速度、胆力。どれをとっても今まで俺が相手にして来た戦士とは桁が違う。そう言う事か。

 こりゃ、このまま戦っても勝てねぇかもな。少なくとも、無傷で勝利とはいかねぇだろう。

 ……ま、だからって手がねぇわけじゃないけどな!


「ククク、こりゃマジでやらなきゃやばいらしい」

「ほう、何か出し惜しみでもしているのかね?」

「まぁな。――発動しろ! 【強力の腕輪】! 【韋駄天のベルト】! そして【持続回復の指輪(リジェネリング)】!」


 俺が完全武装の際に身につけているマジックアイテム。魔法を習得していないものでも魔法を発動できるようになるアイテムを使い、一気に補助魔法を自分に向かって発動させた。

 強力の腕輪は【付術・腕力強化(パワーブレス)】を。韋駄天のベルトは【付術・速力強化(スピードブレス)】を。そしてリジェネリングは【水術・自動回復(リジェネヒール)】を発動できるのだ。

 これで俺は身体能力を大幅に強化し、ちょっとしたダメージなら無視して動けるようになった。もはや、さっきまでとは別人だぜ?


「さて、第二ラウンドと行こうか?」

「フム、どうやら随分便利な道具を持っているようだ」

「クククッ! その力はテメェの体で味わいな!」


 既にお互いに臨戦態勢。ならば、さっきみたいな不意打ちは通じないだろう。

 ならばと正道に立ち返り、相手の気配と隙を探るとしよう。気影を放ち、この男の隙を――ッ!?


(ば、馬鹿な!? 強化された俺の気影が全く通じないだと!?)


 身体強化を行った俺は、一度に五体の気影を放つことができる。それを放って前後左右から斬りかかるイメージを出したのだが、奴は何の強化魔法も使っていないはずなのに平然と俺に合わせた気影で対処してしまった。

 しかも、気影同士の戦闘でも勝ててねぇ。強化なんてなかったみたいにあっさりと弾き返されるイメージが見えやがる。これは、奴が俺の攻撃を完璧にはじけると確信している証拠だぜ……!


「ならその驕り、正してやるよぉ!!」

「ム、来るか」


 気影を放って牽制しても、奴は全て対処して見せた。だが、それをぶち抜くのが俺の強さだ。

 気影による攻撃が弾かれる? いや、弾けるわけが無い。気影はあくまでもただの行動予測なんだから、攻撃に対して防御動作をとれる以上のことは何も言えないんだからなぁ。


「死ねやぁ!!」

「……ハッ!!」


 俺が出した気影は五体。それによる攻撃イメージは全て弾かれてしまったが、構わず攻撃に出る。

 流石に防御されるとわかっている場所を打つことはしないが、まあ防御されても関係はない――


「――な、何だとぉ!?」

「……驚くべきこと、だな。私に半歩引かせる攻撃を打てる者など、騎士団の中にも滅多にいないぞ?」


 こ、この野郎、さっきと同じように片手の手甲で斧を受けやがった。本当に、さっきとほとんど変わらず完璧に防ぎきりやがった!?

 違いと言えばほんの僅かに後退したくらい。力を入れやすくするためか、一歩引いて踏ん張ったくらいだ!


「チ、チクショウが!」

「……さて、手が痺れる攻撃の礼だ。今度はこちらから行かせて貰うぞ?」

「ッ!?」


 今まで感じ取れなかった攻撃の意志。それを感じ取った瞬間、俺の体は無意識に全力で後方に跳んでいた。

 ありえねぇ。本当にありえねぇ怪物だこの男は。まさか、殺気だけでこの俺を引かせるとは――ッ!?


(な、何だこの気影は! 5,6,7,8……10を超える気影を出しやがっただとぉ!?)


 気影ってのは、実際にそうやって動ける準備と、そしてそう動こうと意識することによって産まれる未来のビジョン。

 常人なら次にこうしようと思っている一つしか見えねぇが、一流の戦士となれば第二、第三の手を同時に考えるのが普通だ。

 でも、だからってそれがこの数ってのはありえねぇ! あまりにも鮮明すぎるイメージから考えて、恐らくこれは奴が意図的に見せている架空の気影も混ざっているんだろう。

 だが、それでも10を超える未来の戦闘イメージをコイツは同時に明確に描いてるってのかぁ!?


「――気影包囲陣!」

「く、クソッ!」


 奴の攻撃のイメージ。それを防ぐべく俺も構えをとるが、どれを防げばいいのかわからねぇ!

 俺の出せる気影の倍。そんなもん、どれを防ごうとしても防げるわけねぇじゃねーか!


(正面からの正拳? 側面に回ってのわき腹狙い? それとも頭を狙った飛び蹴り? クソッ! 全部が全部行動可能! 俺が対処しきれない部分を見極めて撃って来るだけか!)


 実際に行動可能でも、そう動こうと心構えがなければ僅かではあるが動作が遅れる。それはこんな戦いの中じゃ致命的な隙を産むこととなる。

 その常識から考えて、奴の攻撃を完全に防ぐのは不可能。それを理解した俺は、咄嗟に首と頭をガードする。

 何故かはシラネェが、奴は腰の剣を使わない攻撃パターンだけを想定してやがる。だったら、急所さえ守れば俺なら倒されることは……。


「セイッ!」

「ぐぅ、あぁ!?」


 気影の迎撃を諦めた俺に対し、奴が選んだのは正面から腹を打ち抜く正拳突き。それなりに上物なはずの鎧ごとぶち抜くような拳が俺の腹を抉った。

 それによって、俺はわけのわからない痛みと共に真後ろにぶっ飛ばされる。とりあえず死んじゃいねーが、人間だったら確実に戦闘不能になる一発だ。

 ……剣を使わなかったのは、使うまでもねぇからってことかい!


「さて、もうわかっただろう? 君では私に勝てんよ。私に君の怒りを静めるような言葉は無いが、少なくとも罪なき民を傷つけた報いだけは受けてもらおう」


 副団長様がゆっくりと、しかし警戒は緩めないままにこっちへ一歩一歩向かってくる。

 このイカレタ強さに慢心しない心か。なるほど、俺みたいなのにまで知られる“最高の騎士”なだけのことはある。

 こりゃ、確かに人間じゃまず勝てないな。あの方のおかげで俺は人間を蹂躙する力を得たが、同じ人間を超えてる奴には分が悪いってことか。


「く、ククク……!」

「ム? どうしたのかね?」


 この状況に思わず笑いが漏れ出してきた。突然笑い出した俺にこの最高の騎士様が変なものを見る目をしているが、仕方ないだろ?

 だって、ついにあの方が言った通りの状況に直面したんだから。


「いや、ギリギリまで……絶対に勝てないと確信できる相手と戦うまで使うな、と言われていたんだけどな。こりゃ、もうその状況だろ?」

「何を言っている?」

「さあ、いよいよここからが本当の始まりだ! 俺の本当の力、見せてやるよぉ!!」


 ガクガク笑う膝を無理やり動かし、立ち上がる。そして、手にした戦斧をその辺に放り捨てる。

 ここから先の戦いに、ちゃちな武器なんて全く必要ねぇからなぁ!!


「一体何を……」

「さぁ! 俺に力を! 【血の開放】!!」

「ッ!? こ、これは……?」


 今までとは違う、あの方に貰った力を制限なしで解放する。弱くて惨めで奪われる者だった俺を、強くて怖くて奪う者に変えてくれた、あの方の力が全身に満ちていく。

 さあ、行くぞ最高の騎士? これからテメェが戦うのは人間の限界を超えたなんてちゃちなバケモンじゃねぇ。正真正銘、人外のバケモノだ……!!

親父殿ことガーライル・シュバルツ。

あくまでも人間の中で考えるのならば、この人は文句なく世界TOP3に入ります。


以下、後編に続く。

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