第23話 合格
「久しいな、シュバルツ」
「やあ、五日ぶり。もう傷は治ったのかい?」
「ああ、久しぶり。メイ、クルーク。もう怪我は治ったよ」
俺たちは、今日正装してとある式典にやって来ていた。正装と言うか、まあ鎧姿なんだけど。
会場には俺たちみたいな当事者のほか、何人かの関係者が集まっている。要するに、そこまで大々的な催しじゃないってことだな。
あの見習い騎士試験から既に五日。普通ならまだまだ怪我で動けないくらいのダメージを負ったつもりなんだけど、もう完全回復した俺は何でもないようにここにいる。
全身がボロボロになるほどのダメージを負ったほか、自分の加速法の反動と感電。その他もろもろの重症であったが、三日ほどベッドの上で安静にしていたらもう治ってしまった。自分でもビックリの回復力だ。
……まあ、治ったからと四日目には修行を始める親父殿にもビックリだが。親父殿的には怪我を治すのに三日もかかっているようではまだまだ体ができていないらしいし、もう問題ないのにのんびりしていられるほど俺は強くないってことだな。
実際、ゲームの勇者一行は“さっきまで死んでいた”くらいの重症でも宿屋で一晩寝れば完全回復するのだ。
所詮ゲームの設定と言ってしまえばそれまでだが、多分この世界の戦士は一晩あればどんな傷でも治る脅威の回復力を持っているんだろう。まだまだ俺は甘いのだ、きっと。
「とりあえずおめでとうと言っておこうか。まあ、立場は同じなんだけどね」
「ありがと。そしてそっちもおめでとう。めでたく俺たちも見習い騎士の資格を得たわけだな」
「うむ。今回の試験で合格したのは私達とソウザ殿だけらしいな」
合格者四名。ってことは、つまり知り合いになった一人は落ちたってことだよな……。
「やっぱりハームさんはダメだったのか」
「まあ仕方ないさ。初戦で重症を負った末に敗北したわけだしね」
「不幸中の幸いと言っていいのかはわからんが、怪我は時間はかかるが治るらしい。体さえ治せば、奴ならば次の試験で合格できるだろう」
「そうだね」
今試験で合格したのは四人。俺とクルークとメイ、それと格闘家のソウザさんだ。
途中棄権した俺もしばらくはベッドの上で合格できるのか不安だったけど、めでたく合格通知が来た。んで、見習いとは言え正式に騎士になったのだからと日々の訓練量が二割増しになった。
まあそれはいいんだけど、一回ハ-ムさんのお見舞いに行った方がいいかもな。別にそこまで親しいわけじゃないんだけど、と言うか戦闘スタイルと名前くらいしか知らないんだけど、まあ一応関係者だしな。
……って、ん? 何か騒がしくなってきたな。
「おや、そろそろ始まるみたいだよ」
「あまりこのような式典に興味はないのだがな」
「ま、賛成だけどさ。こう言うのは適当に流しておけばいいでしょ」
個人的にはメイの意見に賛成だ。あらゆる意味で、こう言った形式ばったものは好きじゃない。
でも、仕方ないよな。何せこの会場は――見習い騎士就任式なんだから。
「あー、静粛に願いたい。ただいまより、本年度見習い騎士試験合格証書授与式を執り行う」
壇上に上がった一人の騎士によって、会場は静まり返った。俺たち試験合格者も予め指示されていた場所に整列し、厳粛な雰囲気の中でじっと動かずに立ち続ける。
今から始まる授与式。まあ、学校の卒業式みたいなもんだな。別に資格証明書だけさっさとくれればいいと思うんだが、お偉いさんの長々とした話を聞いた末に一人一人時間をかけて手渡しして貰わなきゃいけないわけだ。
ぶっちゃけ、家に送られてきた合格通知と一緒に送ってくれたほうが手間がなくて良いと思うんだけどな。まあ、本年度の見習いのお披露目の意味もあるわけだから仕方ないっちゃ仕方ないんだけども。
「えー、見習いとは言え諸君らは騎士の一員となる。したがって、如何なる時もその心を忘れず――」
(あー、眠い。この偉い人のお話特有の催眠効果は世界共通なのか?)
実に不真面目なことだが、俺は既に意識のほとんどを睡眠状態へと持っていかれていた。
別にこの話を聞いていようが聞いていなかろうが何の影響もないだろうし、正直寝ていたほうが有意義だとすら思う。
まあ、レオンハートたるもの礼儀知らずな真似はできないと本当に寝はしないが、話に意識を集中させるのは勘弁してほしい。本当に寝てしまう。
(メイはいいよなぁ。話が始まって三秒で立ったまま寝たし。クルークも一見話を真面目に聞いているように見えるけど、実は何か別のことしてるみたいだしな)
俺はクルークとメイに挟まれる位置に立っているわけだが、まず右にいるメイからはスースーと寝息が聞こえてくる。多分ほんの僅かでも自分に意識が向けられれば目覚めるサバイバル用睡眠術だろうが、それでもこの状況で寝られる精神力はある意味羨ましい。
その反対側のクルークも、真っ直ぐ立っているように見せて意識は別のところにあるな。気影を見れるようになった技術の無駄な応用だが、多分見ただけじゃわからない魔法の暇つぶしグッズ的なものを持っているんだろう。
それ以外の人は……それなりに真面目に話し聞いてるみたいだな。
(ま、俺ら以外は学院組だ。その辺の礼節はきっちり叩き込まれてるだろうしな)
この会場には、俺を含めた四人の合格者以外にも約十人ほど整列している。彼らも見習い騎士の称号を渡される為に来た人間であり、その正体は国立騎士学院の学生達である。
騎士になるには見習いルートと学院ルートの二つがあるように、見習い騎士になるにも試験を受ける以外のルートがある。それが国立騎士学院のカリキュラムを四年目までクリアすることだ。
見習いを二年経験すれば騎士試験の受験資格を得るわけだから、六年過程の学院に通い続けるのと同じ年数で騎士試験を受けることができるわけだな。
まあ成績トップ5は試験免除で騎士になれるなどの優遇措置もあるわけだし、普通に考えたら大人しく学生やってた方がいろいろ有利だろう。ただ、経済的な事情とかで見習いルートに入る奴もいるってことだ。
(見習いとは言え、こっちのルートなら学費どころか給料が入るからな。その分学生ルートよりも過酷だけど、まあ実戦経験を磨けるメリットだって考えることもできるし)
結局、俺には関係ないって話なんだけどさ。ただ単に、礼節の面では腕っ節だけで成りあがろうとする試験の人間ルートよりも、学院で鍛えられた連中の方が上だろうってだけの話で。
「――以上で、話を終える。続いて、見習い騎士認定証授与式を行う! まず学院枠より九名、前に出なさい!」
「はいっ!」
いよいよ本題か。まあ、本題といってもかくかくした動きで証書を貰うだけなんだけどさ。
……あー、いかん。いよいよだと思ったら、意識がどんどん覚醒してきてしまっているな……。
「――ルールー・エアード! 貴殿を見習い騎士として認める!」
「ありがとうございます!」
「次! アパーホ・アード! 貴殿を――」
……この流れ作業、本当に何か意味があるんだろうか? もしかしたら、この後呼ばれる試験組にお手本を見せるとかそんな目的はあるかもしれないけど。
一応家柄もいい――と言っても、武力でのし上がった脳筋一族シュバルツ家だが――俺はそこそこ礼節も学んでいるが、基本的に試験組は知性より腕力派だ。
まあ魔術師連中はきちっと魔法学問を修めているだろうけど、しかし礼節を学んでいるとは限らない。その代表例が我が師匠こと魔法ジジイのグレモリーだろう。
メイやクルークも何やら大層な家の出身なのだと親父殿が教えてくれたけど、しかし武力に優れるのと礼節はやっぱり関係ないよな。クルークからは煌びやかな貴族的オーラも感じるから大丈夫だろうけど、今なお寝ているメイにその手の期待はすまい。
……少し離れたところに立っているソウザさんの足が震えているのは、見なかったことにしよう。俺も人のこと笑えない精神状態だし。
(あー、俺達だけでも後で郵便に変更してくれないかなぁ……。そんなに人が多くないとは言え、こう言う舞台は本当に嫌いだ。しかも、こちとら12年の引きこもり修行生活なんてブランクがあるんだよ。人前とか足震えてまともに動けないぞ……)
うん、ぶっちゃけ、俺目茶目茶緊張してます。人前に立つのとか苦手なんだよ。最低でも上級騎士、できれば騎士団長なんて人の上に立つ地位を目指してる男が何言ってんだとは自分でも思うけどさー。
はぁ、気が重い……。
「以上! では、続いて今期見習い騎士試験合格者枠の表彰を行う! メイ・クン! 前へ!」
「……ん? 私か」
(お。名前を呼ばれた瞬間に起きたな。世の学生の半分くらいが身につけてそうな特技だな)
メイは名前を呼ばれると同時に覚醒し、壇上へと向かって行った。
その足取りは自信に満ちていて、緊張など一切していないようだ。まあ、今の今までがっつり寝ていられる図太い神経の持ち主が緊張なんてするはずないんだけどさ。
俺だって眠さの力で緊張紛らわそうとか考えてたのに、結局出番目前になったらお目目パッチリでガチガチになっちゃってるのに。
「おい、何で子供がこんなとこにいんだよ?」
「今年の合格者らしいぞ? ガキが二人もいるけどな」
「クンって、もしかしてあのクン家か?」
「もう一人の小僧はシュバルツ家の子供らしい。あの副団長様の一人息子だとよ」
「ケッ! こっちは毎日死ぬ思いでここまで来たってのに、名家の生まれだってだけでインチキかよ」
……既に自分の出番を終えて俺達の後ろに整列してる学院組がなにやら言っているな。まあ、正直客観的に見て俺とメイの幼さは異常だと思うけど。
しかしいいよなぁ。もう自分の番が終わっているからって小声でごちゃごちゃ言えるだけの余裕があるなんてさ。ああ、いっそ早く終わってくれ……。
「あのガキが本物なのかどうか試してみないか?」
「ああ? どうするんだよアパーホ?」
「こうするのよ――【風術・風球】」
(あ。不意打ちで最下級魔法発動させたな)
学院組の一人が、壇上に向かうメイに向かって風魔法を発動させた。
見たところ、ちょっと背中を押される程度の、殺傷力ゼロと言っていい練習用初歩魔法だろう。精々転ばせるのが精一杯のはずだ。
まあ、こんなところで殺傷力のある魔法使えば連中の方がひどい目に合うしな。下手をすれば手が後ろに回る恐れもある。そう考えれば、この程度のイタズラ魔法を選んだ気持ちもわかる。目に見えない風をチョイスしたのもその辺が理由だろう。
……まあ、あの程度の魔法が常時戦闘思考のメイに通じるとは思わないけどさ。だからこうして俺も暢気に考察してるわけだし。
「フンッ!」
「へ? ぶびょ!?」
「お、おい! 大丈夫か!?」
メイは後ろを見ることすらなく、歩くついでってな感じに風の弾丸を跳ね返した。実に素早い魔力を乗せた肘打ちだったな。それで勢いを増した風の弾丸が、軽く殺傷力を持って術者のおでこにヒットしたわけだ。
多分あれ、一定確率で自分への物理攻撃を無力化した上で反撃する格闘家固有スキル【カウンター】だな。ゲームでは物理攻撃限定だったけど、工夫すれば魔法にも応用効くんだな。
……ほぼ無意識に背後からの奇襲に反応してみせる当たり、実に普段の修行風景が見えてくるなぁ。きっと、俺のように日常的に後ろから狙われたりとかしてるんだろうな。
「ほう、流石にやるな」
「学院育ちのボンボンにゃあちと荷が重いな」
今のほんの一瞬の戦闘。多分、メイはほぼ無意識に襲ってきた攻撃を迎撃したってだけで、戦闘したって意識すらないだろう些細ないざこざ。
それを見た現役騎士の皆さんは、どうも暢気にメイの力量を見定めてるみたいだ。その表情や気配には、弱い魔法とは言えこんな厳粛な場で背後からメイを襲った学院組にも、その攻撃をはじき返して人をぶっ飛ばしたメイへの非難もない。
結局、騎士といっても根本は殴り合い上等の荒くれも多いんだ。由緒正しき家柄の誇り高き騎士って人たちはまた例外だろうけど、純粋に実力だけで上がって来た人たちはまさに元荒くれだろうし。
口ぶりから考えて、今遠くで発言した人たちは由緒正しき荒くれだろうしな。
……ついでに、不意打ちした連中も同じような人種だろう。礼節を叩き込まれるのと人間的にできているかは別問題って所か。
「次! レオンハート・シュバルツ!」
(うわっ!? どうでもいいこと考えてる間にもう出番か! ……あー、胃が……)
メイの授与はいつの間にか終わっていたようで、とうとう俺の番になってしまった。
一応背後からの奇襲を警戒しつつ、俺も壇上に上がる。後やることは見習い騎士認定証を貰って下がるだけなんだから何も心配ないんだけど、この空気だけでグロッキーだ……。
「レオンハート・シュバルツ! 貴殿を見習い騎士として認める!」
「あ、ありがとうございます」
学院組と同じようにやってるつもり何だけど、うまくやれてるのか?
こんなところで無様晒して評価を下げるようなことだけはごめんなんだが……。
「ケッ! あいつもさっきの小娘と同じだってのか?」
「また試すか?」
「でもまた跳ね返されたらどうすんだよ? デコ超いてーんだけど」
(できれば何もしないでね。今何かされても絶対スマートに対処とか無理だから)
ただでさえ緊張でガタガタ状態なのに、ここでアクシデントとか冗談じゃない。
……ってか、何であいつらはこんなでかい声で悪巧みの相談をしてるんだ? 一応小声にしてるみたいだけど、あれじゃ会場中の人に聞こえるよな?
「どうかしたのかね?」
「あ、いえ。すいません」
おっといけない。ついこんな壇上で動きが止まってた。さっさと証書を受け取って降りるとするか。
「今動きが止まったの、何でだと思う?」
「もしかしたら、あのボンボン共の悪巧みが聞こえたのかもよ」
「いやいやありえないだろ。かなり距離あるぜ?」
「わからんぞ。何せ、あの副団長の息子だからな。五感は戦士にとって命綱みたいなものだ。徹底的に鍛え上げられてるのかも……」
「だとしたら、とんでもない地獄耳だな。もしかしたら俺らの会話も聞こえてたりしてな」
「それならもう一級品の耳だな。戦士として以外にも、狩人や盗賊の道でも大成するかも……」
……何か不吉な会話が聞こえたような気がするけど、聞かなかったことにしよう。本人も知らないうちにビックリ人間に改造されてたとか聞こえた気がしたけど……気のせいだよね、うん。
てか、ゲーム時代は気にしたことなかったけど、よく考えたら『盗賊として大成する』って凄いこと言ってるよね。
「以上で授与式は終了だ。諸君らの今後の活躍に期待する!」
◆
「さて、これで僕達も見習いとは言え騎士になったわけだね」
式典が終了した後、俺達はまた集まっていた。もう帰ってもいいんだけど、最後に挨拶だけでもって感じかな。
「これからは騎士としての職務か。より腕を磨かねばならんな」
「そうだな。俺ももっと頑張んないと……」
無事に試験に合格した。アクシデントで途中棄権したにも拘らず合格したのは、きっと俺には十分な実力があると判断してくれたからだと思う。
でも、今のままで満足するわけにもいかない。結局、俺は弱いからこそあのキルアーマーにボコボコにされたわけだしな。
「レオン君の目標はやっぱりお父上かい? 凄い戦いだったもんねー」
「流石はガーライル殿と言ったところだな。私も故郷に帰って父上から更に技を学ばねば」
「……ま、とりあえずはね」
クルークとメイは、親父殿の力に感服するように頷いた。俺は気絶していたけど、二人は親父殿があのキルアーマーと戦う姿を見たらしいからな。
……親父殿にとって、キルアーマー如き敵じゃなかったらしい。なんと剣すら使わず一方的に倒したって話だからな。流石は国一番の騎士。最強の称号を持つだけの事はあるって所だ。
でも、そんな親父殿に比べて俺はあまりにも弱すぎる。あと十年かそこらで親父殿に追いつき、そして遥かに追い越さなければならないと言うのに、あまりにも貧弱すぎるよな。
(そう。今の親父殿の力は遥か高みにある。でも、魔王の力はその遥か上だ)
ゲーム通りに歴史が進むのならば、この王都は真っ先に魔王軍によって壊滅させられる。それはつまり、親父殿やジジイと言った超一級の使い手が守ってもダメだったと言うことだ。
魔王が攻めてくるのは計算上今から数えて13年後だ。もしかしたらその十年くらいの間に二人が戦えなくなるような何かがあるのかもしれないけど、とにかく今の親父殿に負けてるようじゃ魔王から勇者を助けるなんて夢のまた夢だって思ったほうがいい。
歴史通りに殺されて死体人形になるなんて断固ごめんだけど、普通に殺されて世界滅亡も同じように絶対嫌だからな。
「よう! 三人で何をしてるんだ?」
「あ、ソウザさん。合格おめでとうございます」
「おう、ありがとう。お前さんも合格おめでとう」
未来の不安に一人落ち込んでいたら、遠くからソウザさんが声をかけてきた。
この人も立派に合格した一人なわけだし、きちんと挨拶しておくべきだな。できれば学院組にも挨拶しといたほうがいいんだけど、何故か敵意満々で近づけないし……。
「ソウザ殿の実力なら当然だろう。実際、シュバルツと同格の戦いを楽しめたしな」
「うん。ミスターソウザとの戦いは、天才の僕でも結構苦労したしね」
「ははは……。そう言ってくれるとうれしいが、でも俺はお前ら三人より格下だよ」
……なんかソウザさん、気落ちしてるな。
てか、そういえば俺合格者は知ってるけど倒れた後の対戦カードは知らないや。
「俺が気絶してからはどんな戦いだったの?」
「む? ああ、シュバルツがあの鎧の魔物と戦った後はそう大した試合はなかったよ。スチュアートとソウザ殿がいい勝負をしたくらいだな」
「結果としては僕が勝ったけどね。ああそれと、ミス・メイは君との戦いでボロボロだったからね。流石にこの僕との戦いは避けたわけさ」
ふむふむ。つまり、俺達四人を除いた参加者はあの魔物を除いて敵ではなかったと。んで、俺が気絶してから行われたのはクルーク対ソウザさんだけだったってわけか。
「いい勝負ができた。本当にただそれだけだったがな。実際には実力負けだったよ。クンの嬢ちゃんにもスチュアートの坊主にもな」
「そう謙遜するな。ソウザ殿の実力は確かだ」
「そうそう。あの会場に集まった中じゃトップクラスさ」
……確かに、メイとソウザさんの試合は見事だったな。でも、同時に恐らくは何回やってもメイが勝つ戦いでもあった。
クルークとも似たような感じだったんだろうし、二人よりは一歩下なのかな?
「確かに、俺もいろいろ自信はあったさ。だが、俺がトップクラスならお前ら三人は規格外だったってだけのことさ」
「え? 俺も?」
「当然だろ。俺を実力で正面から倒した嬢ちゃんに勝ち、あんなバケモノとまともに戦って生きてるような奴が俺より弱いわけがない」
「……うーん? そうなのかな? 無様に退場したし、自分ではそう大したもんじゃないと思ってるんだけど」
「……お前は一回自己評価を改めたほうが良いな。って、今はそんなこと言いに来たんじゃなかったぜ」
なにやら脱力した様子のソウザさん。だが、急に何かを思い出したかのように咳払いし、更に話を進めてきた。
「これから俺達は見習いながらも騎士として働くわけだけど、お前らどっちに配属希望なんだ? 試験組の俺達は自由に選べるからな。ちなみに俺は守護だ」
「私は当然遊撃だ。一つの場所にじっとしているのは性に合わんし、父上も遊撃騎士だからな」
「僕も遊撃かな。どうも規則正しい生活って奴は苦手でね」
「なるほどな。……それで、お前はどうなんだレオンハート?」
「俺? 俺はね……」
守護と遊撃。これは騎士を二つに大別した呼び方だ。
両方とも騎士団所属の騎士であることに変わりはないし、場合によっては仕事を変わることもあるけど……任務によって分けられているんだよな。
(わかりやすく考えるなら、第一次試験の白の騎士と黒の騎士かね?)
守護騎士はその名の通り、町や人の守護を任務としている。試験で言えば白の騎士だ。
具体的には、毎日決まった時間に決まった場所の警備なんかをやっている人たちだ。常に変わらぬ絶対の守りを与える騎士ってことだな。
で、遊撃騎士は主に悪漢の討伐を任務にしている。試験で言うところの黒の騎士だ。
つまり、人に危害を与える魔物や山賊なんかを討伐するのが任務ってわけだな。その職務上、王国から任務を与えられて動くために自由な時間が多いって感じだ。
まあその反面、守護騎士に比べて常に危険に晒されるわけだけどさ。何せ、任務は全部命がけの実戦なわけだし。
おまけに問題が起きる場所なんてその時々だし、急に国土を一周しなけりゃならなくなることもある。犯罪者の捕縛を命じられたのは良いけど、なりふり構わず逃げられたせいで捕まえるまで一年くらい国中を放浪する破目になった遊撃騎士もいるって話だ。
ちなみに、親父殿は守護騎士だ。今じゃ副団長にまで上り詰めて遊撃騎士の仕事もやっているけど、基本的には毎日騎士団の本拠地で待機している。この王都最強の守護神と言ったところか。
(学院組は経験を積むためにも遊撃守護両方を一年ずつやらなきゃいけない。でも、実力を認められた試験合格者は自分の所属を自分で選べる。見習いのうちは正式な騎士のサポートが仕事だからそこまで自由なわけじゃないけど、それでも遊撃騎士に付くか守護騎士に付くかは選べるんだ)
それを踏まえて考えれば、俺が選ぶべきは一つしかないよな。
少しでも時間を有効に使って、一個でも多く勇者に有利な条件を作っておきたい俺が選ぶべきは――
「……遊撃、だ」
「ほう、シュバルツも遊撃なのか? てっきりガーライル殿に習って守護を選ぶと思ったがな」
「それも一つの選択肢だとは思うけど、守護騎士になれば一つの町に縛られちゃうからね」
「うん、確かにより広い世界を見たいと思うのは男のロマンだよねー。わかるよその気持ち」
守護騎士は、町と人を守るために存在している。
その存在は非常に重要なものなんだけど、しかし俺はそれを選ぶことはできない。元々今まで自宅に引きこもって修行していたわけだけど、これからは自分の足で世界を見て回らなきゃならないんだ。
俺の中に刻まれている、あやふやなゲーム知識をより完全なものとして使うためにもな。
(当面の目標は、勇者となる少年の発見。それと聖剣が安置されている聖域の確認か?)
世界に飛び出して活動する遊撃騎士。そのサポート役となれば、恐らくゲームに登場した場所はもちろん、ゲームでは描かれなかった地方にまで広く活動することになるだろう。
そうなれば、俺が一番知りたい情報を手に入れる機会も自ずとやってくるはずだ。今のところあんまり役に立ってはいないけど、ゲーム知識を生かす場面も増える。
何せ、最大の仮想敵である魔王軍のことはよく知ってるんだ。特に、幹部以上の能力と攻略法なんて百年たっても忘れないくらい魂に刻み付けてある。
そうは言ってもドットで表現されただけのゲームから得た知識を実戦で使うのは簡単じゃないけど、それを補うべく経験だって日々の実戦で積めるだろう。
対策を得る為の装備品を手に入れる機会だってきっと――
「あっ!」
「ん? どうしたのだ?」
「あ、いや、その……なんでもない」
「む? そうか?」
……いかん、大事なこと忘れてた。まずあの問題を何とかしないと先に進めないよなぁ……。
「まあとにかく、お前ら三人とは俺の希望進路は違うわけだな。残念なようなほっとしたような、微妙な気分だぜ」
「フッ! 逆に言えば、私たち三人はこれからも一緒になる機会があるかもしれないわけだな」
「そうだね。また共闘できる日を楽しみにしているよ」
「俺ももっと腕を磨いておこう。今度会うのはいつになるかわからんが、そのときにはお前らに追いついていると約束するぜ。……じゃあ、俺は行くぜ」
最後に軽く手を振って、ソウザさんは去っていった。これでお開きかな。何かそんな雰囲気になってきたよ。
「さて、では私もこれで失礼する。故郷は結構遠くてな。日のある内に中継宿に着きたい」
「じゃ、僕もこれでね。自宅はこの王都だけどさ」
「うん……! じゃあ、元気でな」
「お前もな、シュバルツ。今度会うときは借りを返すとここに誓おう」
こうして、今日の式典は全て終了した。学院組から浴びせられる謎の敵意は全く解決してないが、この際どうでもいい。
今俺が一番に考えるべきこと。それは“錬金術”なんだからな……!!
次回はいよいよゲーム知識持ち主人公らしく知識爆発の予定。
きっと頭が爆発することでしょう。




