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【番外編完結】他力本願英雄  作者: 寒天
赤い目との戦闘
28/241

第24話 無理なもんは無理

新章です。

この章からようやく『知識チート』が爆発する予定です。

「やれやれ。相変わらず訳わかんないな」


 俺は今日、自宅にある錬金術工房へとやって来ていた。

 何でそんなもんがあるんだとツッコミ入れたくなるが、これはこの世界の上流階級からすると持っていて当然の設備らしい。


 錬金術。これはゲーム時代からあった要素で、簡単に言うとアイテム合成のことだ。金を作ると言うよりは、金からアイテムを作るシステムである。

 つまり、薬草三つで簡易ポーションを作ったりとか、鉄の剣と月の石を合成して月光の剣(ルーンブレイド)を作ったりとかだな。

 これを行うためには、各地にばら撒かれている錬金術のレシピと素材アイテムが必要になる。レシピが無いと合成欄に物が表示されないし、素材アイテムが不足していると当然錬金はできないわけだ。

 逆に言えば、レシピと材料があれば工房でアイテム作りたい放題ってことだけどな。


 この錬金術、ゲーム時代で考えれば超重要だ。そしてもちろん、今生きている俺にとっても切り札になりえる要素だと考えている。

 と言うのも、聖勇で手に入る主要な装備は全て錬金術で作り出すものなのだ。唯一の例外は勇者専用装備である女神の聖剣だけど、それ以外の防具やアクセサリーなんかは全て錬金術頼りだと言っていい。

 仮に錬金なしなんて縛りプレイをやった場合、最終装備は中盤レベルの店売り装備になるだろうってくらい依存しているのだ。


(勇者を助けるまではもちろん、勇者に魔王を倒してもらう上でもこれは絶対に外せない。まあ錬金なしプレイが不可能って訳じゃないけど、流石に命かかってる現実でそんな博打は打ちたくないからな)


 錬金術を駆使して強力な装備を作り出す。それさえ成功すれば俺自身の強化はもちろん、国の防衛にも大きく貢献することとなるだろう。

 そんなわけで、俺はこの錬金術ってシステムをゲームと同等以上に使い倒してやりたいと考えている。考えてはいるんだが……正直、最初の一歩から躓いてるんだよねこれが。


「ったく、ゲームみたいに素材を揃えれば簡単に作れないもんかねぇ」


 そう、ゲームならば話は早かった。レシピと素材用意すればいいんだからな。

 レシピの入手場所を全て覚えているわけじゃないけど、主要なものは全部秘密のメモに記録してあるし、重要な素材にいたっては絶対に忘れないほど深く魂に刻まれている。

 ……最強装備素材みたいな、重要度の高いものに限ってなかなか出ないからな。アイテムコンプの修羅道に挑んだものならば、俺じゃなくても忘れたくても忘れられないくらいに記憶されているだろう。

 まあそれはともかく、この世界の錬金術がゲームと同じならば、俺はあっさり目的の物を作り出す自信がある。そしてうれしいことに、今まで確認できたものの範囲では俺の知識と差異があるものはないのだ。

 これはもういける。ついに実力無視の最強装備を手に入れるチャンスだーと思ったのが……四歳のころだ。自宅の書斎で錬金術の基礎中の基礎、薬草ポーションの調合材料を見たときだったな。


(ま、いつものように失敗したんだけどさ。そりゃもう、盛大に)


 俺は錬金術を行える設備が全部自宅に揃っていると知ったとき、当然のように実行しようとした。でも、完膚なきまでに失敗しちゃったんだよねこれが。


(最初の関門はゲーム通りに素材集めだ。その最初の一歩でまず盛大に躓いたんだよなぁ)


 俺がとりあえず作ろうとしたのは、ゲーム時代でもお馴染みだった“薬草ポーション”だ。町の外で山ほど拾える低級薬草って名称のアイテムが三つあればできる、お手軽回復薬である。

 薬草単体でも回復効果はあるんだけど、ポーションにしておくと三つ使うよりも高い効果が得られ、なおかつ店売り単価が薬草よりも高い。それ故、金のない序盤の金稼ぎとして広く知られた方法だった。

 つまり俺は四歳のころ、ゲームと同じように薬草金策しようとしたわけだ。使える金は多いほうがいいからな。

 まあシュバルツ家の財産を考慮に入れればしゃかりきになって金儲けに走る必要はなかったんだけど、魔王が実際に攻めてくるまでは俺のやろうとしていることなんて全部子供の妄言だしな。親父殿に許可を取らねば動かせない金なんて、無いものとして扱ったほうがいいだろう。

 そう考えて、何も知らないくせに世界の真理を知ったような気になって活動開始したわけだ。


 でも、まだあのときの俺は貧弱な幼児でしかなかった。当然のことながら、外に出る許可なんてもらえるわけがない。五歳のときの魔物突撃事件よりも更に昔のことだしな。

 でも、当時はまだ修行も始まってはいなかった。つまり、暇だったんだ。その時間の猶予を無駄にしている余裕は無いと、俺は何も考えずに活動を開始したんだよな……。



(薬草を探そう。沢山集めてポーション作って売り続けたら騎士になるころには上級装備とか買えるかもしれないし!)


 これが、俺が錬金術の工房を知ったときの発想だ。我ながら、あらゆる意味で考えが足りなかったな。


(とりあえず庭でも探してみようかな。フィールドじゃあちこちに生えてたし、きっとこれだけ広い庭なら薬草の一つや二つあるだろう)


 なーんて、俺は愚かにも考えた。普通に考えて、シュバルツ家の庭に薬草が生えてたらそれはシュバルツ家の栽培しているものだとわかりそうなものなんだが、当時はアイテムなんて拾って当然の物だと思ってたからな。

 まだまだゲームと現実の違いがわかってなかったころの話だ。思い出すのも恥ずかしい。


(あっ! あった! ……草が)


 俺はあの時、自由に庭を一人で散策した。まあ、厳密には一人じゃなかったんだろうけど。

 なんと言っても、俺は幼児だったんだ。まだまだ目を離すと危ない時期に見えただろうし、四歳になっても片言でしか喋れない子供だったからな。当時は全く気づかなかったけど、きっと執事さんがばれないように監視していたはずだ。

 まあ、見ただけでは無邪気な子供が草花に興味を示し始めたようにしか見えなかったんだろう。俺は特に止められることも無く、存分に庭の草を調べまわったんだ。

 ……当然、薬草の知識なんて全くないままに。


「わかんないよ! どれが薬草でどれが雑草なの!?」


 ゲームだったら、採取ポイントはキラキラエフェクトが表示されていた。それに、アイテムを手に入れたら当然のようにその名称と効果説明を見る事ができた。

 でも、現実にそんな便利機能はない。薬草が欲しければ、辺り一面様々な草花で覆われた庭の中から目的の物を探し出す知識が必要だったのだ。


(うー……こうなったら、書斎にある図鑑で一から調べるか……)


 低級薬草の名前しか知らない当時の俺は、当然一つ一つ調べるしか方法はない。当然、その効能も含めてだ。

 結局それしかなかった。ゲームだったら~なんて発想で動いていた当時だけど、それはゲームだから簡単にできたんだってことを一々突きつけられたんだ。

 まあ、それでもこの件は比較的楽な方だったけどな。対処法、自宅にあるんだから。


(薬草薬草……ああ、これか。この葉っぱの形を覚えておけばいいんだな?)


 俺は図鑑で目当ての薬草を調べ、改めて庭での採取活動を行った。今にして思うと、“薬草”と言っても怪我に薬効がある草なんていろいろあるだろってツッコミ入れちゃうけどな。まだ文字も完全に理解してなかったのに、よくあそこまで自信満々だったなと我ながら思う。

 と言うか、ちゃんと錬金術のレシピと照らし合わせるまでやってようやく正解なんだけど、まあ関係ないか。どうせ失敗だし。


「お? これじゃね?」


 そんな風に、俺は不安要素しかない知識を武器に薬草を採取した。当然、その摘み取り方一つとっても草むしりと大して変わらない、本職が見たらその場でぶん殴られるようなやり方だ。

 そうして手に入れた、名前をつけるなら『千切れた薬草(?)』とでも言うべきものをもって、今度は無断で家の錬金工房を使うことにしたんだ。

 ……まあ、流石に危ないからって突然現れた執事さんに止められたんだけども。錬金術工房って、刃物とか火を出すものまでいろいろあるからね。


 でも、当時の俺は諦められなかった。一刻も早く強くなって、今の俺の年齢になるころには対魔王軍装備を一式揃えている予定だった俺としては、さっさと金稼ぎをやりたかったんだ。

 そこで、俺はスニーキングミッションを発動させた。要するに、みんなが寝静まったころにこっそり設備を使ってしまおうとしたわけだ。

 今にして思うと怖すぎる話だな。知識経験全てゼロの小僧が錬金設備一人で使おうってんだから。

 実際、もしそんなことが実現していたら下手すりゃ火事の一つも起こっていたかもしれない。それを考えれば、あんな結果に終わったのはむしろ喜ぶべきことかもしれない。

 まあ、個人的には情けなさ過ぎて全然喜べないんだけど……。


「……薬草ポーションって、薬草三つあればできるんだよな? ……何をどうすればそうなるの……?」


 俺は工房で器具を目の前にしてから始めて気が付いた。ゲームなら材料さえ持ってくれば錬金できたけど、現実では当然それも一つの作業なんだってことを。

 まあ要するに、錬金すると言っても何をどうするかわかんなかったわけだ。そうは言っても、俺は手順を示したレシピ書を持ってはいたんだけど……断言しよう。手順の書いてある紙と材料。それだけで科学者の真似事ができる奴なんてまずいないってことを。もしそのくらい誰でもできると言うのなら、前世に理系の大学なんてものは存在しなかったのだと言うことを。

 いや、実際無理だよあんなの。レシピ書に書いてある手順の内半分くらいは単語の意味からしてわかんないし、工房にある器具にしても使い方どころか名前すら知らないんだから。


(錬金は立派な仕事だ。この世界には専門の技術者がいるくらいには難しい作業なんだ。それをド素人が一人でやろうって言うほうが無茶なんだよな、大体)


 こうして、俺の錬金術で金策計画はやる前に終了した。

 一人真夜中に質の悪い薬草とレシピ書を手に持って立ち尽くした思い出。それが俺にとっての“錬金”だったわけだ……。



 そんな過去の思い出を振り返りつつ、俺は改めて目の前にある様々な器具を見渡す。そして、手に持っているきちんと処理した薬草を丁寧に台に乗せた。

 俺も少しは成長した。錬金術は魔法学の一種とされるもので、日々俺に殺人か拷問目的としか思えないポーションを作るグレモリーのジジイの得意分野でもある。

 ゲーム時代にすら存在しなかったモンスターゴーレムなんてものを趣味で作り出すその手際からも判るとおり、グレモリーは錬金の分野でも超一流だ。仮にもそのグレモリーを師匠とする俺は、その立場を全力で利用し、錬金術にも手ほどきを頼んだ。

 その甲斐あって、『この手の精密作業には全く才能ないな。趣味でやりたいと言う分には止めんが、錬金術師を目指すのは止めといたほうが良いぞ?』と言われながらも一応基礎を学ぶことはできたんだ。

 ……俺、理科ができないと言う意味での文系なんだよね。今はバリバリの体育会系だけど。


(薬草ポーションの作り方は超簡単。処理した薬草を一定温度の錬金術液で煮詰めるだけだ。錬金術では基本中の基本であり……その腕前はこの出来を見ればわかると言われるものだ)


 ゲームレシピにおいて、薬草ポーションに必要なのは薬草三つだけ。その知識は間違ってないが、実際には他にもいくつか共通素材を用いる必要がある。

 その一つがこの錬金術液。パッと見ただの水だけど、非常に魔力との親和性が高い錬金術のお供だ。薬物を作る錬金において、ほぼ間違いなく使用すると言っていい。

 それらを使って、慎重に俺は薬草を煮詰めていく。この薬草はサバイバル修行のときに親父殿から習った方法で採取したもので、未熟ながらも品質としては問題ないもののはず。

 材料、手順を完璧に揃えた以上、これは絶対に成功するはずなんだ……!


「えっと……これで、いいのかな?」


 レシピ書に書かれている時間通りに薬草を煮込んだ。これで、何か不備がなければ完成しているはずだ。

 俺はフラスコの中でグツグツ煮えている緑色の液体を別の容器に移し、じっくりと眺める。眺めたからって何かがわかるわけじゃないんだけど、これが俺の初作品なんだ。


(とりあえずジジイに見てもらうか)


 自分では成功したのかすら判断つかない。この理科の実験的な分野は俺にとことん向いていないらしい。

 だが、それでも俺はやり遂げた。世界を救うためには絶対必要なんだと自分を励まし、ついに一応の成功をみた。どのくらいうまく言ったのかも判らないとは言え、それっぽいものは完成したんだ。

 それを踏まえて、俺は一つの確信にいたる。ぶっちゃけ最初から判っていたことなんだけど、初歩の初歩だけでも自分の手でやってみて、確信に至ったんだ。


(うん、俺には無理! いや、このどこにでもあるポーション一つ作るのに何年かけてんだよマジで)


 錬金術に手を出そうとしてからここまで来るのにかかった時間は、実に8年。一番簡単な入門編をクリアするのにこれじゃあ、俺の望む伝説級の上級アイテムなんざいつ作れるかわかったもんじゃない。

 ……いや、仮に錬金術の勉強に人生を費やす覚悟ならもしかしたらって可能性はあるけどね。言い訳になるけど、8年かけたと言ってもその大半は修行に費やされたわけだし。毎日死体と区別つかなくなるまでしごかれていく生活の中に、錬金術なんて魔法と科学の融合みたいな学問を学んでいる余裕はほとんどなかったんだし。

 でも、だからこそ自力では絶対に不可能だと確信できる。俺はこの先、魔王が勇者に倒されるその日まで鍛錬を怠るわけにはいかない。ならば、錬金術のプロになるのは不可能と言うことだ。

 もしかしたら、最初の一歩を踏み出せればトントン拍子に技術身につくんじゃないかな。……なんて妄想もしてたけど、入り口に立っただけでも不可能だと思い知らされる結果だったよって話だな。

 今にして思うと、レシピを手に入れた瞬間に『全ての錬金術師が目指す頂点』なんてフレーバーテキストが書かれていた賢者の石とかですらあっさり作り出した主人公ってどんな化けもんなんだ? 女神の聖剣に選ばれる勇者はあらゆる分野で超天才なのか?


(これから先は勇者探しも重要だと思ってたけど、案外簡単に見つかるかもな。超天才児知りませんかって聞き込みしたら見つかりそうだ……)


 なんて軽く現実逃避しつつ、俺は使った工房の設備を綺麗に片付ける。

 恐らく、今後俺がこの設備を自分の手で使うことはないだろう。もしかしたら魔王問題が片付いた後の趣味としてやる可能性も0.1%くらいはあるかもしれないけど、きっと実用面では使わない。そんなことしてる暇があったら剣でも振ってるほうが百倍役に立ちそうだ。


(俺がやるべきなのは、修練の時間を削ってまで錬金術の勉強をすることじゃない。将来俺が求めるアイテムを作れる環境を作ることなんだ)


 肝心なのは、俺が完璧な錬金術の技術を身につけることじゃない。必要になったときにこの技術を使って欲しいものを手に入れられるシステムを作ることなんだ。

 具体的に言うと、人を雇うってことだな。それも、一山いくらのヘッポコではなく、レシピさえあれば万能薬だろうが伝説の魔剣だろうが生成してみせるような奴をだ。

 ……本当はグレモリーの爺さんに頼めれば最上なんだけど、あの人は自分の興味があることしかやらない超自由人だからなぁ。とても当てにはできない。

 あれは放置しておくのが一番の利用法である――って、親父殿も言ってたし。


(要するに、ここで最初の問題に戻るわけだ。つまり、金だな)


 そもそも、俺が薬草ポーションを作ろうと思ったのが序盤の金稼ぎだった。それを錬金の為に金を稼いで人を雇おうって言ってるんだから……なんか本末転倒だな。

 まあとにかく、人を雇うには金が要る。当たり前のことだが、結構なじむのに苦労する概念だ。

 何せ、俺にとって金ってのは物を買うためのものだった。それを人を使うために使うってのは、部下やら職人やらを当然のように動かす親父殿を見ていなければとても考えなかっただろうな。


 当然、人を使うのにはリスクがあるんだけどな。

 仮に、世間的には知られていないがゲームにはあった強力なアイテムの量産に成功したとしよう。それは当然、騎士達を始めとする国防力の強化に繋がるはずだ。

 だけど、逆に悪人の手に渡って俺に向けられるってことも十分ありえる。あのキルアーマーを操っていた奴みたいに、平気で人を傷つける人間は大勢いるんだからな。

 だから、協力を要請する錬金術師には能力のほかに人間性も求めなくちゃいけない。最低限、作り出したものの製法をむやみに広めないことを誓ってくれるような奴じゃないといけないんだ。

 ああそれと、素材アイテムの見立てや仕入れ、あるいは売却もやってくれるような、信用できる商人の仲間も欲しいな。俺一人で稼げる額なんて見習い騎士の給料だけだし……ちょっとどころじゃないくらい足りねーよって話だ。


 薬草一つとってもそうだが、素材アイテムなんて言っても種類がありすぎて俺にはとても把握しきれん。

 ゲーム表記の名前だけならほぼ記憶しているが、実際に石ころ一つ出されて『この石はなんだ?』と言われても見分けつかないんだ。

 そんな有様では、当然その物品の価値なんてわかるわけはない。となると、買うにしても売るにしても足元を見られるわけだ。

 商人って人種は金儲けのプロだからな。買うときは安く、売るときは高くしようとするのが当然だし、そんな海千山千の商人からすれば俺なんてただのカモだろう。最悪、高い金取られた挙句何の役にも立たない欠陥品を押し付けられるってこともありえるんだ。

 俺の見る目のなさは俺が一番よく知っているし、その辺をカバーしてくれる商売のプロを味方につけようと思っているわけだな。


(……俺の部屋、用途不明品で埋まってるんだもんな。俺にその手の才能は皆無と言って間違いない)


 俺の部屋には、修行のついでに集めてきたガラクタ類が大量に山積みされてる。

 あれは流浪の行のとき何かに拾ってきたものだ。場所的に有用な素材アイテムがあるのはわかってたんだけど、普通の草や石と見分けがつかなくて手当たり次第持ってきたあげく、今もその価値は一切不明のまま放置されてるわけだな。


(やっぱ俺一人にできることはあまりにも少ないな。必死に磨き上げた武力だってまだまだ発展途上なのに、他の分野に手を出そうってのがまず間違ってるんだろうけど)


 結局、俺は英雄じゃない。一人でどんなことでもこなせるような超人ではないんだ。

 厳密に言えばレオンハートは超人なんだけど、中身が凡人そのものの俺じゃあ凡人並みの働きしかできないって証明だな。

 だから、全部一人でやり遂げるなんて無謀な考えは捨てよう。今日わざわざ錬金してみたのも、全てはその決意を固めるためだったんだし。


(まずは金だ。そしてそれを使って信用できる人間を集める。それが見習い騎士に……そして遊撃騎士付きになった一番の理由だ。俺は俺を高めるので精一杯。だから――俺にできないことは全部他人に丸投げすることに決めたんだ!)


 これぞ俺の人生プラン“人生できることだけ全力でやりゃいいんだ”である。あるいは“できないことはできる人に任せりゃいいんだ”計画でもいい。

 世界を救うのは勇者に、錬金するのは錬金術師に、金勘定は商人に、そして剣を握るのは騎士に任せればいいんだ。ならばレオンハートである俺も、俺にできることだけ全力でやり遂げればいいんだ――と言う、一見立派に見える他力本願全力の主張だな、うん。

 いや実際、やりたくても俺にはできないんだから仕方ないよね? 仕方ないことにしよう。

 ……まあ、勇者だからってだけで世界の命運託される主人公はたまったものじゃないだろうけどさ。こんなこと考えもしないからこそ勇者であり主人公なのかも知れないけど。


(もっとも『そんなことは無い。勇者だって世界の命運なんて背負うようなプレッシャーに潰されそうなんだ! 勇者だからってだけで世界を任せるなんて、弱者の傲慢だ!』とも考えられるけどね)


 こんな主張をする人、是非俺の前に現れてくれ。もし来てくれたら、速攻レオンハートの役割を代わって欲しい。

 俺がミスったら勇者が勇者になる前に死亡するとか、プレッシャーで毎日死にそうなんだけど。


「なんて、泣き言言っても仕方がないか。とにかく今は見習い騎士として全力で働いて、金と評価を集めることだけを考えよう。期日までに上級騎士になって、魔王に対抗できるような設備を整えなきゃいけないんだからな!」


 世界を巡る遊撃騎士の仕事ならば、俺の望む場所に行くこともある。そうなれば、俺が何人か考えている“ゲームで出てきた信用できる人間”と出会う機会もあるだろう。

 完全に他人と言うか、ゲームのキャラクターとしてしか知らない人間を信用するってのもアホらしいけどな。メイだって、俺の知ってるミーアイとはかけ離れた人格の持ち主だったわけだし。

 ……でも、とりあえずこれくらいしか心当たりないからな。少なくともゲーム中では善人と描写されていたキャラクターを探して、後は自分の目で判断していくしかないか。


(よし、方針は決まった! 後は早く仕事して、ちょっとでも多く金策に走るか!)



「ふむ、山賊退治か。誰か遊撃騎士を向かわせるのが常道だな」

「そうなのですが……ガーライル副団長。少し気になることがあります」

「む? 何だ?」

「はい。その資料にも書いてあるのですが、賊の首領に関してです」

「ふむ……」


 私はいつものように自分の執務室で部下からの報告を受けていた。

 目の前にいるのは、騎士団の中でも諜報活動に特化した能力を持った優秀な男だ。我々剣を振るうしか能のない戦士は、彼らのような斥候が動いてくれねば何もできんからな。影の仕事とは言え、だからこそ日々の感謝を忘れてはならない。

 そんな男が気になることがあると言う。それを虚ろにするのは自殺志願にも等しいことだ。そう思い、私は言われたとおりに首領について書かれたページへと目を走らせたのだった。


「む……なるほど。山賊風情とは思えない力だな」

「はい。私が集めた情報によれば、この力は並みの騎士を凌駕します。この盗賊団自体、首領の戦闘力を慕って集まった者で構成されていますからね」

「治安を預かる我々としてはなかなかに脅威と言えるな。だが、これほどの男が何故山賊などに落ちぶれたのだ? いやそれ以前に、これほどの使い手の名すら聞いたことが無いと言うのも不思議だな」

「はい。この男の過去についても調べましたが、元騎士やそれに匹敵する強者であったと言う情報はありません。それどころか、山賊の首領となる前はどこにでもいるチンピラと言った程度なのです。情報を素直に信じれば、突然ものすごく強くなったから山賊稼業を始めた……となるのでしょうか?」

「うむ……。俄かには信じがたいな。何かきっかけを掴んで急成長するくらいならわかるが、ただのチンピラが多少成長した程度でこんな真似は不可能だろう……」


 手元の資料によれば、この男は根城近隣の村を単騎で制圧している。

 流石に騎士が常駐している大きな町は避けているようだが、それでも何人かは戦士がいたはずだ。大きな町から離れている以上、流石に戦士ゼロでは魔物のエサになりにいくようなものだからな。

 そんな場所を単騎制圧となると、相当の実力が必要になる。倫理的な面を除外して考えれば、正規の騎士であっても同じことができない者だっているだろう。


「既に相当の被害が出ていますので、早急に対策が求められます。が、並みの騎士を派遣しても恐らく被害が広がるだけでしょう」

「そうだな。少々穿った考えだが、この首領とやらはただの操り人形で、背後にもっとでかい闇が潜んでいると言う恐れもある。現状だと少々不明な点が多すぎるな」

「……申し訳ありません。私の力不足です」


 ……まあ、正直なところこの首領とやらの力の源だけでも知りたい。

 時間的に、鍛錬で伸びたとは考えにくい。ならば考えられるのは、強力な武具を入手したとか、あるいは別人が化けていると言ったところだろう。その辺が正確にわかれば、首領の力もおおよそ判断できるのだがな。

 とは言え、それほど悠長に構えている余裕も無い。この男が組織していると言う山賊団の被害は相当なものだからな。

 恐ろしいことに、この男が襲った村の住民は一人残らず行方不明になっているらしいのだ。

 一体彼らがどうなったのかは推測するしかないが、どう考えても幸せな結末は待っていまい。どちらかと言うと、最悪の結末を想定したほうがいいだろう。


(この集団誘拐のせいで山賊団の活動に気づくのが遅れてしまった。これが情報隠蔽の一環だとすれば大したものだが、そこまで考えているのか?)


 普通の山賊盗賊ならば、女性や労働力になる若い男性を攫いはしても、役に立たない老人まで一々攫いはしない。無論放置すると言う意味ではなくその場で殺すと言う意味だが、とにかく何らかの痕跡を残すものなのだ。


(通常、非協力的な人間を連れて歩くのはかなりの重労働だ。それも体の弱った老人や未熟な子供までとなると、とても考えなしにやれるよな作業ではないはずだ)


 それなのに、この一味は一人残らず村人を攫っている。魔物に襲われるリスクを考えれば危険すぎる話だな。

 しかも、こやつらは奴隷として被害者を裏社会に売り飛ばすようなことすらしていないのだ。

 もちろん奴隷など国法で禁じられているが、ルールを守らない者など地下には沢山いる。通常と言うものおかしいが、誘拐犯共は裏社会で人身売買を行うのが通例だ。

 だが、そこにすら被害者は誰一人として現れていない。下種な屑共が若い女性をどう扱うかは考えたくも無いが、男性や子供、老人は一体何の目的で連れ去ったのかがわからん。


(子供は人質か? だが反乱の恐れもある若い男性は奴らにとっても危険なはずだ)


 労働力として使えるとは言っても、同時に反乱の恐れがあるのも間違いないからな。短期的に拘束するならまだしも、長期的に手元に置くのは流石に危険すぎるはずなのだ。

 もしかしたら攫った後で殺しているのかもしれんが、情報隠蔽目的ならばいずれはばれる。いくら死体一つ無いせいで事件発覚が遅れたとは言っても、複数の村が無人になるなんて事になれば今回のように流石に調べるからな。とても集団を誘拐するなどと言う危険を犯すには割が合わないだろう……。


(……わからん。わからんが……危険なのだけは間違いないな)

「どうしますか? 私としては、想定される戦力を三割り増しにしてから部隊を送り込むべきだと思うのですが」

「……そうだな。一つ戦力を派遣するとするか」

「では、私が人員をリストアップしましょうか? 現在動ける遊撃騎士の中で選りすぐりの戦力を――」

「いや、必要ない。私自らが行くからな」

「――はい?」


 私の言葉を聞いて、この冷静沈着な男の顔に判りやすいくらいの困惑が浮かんだ。まあ、気持ちはわかるがな。

 本来副団長たる私がそう簡単に現場に出向いてはいけないのだが、この一件は何か危険な匂いがする。これは最高戦力で一気に畳み掛けるべきだろう。

 ……それに、別件で人数が必要なことだしな。


「な、何を言っているのですか副団長! アナタは国家の最高戦力なのですよ!? それが――」

「そんなことは言われなくても判っている。だからこそ私が行くのだ。この一件、どう考えてもただの山賊事件ではなさそうだからな」

「――!! な、ならば供を! できる限り強力な騎士を数名つけて――」

「いや、人員は他に回ってもらいたい。この一件に勝るとも劣らない厄介な難題が一つ挙がっているからな」

「な、なんですか?」

「――ゴブリン軍の誕生、だよ」

彼は偉大な賢者でも知らない伝説の作り方を(材料だけ)知っている知識チートです。

まあ、だからと言ってそれが作れるわけじゃないですけど。

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