第186話 首脳会議―四魔王―
「……フフフ、二度目とはいえ、長年望んだ時が近づいているというのは心踊るな」
「我らが主の復活ハ、もう目前ダ」
「後は忌々しき精霊竜共を葬るだけであるな」
「――警戒すべきは、女神の時戻しのみ」
全吸血鬼の総本山、吸血鬼の王たる我が城の一室に四つの声が響いていた。
今この部屋にいるには私一人。そもそもこの場所は配下の誰も知らない、私専用の隠し部屋なので当然だがな。
この薄暗い部屋の正体は通信室。離れた場所にいる私以外の原初の四魔王と会議を行うための通信鏡が設置された特別な部屋であり、その重要性と機密性からあらゆる防諜手段を駆使している自慢の隠し部屋だ。
「時戻し――あれがもう一度発動する可能性はどの程度だと考えている?」
私は通信鏡に映る魔竜王の言葉を拾い、問いを投げ掛けた。
今行っているのは、もう間近に迫った魔王神様復活計画の打ち合わせだ。基本は各自が軍を率いて封印の鍵である精霊竜を打倒ないし弱らせ、封印を破ろうと言うシンプルなものである。
しかし、ミスは絶対に許されない以上、僅かなイレギュラーも潰すべくこうして意見を交えることにしたのだ。
「時戻シ。流石はあのお方の半身と言うべきカ」
「小規模な時間支配なら私でも可能だが、30年近い時を逆流させるなど神以外には不可能だろうな」
「しかし二度目はないのだろう? あれは追い詰められた末の最終手段である認識しているが?」
女神の時戻し。それは素直に驚愕するしかない現象であったが……魔獣王の言うことももっともだ。
時戻しの原理を私なりに推測してみたところ、どうやら創造の力を使い世界中探しても存在しない『時間逆行の力を持つ何か』を作り出してしまったようなのだ。
正直なんでもありなのかと私でも呆れるような力業であるが、それができるからこそ神であると言うことなのだろう。
しかし、その手段を二度使うことはほぼありえないと私は見ている。
女神は現在、世界への干渉能力を失っている。だからこそ自身の代弁者である神の尖兵を使い、世界破片を武器に変える等と言う回りくどい手を使っているのだ。
いくら時間を戻したとは言え、女神がいる神の空間はこの世界とは全く異なる異空に存在する隔離空間。女神自身の時間が戻ることはない以上、あれほどの力を使う余力が残っているとは思えない。
我らが神にはほとんど残されていない創造の力はいくらでも残っているだろうが、代償に己を世界に定義する生命の力を失っているのだからな。
だが、何事にも抜け道というものはあるものだ。
「――それを可能にする手段ならばある」
「うむ、創造の女神は残された生命の力を女神の尖兵――神造英雄を世界に仕込むことに使っている。つまり、これ以上この世界に干渉する力はまずないだろう。となれば残るは、以前創造した『時戻し』を再利用することくらいだな」
「時を戻した以上ハ、時戻しも消えているのではないのカ?」
「うーむ、その手の話にはついていけぬな」
「貴様らにそんな性能はないだろう。技術的な話は私に任せておけ。――では疑問に答えるが、間違いなく『時戻し』は今この世界に存在している。時を戻したから『時戻し』も消えましたでは、限りなくゼロに近い時間を戻した瞬間時を戻す力がなくなるからな」
すなわち、時戻しの力を持った創造物だけは時間を越えて今の世界に存在しているということだ。そういった意味では完全なる時間逆行ではないとも言えるな。
それを前提とすれば、その力を再利用することで以前と同じく形勢不利になったら時間を戻してやり直すという選択肢が女神には存在しているということになるわけだ。
だが、世界破片の力により、我らは世界と接続することで時戻しを受けても記憶も経験も維持できる。その我らでも『時戻し』を感知したのはあの時の一回のみ……つまり、『時戻し』は特殊な条件を満たさねば発動しない性質がある、あるいは一度きりの使いきりと考えるのが妥当なところか。
「そのためにこそ必殺を仕掛けるのだな?」
「ああ。どんな条件で発動するのかは不明だが、そのキーは間違いなく精霊竜だからな。時を戻すなどという奇跡を担えるのは女神が世界で動かせる最高戦力である奴らを置いてほかにはありえん」
「以前ハ、確か全ての精霊竜は健在であったナ」
「ああ。だからこそ今度こそは完全なる抹殺を行わねばならんが……精霊竜とは我らを反転させて女神が創造した兵力。封印の鍵としても機能する関係上、それぞれが対となる相手を狩らねば効率よく封印を解くことができん」
精霊竜は魔王神様の封印を守る要でもある。そしてその封印を解く条件のひとつが精霊竜を狩る魔王の性質だ。
やつらは我ら原初の四魔王のコピーであり、オリジナルが直接破壊するのがもっともその力を削ぐことになるのだからな。
「時戻しが発生したのは、女神が希望の世界破片で作った聖剣を持った人間が我らが神に敗れた瞬間であった。ならばそれが発動の条件であると考えるのが自然だが、念には念をだ。以前精霊竜を逃がす原因となった結界の弱体化はある程度済んでいる。今度こそはしくじりの無いようにな」
我々が直接精霊竜を殺す。それは確定事項であり、当然奴等もわかっていることだ。
故に、奴等は自らの支配領域に結界を張っている。並みの魔の者を消滅させるには十分な聖域であるが、それは所詮オマケ――本命の余波でしかない。
その真実の姿は、対応する我ら魔王の力を封じること特化した封魔結界だ。
「結界を弱めることはターゲットとなる我らでは――そして我らの系譜に当たる魔族ではできない。特定結界はそれほど強力だ」
「だからこソ、回りくどい手を使ったのだナ」
「そうだ。私が担当する水の精霊竜は悪魔を使って聖域を汚した。別の目的を与えておいたから、精霊竜もこちらの真の狙いはわかっていないだろうがな」
「ワシと魔剣王は攻める相手を交換するなどという面倒なことをやらされたほどである」
「……あれは仕方があるまイ。元より相性の問題もあっタ」
私は悪魔を使い、魔剣王と魔獣王はターゲットの交換で結界を弱める――精霊竜の支配地域を破壊する作戦を取った。
特にあの二人の場合、自身で攻めるのなら圧倒的な戦力差でどうとでもできるだろうが、配下に任せる場合相性が悪いのだ。魔獣王軍の基本戦略は毒攻めであるが、大地の浄化力が極めて高い土の大陸で行っても効果半減――しかも直接戦うのが高い技術を持ち、治療技術にも優れた山人族ではほとんど効果はないだろう。そして魔剣王軍の場合、その攻撃力と頑強さの代償として速度に欠ける者が多い配下では縦横無尽に空を駆ける鳥人族を捉えるのは至難の技だ。
だからこそ、お互いの獲物を交換するという策に出たわけだがな。
(まあ、私の場合は結界の影響を最小限に押さえられる『元々は水の大陸の民である吸血鬼』を使って破壊を行うといった工夫もしているがね)
内心で一言付け加えたあと、ちらりと寝そべった魔竜王の姿が映っている通信鏡を見る。
こいつがどうしたのかは薄々予想がついている……恐らくは、なにもしていないのだろうな。
「――フン。以前は封印の維持ができなくなる程度に痛めつけたところで逃げられた。だが、そうとわかっていれば問題はない」
「わずかなリスクでも潰す。そういう話だろうに」
「――愚問。下手に対策すれば敵も更なる手を用意するだろう。ならば余計なことをしないのが最善手だ」
「全ては自然のままに――か。お前らしいと言えばらしいがね」
私個人としては賛成しかねるが、こいつなら何とかするだろう。
事実、結界の影響を受けてなお精霊竜を終始圧倒した実績があるからな。はじめから全開で殺しにいけば万に一つもあるまい。
「……さて、そろそろ纏めるが、精霊竜は各々で確実に殺す。恐らく精霊竜さえ殺せば時戻しの発動はないだろうが、聖剣の担い手の死亡以外にも発動する条件はあるかもしれん。故に神の気には常に細心の注意を払い、各自で考えられる全てを潰す。異論はないな?」
それぞれから肯定の意が返ってくる。
元々、魔剣王と魔獣王はあまり深く物事を考える性質ではない。そのあり方はあくまでも武器と獣。そもそも考えるという機構自体が余計なものなのだからな。そして魔竜王は全てに置いて高水準に作られているのだが、司るものがものだけに細かいことを気にしない。
故にこういった場では私が仕切らねばならんのだが……偶には悪魔王の奴にも参加させるか?
「そういえば、悪魔王がどう動くのかは確認取れているのか?」
「悪魔王? 奴ならば今も魔王神様の封印のところに張り付いているのであろう?」
「封印を内側から破る魔王神様をサポートすル。それが奴の役割ダ」
「まあそうなのだが……その方針に変化はないと思っていいのか?」
「――それで問題なかろう。奴ら悪魔は魔王神様直轄部隊。その行動は全て神の封印を解くことに集約される。奴らがそれ以外のことを考えるとすれば、それは復活後の話だ」
「ふむ……」
ならば、やはりこの一連の戦争は我ら原初の四魔王だけで行うべきか。
悪魔王の戦力は魔王神様直属と言うだけあって強大なのだが……まあ、仕方がないか。実力では我らには及ばぬものの、精霊竜を弱らせるという目的にはうってつけなのだがな。
「魔王神様の封印を破る準備が整うまで後少し。それを後回しにすることはありえぬか」
「弱らせるだけならワシらの配下だけで十分だろう。どうせこの戦が終われば用済みなのだ」
「だからと言っテ、使い捨てていいわけではないがナ。……それト、他の人間共が妨害してくることもありえるナ?」
「ああ。というより確実に来るだろう。世界破片を我らに献上するためにな」
人間共がどこかに隠し持っているはずの欲望の世界破片。手加減なしで攻めた時間逆行前の戦争では結局姿を現さなかったので、今回は隠し持っている何者かがその正体を明かす前に死ぬことがないよう手加減してきたのだ。
残る二つのうち、希望の世界破片は放っておいても女神の加護を受けた勇者として現れるだろう。世界を覆っていた魔封じの霧が消えたのがその証拠だ。
最後の正義の世界破片の場所は既に判明しており、恐らくその保有者――レオンハート・シュバルツが欲望の世界破片を持ってくるだろう。そうなるように誘導してきたのだから、そうなってくれねば困るからな。
(差し向けたミハイとの決闘で最後まで力を見せなかったのは誤算だったが……まあ、それほどの問題でもあるまい)
他の者には教えず、頭の中だけで少々狂った計算のことを考える。
レオンハート・シュバルツが欲望を所持していると確認できなかったのは不安要素だ。まあ間違いなく所持してくると思うが、可能性の段階から抜けられなかったのは些か不快だな。
しかしそれはさほど問題ではない。より重要な問題は、世界破片の分割性質を考えれば他にも持ち主がいると考えられることだ。そのためレオンハートのついでに候補に上がっていた中でもっとも可能性が高かった千年前の保有者の子孫も我が副将を使って揺さぶってみたが、そちらも世界破片を見せはしなかった。
レオンハートが一人で全て持っているパターンももちろんありえるが……こうなった以上、戦争に出てきた強者は全員保有者であると考えて動くべきだな。
「――そろそろ我は眠る。後は好きにしろ」
などと考えていたら、魔竜王が勝手に通信を遮断した。
……いつものことながら、勝手な奴だな。
「ならばこの辺りで解散とするか」
「残るハ、ただ勝利を収めるのみダ」
「……ふう。まあそれでも問題はない。とにかく、今我らがやるべき最優先課題は、封印開放の準備が整い次第精霊竜を抹殺すること。その過程で世界破片を回収することの二つだけだ。そのためならどんな犠牲を払っても問題はない」
我らが千年の間に蓄えた戦力。その全てをつぎ込むことになんら抵抗はない。
どうせ、全てが終わった後この世界は消えるのだからな――。
◆
「魔王との戦いの算段は立った。後は実戦で打ち勝つしかないのだが……」
「柄にもなく戦の前に不安になっているのか?」
「――そうだな。正直、不安だ。全盛期をすぎた今の私がどこまで出来るのかという思いがないと言えば嘘になる」
私は今、バースと二人で飲んでいた。この店は有名な高級店と言うわけではないが、落ち着いた雰囲気が心をなごませてくれる穴場と言うやつだ。
と言っても私は滅多に酒はやらんし、正直内臓が丈夫すぎて酔えないため美味いとも思わんのだが……偶に飲んでみる気分になるのだ。
「まぁな。正直こんな大きな戦いに生きているうちに遭遇することになるとは思わなかった」
「ある意味戦士冥利に尽きるといったところか?」
「違いない。面子も少々特殊だが強力なメンバーであることだし、ここは一つ老兵らしく若者を導いてやるとしようじゃないか」
新世代の若者と、全盛期を過ぎた老兵の混成チームだ。となれば、我々老兵の仕事は若者が全力を振るえるようにサポートし、生きて帰れるようにすることだろう。
……などと考えているのは確かなのだが、やはりもう一つの思いがあるのも否定はできんな。
「とはいえ、私たちも決して老け込む歳でもあるまい?」
「それもそうだな。大体、今度の相手は今までに経験したこともないような強者だ。気持ちが老け込んでいては勝てるものも勝てなくなる。ならば……」
「ここは一つ、若い頃の気持ちになって再出発と行くか?」
「だな。挑戦心溢れていた頃の心を取り戻し、さらに進化していくくらいの気持ちがなければ足手まといで終わることもありうるか」
「ならば、決まりだな」
グラスの中の酒を一気に飲み干す。別に酔いはしないが、アルコールとは別のもので体が熱くなっているのがわかるな。
「残り時間は二ヶ月だ」
「なるほど。ならば時間は十分にある――といっておこうか」
私たちは揃って席を立ち、勘定を置く。ここから先必要なのは落ち着いた雰囲気ではなく――
「若い頃を思いだし、一つ限界を越えてみるか」
「血が騒ぐのぉ……。娘に一線を譲り渡したとはいえ、簡単に抜かれるのも癪だ。一つ、ここらで父親の壁と言うものを再認識させてやろうか」
「それはいい。やはり戦士は死地の中でこそ輝くものだ。とすれば、不謹慎ではあるが――」
戦士としての限界を迎えてしまった私たちにとって、この戦争は更なる未知の世界を見せてくれる最良の試練と言えるだろうな。
思えば、このような勝敗の見えない戦いに身を投じるのはあの吸血鬼と化した兄が襲ってきた事件を除けば……統一戦争以来なのだ。王都動乱事件の時はいきなりで心構えも何もなかったが、この緊張感はやはり堪らんものだ。
全身の細胞が活性化し、若返っているような気分になるほどにな。
「よし、付き合えガーライル。まずは子供らがたどり着いた場所へと追い付くとしよう」
「あまり時間はかけずにな。そこはスタートラインですらない――そんな素敵な死闘が迫ってるんだぞ?」
「そうだな。実に、実に愉快よ」
私とバースは待ち受ける戦いに備え、心を若返らせていく。
肉体的な限界は変えられんが――まずはその辺から限界を越えるとするかな。
(とはいえ、やはり勝利の鍵はレオンたちだ。今はどこでどうしているのやらな……)
私は店を出たところでふと空を見上げる。満天の星空というべき輝く夜の空……この空の下で、いったい何をやっているのだろうな……。
◆
「聖剣の使い方は大分上手くなったじゃないか」
「はぁ、はぁ、はぁ……。の、飲まれないように気を保つだけで体力をごっそり持っていかれますけどね……」
誰にも迷惑がかからないど辺境の山の中。真夜中に騒いでも誰にも迷惑をかけない――そんな場所で、俺とアレス君は一緒に残り少ない時間を有効活用すべく、世界破片の使用訓練を行っていた。
ある程度慣れている俺と違い、アレス君はまだ聖剣アークを手にして間もない。接続自体はやろうと思えばできるのだが、そこから流れてくる数多の意思に自分の魂を消されないよう踏ん張るのは一苦労だ。
特に、俺の場合は所持する世界破片が欠けているからある程度負担も小さくなっているが、聖剣アークは100%欠けるところのない完全体だ。その負荷は想像を絶するものであり、ほんの僅かな解放でもアレス君はヘトヘトになってしまっていた。
(まあ、まず使えているところから驚きなんだけどさ)
もし俺が聖剣を手にして同じことをやれば、恐らく意識を聖剣に乗っ取られる。これは俺の持つ世界破片の使用経験からの判断だ。
にも拘らずアレス君が曲がりなりにも耐えることができるのは、本人の精神力の強さか、あるいは聖剣と言う特殊な形をしているものだからなのか。
封印のメダルに選ばれたところからも、第三者がアレス君用に調整したようにも見えるくらい都合のいい話だが……今はありがたく思うしかないな。
(聖剣を取りに行ったら起きていたという事件も気になるところだが……何かが動いているのは間違いないな。魔王たちとは別の、何らかの強大な意志が)
その正体を薄々理解しつつも、俺はそこで考えを止める。正直、考えてもどうしようもない相手だ。
今はそんなことで時間を潰すよりも、少しでも力を高める方が先決だ。決戦当日は俺たちだけではなく各大陸の猛者たちが集結することになっているが……俺たちが魔王に負ければ皆死ぬこととなるだろう。そんな未来を避けるためにも、少しでも技に磨きをかけなきゃな。
「さあ、もう一回だ。聖剣アークの力を使いこなせるかどうかは仲間全体の死亡率に直結するといっていいほどに優れている。……嫌な言葉になるが、強者の義務って奴が発生することになるくらいにな」
「わかってます。――僕がいる以上、誰も死なせませんから」
「その意気だ――ハアッ!」
俺はアレス君に笑いかけた後、正義を起動させる。俺の課題は欲望と正義の両立、そして――神造英雄の能力を完全に手中に納めることだ。
「ふぅぅぅぅぅ――照らせ、アーク」
アレス君も手にした聖剣に再び魔力を込め、起動させる。
聖剣アーク――外見は純白の刀身に金色の精密な細工の入った両刃の剣であり、普通なら両手持ちで使うだろう大剣といっていい刃渡りを持っている。
しかしアレス君はそれを素直には持たず、右手一本で振るおうとする。なぜ両手で持たないのかと言えば、それは当然――
「伸びろ、シフル」
永遠剣シフル。旧名不朽の剣を左手に持っているからだ。
原型も怪しいくらいに改造されまくっているとはいえ、あれは肉親から譲り受けた大切な代物であり、騎士としての道を歩き始めてからずっと共にあった相棒だ。強い剣を手にいれたからあっさり捨てる気にはなれないのだろう。
とはいえ、二刀流とはそんな簡単なものではない。二本の剣を効率よく使う技術的な難しさはもちろんのこと、両手で振るうよりも力が半分になってしまうのだ。実際正確に半分というわけではないにしろ、ある程度扱うのに力を要求される長剣でやるものではない。本来は小回りの利く短剣でやるのが常識であり、手数が増えて攻撃力二倍どころかすっぽぬけて武器を失いましたなんて状況になって当然のスタイルなのである。
まあ、今までの修行の成果でアレス君の腕力は常人のはるか上であるし、実際にそこまで苦労することはないだろう。バランスをとるのが難しい等の技術的な問題も、抜群のセンスで軽々と攻略しているくらいだ。
(後は、実戦でどこまで訓練通りの動きができるか……だな)
俺は二本の長剣を手に、黄金の魔力で身を包む弟子を見て思う。
天賦の才があるからこそできるスタイルだが……。
「残された時間で完成させられるかは五割ってところか……。だったら、それを十割にしてやるのが師の勤めって奴かな」
俺もまた純白の魔力に身を包み、その魔力の暴走に手綱をかける。
やり方は当然――
「超実戦主義だ!」
叩かれれば叩かかれるほどに、傷つけば傷つくほどに、何度倒されても立ち上がる度に強くなる。それが俺たち人間の強さだ。
だから、残り時間――精々倒される前に俺を倒してみろ、アレス!




