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【番外編完結】他力本願英雄  作者: 寒天
天才(?)になりました
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第2話 魔法

「ダメだ、やっぱりわけわからん」


 俺は剣の修練を終え、一日の勉強を終えた後は本を読みながら休憩していた。体を作る上でも、鍛錬の後は休息するのが重要なのである……らしい。

 まあ俺だって疲れているし、親父殿の指示に逆らう気も無い。だからこうして自分の部屋で本を読んでいるのだが……やはり難しい、というより受け入れられないのだ。


「魔法入門・幼児向け。……物理法則を真っ向から否定するような挿絵だらけだよ……。しかも魔力を感じ取る能力があるの前提で書かれてるし……」


 俺が今読んでいるのは、家の書斎から持ってきた魔法の入門書だ。

 レオンハートは聖騎士であり、光魔法の素養を持っているのは間違いない。つまり、才能だけなら俺にもあるはずなのだ。

 だが、真に残念ながらこの世界、レベルアップしたら自動的に魔法が使えるようになるわけじゃないらしい。ゲームだったら『レベルがあがった レオンハートは ライトヒールを おぼえた』とでも言ってくれるはずなのだが、母上にも聞いた通りまず理論を理解しないことには絶対に使うことなどできないようだ。

 要するに、ゲームキャラ達がレベルアップと共に魔法を会得できたのは力量が知識に追いついたからってことだな。


「しかしそうなると、俺って一生魔法使えるようにならないぞこのままだと……」


 魔力を操る感覚はこの世界の住民なら誰しも産まれた時から持っているらしい。だが、俺の場合は余計な固定概念やらなにやらがあるせいかその感覚がさっぱりわからないのだ。

 いやまあ、別に魔法が使えないと差別されるとかそんなことはない。

 聖勇では職業(クラス)の設定があり、各自固定の職についていた。そこから条件を満たした末にできるクラスアップによってより強力な魔法・技を習得できるようになるわけだ。

 そして、その中にはどこまで極めても魔法は一切使えるようにならない肉弾特化職だってあった。

 クラスアップは全三段階であり、一段階上がる度に二つの選択肢がある。つまり各キャラの基礎職から見れば三番目の最上級職は4つあるわけだな。

 そのルートによっては、魔法を一切覚えないキャラとなる奴もいた。そんなルートがある以上、魔法が絶対の力であるなんて事は無いはずなのだ。


 ……と、今までの俺なら言っただろう。だが、既にゲーム知識をこの世界に当てはめて一人納得することの愚かさは知っているつもりだ。

 故に魔法についての概要、考え方、重要性は母上にも親父殿にもしっかりと質問してある。

 その際に俺の知らない魔法についても沢山聞かされ、俺の聖勇知識がどれだけ不安定なものなのか再確認させられたりもしたのだが、ちゃんと裏づけも取ったわけだから魔法を使えなくとも問題ないことは間違いないのだ。


「でも、俺に限ってはやっぱそうじゃないんだよなー……。世界が滅ぶレベルで」


 俺、レオンハートが魔法を使えない。問題だ、これ以上無いくらいに問題だ。

 クラスアップに関しては親父殿もよくわかっていなかった。騎士は本来魔法を使えないクラスなのだが、聖騎士は光属性の魔法を使える。そして、聖騎士は騎士から一段階上がったクラスなのだ。

 つまり、この世界においてクラスアップしたと――より強い力を身につけたと証明する為には、上位クラスだからこそできる力を見せねばならないわけだ。

 まあ、騎士は魔法を使えないと言うのは俺の思い込みで、実際には親父殿はゲームに登場しなかった魔法を身につけてたりするんだけど。逆にゲームに登場したような純戦闘系魔法は難しすぎて専門職でもなければまず使えないとの事だが、なんか頑張れば使えそうな気もする。


 まあそれはともかく、親父殿ほどの使い手が未だ一次職の騎士であるところからもわかるように、クラスアップできる奴とかまず世界見渡してもいないのだ。ゲーム的に考えれば二次職までならレベルさえ上げてればその内なれるのだが、強くなるにもいろいろ頑張らねばならないこの世界ではそう簡単ではない。

 と言うか、クラスアップの方法すら知らないのだから条件を満たしていても一次職のままって人は数多いだろう。親父殿もその一人だと思っている。

 つまり、レオンハートが若くして騎士団長となったのには聖騎士の力を持っていたと言うのも大きいのだ。


「俺が……レオンハートが騎士団長であったからこそ、見習い騎士だった主人公へ目をかける事ができた。俺が生き残る為にも、そしてこの国を守る為にも少しでも高い権力を持ちたいからなぁ……」


 レオンハートが主人公の窮地を助ける事ができたのは、見習い騎士だった主人公の教育係だったからなのだ。

 だからこそレオンハートは主人公の居場所がわかったし、ギリギリで助け出すこともその資質を見極めることもできた。

 だが、俺が魔法を使えない、つまり聖騎士だと証明できなければ25歳までに騎士団長になるとか無理だろう。今でさえ12歳で騎士位に付くのほぼ無理じゃねと思っているのに、これ以上本来の歴史から離れられても困る。

 そして何よりも、主人公を魔王の手から逃がすことができないんだよねこれが。


「レオンハートは、正体不明の光魔法を使って主人公を逃がした。……今から考えると、ゲーム時代もあったな俺の知らない魔法。ただのイベントだと思って気にとめてなかったけど、そういやレオンハートがゲームには無かった強制転移魔法使ってたわ」


 なんか思わぬところで自分の無知さを実感した気がするが、とにかくレオンハートは主人公を魔法で逃がしたのだ。

 と言うことは、俺が魔法を使えないと主人公守れないと言う事になってしまう。そしてもちろん、俺も死ぬ。そんな最悪の未来がお出迎えしてくれることになってしまうのだ。

 できればそんな極限状態になる前に主人公連れて逃げ出すのがベストなんだろうけど、あの正義感の塊みたいな主人公が逃げ出す訳がない。そしてもちろん、レオンハートである俺があっさり尻尾を巻いて逃げるなんて真似ができるわけも無い。

 とにかく一枚でも多くの手札が欲しいのに、重要な力の一つが使えないなんてあってはならない大問題なのだ。


「聖騎士になるだけなら多分……このまま修練を続けていけばなれると思うんだよな」


 聖騎士になる方法とは、このシュバルツ家の儀式の間で聖騎士になる条件を満たしたものが祈りを捧げることだ。

 ちなみに、その儀式の間はシュバルツ家の嫡男が成人の儀を行う為に存在している。この世界での成人は日本と同じく20歳なので、つまり20歳までに聖騎士条件を満たした優秀な男子のみが聖騎士の力を得るという仕組みなんだろう……と思う。

 ゲームのレオンハートも多分そうやって聖騎士の力を得たはずだしな。成人の儀を行う部屋があるってのと、レオンハートが聖騎士になったのは20歳、ってのが聖騎士にクラスアップする条件を知るヒントだったわけだし。


「俺が20歳までに聖騎士条件をクリアできるかはとりあえず置いておくにしても、なるだけならいつかはなれるはずだ。でも、聖騎士になったからと言って魔法が使えるようになるわけじゃないんだよなー」


 ここで、俺は手にした魔法入門書に再び目を落とした。

 そこに書いてあるのは魔法の基礎の基礎。まずこれができないんだったら速やかに魔法の習得を諦めましょう、貴方には才能が蚤の心臓の欠片ほどもありませんコーナーだ。

 だが、はっきり言おう。その段階で既にわかりません。意味がさっぱりわかりません。何がどうなって何を言いたいのか微塵も理解できません。

 魔力云々がどんなものなのかさっぱりわからないのに、その運用法をどれだけわかりやすく書かれてもわかるわけないでしょっての。


「親父殿にまで『魔法だけが力ではない。お前は剣の道を行けばいいのだ』と太鼓判を押されたくらいだからなぁ……」


 一応、魔法だって母上や親父殿に習いはしたのだ。習いはしたのだが、優しく諭されて諦めるように言われてしまったのである。

 やっぱ、魔法なんて御伽噺の世界にしか存在しないってのが根本の常識にある奴に魔法の才能なんて無いんだろうか?

 マナだの魔力だの、魔法式だの現象変換だのいろいろな専門用語が幼児にもわかるようにわかりやすく書いてあるんだけど、物理法則無視の内容を無意識に頭が拒絶しているんだろうか?


「でも、諦めるわけにはいかん。優しく労わるように諦めろと言われてもこっそり入門書持ち出してきたんだ。頑張れ、俺」


 そうして、俺は全く理解できない入門書相手にベットの上で格闘するのだった。



「シュバルツ卿。お疲れ様です!」

「ウム。ご苦労」


 息子への剣の指南を終えた後、私は王城へとやって来ていた。門番に挨拶をした後、入城する。

 我が家訓に乗っ取り、そして何よりも息子の成長の為に自らの時間を使うは当然の事。息子が騎士の道を望むのなら、精一杯手助けしてやるのが私の務めだろう。

 だが、だからと言って騎士としての職務を放棄していい事にはならない。父として、そして騎士としての役割を両立させなければシュバルツ家当主の名折れだ。


「おや、シュバルツ。今日は休暇ではなかったのか?」

「なに、普段から個人的な用件の為に暇を貰っている身だ。休日返上で仕事せねば国王陛下に申し訳がたたん」

「相変わらずマジメなやつだな、お前は」


 王城の廊下で出会ったのは、私の同期の騎士だ。優秀な男で、私も困りごとがあったときはいつも頼らせてもらっている。


「じゃあ、お前は執務室に向かう途中か?」

「ああ。今日中に例の案件を片付けておこうと思ってな」


 私も騎士として王にお仕えして長いが、それに相当した給金を渡されている。ならば当然、それに相応しいだけの仕事もあるのだ。

 騎士とは剣を振り、戦場で雄叫びを上げるだけが仕事ではない。私のように騎士達の上に立ち、指揮を取る立場となるとデスクワークも多いものだ。


「そうか、では俺はここで失礼するとしよう」

「ああ――っと、少し待ってくれないか?」

「うん? どうした?」


 友人との軽い挨拶を済ませ、別れようと思ったのだが一つ用件を思い出した。

 私用なのでこう言った場で言うのも憚られるが、別に公式の場と言うわけでもない。ちょっとした世間話でしかないのだから別に構うまい。


「実は少し頼みたい事があってな。お前は新人教育を任されていたと思うが、魔法に関する教授を行える者に心当たりは無いか?」

「魔法教育? 何だ、今更魔法使いの道でも志すことにしたのか?」


 からかい混じりにこいつはそんな事を言っているが、もちろんそんなわけは無い。

 魔法の教授をして欲しいのは、我が息子へなのだから。


「そんな訳がないだろう。頼みたいのは、俺の息子――レオンハートへだ」

「息子? 確かシュバルツ家では、教育や指導は自分の手でやるのが家訓ではなかったか?」

「まあそうなのだがな。とは言え、俺は魔法に関しては門外漢。妻や使用人の中には魔法の心得があるものも大勢いるが、やはり専門家でもない身では難しいのだ」

「ふむ……そこまで専門的なことを教えるのか? 確か、レオン君は騎士になるんじゃなかったのか?」


 彼の疑問はもっともだ。騎士とは剣の道であり、魔法を使える者は限られている。

 実際には私を含めて戦闘用の魔法を使える者もそこそこいるが、人にものを教えられるほどのと言われればまずいまい。


「確かにあれは騎士の道を志しているようだが、同時に魔法にも興味があるようでな。生活レベルの魔法すら使えないから諦めろと言ってはいるんだが、どうしても諦められんらしい」

「と言うと?」

「毎晩毎晩書斎に忍び込み、ばれないように魔法入門書を読んでいるようなのだ。本人は気づかれていないつもりなのだろうが、やはり独学では厳しかろう」


 レオンはいつも鍛錬の後、自分一人で魔法の知識を蓄えているようなのだ。

 本来なら私の手で教えたいところなのだが、力及ばず失敗してしまった。だがそれで諦め、我が子が望んでいるのに教えることもできないのは心苦しい。

 だから専門の教師の力を借りたいと思っているのだが……我ながら情けない話だな。


「うーん……。まあ、そう言うことなら何人か派遣できる者はいるぞ? だが、どこまで教えるつもりなのだ?」

「生活レベルの……とにかく魔法が使える、と言うところまででいい。本人は戦闘系魔法まで身につけたいのかもしれんが、まず魔法そのものを理解できないみたいだからな」


 何故かレオンは魔法そのものが理解できないようなのだ。それこそ使えるかどうかはともかくとして、小さな子供でも理解はできる魔法理論ですらちんぷんかんぷんらしい。

 それではどれだけ修練した所で魔法を会得できるわけも無い。だが理解するだけなら才能の有無に関わらず可能なはず。恐らく、優秀な教師の下でなら理解もできるはずだ。


「つまり、師匠を探すというよりは教師を探している、と言うことでいいのか?」

「ああ。レオンに必要なのは具体的な魔法の使い方ではなく、魔法そのものを教えられるわかりやすい説明だろうからな」

「わかった、手配しておこう。費用はお前のポケットマネーか?」

「当然だ」


 もちろん、これは騎士としてではなく父としての頼みごとだ。その費用をまさか騎士団の予算から出すわけには行かない。

 幾らかかる事になるかはわからないが、こいつに任せれば優秀な者をよこしてくれるだろう。金に糸目はつけまい。


「迷惑をかける事になると思うが、よろしく頼む」


 アレはなかなか奇抜な発想をしている。正直理解力にも乏しく、教える身としては苦労するだろう。

 そう思ったのだが、何故コイツはニヤニヤ笑っているのだ?


「何言ってんだよ。優秀な息子なんだろ?」

「ム……いや、そのような事を言った覚えは……」

「酒飲んだ拍子にあれだけ息子自慢しておいてよくそんなこと言えるねー」


 ……正直記憶が飛んでいるのだが、どうやら騎士同士で飲んだ時にいらないことをペラペラ喋ってしまったらしいのだ。

 やはり、酒はいかんな。考え無しに飲みすぎると何をするかわからん。騎士として、恥ずべきことだ。


「剣を教えればスポンジのように吸収し、メキメキ腕を上げてるんだろ?」

「た、確かに日々上達しているがな、まだまだだ」

「よく言うぜ。七歳の子供とは思えない身体能力と光るセンスを見せているーって散々嬉しそうに話しといてよ」

「さ、酒を飲んだ上でのことだ! まだまだ未熟、それに変わりは無い!」

「ま、そりゃそうなんだろうけどさ。……しかし大変だねーお父さんって奴は。教え子を下手に褒めて増長させないのは基本だけど、自分の息子ともなれば一段と自分に厳しくってか?」


 確かに、騎士の道とは戦いの道。となれば当然、命を落とすこともある。故に常に自分を律し、己の力を見誤らないように心がけなければならない。

 レオンは特にその辺りに問題があるので、よく注意しなければならないのだ。


「アレは自分の力を見誤る癖があるからな。決して甘やかしてはいかん」

「ま、確かに騎士団内でも有名な武勇伝があるしな。僅か五歳で魔物に単独で挑んだって言う話」

「……全く、愚かなことだ。もし私が後三十秒遅れていれば、恐らくレオンはこの世にいなかっただろう……」


 初めてレオンと妻と私の三人で町へ買い物に行った時、レオンは一人我々から離れて町を出てしまったのだ。

 まさか、五歳の息子に撒かれるとは思わなかった。全てが終わった後の、私の偽りない感想だ。

 街中であった事もあり、私も妻も油断していたのは確かだった。予め渡しておいた僅かな金で好きなオモチャでも買って見なさいと自由に行動させたのは、確かに私達の油断だったろう。本当に万全を期すのなら手でも繋いでおくべきだった。

 だが、これでも私は一端の騎士。多少油断していたくらいで子供一人の気配を追えないほど耄碌したつもりは無い。そう思っていたのだが、見事に見失ってしまったのだ。

 今でも、アレはレオンが自覚してやった事なのだと自信を持って言う事はできない。私の警戒網から逃れるなど、一流の暗殺者レベルの業であるはずなのだ。

 だが、事実として戦闘に使われるポーション――の偽物を持って魔物と対峙した以上、自らの意思で私達から離れたのだろう。全く歯が立たずに殺されかけていたが、とにかく自分で準備を整えて戦おうとしたのは間違いない。

 子供の小遣い程度で戦闘用ポーションが買える訳も無く、どこぞの闇商人に騙された辺りまだまだ子供ではあるが、とにかく信じられない出来事だった。仮に本物でも効果発動量を満たすほど飲めなかったようだが、あの時は毒の類でなくてよかったと心から安堵したものだ。


「強くなる為にはとにかく実戦だ。いやー、若いころは俺もそんな無茶をしたもんだよ。将来有望で結構結構」

「……それは、もっと実力がついてからの話だ。まだまだレオンには早すぎる粋がりだ」

「まぁな。普通、もう十年は経ってから実行に移すのが通例だな。史上最年少記録じゃないか?」

「そんな記録、全く役に立たん」


 コイツは暢気な事を言っているが、あんな事を繰り返されては命が幾つあっても足りはしない。

 レオンも『強くなりたかった』と言っていたが、実戦の中で技を磨くなど十年早いとあの時は本気で怒鳴ったな。いや、それ以上に手まで出してしまったか……。

 あそこで叱らねば近い将来命を落としかねなかったとは言え、怒気と力で子供を叱りつける事しかできないなど教育者としても二流だと痛感させられたものだ。

 レオンも混乱して、泣きながら『技を覚えるんじゃなくてレベルを上げようとした』などと言っていたが、基礎鍛錬もせずに戦闘の中でいきなり力量(レベル)が上がるのは物語の中だけだとやはり怒鳴ってしまったのだったな……。

 思えばアレがレオンに稽古をつける切欠だったわけだが、私はやはり父としては未熟だ。

 恐らく、アレは前々からレオンの計画であったはずだ。本来ならば私はレオンの企み如き看破していなければならなかったというのに、逆に出し抜かれるなど一生の不覚であった。


(そう言えば、アレが私自身を鍛えなおす切欠でもあったな)

「も――し――」


 剣だけがいくら達者でも戦えなければ意味がない。そう実感した私は、あれ以来気配から敵や味方の位置を知る類の技術を磨いたのだったか。

 その成果もあり、今ではレオンがこっそり書斎で魔法について学んでいることはもちろん、夜中にこそこそつまみ食いしていることまで感知できるようになったのだったな。

 鍛錬を始めた為に食欲も増えたのだろうと、多少窘めた上で食事を増やしたのだったか。今思い返せば、あれもいい思い出だ――――


「――もしもし? 聞いてますかおとーさん」

「ムッ!? す、すまん。つい呆けていた」

「しっかりしてくれよ? そんな子供の事考えて幸せですーって顔に書いてあるような締まりの無い顔を部下共に見られたら、団全体の士気に関わるぜ」

「……そんなに緩んでいたか?」

「ああ。そりゃもう、思い出に浸ってますって全身で語ってるくらいに」


 ……やはり、私はまだまだだ。人前でそこまで気を緩めてしまうなど、騎士にあるまじき行為!

 今日は書類仕事だけで終わるつもりだったが、精神を研ぎ澄ます為にも重り付き模造刀で一万回ほど素振りをしていくことにしよう。


「まーたなんかクソ真面目なこと考えてそうだけど、とにかくレオン君へ魔法指南をしてやれる教師を探すって事でいいんだな?」

「ウム。謝礼は可能な限り払うと約束しよう」

「いや、お前のポケットマネーで不可能な謝礼があれば逆に見てみたいが……。まあとにかく、子供にもわかりやすく教えられるベテランを何人かリストアップしておこう。完成しだいお前の執務室にリストを届けさせるよ」

「よろしく頼む。だがあくまでも私用であるが故、業務時間を潰してはならんぞ?」

「わーってるよ、俺もそこまで暇じゃねぇし。……じゃ、俺はもう行くぜ。リストは二、三日中に届けるからな」

「ああ、ではさらばだ」


 こうして、私は再び自分の執務室へと向かった。

 本来休暇であるだけに急ぐ必要は無いのだが、レオンへの指南の分だけ余分に暇を貰っているからな。やはり、埋め合わせはしなければならない。

 さて、今日はまず何から始めるのだったか。確か、東の草原に大量発生したファングウルフ討伐隊の編成だったか――

魔法なんて元地球人がほいほい使えるわけないでしょ! の巻。

でも、使えないと世界が滅ぶんだから頑張るしかないよね!

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