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【番外編完結】他力本願英雄  作者: 寒天
最終章 神々の戦い
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第205話 魂の炎

最終章

「……あの、馬鹿!」


 集団転移で戻った城の中。師匠一人で敵の前に――魔王神の前に残ったことに、皆やり場のない怒りを感じていた。

 でも、精々が苛立ちを声に出すことしかしない。だって、わかっているのだ。あの場にいたのは皆世界屈指の戦士たち……誰かが犠牲にならない限り脱出することすらできなかったなんて、誰もが理解しているのだ。


「……落ち着け。今は過ぎたことを後悔している場合じゃない」

「その通りだ。レオンの奴が命を賭けて稼いだ時間、刹那も無駄にすることはできん」


 理解できているからこそ、爆発できない。そんな精神状態を納めるべく、ガーライル様やバース様たち年長組が場をまとめる。

 ……師匠が、自分の息子が確実な死を前にしてなお冷静に騎士として振る舞えるのは、流石って言うべきなのかな……?


「……その通りですね。レオン君は何だかんだ言ってしぶといし、命を捨てることの愚かしさを知っている男です。何か勝算が……生き残る術があったからこそあんな手段をとったのでしょう」

「そう、だな」


 一番怒りを露わにしていたメイさんも、深呼吸一つで心を整えた。

 やっぱり一流なんだな。皆、きっと知ってるし覚悟しているんだ。いつも一緒にいた仲間がいつ死んでもおかしくない……そういう世界に自分たちは生きているんだって。


「……あの場には転移阻害の結界を張ってある。おかげでこちらから救援に出向くことはできんが、魔王神がすぐに襲ってくるということはない」

「ですが、奴の速さなら普通に移動するだけでもそこまで時間はかからないのでは?」

「うむ……そうだな。どの程度本気で来るかはわからんが、この場所を突き止めるところまで含めて一時間も必要ないだろう。目覚めてすぐだから休息や食事を優先する可能性もあるが……」

「あの様子では期待薄ですね。目的のものがはっきりしている以上、最短距離で取りに来るでしょう」

「……いや、あのシュバル――レオンハートが相手をしているのだ。倒せるかは別にして、それ相応の消耗はさせられるはず。回復を待つ可能性は十分にあるんじゃないか?」


 魔王神はすぐ来る――そう結論したグレモリー様とクルークさんに、メイさんが待ったをかけた。

 この場にはもう一人シュバルツ姓を持つガーライル様がいるから名前呼びに言い直した後で、魔王神がすぐ来るとは限らないとお二人に話している。

 確かに、師匠なら何かはするだろう。何もできずにただ死ぬほど簡単な人じゃない。あの神様がどのくらいの力を秘めているのか――見せた分だけでも勝ち目が見えないほどの力だったのは間違いないけど、それでもなんの消耗もさせられないってことはないはずだ。

 散々粘って常人で超人でも絶対に死ぬって傷を受けても、それでも何故か生きて戻ってくる不死身の人なんだから。


「……どちらにせよ、推測の域は出ん。ここからは時間との勝負だ。私は研究所に戻り、準備を整える。各自可能な限り早く戦闘準備を整えよ」


 話し合いを打ち切り、全員に向けグレモリー様が指示を出した。

 そう、今やるべきことは確実に襲ってくるだろう魔王神の迎撃……前のように負けるわけには絶対にいかない。


(……あれ? 前って、いつだっけ?)


 一瞬変なイメージが頭をよぎった。王都が焼かれ、全てが燃え尽きるイメージが。

 僕はそんな不吉な想像を振り払うべく頭を振り、気合いを入れるため頬を叩く。僕も、僕にできることをしないと。


「……フン」

「……貴様はどうするのだ?」

「奴がこの世界の破滅を願っているというのなら、やることは決まっている。だが貴様ら人間となれ合うつもりはない。それだけだ」


 唯一この場で味方ではない吸血鬼ミハイは一人去って行った。ちゃんと礼儀正しくドアから。

 おそらくは戦うつもりなんだろうけど……いや、もめている時間もないし、好きにさせておくべきだね。


「基本的には、今から慌てて何かをするよりは身体を休めるべきだろう」

「そうだな。魔王との戦いで疲弊した身体で挑んでいい相手ではない。だが、市民の避難誘導や戦場の設定は必須だ」

「やることは山積みだな」


 一般兵士を動かすのは無意味だろう。あの力の前では数がいくらいたところで犠牲者が増えるだけだろうし、そもそも四魔王との総力戦で消耗しきっているのだ。

 戦力の運用は難しい……いや、どんなに頑張っても負けるしかないのかもしれない。でも、諦めるってのはありえないよね。


(よし! 僕も今できることをやろう!)


 各自のやるべきことを確認した後、解散となった。

 予想リミットは一時間。僕はその時間を……さらなる進化のために使おう。


(あと一歩。あと一歩で、僕は何かをつかめる気がする)


 かつてない強敵との戦いの中、聖剣を使った初めての全力戦闘の中で、どうしても気になることができた。

 さっきの変なイメージもそうだけど……何かが語りかけてきているような気がするのだ。僕は、その声を無視してはいけないって理屈じゃない何かで確信している。

 この一時間で、その謎を解けるかどうか……それが、戦いの結末を大きく変えることになるような気がするんだ……!



「……そうですか」


 戦いの顛末を聞き、ワタクシは表情を動かさないように努めて頷いた。

 結果として敵の目的を阻止することはできず、魔王神なる敵軍の総大将が現れてしまい、レオンハート・シュバルツは一人他の仲間を逃すために残った、と。


「……ロクシー様。いかが、なさいますか?」

「そうね……時間はかなり少ないようですが、できる限りの支援を。具体的には冒険者協会には動ける全員で英雄級のサポートに当たるように指示を出し、避難命令で大移動することとなる一般人の誘導に協力するように。物資の支援はおそらく不要ですので、気にしないでいいわ」

「よろしいのですか?」

「ええ。もう数時間後には人類全滅の危機が迫っているなんて状況で、今更食料の補給なんて考えても仕方がないでしょう。そういったことを考えるのはこの危機を乗り越えてからよ」

「あ、いえ……シュバルツ殿への救助は不要なのかと……」


 ワタクシの配下の中でも側近に当たる男が、言いづらそうに進言してきた。

 状況から考えて、レオンハート・シュバルツの生存は絶望的。おそらくは時間を稼ぐ以上のことはできずに死亡したものと考え、作戦を立てるべし。

 それが世界連合の考えであり、決定である。そう発表があったわね。

 それでもシュバルツ様を救うために一組織として動くべきではないか……つまりはそういう話。ワタクシは――


「……不要よ。あの人のことなら気にしないで」

「ですが、彼はロクシー様と――」

「ええ。無事に戦いを終わらせたら、祝言をと約束したわ。だから気にしなくてもいいのよ」

「何故、ですか……?」


 将来を誓い合った男の危機なら、無駄かもしれなくても動くべきだ。そんな考えは、わからなくもないわ。

 でも、いらないのよ、そういうのは。だって、ワタクシは――


「……生きて戻る。そう約束したの。だから、気にしなくていいのよ」

「そんなもの――」

「あの人は! ……シュバルツ様は、できないことをできるとは言わない人なの。どんな無理難題を押しつけられても、できるって言うときは絶対にやってのけたの。できないことはできないって言える人なのよ。他人を頼ることを知っていて、独りよがりな強さを誇示するようなことは絶対にしない。だから、大丈夫なの」


 ……柄にもなく大声を上げたワタクシに、腹心はそれ以上の言葉を口にすることはなく頭を下げて退室した。

 そう、ワタクシが彼との間で交わした契約が――約束が破られたことなんて一度もない。だから、今度も大丈夫なのよ。

 彼は死なないって約束した。だから、腕がちぎれようが心臓が破裂しようが、頭が壊れようとも絶対に帰ってくるの。


 そんなこともできないようじゃ、世界一つ救えないようじゃ、ワタクシを嫁になんて許しては、あげない――。


「……商売人としては失格かも、しれないけど……信じるからね、レオンハート……」



 ――五時間後。


「……来ないな」

「ありがたいことだがな。お前の息子が頑張っているのか?」

「……親として、子の死を拒みたい気持ちはある。だが、一人の戦士としては冷静に判断しなければならない」


 目の前に海が広がる海岸線で、私とバースは時を待つ。

 魔王神迎撃作戦。奴の目的である世界破片(ワールドキー)保有者を最後方に配置し、敵が直線最短距離で攻め入ってくることを前提とした複数の即席バリケードによる縦長の陣形を組む作戦だ。

 目的である世界破片(ワールドキー)を入手するためには、即席防衛戦を全て破らねばならない。大勢の魔術師をかき集めて大陸全体に転移阻害結界を張っているため普通に移動するしかない今の状況で海の向こう――聖剣の神殿と呼ばれる場所と世界破片(ワールドキー)との直線に当たる場所に我らはいるということだ。


「お前の見立てでは、やはりそう思うと言うことか……」

「……当然だ。奴の底知れぬ力は一度刃を向ければいやでもわかる。あいつにも何かしらの勝算はあったのだろうが、それが通用すると考えて行動するのは組織の長としては失格だ」

「……騎士の全てを後方待機にしているのに長か?」

「戦力に数えられるものがいない以上仕方があるまい。いや、本来なら我らとて戦力外なのだからな」


 敵の大将……魔王神の実力から考えて、レオンハートはすでに死亡しているものと考える。それが親としての情を排除して、一人の騎士として考えた結論だ。

 騎士団の誰もが戦場に立つことすら許可できない怪物。もはや意地の話になるが、ここにいる私とバースの二人とて奴からすればないに等しい戦力だろうからな。


「……希望は、グレモリー殿くらいか」

「儚い希望だがな」

「しかし予想よりも遙かに時間は稼げている。可能性はでてきたんじゃないか?」

「……そうだな」


 相手を倒す作戦などは存在しない。今できる精一杯を用意していると言うだけだ。

 しかし、グレモリー先生は何か勝算があるらしい。だが、それが完成するのに膨大な時間がかかるとのこと。期待はしない方がいいだろう――と思っていた。

 予想ではとっくの昔に魔王神はこの大陸に上陸し、開戦となっているはずだったのだが……未だに現れない。結界を破って強行転移してきたのならそれはわかるはずだが、その様子もない。

 おかげで思わぬ時間ができたわけだが、それでも話に聞いた切り札とやらが間に合う保証はないのが正直なところだ。


「……レオンハートがどうにかして足止めしていると考えるか?」

「……単に、敵の性格を読み違えただけかもしれん。さっさと目的のものを取りに来ると思っていたが、実は気まぐれなタイプだったのかもな」


 魔王神の主観では、目的を達成できないまま千年も封じられていたのだ。もはや一秒たりとも待ちたくはないとせっかちに行動するのではないかと思っていた。

 しかし来ないということは、読み違えたということだろう。嬉しい誤算ではあるが、神という輩の思考回路は人間とは違うということかもしれん。

 ……バースの言うとおり、レオンが何らかの手傷を負わせた、あるいは休息に専念せざるを得ない力を使わせた可能性もあるにはあるが……もはや願望に近いな。


「……このまま来ないでくれるのが一番であると思うか?」

「永久に来ない保証でもあるのなら賛成するが、そうでないのなら余計に疲れるだけだろう」

「この厳戒体制を維持するのは不可能か」


 あらゆる分野に生きるものを全力稼働させて警戒網を敷いているのだ。それを何時までも続けるのは不可能。

 ……あるいはそれが狙いかとも思ったが、実力差から考えてありえないなと首を降る。あの力があれば正面から殴りかかるだけで問題はない以上、こちらの消耗を狙う持久戦を狙ってくるとは考えづらい。

 必ずとは言いがたいが、いずれ現れるはずだ。力を誇示するように、正面突破でな――ッ!


「……ガーライル」

「わかっている」


 私とバースはほぼ同時に臨戦態勢となった。

 何も起こっていないように見えるが、はっきりと感じるのだ。空気が――世界そのものが重くなったかのような威圧感を。


「……一切隠すことなく正面突破か。予想通りとはいえ、潔いものだ」

「それで勝てるのだから、それこそが最強の作戦だろうよ」

「違いない」


 小細工が通用しない圧倒的な力による殲滅。これができるのならば最良だろう。

 何ができるわけでもないだろうが、それでも前を向いて剣を構えよう。


「……二人だけか? 随分と舐められたものだな」

「生憎、人手不足でな」


 海の向こうから、空中に足場があるように魔王神が歩いてきた。

 その身体に傷は見当たらない。傷を治してから現れたのか、それとも傷一つ付けることもできなかったのか……。


「……レオンハートはどうした?」

「唯一残ったあの男のことか? 心臓は潰しておいた故、九分九厘死んだだろう」

「……そうか」


 ……九分九厘? 確実に死んだとは言わないのか?

 自らの手で殺しておいてその言い草はおかしな話だ。心臓を潰しはしたが死体は確認していない……といったところか?


「さて……英雄たちよ。我の前に立つには足りぬが、我が力を知ってなお挑まんとするその志は買おう。よって、我が手によりその命を散らす栄誉をくれてやろう」

「フン……簡単に死ぬとは思うなよ」

「大体、こんなに時間をかけてよくそんな態度をとれるな」

「……ああ。少々本気でやったのでな。久しぶりに神気を使いすぎて回復に手間取っただけだ」

「……そうか、あいつはお前に一矢報いるくらいのことはできたのだな」


 我々に見せた力を思えば、その気になれば拳一発で終わりだと思っていた。

 それが回復が必要になるまで追い詰めたとは……父として、私よりも先に逝くことは何よりも親不孝だと殴ってやりたい気もするが、あえて褒めよう。


 我が息子よ――お前は、最後まで戦士だったのだな。


「ならば、憂いはない! 我が名はガーライル・シュバルツ! この首、そう簡単に取れると思うな!」

「同じく、バース・クン。神に挑むか……それもまた、武人の夢よ!」

「……その意気やよし。されど知れ、貴様らが所詮は失敗作なのだと言うことをな」


 魔王神は特に構えを取ることもなく悠然とただ立つ。我々が何をしようが無駄だと理解しているのだ。

 それはただの事実だろうが……時間稼ぎくらいは、しなければならない。我が鍛錬と闘争に捧げた人生の、誇りにかけてな。


「――【覚醒融合】」


 我が剣、紅蓮の魔力と一体化し、背に炎の翼を持つ。

 しかしそれでも足下すら見えぬ頂に、奴はいる。この差を少しでも埋めるには――


(命を賭ける程度では全く足らん。この魂の全てを、ここで燃やし尽くす!)


「――【瞬剣・火竜炎舞】!」


 全身に炎を纏い、突撃を仕掛ける。

 全身の炎で強化を施した最速最強の一撃だが、これでも通用しないのはすでに証明されている。


 それが、隙になる可能性はある。


(限界を無視した追加速、これでタイミングを崩せれば、僅かに勝機はある)


 身体が軋む限界加速をすでに発動している。これはほんの少し前に魔王神にも見せている。

 ならば、そのタイミングを覚えているかもしれない。我が家秘伝の剣技、八王剣の術理だが……これで惑わされてくれるかは、五分五分だな。


「――ほう」

(抜けたっ!)


 防御のために出された腕を、僅かに速度を増した剣が追い抜いた。やはり、たった一度見ただけでこいつは私の最高速を見破り対応していたのだ。

 その対応力を逆手に取るのが、八王剣の極意――


「――なにっ!?」

「神の魔力(オーラ)。いかなる者にも侵すことはできない絶対なる神域だ」


 炎を纏った剣が首元に届く一歩手前で、止められた。魔王神を薄く覆う、不可思議な魔力によって。


「――【絶招剛拳・大紅蓮極正拳】!」


 剣を無効化されたと思ったタイミングから少し遅れてバースが打ってきた。隙を突くいいタイミングだ。

 だが、それでも――


「無駄だ。人ではこの聖域を侵すことはできん」

「――どんな守りでも打ち破るのが、クン流の拳だ」


 強力な冷気を纏った拳も、私の剣と同じく止められてしまった。

 バースは諦めずに更に力を込めて押し込むが、足りない。それ以上の力が、絶対に必要なのだ。そう、絶対に。


(……ここまでだな)


 小さく笑い、心の中で思い返す。


 我が人生は、満足いくものだっただろうか?

 愛してくれる両親がいた。尊敬していた兄がいた。競い合う好敵手がいた。妻に恵まれた。子にも恵まれた。

 その全ての結末が幸せなものだったとは言えないが、それでも恵まれていたのだろう。

 個人として見ても、地位や名声と言ったものには十分に恵まれていた。食うに困ったことはない、鍛錬をする環境作りに苦労したこともない。

 うむ、総合してみれば――


「――まだまだ足りなかったが、私は幸せだったよ」

「どうした? 辞世の句でも詠みたいのか?」

「いや、我が人生を、こんな形で終わらせることはできないと――改めて決意したまでだ」


 息吹と共に全身の魔力を更に高ぶらせる。

 同じ終わるなら、ありったけを出さねばならない。今まで背負ってきた勝利に、刻んできた敗北に、私を信じた者たちの思いに、恥じないように。


「見るがいい、神よ。これが――我が人生の全てだ!」

「――クハハッ! よかろうガーライル! ワシも同じ気分だ!」


 私の炎に呼応するように、バースもまた気力を高めていく。

 そうだ。我らは人類の守り手などと呼ばれた身。ならば、細胞の一つまで灰になるまで燃えてやろうではないか!


「……個の極致。神の目をもってしてもほとんど見ることはない輝き……か。よかろう。受けてやろう!」


 我らの気迫を前にした魔王神は、薄ら笑いを浮かべていた顔に心からの――しかし闘気に満ちた笑みを浮かべた。

 ……ならば、見るがいい。神よ、我が人生を。


「――【命の炎】!」


 覚醒は人間の限界を超える技術。自分の力に耐えられない身体を強化する技術だ。

 しかしそれでも限界はある。覚醒に力を回す分、総合的な出力はダウンしてしまうのだ。

 ならば覚醒をやめよう。自壊したところで構いはしない。この一撃がどうなろうとも、我々の肉体は滅びる。ならば、全てをこの一刀に込めるのみ!


「――ッ!」


 魂の全てを燃料とし燃える炎。自分の身体が燃えていくのがわかる。

 さあ、神よ。受け取れ――


「……貴様らに敬意を。もしこの世界が貴様らのような存在で満ちていれば、あるいは可能性があったのかもしれん」

「――【魂の一撃】!」


 我が魂を具現化した炎を、魔王神へとぶつける。

 さあ、砕け!


「しかし知れ。神の世界を。――【神の領域】」


 神の魔力(オーラ)が球形に広がった。ただ垂れ流すだけではなく、結界として使用したのか。

 ならば、それをも凌駕して見せようぞ!


「ヌアアァァァァッ!」

「ウォォォォォォッ!」


 私とバースの、二人の叫びがこだまする。

 私たちが命を賭けた程度で、魂を使い果たしたところで神に届きはしないだろう。だがそれでも、未来に生きる者たちのために――どんなに小さくとも、目の前に広がる壁に傷の一つでも付けずして、何が大人だ!


「ハァァァァァァッ!」

「――なんと」


 神の領域に傷を付け、その内部に入り込む。

 どうだ、人の炎は、確かに神の世界に届いたぞ……


「――本当に、素晴らしい。貴殿らの炎、確かに我が身に届いた」


 胸元に、小さな傷。我らの全てを賭けて、付けられたのはそれだけか。

 ……フフフ。神に刃を届かせるとは、私の剣も、まだまだ捨てたものでは、ないな……


「……後は、任せたぞ」


 全ての力を使い果たし、自ら発した炎に焼かれるように倒れ伏す。

 暖かな光に包まれるような錯覚を覚え――私の意識は、完全に断たれた。 

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