第133話 遭遇
「ヌアァァァァッ!」
気合い一閃。風の精霊竜様より賜ったとされる、我らが秘宝――一振りの槍の力を敵陣へと放つ。
我らが大いなる翼の中でも文句なく最高の威力を誇る槍の力は、大いなる風の怒り。母なる天空を汚す有象無象の魔物共を引き裂く、烈風の刃。その数は一振りにしておよそ1000を数え、どんな大軍でもねじ伏せる強大な兵器だ。
千の刃は獣の群れに襲いかかり、その紫がかった鮮血の海を作り出す。更に一振り、もう一振りと数を増やしてやれば、あまりの数に大地を覆い空を隠していた獣の数は瞬く間に減っていき――その血と死体で全てが覆われていく。
その光景を見て、我らは思うのだ。この戦争の勝利と――代償として、失われたものの巨大さを――。
◆
死の大地。名をつけるのならそんなのがお似合いかなと思ってしまう、夥しい獣の死骸の山。
俺たちは、今そんな場所にいるのだった。
「……なあ」
「なんだい?」
「なんか気持ち悪くないか? こう、何かだるいと言うか……」
「僕は大丈夫です」
「僕もだね。この身体になってから、拒絶反応以外で体調不良になったことないし」
……健康でよろしいことで。俺は久しぶりに感じる体調不良を訴えても気にも止められないことにちょっと寂しさを感じる。
こんな死体だらけの場所に来ても一切精神的な不調を言い出さないのはまあ……そこまで正常な奴はいないってことかね。死体と血の匂いには慣れてしまっているってことだろうし。全然自慢にならないけど。
(……あの黒い狼との遭遇以来、碌なことないな。結局間に合ってないし)
俺は少し前のことを思い出し、小さくため息をつく。
俺たちはあの黒い狼を死なない程度に――でも回復魔法を使わないと半月は意識が戻らないように――しばいた後、大量の血と暴力の気配の元に向かった。
だが、嫌がらせのようにモンスターが出てきて足止めされ、ようやく到着したときには全てが終わっていたのだ。この大陸は少々物騒すぎやしないだろうか?
これはあのモンスターがただの野生ではなく何者かに飼いならされた警備兵である可能性が真実味を帯びてきたといえるな……なんて会話があったくらいにさ。
「こんな戦場跡だ。もしかしたら何かあるかもね。呪い的なのが」
「その程度なら、まあいいんだけどな」
クルークは目の前に広がる光景を眺めながら、どこか感情を殺しているように平坦な声で呟いた。
真新しい死臭が蔓延するこの場所には、その激戦を物語るような破壊跡が残り、獣系モンスターの死骸が山のように折り重なっている。死体を軽く調べると刃物による致命傷が大半であったため、恐らく知的生命体――鳥人族と戦ったのだろうというのが俺たちの意見だ。
確証がないのは戦場跡にこのモンスターと戦った相手の死骸は残されていないからだが、無傷で敵を殲滅したのか仲間の亡骸だけ回収したと言うところだろう。
「……この状況で体調不良は怖いね。もしかしたら未知の病気かもしれない」
「何せ新大陸だからな。何があってもおかしくないし、ちょっと調べた方がいいかもしれん。……まあ、俺生まれてこの方風邪も引いたことないけど」
先ほどは軽く流したとは言えやはり心配なのだろう。クルークはこっちを伺うように俺に確認をとってきた。俺もその意見には同意であると頷くが、まあとりあえずは大丈夫だと返す。
全く人類が足を踏み入れたことのない領域において、最も警戒すべきは病原菌だろう。下手をすれば致命的な菌やらウイルスやらを持ち帰り、種を危機にさらす恐れすらある話なのだから。
何せ未知なので、これといって対応策がないのも困る。もちろん船に残してきたスタッフの中には医者もいれば最新の医療設備も揃っている。だが、だからと言って対処できるわけではないのが病気ってものの怖いところなのだ。
……まあ、先遣隊であるこの面子に限っては大丈夫だと思うけど。
大抵の病気なんて体力で弾けるのはもちろんのこと、それぞれ病気の類いへは耐性があるし。
(今のクルークをどうにかできるウイルスなんてまずありえないよな)
一見優男に見えるクルークを横目に見ながら、俺はその体質を思い出す。
クルークは、一見普通の人間だがそのその中身は多種多様なモンスターの因子を埋め込まれたキメラだ。その改造の影響で環境に対する適応力はきわめて高く、身体に取り込んだ因子の中には猛毒を好んで食するなんてのも珍しくないらしいので、何があっても栄養になるだけだろう。
もっとも、以前は拒絶反応やらよくわからない薬の副作用に苦しんでいたそうだが……グレモリーのジジイの手によって今ではすこぶる快調らしく、恐らく生涯病気とは縁がないとのことだ。
……多分、あのジジイは医者としても一流になれる。高確率で患者を人体実験の素材に使い、普通の医者では手も足もでない難病薬物呪いの類いでなければ興味を示さない性格を考えなければ。
(アレス君は生来の魔力が魔力だからな。体調は常時万全だろう)
次に俺は遠くの大地を観察しているアレス君を見る。その稀有な才能を思いながら。
アレス君の魔力属性は光。すなわち浄化の力を宿しており、体内に巡る魔力だけでどんな害悪でも消してしまうのだ。一介の少年だった頃と違い、自分の力に目覚め操ることを覚えた今では外的要因により身体を壊すことはありえないってことだな。
……同じ光属性を持っている俺にはそんなことはできないがな。俺は必死こいて魔力に属性を持たせなきゃならないのに、アレス君は自然と光を帯びるんだよね。仮に俺が同じ自己浄化をやってみれば消耗の激しさに倒れること間違いなしだってのに、本当にどこまでも才能豊かで自慢の弟子だよ。
(……そう考えると、俺が一番病気に弱いのか)
そして俺だが、まあとりあえず産まれてこの方病気には縁がないってくらいには頑丈であると自負している。
何せ赤子時代から一度も風邪一つ引いたことはないのだ。肉体強度では人類最高峰の血筋であるシュバルツの一族であり、更にどんな病気も気合だけで跳ね返せるほどに鍛錬を積んでいるのであるからしてひ弱なわけがない。
が、しかしあくまでも体力に自信があるだけで二人のような特殊能力的な加護があるわけではないわけで……この中では一番まともな人間と言えるな。
「まあとりあえず、病原菌の類があるのかということは後でしっかり調べるとして……さっさと治せばいいんじゃない?」
「そうだな。【モード・吸血鬼】。んで解除」
俺はクルークの忠告に従い、一瞬吸血鬼化してすぐに解除する。吸血鬼はアンデッドなだけあって病気に絶対かからないからな。
しかも全身を流れる闇の魔力がどんな強力ウイルスだろうが菌だろうが毒物だろうが問答無用で消滅させてくれるので、超便利な自己治癒法と言える。一時的に死人の特性を得るとか健康に悪いってレベルじゃないし、それ以前に吸血鬼の毒に侵されているのを健康と言っていいのかは考えてはいけない。
……うん、もうだるさも消えた。体調万全だ。
「で、これからどうするんだい? この惨状を作った何者かを追うのかい?」
「そのつもりだ。……アレス君、わかったかい?」
「……はい、多分あっちの方角です」
さてこれからどうするのかという話だが、まあ実は決まっている。この戦場の勝者を追うのだが、どっちに行けばいいのかをアレス君に考えさせていたのだ。
今回は何の手がかりもない運任せではなく、現場に残された様々な痕跡を追うことになる。基本戦闘専門とはいえ、この手の調査は長年の旅生活でしっかりと身につけているのだ。
せっかくなのでこの機会にアレス君にもやらせてみているわけだが……アレス君の指し示した方角は、俺の思っていた方角とまったく同じだ。それを見た俺は軽く笑みを浮かべて「正解」と告げ指示を出す。
今度こそ、追いついて見せる――え?
「ねぇ、気のせいだと思いたいんだけど……」
「――何か、来ます。それも、物凄いのが……」
「邪悪な感じじゃない……これは――」
いざ進もうとしたそのとき、全身を貫く『ヤバイもの』の気配を感じた。
それも、凶悪強大なモンスターの類ではない――それでいて恐ろしい何かだ。
「――あれだ!」
「緑色の、ドラゴン……?」
いつの間にか瞳の様子が変化しているクルークが、遠くの空を指差して叫んだ。
俺もその方角に目をこらして見れば、遥か空の上に物凄い魔力をまとって飛ぶ緑色の――最強種の称号にまったく恥じない覇気を纏ったドラゴンがいたのだ。
しかも、アレは海の上で焼肉にした水龍とは違い、聖なる力を宿している。並みの神聖な生物なんて纏めて浄化してしまいそうな、強すぎるこの輝き――水の精霊竜と同一のものだ。
「風の、精霊竜――!?」
「いるのはわかってたけど、何でこんなすぐ出て来るんだよ!」
俺と同じ結論に達したらしいクルークが驚愕し叫ぶが、俺も似たようなものだ。アレス君に至っては大口を上げて固まってしまっている。
しかし、俺達がそんな反応をするのも仕方がないだろう。だって、あの緑ドラゴン……超高速でこっち突っ込んできてるんだけど!
「吹っ飛ばされるぞ! 何かに掴まれ――」
「るものなんてここにはないよ!」
暴風の魔力を纏う竜の突撃に、俺は数秒先の未来を理解する。あれをまともに受ければ、どこまで飛ばされるかわかったものじゃない。最悪、この大陸の外まで吹っ飛ばされて死にかねないぞ!
咄嗟に何とかしろと叫びはしたが、当たり前だがここにあるのは死体の山だけだ。そんなものに掴まっても一緒に吹き飛ばされるのが関の山。
どうする、どうする、どうする――
――否、考えるなんて余計なことしている暇はない。今の俺ができる、全力を出せ!
「――嵐龍、覚醒融合!」
俺は嵐龍を抜き放ち、その魔力を全力で開放する。
耐えられないのなら、耐えられるようになればいい。掴まれるものがないのなら、自分の足で耐えればいい――!
「俺に掴まれ! 全力でこの暴風から守る!」
「――わかった! せめてもの抵抗だ――【付術・対物理障壁】!」
「僕もお手伝いします! 【光付術・全能力強化】!」
「――よし、俺の翼の影に!」
クルークの結界魔法が俺たちを包み込み、アレス君の強化魔法が俺の能力をアップさせる。ありがたい。
援護してくれた二人は、覚醒融合によって現れた竜と吸血鬼を象徴する翼で守る。後は、俺がこの暴風に耐えるだけだ。
嵐龍を地面に突き刺し、腰を落とす。同時に魔力を全開にして精霊竜から放たれる風を少しでも軽減するように守りを固めるが――クソ、これでも耐えられるかは微妙なところだな……。
(せめてもの救いは、あの精霊竜が俺たちを攻撃するつもりってわけではないみたいなことか)
守りを固めたからか、やや落ち着きを取り戻した俺は精霊竜の姿を観察することができた。
見たところ、通りすがりってわけではない。明らかに何らかの目的を持って暴風をたたきつけているのは間違いない。間違いないのだが――それは俺たち個人を狙った攻撃ってわけではないようなのだ。
むしろ狙いは、この死体の山か? ……いずれにせよ、偶々この場所にいたからなんて理由で大陸の果てまで吹っ飛ばされてたまるかよ!
「ヌオォォォォォッ!」
翼を変形させ、杭のように地面に打ち込む。完全防御体勢でついに俺は精霊竜の風を受けるが――なんつう威力だよ!
ここに来るときに食らった竜巻なんて比較にもならない、超威力の風。これで攻撃の意思はない余波とか、マジで化け物すぎるだろ。
頼むから、こんな力はうちの大陸の精霊竜みたいに引きこもって仕舞っておいてくれよ――!
「クソ、がぁ……!」
俺の身体は、大地を抉りながらも少しずつ動かされている。複雑な力が入り組む竜巻ではなく一方から叩きつけられる暴風の壁だからこそこうして全力で耐えられているが、それでもこれはきつすぎる。
もう背中の翼からは全力で魔力を逆噴射させている。自分の体勢を保つ為だけにこんな力使ったのとか産まれて初めてだぞ!
いい加減に、終わってくれぇ……!
『――クレアラールの加護か』
「え……?」
理不尽の権化のような嵐の中で、俺は何かの声を聞いた気がした。
すると次の瞬間、風は徐々に弱まり始める。ようやく終わるのかとまったく気が緩められないままながらも希望を見出すと――精霊竜は何事もなかったかのように翼を翻してどこかへ飛び去ってしまったのだった。
「……お、終わった?」
「みたいだね……」
ようやく終わったと、翼の影からクルークとアレス君が出てくる。
二人とも疲労困憊みたいだな。まあ、結界張ったり強化魔法使い続けたりして全力援護してくれていたんだから当たり前だけど。
でも、一番疲れているのは間違いなく俺だ。何でこんなことになったんだよ本当にって……ん?
「……なんか、妙に清清しくないか?」
「疲れたからじゃ、ないの?」
「何か、修行終わりってくらいには疲れましたよ……」
……別に運動して清清しくなっているって意味ではない。もっと環境的な意味なんだがな。
「いや、そうじゃなくて空気が美味しいというか……」
「こんな死体置き場の空気が? 流石に感性疑う……といいたいところだけど、確かに言われて見れば……」
「自然豊かな山の中にでもいるみたいな感じですね」
俺の言葉で周囲の空気が妙に清涼なものとなっていることに気がついた二人は不思議そうに鼻を鳴らす。
今の暴風で大分すっ飛んだとは言え、まだちらほら死体は残っている。本来なら死臭でとてもそんなこと思えるはずがないのだが……なんでだろうね?
「……おい、誰かいるぞ」
「かの竜の羽ばたきを受けたのにか?」
「翼はあるようだ……一人だけだが。他の二名は羽なしのようだな」
(……人の話し声?)
空気の質の変化に首を傾げていたら、どこからか声が聞こえてきた。
会話の内容も理解できる。所々アクセントが違ったりして分かりづらいが……大本の言語は一緒のようだな。
この状況で出てくるのが南の大陸の住民とは思えないし、話し声のする方向はさっきアレス君が示したもの。となれば……どうやら、向こうから出向いてくれたらしいな。
「声は三人……だけど、もっといるね」
「かなり読みにくいけど、100人以上はいるな。恐らく軍隊だ」
俺とクルークは気配を探ることでこちらを観察している何者かの戦力を把握しようとする。
ほぼ確実にこの大陸の住民である事は間違いないが、その正体は不明。鳥人族である可能性もあるが、それ以外の未知の種族である可能性ももちろんある。
そもそも鳥人族であるからといって友好的とは限らない現状では気は抜けないが……さて、どうするかな。
「そこの者! どこの樹の者だ!」
「……キ?」
出方を伺っていたところ、空のかなたから飛来してきた数名に先に声をかけられた。
その姿は、思っていたのより随分違うな。バードマン、なんていうから二足歩行する鳥類……ハーピィのような姿を想像していたんだけど、外見はほとんど俺たちの種族と同じだ。
全身を揃いの鎧で包んでいるため詳しい事はわからないが、その顔形は人間となんら変わりはない。手も指5本と鳥要素ゼロであり、顔の先にくちばしがついていたり羽毛に覆われているということもない。
話しかけてきた男の特徴を挙げるとしても、黒髪黒目で精悍な顔つきの男性……体つきからして槍兵だろうというくらいである。年の頃は30ってところかな?
人間との違いはそう……背中から優雅に生えている、魔力を宿した純白の翼だけだろうか。
「その翼はなんだ? どの樹の民にもそのような異形の翼を持つ者はいないはずだが……」
「……ええ。私を知らないのは当然のことだと思いますよ」
とにかく、相手は対話を望んでいる。ならばそれに乗るのがベストと判断し、俺も言葉で応じる。
……言葉が通じるってのは、本当に偉大だな。通じなかった場合の対策として幾つか考えていたこともあるが、どうやら余計な手間はかけなくてもいいらしい。
現在覚醒融合状態を維持したままで会話しているのだが、とりあえずこのままで行くか。彼らの翼とは明らかに違うとはいえ、ちょっとでも近しい姿ほうが心を開いてくれるだろうし。
これ維持するのは結構しんどいけど、後でもっとしんどいことになるよりはマシだ。
「私の名はレオンハート・シュバルツ。ここより遥か離れた地より参上した者です」
「レオ……? それは名か? 随分変わっているな……」
「そ、そうですか?」
「まあよい。名乗られたからには私も名乗らねばなるまい。私は誇り高き“雄々しき翼”の分隊長を任されている海燕だ。精霊竜様の加護を受け、戦地の後処理を命じられている」
カイエン。そう名乗る男の響きに、どこか懐かしいものを感じる。
やはり文化が違うのだなと改めて感じつつも、いろいろ聞きたい事はあるな。しかし俺が下手なこと言って後で問題になっても困るし……とりあえず権力者に会いたいってのは流石に無茶だろうか?
「……お前たち。ひとまず危険性はなさそうだ。数人残して任務に当たれ。私はこの者の話を聞く」
「はっ!」
部下らしき人たちに指示を出した後、カイエン殿は残した護衛と共にゆっくりとこちらに近づいて降りてきた。
その位置は、武器が届かないよう計算された戦士の距離。これだけで警戒心が伝わってくるね。
そしてカイエン殿に命令された人たちは空を飛んだままなにやら地面に撒いているが……何してんだありゃ?
「さて、先ほど離れた地よりやってきたとかいっていたが……どこから来たのだ? 虹の樹からの距離は?」
「ニジノキ?」
「ああ。……よもや、虹の樹を知らない、などとは言わないよな?」
「申し訳ないが、知らない。我々はそのニジノキというものを知らないほど遠方より来たのです」
「俄かには信じがたい……」
カイエン殿はこちらを疑うような目をしながらも観察してくる。
いや、まあそりゃそうだろうけどさ。今まで何百年……下手すれば千年単位で交流が無かった場所から来たわけだし、まず信用を得るだけで一苦労しそうだ。
「……この世に虹の樹を知らないような未開の地があったのか? いや、そんな馬鹿な……」
「いや、それ以前に海の向こうから来たって話なんですけど」
どうやら、カイエン殿は俺たちをこの大陸の住民だと思っているらしい。
どうもニジノキってのは、この大陸の住民なら誰でも知っている常識らしいが……文脈から考えて地名か? 南の大陸で言うところの王都なのかもしれないな。
「……海の向こう? いや、それは不可能だろう?」
「何故です?」
「何故って……この獣共の襲撃と共に、精霊竜様の加護による外敵迎撃用の攻勢障壁が展開されているだろう。それも知らないのか?」
「……ああ、あの竜巻ですかね?」
あれ、やっぱり鳥人族達が用意した結界だったのか。精霊竜がエネルギー源だったのは驚きだが……南で言うところの聖都結界みたいなものか。道理で強烈だと思った。
「知っているではないか。ならば何故そのような虚言を……」
「ああ、突破してきただけですので」
「突破? いや、だとすれば虹の樹の本部にその情報が入るはずだ。ここ最近障壁の破壊はなかったはずだぞ。もしあれば即座に我らが集結して侵入者へ攻撃を仕掛けるのだからな」
(あ、やっぱりあの竜巻は破壊しないのが正解だったか)
結構物騒な防衛システムに、やはり力で竜巻を消滅させるって選択を取らなくてよかったと内心安堵する。
現在進行形で魔物の軍勢と戦争中と言うことを考えればその苛烈さも仕方がないのだろうが、危うくカイエン殿に不思議そうかつ疑いの眼で見られている現状が平和すぎて笑みがこぼれるって全面戦争に突入するところだったな……。
「その答えは簡単です。それは――」
俺はそのまま、ここに来た方法、目的を語る。
俺が一言口にするたびにカイエン殿は怪訝な顔になり、何度も中断されるせいで随分時間はかかってしまったが……何とか俺が伝えるべきことを伝える事はできた。
後は、向こうの出方しだいだな。
「……これは私の一存でどうにかできる話ではない。しかし、現状お主の言葉を信じる根拠もないのだが……」
カイエン殿は、困っていた。俺の話に一定の信憑性を感じてくれているようだが、しかし信用して偉い人に報告していいのかわからないってところか。
魔物による襲撃を受けている最中とのことだし、この程度の警戒心ならむしろいい方だろう。そのくらいなら十分想定の範囲内だ。
「何はともあれ、まずそちらの責任者にお目通り願いたい。こちらの話を信じられないのならば、今も海上に停泊中の我々の船を見ていただければ……」
「うむ……。わかった。上の者に確認を取ってみよう」
カイエン殿は悩んだ末、より上の者に話を通すことを約束してくれた。
さて、後はリヴァイアサンに残っている交渉メンバーに任せたいところなんだけど、どうなることかね……。
活動報告にて『タイトル変更について』の記事を上げております。
ご意見ご要望をお待ちしております。




