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【番外編完結】他力本願英雄  作者: 寒天
見習い騎士試験 第二次
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第19話 気影洞察 / 闘気開放

(……あれ? 俺、どうしたんだっけ?)


 何か倒れてるな、俺。それに腹がすんごく痛いんだけど、何があったんだっけ?

 どうも意識がフワフワするな? 親父殿と組み手でもしてたんだっけか……? だとしたら、とりあえず立って近くの何かに斬りかからないとな。


「ブゴフッ!」

「なっ! ま、まだ立つのか?」


 あ、あれ? 口から血が出た? 内臓破裂か? 変だな、親父殿は深刻なダメージが残らないように攻撃してくれるのに……。

 まあいいか。それよりも、戦わないとジジイの試作魔法の実験台にされかねないし……目の前の誰かに斬りかかろう。


「ゼェアァァァァァァァ!!」

「く、なっ! 何だ? 気影が見えない!? それどころか、あらゆる動きのキレが増しているだと! 極正拳の直撃を受けて何故!?」


 あれ? 何か当たるな? 親父殿に当たる訳無いし……どう言うことだろ?

 まあ、いいか。そんなことより、とにかく剣を振らなきゃ……。


「チィ! ハッ! ……ま、まさかお前……また気絶しているのか!?」

「オォォォォォォォッ!」

「クッ! 意思疎通は無理か! もはやモンスターと戦ってる気分だぞ! 意識が無いから気影が見えないと言うわけか!」


 気影……? そういや、前に親父殿がそんなこと言ってたな。今度はそれを覚えろってことか?

 えっと、確か気影ってのは……。



「隙ありぃぃぃぃ!!」

「適当に叫んでも、隙なんぞ生まれんぞ」

「ぶぼっ!?」


 そう、あれはいつものように模造刀で親父殿と戦ってたときのことだ。

 いつものように親父殿に斬りかかり、そしてあっさり返り討ちにあった時に聞いた話だったな。


「あの、何で父上は私の攻撃を全部避けられるんですか? ……それに、何故か事前に回避すら読まれてるし」

「うん? それはな、お前の動きを事前に察知しているからだ」

「事前に? 何かのスキルの効果ってことですか?」

「いやいや、魔力を使った特殊能力ではない。戦士ならば誰もが当然のようにやっている基本技能だよ」


 もしかして、親父殿は回避率アップとか命中率アップとか、そんなスキルを使っているんじゃないか。そんときは確かそう思ったんだよな。

 でも、そんな俺の言葉に首を振って、親父殿はわかりやすく説明してくれたんだっけか。


「例えばだ、お前は私の攻撃を避けるときはどうしている? どうやって私が攻撃しようとしているか、どこを狙っているかを察知している?」

「え? それは……その。何となく?」

「あー、そうか。まあ、それでもいいか」

「はい?」


 どうやって避けていると言われても、生存本能的なもので反射的に動いているとしか言えなかったな。

 そんな俺に軽く頭を抱えた親父殿は、一旦剣を置いて大きく腕を振り上げたんだったか。


「今、私は大きく拳を振り上げたな。さて、次にどんな攻撃が来ると思う?」

「……拳骨ですか?」

「そうだな。上に振り上げた拳を下に振り下ろすと考えるのが自然だ。ではこうすると?」


 今度は右半身が半歩下がり、拳を大きく後ろに引いている。まあ、その体勢から考えられるのは体重を乗せた右突きだろうな。

 それを親父殿に伝えたら大きく頷いて、では次はこれだとまた体勢を変えたのだったか。


「……普通に構えてるだけでは?」

「そうだな。それで? 次はどうすると思う?」

「いや、どうと言われても……蹴り、とか?」

「そうだな。蹴りも出せるな。殴ることもできるが」

「構えてるだけ、ですしね……」


 今度はこれと言って特別な事をせずに、徒手空拳の構えを取っただけだった。

 これで次何やるかを当てろとか、もう読心術の領域だよな、やっぱり。


「このように、次に出せる手は無数にあるのが普通だ。さっきの例のように、次はもうこれしかないと言えるほどの大振りなどまず無いだろう」

「じゃあどうすればいいんですか? ……はっ! まさか、私って常時わかりやすい大振りだったりしてるんですか!?」

「いやいや。確かにお前はわかりやすいが……そうではない。重要なのは、初動を見切ることだ」

「初動?」


 そう言って、親父殿は再び拳を振り上げた。


「さて、今言った通り、腕を振り上げると言う動作の意味は次の振り下ろしに繋げるためだ。この本命の動作を行う為の事前動作の事を初動と呼ぶのだ」

「はぁ……?」

「つまりな、蹴りを出すにはまず太ももが動く。突きを出すにはまず肩が動く。そう言った敵の些細な動作から動きを予知するのがより一段階上の戦いと言うものなのだ」


 ……今でも思うけど、理屈だよねそれ。実戦でそんなこと考えてる間に殴られてると思うし。


「この初動による察知ができれば、フェイントなんかにも強くなるぞ。例えば、今拳を振り上げているが次の一手は何だと思ってる?」

「え? だから、拳骨でしょう?」

「まあ普通はそう考えるな。しかしだ、こう言う選択肢が無いわけじゃない」

「ッ!?」


 そう言って親父殿が繰り出したのは、振り上げた拳とは全く関係ない低めの下段蹴りであった。

 ちなみに、一応寸止めであった。


「今のように、拳を使うと見せかけて実は蹴り……なんてのは実戦でよくある話だ。だが、それも蹴りの初動を見逃さなければ事前に察知できるわけだな」

「そんなこと、ずっと戦闘中にやってるんですか?」


 俺には無理。はっきりそう思ったな。

 ただでさえ技の組み立てとか考えてる内に一泊遅れるような失態をする俺が、そんな高度な思考を戦闘に持ち込めるわけないし。


「やっている。と言うか、これができないとどうしても戦士として致命的な差が出てくる」

「うわ……」

「そう嫌そうな顔をするな。別にお前に今すぐやれと言うわけじゃない。これは経験も大きいしな」


 結局の所、そんな事ができるのは些細な動きから次の手を予測できる戦闘経験を積んでからの話だ。親父殿はそう言った。

 実際、今でもできる気がしない。もっと思考を研ぎ澄ます必要があるんだけど、そもそも向いてないんだろうなやっぱり。


「さて、敵の動きを予測するのは体の動きの他にもう一つ方法がある」

「もう一つ?」

「ああ。やはり身体運用の初動を見極めるだけだと、魔法に対処できないだろう? 魔術師の場合、極端なことを言えば全身縛り上げていても戦えるからな」

「ああ、確かに」


 実験台にされた怒りのままにジジイに闇討ちしかけても、寝転がりながら返り討ちにあうことも珍しくないしな。

 肉体の動きを読むだけじゃ、肉体を使わない技には対処できないだろう。


「そこで求められる第二のアプローチ。それが“意識を読む”だ」

「意識?」

「そう。例えば『頭を狙ってやろう』とか『腕に攻撃しよう』とか、あるいは『攻撃されたら後方に跳んで避けよう』とかいろいろ考えているだろう?」

「はぁ」

「その“敵の思考を読み取る”事で、より正確な先読みが可能になるわけだ」

「……やっぱ読心術?」


 それ、ファンタジーだよね。心を読むってことだよね。俺には一生無理だよね。

 なんて思っていたら、親父殿はまた笑いを押し殺してもう少し話を噛み砕いてくれた。


「すまんすまん。本当に心を読むわけではないのだ。例えばそうだな……お前も、殺気を感じることはできるだろう?」

「ええ、不本意ながら」


 割と殺気を込めてくるジジイの魔の手から逃れるべく、俺は殺気感知なんて漫画みたいな特技を身につけてしまっていた。

 正直、できない方が幸せな特技だと思う。


「その殺気や、あるいは闘気なんかを肌で、あるいは目の動きなんかで感知する。それが意識を読むと言うことだ」

「……すいません。全然わかりません」

「ハハハッ! まあ焦るな。その内できるようになるさ。……できなきゃ死ぬだけだが」

「あっ! 今なんか不吉なこと言った!?」


 シュバルツ家において、戦いの道を志すのならば目指すは最強一択である。己に妥協せず、守るべきものを守る為にはそれしかないのだ。

 そんなわけで、基本シュバルツ家には勝てないから、できないから逃げるって選択肢は無い。逃げてもいい時にはさっさと逃げるべきだが、後ろに守るべき何かがあるのならば守り通すか死ぬかの二択であると言うのが教えなのだ。

 まあそんな殺伐とした人生観の持ち主なだけあって、割と親父殿は『弱いままなら死ぬ』と口にする。敗北と死が直結している世界に生きていると言っても、もうちょっと息子を労わって欲しいんだけどな……。

 ま、親父殿に気にした様子は全く無いんだけどさ。


「さて、まあ今言ったように、私はお前の動きを初動から読み取り、そして高まった闘気から動きを予測しているわけだ」

「……それ、対処法無いんですかね?」

「対処法……と言うのも少し違うが、同じ事ができる領域に立ったものなら互角だな。一度敵の動きを洞察する技法を身につけたのならば、逆に相手の予測を乱すような戦略も取れるしな」


 つまり、今の俺じゃ親父殿にはまぐれ当たりも期待できないってことか。

 ……とは言え、一生できないような気がすることに変わりは無いけど。実際、やっぱそんな事を考えてる内に殴られてそうだし。


「そう心配するな。必ずしも今説明した通りのやり方でやる必要なんてないしな」

「え? 他にも何かあるんですか?」

「他にもあると言うと語弊があるが、今のはあくまでもただの原理だ。実際に扱うときにこれに固執する必要は無い」


 つまり、今の話を念頭に置いた上で実際に使うときはもっと簡略化できるってことかな?


「そもそもだ。どんな技だろうが……レオン。お前に“敵の動きを考えながら戦う”なんて無理だ」

「グッ!」

「と言うよりも、お前に“考える”なんて事自体向いてはおらん」

「グボッ!?」

「今のやり方に求められるのは“敵を洞察”しながら“戦う”と言う二動作だ。つまりこれを同時にやることが求められるわけだが……余計な事は考えていても、一度に二つ以上の事ができないお前にはもっとも向いていないやり方だな」

「ガフゥッ!!?」


 こ、心に刺さったな……あれは。肉体は天才、中身は凡人の俺の悩みをピンポイントで突いてたし……。


「まあそんなわけで、お前は“冷静沈着に敵を観察する”なんてことに全く向いていない。だから、戦闘中に余計な事は考えるな。むしろ、思考は限りなくそぎ落とせ」

「思考をそぎ落とす?」

「ああ。頭で考えるのではなく、本能で感じ取るのだ。お前は頭で考えた作戦を遂行するよりも、本能のままに動いて『気がついたら動いていた』となる方が向いているだろう」

「………………」


 それ、つまり馬鹿ってことかな? どうせ碌な頭持ってないんだから、考える前に動けってことかな?

 なんて自分で勝手に鬱になっていると、親父殿は話を切り替えたのだった。


「さて、ここまで説明したんだ。せっかくだし、これの完成形についても話しておこう」

「完成形?」

「ああ。まず敵の初動から『次に打てる手』を読み取る。そして、伝わってくる意識から『敵が選ぶ手』を察知する。その二つを高いレベルで読み取った時に見えてくるのが『気影』だ」

「きえい? なんですかそれ?」

「簡単に言うと、敵の次の動きが幻影のように見えてくると言うものだ。実際には脳が集めた情報から、次の動きを限りなくリアルに造形することで見える幻だな。これを見る事ができれば、どんな荒唐無稽な技にも初見で対処することができるようになる」

「……うっそだぁ」


 いやね、俺も魔力的な話なら素直に認めるよ。どうせ俺の常識なんて通用しないんでしょって具合にさ。

 でも、ゲーム的な要素無関係の技法でそんなファンタジーができるわけないじゃない。いくら異世界でも常識へ売っていい喧嘩と悪い喧嘩があるよー。

 ……なんて思いをつい正直に口にしたところ、何故か親父殿はいい笑みを浮かべた。そして、大きく構えを取ったのだった。


「では、実際に見せてやろう」

「え? それって見せられるものなんですか……?」

「ああ。本来は敵が隠している微細な動きや戦いの意識を読み取る技法だが、逆に言えばわざとわかりやすく動き、そして闘気を叩きつけてやることで気影を錯覚させることができるのだ。これもこの領域に上り詰めたものなら極普通にできる技の一つ。本来はもっと自然にやるのだが、気影を読み取れる相手に有効なフェイント技とも言えるな」

「へ、へぇ……」

「では行くぞ? ……カァ!!」

「ッ!?」


 その瞬間、親父殿から強烈な気迫と共に何かが飛び出してきた。人の形をしているような気がする何かは、そのまま俺の胸を拳で貫いた。

 だが、所詮は幻影。そんなものが見えた気がしただけ。実害は何も無い。

 そのはずだったのだが、無様にも俺は気迫だけで気絶してしまったのだった……。



「……ハッ!?」

「クン流・双手刀打ち!」

「うわっ!?」


 過去の思い出にトリップしていたら、ふと意識が浮かび上がってきた。すると、いきなりメイさんが両手の手刀で俺の両肩を狙っていたのだった。


「あっぶな!」

「ム? 意識が戻ったか」


 慌てて身を屈めて回避し、近接距離から離脱した。後一歩意識が戻るの遅れてたら、直撃でやられてたな。

 全く、気絶してた俺が悪いとは言え……もうちょっと優しさがほしいよ。


「やれやれ、意識が無いのにここまで戦える奴は初めて見たぞ。それどころか、無意識の方がむしろ動きにキレがあるとはどう言うことだ?」

「え? 俺、意識飛ばしてすぐ目覚めたんじゃないの?」


 てっきり戦いの最中に意識がぶっ飛んで、すぐに覚醒したのかと思ってた。

 でも、メイさんの口ぶりからして違うみたいだな。まるで気絶しながら戦ってたように聞こえたけど……まさかねぇ。一撃入れるくらいならともかく、普通に戦えるとかそんなことできるわけが――


「いや? 先ほどの極正拳で意識を飛ばしてから、軽く二分は経っているぞ。その間、お前は今までよりも鋭い技で戦い続けていたのだ」

「……マジ?」

「大マジだ。それも、意識があるときより技が洗練されていたな」

(俺、意識ない方が強いの? ……それは、流石にへこむ)


 いや、わかってたよ。わかっていたさ。完璧な強さを持ったレオンハートの中で、もっとも弱点になるのは俺自身の脳みそだってことくらいはさ。

 ただ……正面から言われると流石にへこむ。天才を劣化させているのが俺の魂って言う名の不純物だってのはわかってても流石に酷いよ……。


(って、ちょっと待てよ? 極正拳? それどっかで聞いた事あるぞ?)


 自然に流してたけど、その技には覚えが合った。それも、間違いなくゲーム時代の思い出だ。


(極正拳。復讐の拳士、ミーアイが使用する最強技。誇りを失った復讐者が封印していたって言う、キャラごとの特殊イベントで解禁される必殺技の名前だ)


 聖勇では仲間キャラが複数おり、技やスタイルが被っていることもある。

 だが、極正拳はミーアイのみが使用できる限定技。打属性最強の技なんて言われており、この技の為だけにミーアイを最終メンバーに入れてる人も珍しくないって強さだった。

 でも……なんでそれをメイさんが? ミーアイは初対面から『自分に名乗れる名などない』とか『どうしても名前で呼びたければ好きに呼べ』とか言ってくるような奴だ。そこで主人公がつける名前のデフォルトがミーアイなわけだけど、メイ・クンって立派な名前があるメイさんとじゃ結びつかないよな?

 何よりも、ミーアイは誇るべきものを何一つ持たない復讐者ってキャラだ。父親とか武術とかに誇り持ちまくってるメイさんとはむしろ対極だよな。


(普通に考えれば……ミーアイとメイさんが同じ流派の使い手だってことかな? ゲームの操作キャラの中には一人しかいなかっただけで、現実には俺と同い年のメイさんでも使えてるわけだし)


 そう考えるのが自然だよな。メイさん以外にも極正拳を使える格闘家が大勢いて、その中にはゲームキャラのミーアイもいるって考えるのが普通だ。

 でも……何か気になる。確かミーアイが極正拳を習得……と言うか解禁した時のセリフは『二度と使う資格は無いと思っていた』とかだったよな?

 ……あー、流石にサブキャラのサブイベントの細かいセリフなんて覚えてねーよ。最初の一回以外はボタン長押しで飛ばしてたし、こっちに来てから10年以上経ってるし。普通忘れるよな。


「どうした! また動きが鈍ったか!」

「悪かったな! 気絶してなくて!」


 メイさんの顔面狙いの掌底を、体を捻って回避する。つい記憶を探るのに思考を飛ばしてしまったが、俺だって考えながら戦うくらいのことはできるんだぞ!


(ミーアイの設定年齢は、確かレオンハートと同じだった。と言う事は、メイさんと同じ年なんだよな)


 ミーアイの外見なんて、ゲーム中のドット絵かアニメ絵で書かれた設定集くらいしか知識は無い。もしミーアイが三次元に現れたらどんな顔か、なんてわかるはずも無い。

 今の俺にわかるのは、彼女が使用していた技くらいなものだ。そんなもので個人を特定なんてできるわけがない。できるんだったら、俺はとっくに勇者と接触してる。


「やはりさっきの一撃は効いていたようだな! 動きが鈍いぞ!」

「クッ!」


 クソッ! 試合に集中しなきゃいけないのに、無駄な思考が止まらないぞ! まるで、誰かが俺に『この問題は流していいものじゃない』って言ってるみたいだ!


(えっと確か……ミーアイは復讐者だ。そんで、復讐対象は魔王。魔王に大切な人を殺され、何一つ守れなかった自分の弱さを責めたって感じだったはずだ)


 だからこそ誇りを捨て、名を捨て、流浪の拳士としてただ復讐だけを求める誇りなき存在となった。誇りなど、自分に持つ資格は無いと言って。

 だがそこまでだ。それ以上の設定は無かったはず。ただレオンハートが死亡した魔王襲撃で不幸になった一人ってくらいだったはずだ。

 後他に何かなかったか? こう、彼女を象徴するような何かが!


(そういや、確か名言みたいなのがあった気がしてきたな。言った後に口ごもって『いや、今の私が言う資格など無いか』とか言ってたけど。えっと、確か――)

「どうした! それが限界か! お前も騎士として、強さを武器にして生きていくのだろう! ならば、絶対に勝たねばならないはずだ! 何故なら――」

(敗者は全てを失う)

「敗者は全てを失う!」

(己自身の誇りも、大切なものも全て)

「己自身の誇りも、大切なものも全て!」

(だから――)

「だから――」

『絶対に、負けてはならないんだ!!』

「ッ!?」


 剣を片手持ちに切り替え、左手での打撃をメイさんの繰り出した拳と合わせる。同時に、距離をとるべく後方に跳んだ。

 ったく、冗談じゃないよホントに。薄々感じてはいたけど、やっぱそうなのか? この快活で誇りに生きてるような格闘少女が、誇りを捨てて復讐者になるってのか?

 魔王襲来。予定通りなら俺が死ぬ結果になるわけだけど、俺以外にも不幸になる人は当然沢山いるんだよな……。

 やれやれ。そんな現実見せられたら……意地でも勝つしかないだろ! 俺如きがどこまでやれるかはわかんないけど、何かを変えるくらいのことはできるはずなんだからな!


(さっきから追い込まれ続けている原因。それは、彼女が気影を見ているからだ! だったら、俺もその領域まで今すぐ行かなきゃならない。相手は勇者の仲間になれるほどの天才。出せる力を惜しんで勝てる相手じゃない!)

「……雰囲気が変わったな。ようやく本気になったのか?」

「さっきからずっと本気で全力だったさ。ただ、絶対に勝たなきゃならない理由ができた……思い出したと言った方が適切か? まあとにかく、一つ限界を超えてみようと思ってな」

「なに?」


 闘気を開放しろ。理性なんて捨てて、レオンハートを開放しろ!

 気絶状態と言うか、あのフワフワとして朦朧とした状態でなら互角に戦えていたんだ。

 だったら、戦う意思と力を残したまま本能を開放するんだ。それさえできれば、俺もメイさんと同じ領域に立てるはずなんだ!


「闘気の質が明らかに変化していく……。これは一体……?」

「親父殿曰く、闘争本能を全開にすることで全身の力を解放することができる!」

「なに……?」

「闘気開放! 【獅子の心(レオンハート)】!!」

「ッ!?」


 脆弱で、争いには向かない似非平和主義者の心を排除する。人間と言う名の獣を開放し、身をゆだねる。

 だが、同時に手綱をつける。ただの獣に堕ちないように、技を振るう野生の心を持った戦士でいられるように。

 そして考えるのではなく、感じる。本能を開放し、レオンハートをフルに引き出せ!!


「カハァァァァァァ!!」

「……これがお前の……レオンハート・シュバルツの本気か。……面白い!」

「いく、ぜ? さっきまでと同じだとは思わないほうがいい……」

「フッ……わかっている!」


 産まれて初めて全身を、心の全てを闘気で染める。レオンハートと言う天才の体を全て引き出す、獅子の心で体を満たす。

 今なら見える。次にメイさんが何をしようとしているのか、そして俺の動きを見ているのか。それを示す、気影が。

 さあ、本気でやろう。前に進む為に、魔王なんて災害に泣く人を少しでも減らせるように!


「【加速法】!」

「【加力法】!」


 今、心から本気の試合を始める!

メイ=mei

me+i=ミーアイ

でした。

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