第25話 新たな仲間?
「ゴブリン討伐?」
「うむ。お前には、見習い騎士として討伐隊に加わってもらう」
自力での錬金術を諦め、いつも通り鍛錬にせいを出していた俺は、突然親父殿に呼び出された。
用件は父親としてではなく、上司としての通達。実際には騎士団ナンバー2が新入り未満の見習いに直接連絡なんてありえないから、親子だからと言う面も多々含まれてるだろうけど。
「ゴブリンは知っているな?」
「はい。何度か戦ったこともありますし……」
修行の一環として、弱い魔物と戦ったことは結構ある。流浪の行みたいな例外的な話ではあるけど、本気で自分の命を狙ってくる敵との戦いを経験するためだ。
そして、ゲーム知識ではあるが、ゴブリンは間違いなく最弱クラスのモンスターだ。そりゃもう、これ以上弱いモンスターなんて存在しないだろうってくらいの、レベル1の勇者を成長させるために存在してんじゃねーのって感じの弱小だ。
ステータス的にはスライムよりはマシかもしれないが、打属性耐性に匹敵する特殊能力も皆無。総合力で言えばスライムの方がまだ強い。
本当に、一体魔王は何を考えてこんなのを戦力に加えたんだって本気で考察されるくらいに弱いモンスターなのだ。
そして、それはこの世界でも変わってはいない。ゲームとの差異が無い貴重な例だとすら言える。
もちろん、個体差はある。全部がコピーかクローンって事も無いんだから、体格や経験によって多少の能力差はあるだろう。
だが、それを差し引いても弱いことに変わりは無い。今の俺でも十体くらいなら同時に相手にできちゃうような相手なのだ。
(まあ、これがホブゴブリンやウォーゴブリン。それにゴブリンキングなんかになると話も変わるけどさ)
なんてゴブリンの基本知識を思い起こしていると、親父殿が任務の説明をし始めた。
「今回の任務だが、このゴブリンが大量発生しているようなのだ。ゴブリン共は数を増やすと他種族――人間を徒党を組んで襲う習性がある。故に、こちらに被害が出る前に退治してしまおうと言うことだな」
「ああ……“ゴブリン軍の進撃”ですか?」
「む? うむ……確かにゴブリン軍が形成されているな。だが、よくゴブリンの生態まで知ってたな?」
「え、あはは……。しょ、書斎の本に書いてあったんですよ」
「ふむ……。よく勉強しているな、偉いぞ」
何故かお褒めの言葉を貰ってしまったが、もちろん俺が言ったのはゲームの知識だ。
ゴブリン軍の進撃。これは所謂サブクエスト、やらなくてもゲームクリアはできる寄り道ストーリーである。
聖勇にはクリアしなければならないメインクエストの他に、各地で受けられるサブクエストがあるのだ。大半は報酬目当てで全部受けるんだけど、中には報酬がしょぼすぎて放置されるクエストや、攻略本無し組だと気づかずスルーしてしまう期間限定クエストなどいろいろあった。
そんな中で、“ゴブリン軍の進撃”はわりと有名なクエストだ。サブクエストで有名と言うことは、つまり経験値稼ぎに有効だったり報酬が良いということである。
(内容も簡単だしな。ボスゴブリンが誕生し、このままだと大きな被害が出る。だからイベント用ダンジョンである“ゴブリンの巣”でボスゴブリンを倒すってだけだから)
要するに、ゴブリンだらけのダンジョンを攻略してボスを倒すだけの簡単な内容だ。進撃とは言っているが、実際は進撃される前に倒しちゃうってイベントである。
何でこのイベントが有名な、つまりおいしいイベントだと認識されているかと言えば、まず第一に経験値稼ぎとして有用だからだ。
このイベントダンジョン“ゴブリンの巣”にいるのは、名前の通りゴブリン種だけだ。
低級ゴブリンなんて笑っちゃうくらい弱いのに、それこそ序盤でも使える最下級全体攻撃でも一撃死するくらいなのに、それが一度の戦闘で沢山出てくるダンジョンだということだな。一体一体の経験値は全然たいしたこと無いけど、数は力なり理論で相当おいしい狩場になるわけだ。
まあ、現実化した今は経験値を得てレベルアップはできないだろうけどね。本格的にゲーム式レベルアップ術を実践したこと無いから、絶対に無いとは言い切れないけど。
そして第二に、資金稼ぎとしてもなかなか優秀なのが上げられる。
何でかと言えば、“ゴブリンの巣”にはランダムで沢山のアイテムが設置されているのだ。設定的には、ゴブリン達が方々から集めてきた宝ってことだったかな?
纏めると、序盤的に言えばこのクエストをこなせばそこそこレベルも上がって資金にも大分余裕がでるってことだな。
あくまでも、序盤での話だけどさ。所詮ノーマルゴブリン程度が集めてきた低級アイテムだし。
(……でも、これチャンスだよな? もしゲームと同じような展開だってんなら俺自身を鍛えるにも丁度いいし、何よりも金稼ぎにうってつけだ。確かこの手のダンジョン捜索で見つけたアイテムの所有権は発見者にあるはずだし、今の俺には都合がいい話だよな)
俺は母上から教わった法律を思い出しつつ、内心で笑みを作った。
もちろん、ゲームとの差異がまるでわかっていない以上楽観は危険だ。危険だが、それでもここで引く手は無い。
まあ、どっちにしろ初仕事として命じられているんだから断る選択肢は無いんだけども。
「わかりました。ゴブリンの討伐隊に加わります」
「うむ。それと一つ忠告しておくが、今回のゴブリンは少々妙な動きを見せているのだ」
「妙な動き?」
「ああ。本来ならばゴブリン如き、徒党を組むとは言ってもそこに戦略は無い。だが、今回のゴブリンの群れはどこか知性と戦略を感じさせる動きを見せているらしいのだ」
……つまり、ゴブリンにしては賢いってことか?
ボスゴブリンが普通の奴よりも頭いいのかな? それとも、より上位種が群れを率いているとか?
ゴブリンは基本雑魚だけど、最上位種のゴブリンキングともなればラスダンに出てくるくらいには強くなる。そんな最上位種クラスなら、頭の出来も人間以上かもしれないし。
……流石に、そんなのはいないと思いたい。絶対勝てないし。
「ま、まあ大丈夫でしょう。その程度、修行のつもりで蹴散らしてやりますよ」
「うむ、その意気だ。お前も最低限の基礎は身につけた。そろそろ実戦の中で身につけた技を鍛える段階に入ってもいいだろうからな。……とは言え、あくまでもまだ見習いだ。サポート役としての本分を忘れるではないぞ?」
「わかっています」
実戦の中で鍛えるか……。これでゲームばりに高速レベルアップできれば最高なんだけど、もしそれができるのだったらこの世は強者だらけだよね。あくまでも、レベルアップ的な意味ではない戦闘経験と言う意味だろう。
……まあ、マジでゲームと同じように戦い続けたら滅茶苦茶強くなれるかもしれないけどさ。確実に疲労からくるミスで死ぬだろうけど。
(ま、とりあえず頑張りますか)
俺はもろもろの思考を打ち切り、気楽に行くことにした。
ゴブリンなら何度か斬ったことのある相手だし、肩の力を抜いた方がいいだろ。あわよくば小銭ゲットくらいの気持ちでさ。
つーか、親父殿がいれば大半の脅威は脅威じゃなくなるだろうし――
「今回の任務、私は別件で参加することはできない」
「え!? そうなんですか?」
……親父殿がいないってだけで、安全性が三割くらい下がった気がする。
で、でも大丈夫だよね? 今の俺なら大丈夫だと判断しての任命だろうし、親父殿に不安は見られないし。
「うむ。だからレオン、お前は指導者となる騎士の命令に従い、その技をよく見ておくといい。実戦で振るわれる騎士の技は、きっとお前の財産になるだろうからな」
「はい……。ところで、一体私は誰に付くことになるのですか?」
「ああ、本決まりではないが、第一候補は決まっている。名をシルビィ・スタッカート。銀麗剣の二つ名で知られる、優れた剣の使い手である女性騎士だよ――」
◆
(ゴブリンの巣攻略かー。本当に懐かしいな)
遠い過去の記憶になりながらもはっきり思い出すことができる、平和にスナック菓子でも食べながらゲームプレイしていたときを思い出す。
当時はただの金稼ぎ、経験値稼ぎでしかなかった攻略。しかし、これから行われるのは命を賭けた実戦だ。否応なしに力が入ると言うものである。
肩の力を抜いて気楽にーなんて思ってたけど、実際に集合場所に指定された、騎士団所有の建物の中にある会議室で座ってると緊張する。
実際に剣と鎧を身につけてるせいか、強制的にもろもろの走馬灯がよぎってガクブル一歩手前だよ我ながら。
「む、早いなシュバルツ」
「あ、メイも来たんだ」
また前回試験会場に行ったときのように、道に迷ってギリギリにはなりたくない。そう思ってかなり早めに来てたんだけど、ちょっと早すぎたのか誰もいなかった。
それはそれで何か不安だなーと思っていたら、知り合いであるメイが入ってきた。格闘家として完全武装してるし、彼女もこの仕事に参加するのだろう。
「しばらくは会わないと思っていたが、随分早く再会することになったな」
「そうだね」
俺は近況報告がてらメイと雑談を交わしていく。ぶっちゃけ暇だし、知り合いと話して緊張がまぎれればいいなって感じだ。
……にしても、この子また強くなってるな。内側から感じる圧が更に強くなってるよ。この成長スピードが勇者の仲間にふさわしいって奴なのかね?
「ん? 誰か来るね」
「ああ。弱弱しいが尊大な気配が近づいてくるな」
メイとしばらく話した後、部屋に近づいてくる人の気配を感じ取った。どうも気影の技術を身につけてからというもの、気配に敏感になってしまってるな。
……ついでに、気配から相手の実力を読む能力にも目覚めてしまった。どこの漫画だって感じだけど、なんとなくわかるんだから仕方ない。まあ、気配を偽ることは難しくないって話だし、この感覚だけで相手を侮っちゃいけないって親父殿にも教わってるけどさ。
さて、そんな信憑性今一の感覚で近づいてくる気配を感知すれば……10点満点の3点くらいか?
正直あんまり強そうな気配じゃないな。まあ、こんな場所だから力を抑えてるだけって考えるのが自然なんだけど……どうも隠してるって感じがしないんだよな。と言うか、むしろ隠す気が無いって気を感じるくらいだ。
「2点だな」
「……辛口だね」
メイも似たような評価らしい。こと力にシビアな彼女らしい辛口評価だけど。
そして、俺たちみたいな子供にそんな陰口に等しい酷評を受けているとは知らず、件の気配の持ち主がついに部屋に入ってきたのだった。
「……おやおや~? ここは栄誉あるフィール騎士団の会議室のはずだよね~。いつから保育園になったのかな~?」
「……1点だったか」
(同感)
現れたのはバカだった。恐らく、この男も俺たちと同じ見習い騎士だ。よく思い出せないが、任命式のときに見たことがあるような気がする。
にしても、フィール騎士団なんて正式名称久しぶりに聞いたな。この国の名前がフィールってだけなんだけど、何故か皆その名で呼ばないんだよね。
「君達ねぇ、ここは騎士団なんだよ~? 僕ちゃんたちがいるべきなのはここじゃないだろぉ~?」
「……0点でもいいかもな」
俺と同じ近接剣士だと思われるその男は、クルークとはまた違ったオーバーリアクションで露骨にこちらを馬鹿にしてきた。
クルークのは自分をアピールする為の動きだが、コイツのはただひたすらむかつくだけだな。ぶっちゃけ、これただの挑発だろ。
まあ、それも仕方が無いことだけどさ。俺もメイも12歳の子供であるのは事実。多分18くらいだと思われる男からすれば、何でこんなガキと同列に扱われなきゃいけないんだと思うのは仕方ないと思う。
だが、その面構えを『バカ面』以外のなんと言えばいいのだろう? 嫌みったらしさ全開の表情を初対面の相手にかませる度胸は褒めるに値するかもしれないが、やりすぎてもはや顔芸になってるぞ……。
「ア、アード様! そんなことを言っては……」
「あ゛? 何か文句あるのか?」
「い、いえそのぉ……」
(あれ? もう一人いたのか。こっちの女の子には気づかなかったな)
よく見ると、男……アード? の側にもう一人いた。気配全然感じなかったな。
えーっと、アードさん……なんて敬称つけたくないな、年上だとしても。礼儀の問題で同い年以上には敬称をつけてるけど、コイツの場合は口に出すとき以外は呼び捨てでいいか。
とにかく彼に比べると、随分印象が違う。一緒に来たみたいだけど、友達って感じじゃないな。性別の違い以上の溝を感じるし。
アードが長身で無駄に自信満々なのに対し、この女の子は小柄で妙におどおどしている。今までの経験のせいで俺からすれば全然怖くは無いが、それでもガタイのいい男に威圧されたんだから当然かもしれないけど。
(何つうか、小動物みたいな子だな)
そのおどおどした様子は、とても庇護欲をそそられる。一応俺たちよりは年上のはずだけど、体つきと雰囲気のせいで年下のような印象を受けるんだよな。まあ、実際中の人的な意味では俺のが絶対年上だけどさ。精神年齢的にはどうか知らんけど。
女の子は装備から考えて、多分術士だな。ローブに杖と、王道魔法使いファッションだ。何の魔法を得意としてるかはわかんないけど。
でも、そんなものよりも印象的なのは、後ろで束ねられた髪の毛だ。遺伝子どうなってんだとツッコミいれたくなるような、海をイメージさせるような深い青色の髪。本人の快活さをよく表しているメイの太陽のような赤い髪とは対照的で、とても静かな印象を与えていた。
……胸周りは五十歩百歩だけど。
「がふっ!? い、いきなり何を……?」
「いや、すまんな。何か不愉快なオーラを感じたせいでつい殴ってしまった」
……すいませんでした。言葉にしたら更に殴られそうだし、心の中で謝っておこう。ただ、気配を察知しただけでわき腹にひじは止めてくれ。結構効いた……。
「にしてもメイ、思ったよりも大人しいね」
「どういう意味だ?」
「いや、なんとなく売られた喧嘩は予約してでも買うタイプだと思ってたから」
俺は青髪の女の子とアードを観察すると同時に、メイにも違和感を覚えていた。
メイの性格上、ここまで面と向かって侮辱されれば即ぶん殴るくらいのことはしかねないんじゃないかと思っていたのだ。いざと言うときの為に、メイを止められるよう少し椅子を引くくらいのことはする程度には本気で。
だが、メイからは全くその様子を伺えない。闘気どころかほんの僅かな怒気すらも感じ取れないのだ。不注意なこと考えた俺へのは除いて。
「その印象には一言文句を言いたいが……なんと言うか、物足りんのだ」
「物足りない?」
「ああ。見てみろあの姿を。自分より弱いものを甚振る弱者。これほど醜いものはあるまい」
「なるほど……。そんなのと対等に喧嘩する気になれない、と」
「そういうことだ」
アードは仲間と言うか、従者のように見える青髪の少女へと高圧的に迫っている。どう見ても上級生が下級生を虐めているようにしか見えない。
これは止めに入るべきなのか? でも虐め問題なんてデリケートな話に何の予備知識もなく関わっても逆効果になるだけって気もするし……。
うーん……よし! ここは一つ、決断を丸投げしよう!
「止めに入る? なんだか虐められてるみたいだし――」
「断る」
「わー、即断だね……」
メイにどうするか判断を任せようとしたら、0.1秒くらいで拒否られた。いや、別にいいんだけどね。
「一応聞くけど、どうして?」
「本人の問題だろう。個人的に見ていて不愉快だから殴り飛ばすと言うのならありだが、あの女を助ける必要などない」
「厳しい意見だねー……」
「当然だ。もし力のない無力な民が不当な暴力を受けていると言うのなら、私は全力を持って助太刀するつもりだ。だが、彼女も我々と同じ戦士なのだろう? ならば自分で何とかしなければならない。戦う者にとって、弱いことは罪だからな」
「なるほどね」
確かに、ここは学校じゃない。見習いとは言え騎士が集まる場だ。過剰な庇護欲なんてのは無礼にあたるのかもしれない。
まあ、かつての自分の経験上、社会人なんて呼ばれながらも権力で虐めに走る奴なんて沢山いると知っている。だから、一人前だから一人で対処しなければならないって考えに全面賛成ってわけにもいかないけどさ。
いや、一人前じゃなくて戦士だからメイの意見でいいのか? その辺の心構えは今一わからんなー。
「はぅ……」
「全く、本当に使えねーなお前」
「すいません……」
「ふんっ! 所詮は卑しい生まれの人間だな。全く、何で由緒正しき名門貴族、アード家の人間である僕が下賎な者たちと同列に扱われねばならんのだ……」
(下賎って……。いや、まあ間違って無いけど)
アードは青髪の女の子を罵倒すると共に、チラッとこっちを見た。どうやら“下賎”の部分は俺達にも言っているらしい。
その言葉は何となくムカつくが、別に間違ってはいない。クン家はよくわかんないけど、シュバルツ家は貴族の家ではない。シュバルツと言う家名を持ってこそいるが、貴族ではないのだ。
この国、フィール王国では、貴族とそれに匹敵する家のみ家名を名乗ることを許されている。そんな慣習からもわかるように、シュバルツ家が貴族に匹敵する家であるのは間違いない。だが、決して貴族ではないのだ。
ぶっちゃけ、代々騎士として多大な貢献をし、財を成したことで家名を名乗ることを許されたってだけの家だからな。本質的にはただの腕自慢と言っても間違ってはいないのだ。
「それで、君達はなんでここにいるんだい? さっさと帰らないと大人として少々乱暴な手段にでないといけなくなるよ?」
「大人? 随分大人気ない大人がいるものだな……。それが本気か冗談かは知らんが、その口をそろそろ閉じねばいらない恥をかくことになるぞ?」
「……君、何様?」
「お前に言われたく無いな」
さっきまで無視を決め込んでいたのに、メイは急にあのアードに対して敵意を見せ始めた。多分クンの家まで馬鹿にされたことが頭にきたんだろう。
メイは家自体はどうか知らないけど、親父さんに対しては凄い敬愛の念を持ってるからな。間接的にとは言っても、父親を侮辱されるのは許しがたかったんだろう。
まあ、相変わらずわずらわしさを隠す気なしの適当な態度は崩して無いけどさ。
「……君、高貴な貴族にして個人としての実力まで認められている騎士たる僕に対してあまりにも礼節を弁えていないね。一体どこの子供なんだい?」
「はぁ……。それも分からずに挑発していたのか?」
「当然だろう! 僕はかのアード家の人間なのだよ? 君達がどこの馬の骨かは知らないけど、僕が何で遠慮しなければいけないのさ?」
(ノーブス……ノーブレス? いやノブレスだったっけ? ……覚えてない言葉を無理に使うことは無いか。とにかく高貴なる者が背負うべき義務とか全く果たしそうに無い、典型的なダメ貴族って奴かな?)
自分の家柄を鼻にかけて中身の伴わないボンボン。それが俺のアードに対する評価だ。そのアード家ってのがどのくらいの家柄なのかぶっちゃけ俺も知らんけど、とりあえず俺らがアードよりも上の人間だったらどうするつもりなんだこいつ?
いや、それ以前の問題か。俺たちが家柄的に自分の下であるとしても、だからって見下していいわけが無い。上に立つ者が下の者から受けるべきは尊敬であり、怒りや恨みではないって親父殿も言ってたし。
「何を騒いでいるのだ?」
「ムッ!?」
(……今度は気づかなかったな)
アードとくだらないやり取りをしていると、長い銀髪を腰までたらした女性騎士が部屋に入ってきた。
さっきのアードは気配だけでかなり離れた場所にいても感じ取れたのに、この人は目の前に現れて声をかけられるまで気づかなかったな……。
「おや、失礼ながらどちら様かなレディ? 僕はかのアード家――」
「あー、自己紹介の時間は後で設けるからとりあえず黙ってくれ。まず私について話す」
いかにも貴族らしいと言うか、実益第一主義の俺からすると無駄が多い動きで礼をとろうとしていたアードを押さえ、さっさと銀髪の騎士は会議室の上座に座ってしまった。
「まず私の名はシルビィ・スタッカート。今作戦において、レオンハート・シュバルツ。メイ・クン。アパーホ・アード。リリス。以上四名による小隊の隊長を任された者である!」
そうして、銀髪の騎士――シルビィ殿は、自分がこの作戦における俺たちの上司であると宣言したのだった。




