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【番外編完結】他力本願英雄  作者: 寒天
見習い騎士試験 第二次
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第15話 二次試験

「おや、レオン君! 二週間ぶりだね!」

「ああ……クルークか。久しぶり」

「……どうしたんだい? これから二次試験だと言うのに、随分疲れているようだね?」

「まあ、ちょっとな……」


 俺は二次試験当日の会場へとやって来ていた。場所は騎士団が普段の訓練に使っている演習場――近くに大きな建物こそあるけど、それ以外には何にもない荒野みたいな場所だ。

 集まっているのは試験官と思われる大人数人と受験者が約10人くらい。メイさんやハームさんの姿もあるな。他には滅茶苦茶ごつい鎧に身を包んでるのが何人かと、軽装の格闘家風の人が一人。後は今一よくわからないのが数人って所か。

 共通しているのは、皆気合十分だと言う点くらいか。まあクルークは相変わらずだけど、基本的には殺気と闘気が充満しているね。

 でも、そんな受験者達の中で……俺は非常に疲れていた。肉体的には疲労ゼロの完全体に怪しげな薬で強制的に復活させられたのだが、ここ二週間の集中猛特訓の精神的疲労が抜けてないんだ……。


「シュバルツ。来たか」

「ん? ああ……メイさん」


 精神的な疲労に悩まされていたら、遠くにいたメイさんがいつの間にか近くまで来ていた。

 名前を呼んだら一瞬変な顔をしたけど、やっぱ名前呼びまずいのかな? クンさんの方がよかっただろうか……?


「……あの時は助かった。礼を言う」

「へ? あの時?」

「あの化け物との戦いだ。お前がいなければ、私は恐らく二度は死んでいた」

「ああ……そのこと。別に共闘しただけだし、感謝とかはいいんじゃない? と言うか、最後に俺が殺しかけちゃった以上むしろ俺が謝った方がいいんじゃ……」


 最後に自分の技を制御できずにメイさんまで殺しかけた俺だ。どっちかって言うと、感謝されるよりも怒られるべきなんじゃないか? 実際、親父殿が危機一髪のタイミングで来てくれなきゃマジでやばかったし。


「いや、それは謝ることでは無いだろう? 一時的に共闘したとは言え、私達は敵同士だ。互いに協力せねば倒せぬ敵を討ち取る為にこそ協力したが、敵を倒した以上は私を狙うのは当然のことだ」

「そ、そうなのか……?」


 ……この子の戦闘思考には今一ついていけない気がする。これが生粋の武人と平凡一般人が混じってる俺との違いなんだろうか……?


「まあそれはいい。とにかく、あの戦いで助けられたことは感謝する。だが……この先の戦いでは容赦はしない。我が拳と誇りにかけて、全力を持って戦うことを誓おう。それが私にできる最大の感謝だ」

「……うん。俺も全力を尽くすよ。手を抜いて負けるなんて無様は晒せないからね」

「当然だな。そのような真似、武人にとっては死以上の恥だ」

「あはは……」


 まあ確かに、手を抜いたせいで負けちゃったぜーなんて何て事になればレオンハートの名に傷をつけるって問題もある。ぶっちゃけ、それは全力を尽くして負ける以上に恥ずかしい話だ。

 だがまあ、俺にはそれ以上に切羽詰った問題がある。恥とかプライドとかよりももっと具体的で、直接的な危機が。


(もし手を抜いて負けちゃった、なんて言おうものなら……親父殿とジジイのタッグで精神修行とか来るよな絶対。そんな事になったら廃人コース決定だ……)


 技術で、あるいは体力で負けるのは仕方が無い。いや、別に負けていいわけじゃないけど、それなら更なる高みを目指して三途の川と現世を行ったり来たりすればいいだけだ。

 でも、精神を鍛えるとか言われたら……三途の川から戻って来る自信が無い。今でも『お前は技に甘さがある。それが原因で大分鈍っているな』とか言われてるしな。それはレオンハート無関係の俺が原因の弱さだと思うけど、心の鈍さなんてどうすりゃいいのかさっぱりわからん。

 まあ一応、素早く全力を出せるように心構えの鍛錬とか受けてるけど……肉体鍛錬より遥かに厳しいもんなぁ。肉体的にはともかく、精神はどこまで行っても俺でしかないってことかね。

 将来的には必要になるかもしれないけど、言い訳しようの無い無様晒して激怒状態の親父殿を相手にするとか本当に命が危ないんだ。


「……どうした? 顔が真っ青だぞ?」

「あ、うんゴメン。ちょっと最悪の未来予想してただけだから気にしないで」

「そうか? ……とにかく、私も短い期間だが父上に更なる教えを請うた。二週間前とは一味違うぞ?」

「そう。でも……俺も徹底的にしごかれたって意味じゃ負けないと思うよ」


 確かに、よくよく観察してみるとメイさんの雰囲気が変わっている。何がどうと上手くは言えないけど……どことなく威圧感のようなものが増した気がするな。

 こりゃ、あの時よりももっと強くなってるんだろうな。気を引き締めてかからないと――


「……時間である! これより、見習い騎士試験第二次を開始する!」

「おや、始まるみたいだよ」

「いよいよか」


 適当に雑談していたら、試験官の中でも一番豪華な装いの人が声を張り上げた。多分、あの人がこの場での最高責任者とかなんだろう。


「まずはおめでとうと言っておこうか。君たち11人は、一次試験を突破した選ばれた戦士だ。その勝利を心から称えよう」

「……11人?」

「そう言えば、きちんと数えたら11人だね。不思議なことに」

「何が不思議なのだ?」

「僕らは全員二人一組のチームで一次試験に臨んだのだよ、ミス・メイ。ならば、絶対に合格者数は偶数になるはずなのさ」


 ……メイさんがクルークの言葉に納得している間に俺も自分で数えてみたが、確かにここにいる受験者っぽい人は全部で11人だ。試験官とかもいたからあんまり真面目に数えてなかったけど、確かに奇数人だな。

 これはどう言うことだ? ペアのうちの片方だけが受かったってことか? それとも、一人棄権したとかそう言う事なのかな?


「静まりたまえ。今君達の頭にある疑問は、これからの試験には一切関係の無いことだ」

「…………」


 確かに、受験者数が奇数だろうが偶数だろうが俺達には関係が無い。今はそんなこと気にしてる場合じゃないのかもしれないな……。


「さて、確かに君達は無事一次試験に合格した。だが、これで満足してはいけない。この中から一体何人の合格者が出るのかはわからないが、ここで落ちればペアすら組めずに追い返されるも同じなのだからね」

「……嫌な事言うな」

「しかし事実だ。真の栄冠は限られた勝者のみが得る事のできるものだからな。初戦敗退も決勝で敗退も本質的には変わりない」

「流石バトルコロシアムチャンピオンの娘さんだね。実にシビアな価値観だ」


 まあ、メイさんの言う通りなんだろうな。これが試験である以上、あるのは合格と不合格のみだ。ここで落ちるもゼロ次試験失格も同じ不合格には変わりない、か。

 俺達にあるのは勝利か敗北かの二つだけ。過程は関係ないってわけだ。全く、シビアな世界だよ本当に。


「さて、君達も知っているとは思うが説明しよう。二次試験は受験者同士による純粋実力勝負の一騎打ちだ。すなわち、11人全員での総当り戦を行う事になる。……おい」

「はっ!」


 説明している人が部下っぽい人に指示を出した。すると、部下っぽい人は穴の開いたでかい箱を持ち出したのだった。一体、ありゃなんだろうな?


「これはくじ引きだ。対戦前にこの中から一枚引く。それに記された対戦カードを執り行うと言うわけだな」

「なるほど。直前まで誰が戦うのかわからないと言うことか」

「運が悪いと連戦もありえるわけだな。まあ、やばいと思ったら棄権もありらしいけど」


 しかし11人で総当りって事は……組み合わせは55試合か? それ全部あの中に入っているとはまた……大変だな、試験運営も。


「試合形式は一対一だ。試合前、あるいは試合中の棄権、降参は許可する。今の調子、対戦相手では実力を出し切れないと思うのであればやめることは一向に構わない」

「事前情報通りだな」

「私としては降参や棄権などやりたくは無いがな。実戦では棄権も降参も自殺と同義だろう」

「まあそうかもしれないけど、これ試験だからね」


 ……まあ確かに、モンスターと戦ってる最中に降参しても美味しく食べられるのがオチだろうな。

 棄権すれば、降参すればそこで敵が手を止めてくれるのはある意味お遊びだけなのかもしれない。これは試験だから問題ないと思うけど。


「なお、対戦相手の殺害は極力控えろ。ここにいる者たちは死の覚悟くらいはあるだろうが、騎士とは殺人鬼ではない。この試験中に殺害事故があったとしても罪に問われることも無条件に失格となるわけでもないが、評価は下がると思いたまえ」

「評価が下がるだけ……とはまた恐ろしいことだなおい」

「ま、受験申請書にも書いてあることだけどね。試験中に死んでも一切文句はありませんってさ」

「戦いの世界はいつでも命がけだ。その覚悟の無い者がこんな試験を受けようなどとは思うまい」


 まあ確かに、俺も死ぬかもしれないとは思って受験したけどさ。……早くしないと俺どころか世界が滅ぶって言うプレッシャーに押されながら。


「もちろん、降参した相手へ追撃を加えるのは厳禁だ。それをやれば即座に我々試験官が取り押さえることになる。攻撃を止めることのできないタイミングで降参されたなどであれば特にペナルティーは無いが、故意に攻撃したと判断されればその場で失格にするからな」


 ……当然だな。それがありだと降参ルールが無意味になるし、倫理的にも大問題だろう。

 国の顔であり正義であるとすら言える騎士を選んでいるのに、そんな人格破綻者を合格にするわけには行かないだろうしな。


「次に合格基準だが……これは何試合勝利すればいいといった問題ではない。この試験において問われているのは唯一つ、君達自身の実力だ。すなわち、合格に値すると判断できる武勇を試合の中で見せてくれた者を合格にすると言うことだな」

「強さを誇れ、か。実に私好みの話だ」

「感情論を抜きにして言えば、自分の実力をいかにアピールできるかがポイントになるわけだね。仮に強そうなのをパスして弱い奴だけを甚振るような真似をすれば……まあ失格になると言うことか」

「同格の相手と本気でやりあうのが一番理想的かな」


 格上過ぎる相手と戦うと、自分の弱さが浮き彫りになってしまう。だが、逆に格下とばかり戦ってもただの弱い者いじめ。とても強さを認めてもらうような戦いはできないだろう。

 例外を考えるのなら『他の受験者など全員格下だ』って慢心ではなく言える規格外の強者くらいだろうけど……流石にそんなのはいないよね?


「最後に装備について言っておこう。繰り返すが、我々が見たいのは君達自身の実力だ。すなわち、装備の差で勝利を掴むと言うのは本意ではない。可能な限り条件は対等にしたいのだ」

「装備の差? それも一つの実力だとは思うがね」

「確かに、優れた武装を見極めるのも戦士の実力の一つだ。それを手にする運まで含めてな」

「あ、あはは……」


 二人の言い分もわかるけど、試験官の言うことももっともだろう。

 俺はシュバルツ家って言うスーパー金持ちの家に産まれたからこそ上等な装備を持っているけど、もし一般的な経済力しか持たない家に産まれたのだとすれば今と同じ装備はとても無理だろう。

 そんな家の差や財力ではなく、正真正銘の実力勝負を見せろってことだな。実際、ゲーム的に極端なこと言えば最強武器の補正だけでレベル20くらいの差が埋められるし。

 まあ、そんな上等な武器防具を手に入れるところから実力だって言う二人の意見もわからなくはないけどさ。完全に親の七光りで武装を整えてる俺には耳の痛い話だけど……。


「それに当たって、こちらで装備を用意した。まずそれらで装備を整えてくれ。近くに更衣室もある」

「……用意がいいね」

「私としては着なれた道着の方がいいのだがな」


 装備支給か。まあ、それなら財力面での有利不利はなくなるのかな?

 使い慣れた武器を使うのが一番強いって言うメイさんの考えもよくわかるけど、俺にはあんまり関係ないからいいとするか。……この剣や鎧って、試験の為にと貰ったものだしね。

 いずれにせよ文句言ってもしょうがないし、受け入れて戦うしかないか。


「不満はあるかもしれないが、全ての者が同じ条件だ。手に馴染んだ武器を使いたい気持ちはわかるが、ここは指示に従ってもらうぞ」

「まあ、仕方が無いね」

「それがルールであるならば、やむを得んか」

「そうだな。じゃ、行こうか」


 俺達は係りの人の案内で近くの更衣室まで歩いていく。ここは本来演習場なので、すぐ近くに結構立派な建物があるんだよね。


 そして、俺達は別々に個室へと案内された。するとそこにあったのは――


「た、大量の剣と鎧?」


 案内された部屋にあったのは、壁一面に吊るされた大量の剣。そして、ここまで来ると威圧感すら感じる無数の鎧であった。

 一口に剣や鎧と言っても、種類も様々だ。俺が普段から使ってる片刃の剣もあれば両刃の剣もある。はたまた突き特化のレイピアから反った刀身を持つ曲刀(シミター)に重量のある巨大な大剣(グレートソード)まである。それ以外にも、大きさ形状その他もろもろ様々な剣がより取り見取りだ。

 鎧についても似たようなもので、俺も愛用している動きやすさ重視の軽鎧から、全身を余すことなく覆う全身鎧(フルプレート)、変わったところだと鎖帷子まであるな。

 更によく見てみると、剣で言えば微妙に重心が狂っている不良品が、鎧で言えば細かい傷が沢山入ってるせいであっさり壊れるだろう欠陥品も混じってるな。


(これは……この中から自分にあった物を選べって事か? そういや、試験官は『所持する装備の差では評価したくない』とは言っていたけど『同じ性能の装備を用意する』とは言ってなかったか……)


 つまり、全員均等に装備を得る機会をプレゼントってことか。

 クルークやメイさんも言ってたけど、優れた装備を見極める目を持っているかも実力の内だってことを言いたいのかな?

 だとすると……俺はどれを選べばいいんだろう? 親父殿に習っているとは言っても、流石に武器鑑定の知識までは仕込まれてないからなぁ。こんなときにクルークがいてくれればいいのを見繕ってくれるんだろうけど、俺にそこまで物を見る目があるとは思えないしなぁ。


(ゲーム的に考えれば文句無く全身鎧とグレートソードなんだけど……俺には合わないよな)


 重量や形状って概念が存在しなかったゲームならば、間違いなくこの二つが最強だった。

 でも、実際手に持って使うとなるととても俺に相応しいとは言えないだろう。基本的に動き回って速さで戦うのが前提なのに、守備力と引き換えに自分の動きを封じると言っても過言ではない全身鎧なんて自らハンデを背負うようなものだ。

 となると、やっぱり選ぶべき形状はいつもの片手剣と軽鎧一択だな。これを前提に鍛錬してるんだから、無理にスタイルを変えるのは自爆と同義だろう。

 あとは――


(性能をどう見極めるか、だな。……わかりやすく性能を数字で見る能力が欲しい)


 ここにある片刃の片手剣と軽鎧だけを選んだとしても、軽く20はある。その一つ一つが微妙に違っており、それぞれ使い心地が違う。

 これも試験内容の一部だとすれば、この中で最高の一品を選ばなきゃいけないんだろう。でも……何を基準に選べばいいんだ?


(とりあえず持ってみた感想としては……これはちょっと刀身が長すぎてバランス悪いな。あ、これは微妙に刃が曲がってる。こっちは焼入れが甘くて簡単にへし折れそうだ)


 ……案外わかるもんなんだな。いい物を選んでるって言うよりは、親父殿の用意してくれた剣と近い物を選んでるって感じだけど。

 でも、俺の判断基準なんてこれしかないしな。感覚と振り心地だけで選ぶしかないか……。



「シュバルツ副団長のご子息に武帝の後継者、そしてスチュアートの血族か。何とも豊作なことだな」

「ええ。この試験でも、間違いなくその三名は本命とのことです」


 この見習い騎士試験。本来の監督役は別の人間だったのだが、何でもトラブルのせいで全治三ヶ月の重症を負ったらしい。

 その代役として急遽私のチームが派遣されたが……話に聞いていた以上にカオスだな。まさか12歳の子供二人が合格有力候補とは。

 まあ、あのシュバルツ副団長や最強の拳士たる武帝の技と才を継いでいるのならわからなくも無いが……それにしたって子供は子供だろうに。


「まさかとは思うが、副団長や武帝に胡麻をする為に不正な判定をしているのではないだろうな?」

「いえ……それは無いかと思われます」

「ほう? 何故そう思う?」

「そのような不正を働けば、副団長の覚えをよくするどころかその場で殴り飛ばされると思われるからです。……それも、二度と騎士として立ち上がることができなくなるほどの威力で」

「……なるほど、正論だ」


 あの頑固一徹な上に超真面目体質の副団長だ。とても不正行為で取り入ることができる相手では無いか。

 しかしとなると、まあスチュアートの三男は別にしても……12歳の子供が野の猛者共よりも上ってか。こりゃ、この試験そのもののレベルが低いって思った方がよさそうだな。


「おや、受験者達が出てきましたよ」

「あぁ。この装備選びは実戦でかなり響いてくるからな。果たして何人がまともに戦える物を選んだことやら……」


 この装備選びの関門。受験者に合わせて用意した本物の装備以外にも“騎士団で使い古した廃品”とか“製造工程で失敗した駄作”とか“受験者の能力に合わないもの”とかいろいろハズレを入れてある。

 もし見る目無くハズレを引いたら最後、事実上普通の服と素手で戦う事になるだろうな。それで勝利すれば大したものだが……さて、どうなるかな?


「ほう、皆それなりの物を選んでいるじゃないか」

「ええ。少なくとも武具と呼ぶのもおこがましい廃品を選んだ者は今のところいないようですね」

「ふむ……しかし例の年少コンビはまだのようだな」

「ええ。流石に、こう言った関門は難しいですかね」


 子供と言うのは、基本的に短絡的だ。大方、少しでも強そうな装備を選んで動くこともできない、なんて事になっているんじゃないか?

 ……ん? 一際小柄なのが出てきたな。あれか?


「あ、クン家のお嬢さんが出てきましたよ。身につけているのは……戦闘用の闘衣とチェイングローブですね」

「む……なかなか上等な物を選んでいるな」


 手元の資料によれば……名はメイ・クンか。どうやら、年齢に似合わず物を見る目も状況を分析する能力もあるようだな。

 後は副団長の息子、レオンハート・シュバルツか。これで全身鎧にグレートソードでも持って来ればいい笑い話になるのだがな。

 副団長には申し訳ないが、酒の席でのつまみとしては上物の話になるはずだ――


「……出てきましたね。どうやら、今年は前任者の言う通りレベル高いみたいですね」

「そのようだ、な。これは気を引き締めてかかった方がいいかもしれん」


 レオンハート。あの子もまた、用意された中で最上級の装備を身につけている。

 副団長に武器の鑑定眼まで仕込まれたのか、それとも戦士の嗅覚で嗅ぎ分けたのか……。どちらにせよ、実に面白い試合が見られそうだ。


「さて、これで全員か?」

「はい。総勢10人全員……あ、失礼しました! まだ一人残っています」

「ああ、そう言えば、今年は奇数人二次に残っているのだったな。確か一人棄権したのだと聞いているが?」

「えっと、その……そうみたいですね。私も詳しい事は聞いていませんが、一次のパートナーは棄権したとのことです。どうやら、残る一人がその相方不在の受験者のようです」

「ふむ……珍しいな。まあ、一次の段階で精根尽き果てたからかもしれないが」


 まあいないのなら仕方が無い。今は残る最後の受験者がどの程度の装備を見繕うか、じっくり見極めてやるとしよう。

 ……ん? どうやら最後の一人が姿を現したようだな。


「ほう。全身鎧とグレートソードか」

「質としてはかなりいいのを選んでますね」

「うむ。それに、そんな重装備に負けない体を持っているな。あれは期待できそうだ」


 全身を全て覆う全身鎧を着ている以上はあまり詳しくはわからないが……少なくとも巨体であるのは間違いない。

 それに、あの重い全身鎧を身につけているのに一切足取りがぶれないのも高評価だ。どうやら使いこなせない物を無理につけているわけじゃなさそうだな。


「あの受験者はなんと言う名前だったか……む? 私の資料に載っていないな?」

「え? ええと……あ、私のには載っています。申し訳ありません、記入漏れでした!」

「あー、かまわんよ別に。急な引継ぎだったんだ、些細なミスを一々叱っていたのでは話が進まん。……それで? アレは一体誰なんだ?」

「はい。彼の名はホローレス。どうやら冒険者として活動していた青年のようです」

「ほぉ。なるほど、実戦主義と言うわけか。それは楽しみだな……」


 自分の力だけで生きている冒険者。それならば、実にいい戦いを期待できるだろう。

 では、早速二次試験を開始するとしようか――――

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